3 大学共同利用機関法人自然科学研究機構の平成18年度に係る業務の実績に関する評価結果
2007年10月5日公表。文部科学省ウェブサイトに公開されている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/07103010/002/004.pdf
1 全体評価
自然科学研究機構(以下「機構」という。)は、我が国の天文学、物質科学、エネルギー科学、生命科学その他の自然科学分野の中核的研究拠点として、「国立天文台」、「核融合科学研究所」、「基礎生物学研究所」、「生理学研究所」及び「分子科学研究所」の5つの大学共同利用機関(以下「機関」という。)を設置する法人である。
本機構は、各分野の国際的研究拠点であると同時に、分野間連携による学際的研究拠点及び新分野形成の国際的中核拠点としての活動を展開するために、欧米、アジア諸国等との連携を進め、自然科学の長期的発展を見通した国際共同研究組織の主体となることを目指している。
業務運営面については、外部有識者を機構の非常勤理事として招へいするとともに、経営協議会の外部委員の人数を増やしたほか、新たに外部有識者との自然科学懇談会を開催するなど、外部の意見を運営に取り入れる努力がなされた。また、各機関において、それぞれ外部評価等を実施し、評価結果を踏まえて組織の見直し等の具体的な対応が行われており、評価できる。講演会の開催や施設の常時公開、プレスリリース等の活動により、積極的な広報活動を幅広く行っていることも評価できる。
教育研究面については、各機関が、それぞれの学問分野の中核的研究拠点として、分野の特性に応じた共同利用・共同研究を推進することで、最先端の学術研究に取り組んでおり、大学共同利用機関としての役割を十分に果たしている。これらの活動については、各機関の「運営会議」に研究者コミュニティを代表する外部委員を加え、当該分野のコミュニティの意向を反映させるとともに、定期的な外部評価を行い、コミュニティとの緊張感ある関係を保っている。
機構においては、分野間連携による学際的・国際的研究拠点形成のための分野間連携プロジェクトを推進するとともに、分野間連携のテーマである「自然科学における階層と全体」や「イメージングサイエンス」に関するシンポジウムの開催により、異分野間の研究連携、研究交流の場を提供している。新領域の創成については、時間をかけて醸成されるものであり予測できるものではないが、各機関に属する若手研究者が分野を越えて交流し、自由に議論できるサロンのような場を設けることで、新分野開拓に繋がるアイディアの芽が出てくることが期待される。
機構発足後3年が経過し、異なる性格の機関が統合したメリットを活かして取り組んできた様々な試みが実を結びつつある。各機関の独自性・独創性を担保しつつ、協力できる部門の競争と協調を加速することにより、統合のメリットがより具体的な形として見えてくることが期待される。
2 項目別評価
Ⅰ業務運営・財務内容等の状況
(1)業務運営の改善及び効率化
①運営体制の改善②研究組織の見直し
③人事の適正化
④事務等の効率化・合理化
平成18年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
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外部有識者からなる「組織運営に関する懇談会」の審議報告書の意見を踏まえ、平成18年度から、外部有識者を非常勤理事として招へいするとともに、経営協議会の委員に外部から民間人の経営実務者を増やした。また、新たに外部有識者との自然科学懇談会を催すなど、外部の意見を運営に取り入れる体制を整え、実際に具体的な意見を踏まえた取組も行っており、評価できる。今後の更なる成果が注目される。
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国立天文台では、水沢・VERA観測所の統合やRISEプロジェクトの位置付けの変更を行い、基礎生物学研究所では、イメージングサイエンス研究領域に発生ダイナミクス客員研究部門を新設するなど、各機関において、外部評価結果等を踏まえて組織の見直しを行い、制度改革を実施している。
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核融合科学研究所では、管理部組織の改組を行い、共同利用者の利便性の向上を図るため、ユーザーズオフィスを新設し、支援サービスの窓口を一元化した。
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子育て世代の職員に対し、仕事と育児が両立できる職場環境を提供するため、岡崎地区に事業所内保育所を設置し、運用を開始した。
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機構長裁量経費を活用して若手研究者育成事業を行うとともに、新たに、機構内分野間連携事業の強化、「自然科学研究機構シンポジウム」の年2回開催等を実施した。特に、平成18年度においては、地震により損害を被った国立天文台すばる望遠鏡の緊急修理、被災した国立天文台の諸施設(石垣島、小笠原父島)の迅速な災害対策を実施することにより、共同利用・共同研究の早期再開を可能とした。
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監査体制の確立のため、機構長直属の監査室の設置を決めたことは評価できる。監事監査、会計監査人監査、内部監査が連携することにより、監査機能が充実することが期待される。
【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載24事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況等を総合的に勘案したことによる。
(2)財務内容の改善
①外部資金その他の自己収入の増加
②経費の抑制
③資産の運用管理の改善
平成18年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
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機構事務局で一元管理している資金管理について、メインバンクと交渉し、元本の安全性を確保したうえで短期的な資産運用を図り、約700万円の増収となった。また、機構としての更なる自己収入増加の観点から、平成19年度以降に長期的な資金運用を図るため「資金管理方針」の作成に着手し、元本の安全性を確保した上での効果的な資金運用を図ることとした。
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中期計画における総人件費改革を踏まえた人件費削減目標の達成に向けて、着実に人件費削減が行われている。今後とも、中期目標・中期計画の達成に向け、教育研究の質の確保に配慮しつつ、人件費削減の取組を行うことが期待される。
【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載6事項すべてが「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況を総合的に勘案したことによる。
(3)自己点検・評価及び情報提供
①評価の充実
②広報及び情報公開等の推進
平成18 年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
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各機関で自己点検と外部評価が実施されており、評価結果を受けて組織の見直しを行うなど運営への反映も適切に行われており、評価できる。また、多くの機関で国際的な外部評価も行われている。
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一般市民を対象として、科学への理解・関心を高めるとともに機構の研究活動の周知を図るため、機構外の大学・研究機関の研究者・学生も企画等に多数参画し、「自然科学研究機構シンポジウム」を開催した。また、学術の重要性を訴え、大学共同利用機関の役割についての理解を深めるための資料として、「学術研究とは?」と「大学共同利用機関って何?」を作成し、ウェブサイトに掲載するとともに全国の大学等に配布した。
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機構及び各機関において、一般市民向けのシンポジウムや公開講演会などを合計71回実施し、ウェブサイトの充実により9,690万件のアクセス件数を上げ、サイエンスコミュニケーターの養成も検討するなど、広報活動・普及活動を活発に行ったことは評価できる。今後、費用対効果の高い広報の実施が期待される。
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国立天文台に11テラバイトの観測アーカイブ、核融合科学研究所に17,000件のアーカイブ登録が行われるなど、各機関で、資料保存に努めており、独自の記録・保存データベースを構築している。将来的にも効率的なアーカイブズあるいは研究活動記録の整備シナリオを検討していくことが期待される。
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報道機関へのプレスリリースやウェブサイトを活用し、研究成果を広く社会に公開する努力を行っていることは評価できるが、機関によって取組に差がみられる。機構全体でノウハウを共有し、効果的な取組は他の機関でも取り入れることが期待される。
【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由)年度計画の記載12事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況を総合的に勘案したことによる。
(4)その他業務運営に関する重要事項
①施設設備の整備・活用等
②安全管理
平成18年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
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研究施設等の耐震診断を実施し、緊急度のランクの高い施設に対しては、施設担当理事らが自ら施設を視察した上で、耐震補強年次計画を策定し、計画に基づき、耐震補強工事を実施した。
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施設マネジメント・ポリシーに基づき、施設実態調査を実施し、機構におけるキャンパス年次計画を策定するとともに、施設の有効活用を行った。また、平成18年度の施設マネジメントの取組状況を機構のウェブサイトで公表した。
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数値目標を含む「温室効果ガス排出抑制等のための実施計画」を策定し、機構の事業によって排出される温室効果ガスの削減に向けて具体的な取組に着手した。
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研究設備等の輸出管理業務の確実な実施を図り、国際的責任を果たすことを目的に、「安全保障輸出管理規程」を制定し、輸出管理の体制を整備した。
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核融合科学研究所では、全職員及び研究所で作業を行う外注業者を対象とした安全講習会の開催、研究教育職員と技術部職員を対象とした「危険予知訓練(KYT)トレーナー研修」の実施等により、さらなる安全水準の向上に努めた。
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国際的な研究拠点として、日本語を十分に理解できない外国人に対する安全衛生管理も重要である。各機関において、英文マニュアル等の整備が進みつつあるが、機構全体として、取組を徹底することが期待される。
【評定】中期目標・中期計画の達成に向けて順調に進んでいる。
(理由)年度計画の記載9事項すべてが「年度計画を上回って実施している」又は「年度計画を十分に実施している」と認められ、上記の状況を総合的に勘案したことによる。
Ⅱ教育研究等の質の向上の状況
評価委員会が平成18年度の外形的・客観的進捗状況について確認した結果、下記の事項が注目される。
①研究水準及び研究の成果等
②研究実施体制等の整備
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分野間の連携による学際的・国際的研究拠点形成のため、国内外の研究者が参加する分野間連携プロジェクト(16件)を採択し、総額5 億1,100万円を措置した。実施した研究プロジェクトについては、プロジェクトを公正に評価し、今後のプロジェクトの実施に活用するため、外部評価者を含む報告会を開催し、研究成果等の報告を受けた。
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連携企画室において、分野間連携のテーマである「自然科学における階層と全体」及び「イメージングサイエンス」について、シンポジウムを開催し、機構内外の研究者の連携・交流を図った。
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機構内の異分野交流を促進するため、機構長裁量経費により、異なる機関に属する研究者による共同研究を募集し、優れた計画に経費を配分する「新分野領域創成型連携プロジェクト」を実施した。
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機構の設置する各機関は、それぞれの分野における中核的研究機関として、共同利用・共同研究により独創的・先端的な学術研究を推進し、大学共同利用機関としての役割を果たしている。各機関の平成18年度における成果の一例は以下のとおりである。
- 国立天文台では、すばる望遠鏡によるこれまで知られているなかで最も遠い銀河の発見、野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡による渦巻銀河についての世界最多の電波写真集の完成、JAXAの太陽観測衛星「ひので」による太陽の精密可視光映像の取得等の実績を上げた。
- 基礎生物学研究所では、神経回路形成等に必須なチロシンリン酸化酵素Ephの機能を制御するメカニズムを世界で初めて解明し、受容体型タンパク質チロシン脱リン酸化酵素(RPTP)であるPtproの網膜における発現量や活性を人為的に変化させることによって、網膜から視蓋への視神経の投射において、視蓋上の投射部位を自在に変えることが可能であることを示した。
- 生理学研究所では、色をカテゴリー的に判断する時と細かく識別する時の神経細胞の活動を研究することにより、色覚の異なる働きが下側頭皮質の神経活動の調整により起きていることを明らかにした。
- 分子科学研究所では、分子の中にできた二つの原子波(振動波束)が衝突してすり抜けるわずか100フェムト秒程度の間だけ現れるピコメートルスケールのさざ波を可視化し、制御することに成功した。
- 核融合科学研究所では、炉心プラズマの実現に向け、電子密度が12兆個/cc で中心イオン温度6,000万度を達成するとともに、経済的な核融合炉の実現に必要なプラズマと磁場の圧力比(ベータ値)5%を我が国独自のアイディアに基づく大型ヘリカル装置で達成した。また、中心密度が1,000兆個/cc の超高密度プラズマを生成することに成功し、従来の「高温高密度」に代わる「低温超高密度」というシナリオを新たに提案した。
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分子科学研究所では、国立大学の化学系研究設備を全国規模で相互利用するためのネットワークの試行的運用を目指した準備を行った。
③共同利用等の内容・水準
④共同利用等の実施体制
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機構が設置する各機関は、全国の関連研究者の要請・要望を踏まえ、それぞれの分野の特性に応じた共同利用・共同研究を推進しており、国内外の大学・研究機関等合計504機関、共同利用・共同研究者数10,156名(国立天文台:5,738名、核融合科学研究所:1,623名、基礎生物学研究所:408名、生理学研究所:1,173名、分子科学研究所:1,214名)の利用があった。
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国立天文台では、太陽観測衛星「ひので」による観測データの共同利用を平成19年度中に開始すべく、観測結果速報システムの立ち上げ等、体制整備を進めた。
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核融合科学研究所では、双方向型共同研究の一層の拡大を図るため、双方向型共同研究推進専門部会を設置し、体制を整え、研究分野ごとに研究内容や具体的な促進方法を専門的見地から調査・検討した。
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分子科学研究所では、核磁気共鳴装置の測定技術を高めると共に測定可能な試料の範囲を大幅に拡充した。また、極端紫外光研究施設でアンジュレータを利用した分光装置を整備し、また、3.5世代技術のトップアップ運転実現のための施設整備を進めた。
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基礎生物学研究所では、新たに「モデル生物・技術開発共同利用研究」制度を設定し、公募を開始した。
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各機関の「運営会議」に研究者コミュニティを代表する外部委員を加え、当該分野のコミュニティの意向を反映させている。
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機構は、大型の研究施設・設備を共同利用に供し、大規模な研究プロジェクトを推進する機関と、専門を異にする優れた研究者間の挑戦的かつ触発的な議論を通したユニークな問題発掘の場として比較的小規模な共同研究・共同利用を推進する機関の双方を有しており、それぞれの分野のコミュニティの意向を踏まえた共同利用・共同研究を展開している。引き続き、各機関がその特性とミッションに応じた共同利用・共同研究により国内外の研究者をひきつける最先端の研究を実施し、世界に誇れる研究成果を上げていくことで、日本全体の学術研究の発展をリードしていくことが期待される。
⑤大学院への教育協力・人材養成
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総合研究大学院大学の基盤機関として、8専攻193名の大学院学生の教育を行い、うち35名に博士の学位を授与した。また、他大学に所属する学生を特別共同利用研究員制度により99名、連携大学院制度により17名受け入れるなど、大学院教育に協力している。さらに、リサーチアシスタント204名を採用した。
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基礎生物学研究所では、従来、国内の受講生を対象としていたバイオサイエンストレーニングを国際化し、外国人にも開いたトレーニングコースを行った。
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国立天文台では、すばる望遠鏡による総合研究大学院大学の学生観測実習を初めて実施した。
⑥社会との連携、国際交流等
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機構全体で取り組む「自然科学研究機構シンポジウム」の開催をはじめ、各機関における一般向けの普及活動や地域と連携した教育活動を通じ、積極的な社会貢献を行った。国立天文台はすべての観測所の置かれた地区で、天文学や科学一般の普及のため、常時施設公開を行い、石垣島では月間約1,000名の一般参加者を得た。核融合科学研究所は核融合研究の理解を得るため地域住民向け説明会を24会場で実施した。
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知的財産や技術移転の問題に適切に対処するため、機構として、平成19年度に「知的財産室」を設置することを決定した。人材の育成も含め、効果的に機能することが期待される。
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国際戦略本部は、国際交流協定締結に関する取扱要領を策定し、機構内の国際交流協定に関する情報を一元化する体制を整備した。また、日本語が堪能な英語のネイティブスピーカーを国際アソシエイトとして機構事務局に配置し、各機関における協定締結に必要な支援を行うなど、国際的な研究機関との窓口機能を強化した。
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国立天文台では、国際協力事業として「アルマ計画」を推進している。日本担当部分の高分散相関器は、平成18年12月の国際技術審査会で高い評価を得た。