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バイオセンシング研究領域

生体制御シグナル研究部門(佐藤研究室)

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化学物質をどのように感知するのか
 あらゆる生物は、外界の環境を認識してそれに適切に反応することで、種が維持されています。動物は「五感」と呼ばれる感覚を持っており、五感を通じて外の世界の物理化学的なシグナルを感知しています。私たちは五感のうちとくに「嗅覚」、「味覚」といった、化学物質を感知する動物のセンサーシステムについて研究を行っています。私たち人間は外界認識のほとんどを視覚にゆだねていますが、多くの動物で化学感覚が、行動や内分泌と密接に結びつき、制御を行っています。
 現在、五感がどのように外界のシグナルを細胞活動へ変換するのか、その分子メカニズムはかなり明らかにされています。しかし、「犬の鼻はなぜ、あのように敏感なのか」や「サケはどうやって川の水の匂いを覚えて、生まれた川へ戻ってくるのか」といったありふれた質問にまだ、答えることができません。五感は我々の日常と深く関わっているだけでなく、解明されていない大きな謎も残されています。
 私たちはこのような化学感覚系の謎に対し、主に遺伝子発現系とイメージング、電気生理学的手法を用いて取り組んでいます。

 一方、匂いの感覚は、最も優れた化学センサーとも言われており、匂いを利用した有用物質のスクリーニングは、食品や創薬などの分野で広く利用されています。私たちは嗅覚の分子基盤を明らかにすることで、バイオミメティックにセンサー応用する技術開発も行っています。


これまでの主な研究
1. 魚類の嗅覚トランスダクション機構の解明
哺乳類と違って魚類は、アミノ酸やステロイドなどの水溶性不揮発物質を匂いとして受容する上、海水から淡水に至る広塩環境に適応しています。また、回遊性魚類では水の匂いを記憶し、回遊のランドマークに用いています。このような嗅覚機能は魚類独特であり、末梢レベルでどのような分子基盤がはたらいているのか、研究しています。
 1. Sato et al., Zool. Sci. 2000
 2. Sato et al., J. Exp. Biol. 2000
 3. Sato et al., Chem. Senses 2001
 4. Sorensen and Sato, Chem. Senses 2005

2. げっ歯類ペプチドフェロモンの受容機構
人間にはありませんが、げっ歯類などの一部の動物は通常の鼻(主嗅覚器)に加え、鋤鼻器という化学感覚器を備えています。鋤鼻器は主にフェロモンの受容に関わっており、揮発性物質だけでなくペプチドも受容します。鋤鼻器でどのような分子がその仕組みに関わっているのか、研究しています。
 1. Kimoto et al., Nature 2005
 2. Kimoto et al., Curr. Biol. 2007
 3. Haga et al., Nature 2010

3. GPCRと逆さまの分子がイオンチャネルとして機能する
主嗅覚器に発現する匂い受容体と、鋤鼻器に発現する鋤鼻受容体のどちらもGPCRファミリーに属し、N末端が細胞外に位置します。また昆虫以外の動物の匂い受容体はわかっているだけで全て、GPCRです。しかしGPCRをひっくり返したN末端を細胞内にしたヤヌス関係にある7回膜貫通型受容体も存在し、それが昆虫の匂い受容体、味覚受容体とヒトも持っているアディポネクチン受容体です。調べた限り、これらの受容体は全て、リガンド活性型イオンチャネルとして機能することを明らかにしました。
 1. Sato et al., Nature 2008
 2. Iwabu et al., Nature 2010
 3. Sato et al., PNAS 2011

4. 膜タンパク質の応用展開
リガンド活性型イオンチャネルは、既存の半導体デバイスでは実現できない優れた特質を備えています。それを工業ベースで利用するためにはまだまだ、基盤技術の開発が不十分です。またそのような技術開発を通じて、タンパク質の新しい機能解析も可能となります。化学感覚に関わる分子基盤の基礎研究だけでなく、その応用展開も模索しています。
 1. Kawano et al., Sci. Rep. 2013
 2. Sato et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2014