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細胞器官研究系


生体膜研究部門

世界最大規模の2光子励起法の設備を構築して,神経・分泌細胞の新しい機能解析法の開発に成功し,

(1)中枢シナプスの構造・機能連関,及び

(2)シナプスや分泌細胞(膵島,外分泌腺)での分泌=開口放出の分子細胞機構に重要な新知見を得た。今後も,分子生物学,ケイジド試薬やパッチクランプとの共用に一層工夫を凝らして,神経・分泌細胞の根本機能の解明とその個体の機能への関与を明らかにしていくことを目指している(図1−4)。


Fig.1

Fig.2

図1  2光子励起とは,フェムト秒の近赤外レーザーを対物レンズで集光することにより,2つの光子が同時に分子に吸収され励起を起こす現象である(図a)。2光子吸収は焦点でしか起きないので(図b),焦点以外での無駄な吸収がなく,深部到達性が高く,レーザーを走査することで断層情報を得ることができる。従って,臓器標本における分子・細胞機構を調べるのに最善の方法論である。2光子励起法は応用されてまだ間がなく,その可能性の一部しかまだ使われていないことも魅力の一つである。今後,2光子励起法はその高い定量性と空間解像によって,微小電極やパッチクランプ法と肩を並べる方法論になると我々は 考えている。

図2  2光子励起法を用いたケイジドグルタミン酸の局所的励 起により,シナプス前終末からとほぼ同じ時間空間解像でグルタミン酸を放出する技術を確立した。この方法により,大脳興奮性細胞の樹状突起のスパインの機能はその形態で決まる可能性が示唆された。即ち,スパイン頭部が大きい程グルタミン酸感受性が高く(d-l),頭部の無い細いスパイン(a-c)やフィロポーディア(k)にはグルタミン酸感受性(AMPA型)が無い。

Fig.3
Fig.4

図3  2光子励起法を用いた開口放出の定量的測定法を確立した。この方法論は,観察する平面内のすべての開口放出を検出し,融合細孔の動態をナノメーター (1-20 nm)の解像で測定でき,また,すべての分泌臓器に適用可能である。この手法を用いることにより,小胞の動員が逐次的に細胞内に進む様式があることが明らかとなった。

図4  神経・分泌細胞からの開口放出のし易さ(時定数)は細胞や分泌小胞の種類により大きく異なる。2光子励起法により,この多様性を決定する形態的分子的因子を同定する作業を進めている。


職  員

photo 教 授  河 西 春 郎  KASAI,Haruo
東京大学医学部医学科卒,同大学院博士課程修了,医学博士。マックスプランク研究所フェロー,東京大学医学部生理学教室助教授を経て平成11年12月から現職。
専攻:細胞生理学,神経生理学。
photo 助 手  根 本 知 己  NEMOTO,Tomomi
東京大学理学部物理学科卒,東京工業大学大学院博士課程修了,博士(理学)。理化学研究所フロンティア研究員,同基礎科学特別研究員,東京大学医学部生理学教室リサーチ・アソシエイトを経て平成11年12月から現職。平成13年12月より科学技術振興機構戦略的創造研究個人型研究(さきがけ研究21)研究員兼任。
専攻:細胞生理学,生物物理学。
photo 助 手  高 橋 倫 子  TAKAHASHI,Noriko
東京大学医学部医学科卒,同大学院博士課程修了,医学博士。東京大学医学部第三内科に入局の後,日本学術振興会特別研究員を経て平成12年4月から現職。さきがけ研究21研究員兼任。
専攻:細胞生理学,内分泌代謝学。
photo 助 手  松 崎 政 紀  MATSUZAKI,Masanori
東京大学理学部生物化学科卒,同大学院医学系研究科博士課程修了,医学博士。平成14年1月から現職。
専攻:神経科学。




機能協関研究部門

細胞機能のすべては,細胞膜におけるチャネル(イオンチャネル,水チャネル)やトランスポータ(キャリア,ポンプ)の働きによって担われ,支えられている。私達は容積調節や吸収・分泌機能や環境情報受容などのように最も一般的で基本的な細胞活動のメカニズムを,チャネル,トランスポータ,レセプター,センサー,メッセンジャーなどの機能分子の働きとして細胞生理学 的に解明し,それらの異常と疾病や細胞死との関係についても明らかにしようとしている。主たる研究課題は次の通りである。

(1)「細胞容積調節の分子メカニズムとその生理学的役割」:細胞は(異常浸透圧環境下においても)その容積を正常に維持する能力を持ち,このメカニズムには各種チャネルやトランスポータやレセプターの働きが関与している(図1)。これらの容積調節性膜機能分子,特に容積感受性クロライドチャネル,の分子同定を行い,その活性メカニズムと生理学的役割を解明する。

(2)「アポトーシス,ネクローシス及び虚血性細胞死の誘導メカニズム」:容積調節能の破綻は細胞死(アポトーシスやネクローシス)にも深く関与する(図2)。これらの細胞死誘導メカニズムを分子レベルで解明し,その破綻防御の方策を探求する。特に,脳神経細胞や心筋細胞の虚血性細胞死の誘導メカニズムを生理学的に解明する。

(3)「バイオ分子センサーチャネルの分子メカニズムの解明」:イオンチャネルはイオン輸送や電気信号発生のみならず,環境因子に対するバイオ分子センサーとしての機能を果たし,他のチャネルやトランスポータ制御にも関与する多機能性蛋白である。アニオンチャネルやATPチャネルの容積センサー機能およびストレスセンサー機能の分子メカニズムを解明し,それらを用いたナノデバイスの開発もめざす。

(4)「消化管上皮細胞の分泌・吸収メカニズム」:小腸の溶質吸収細胞,大腸や小腸のCl-分泌細胞,胃の酸分泌細胞,膵臓のインスリン分泌細胞,肝臓の星細胞などの細胞機能におけるチャネルやトランスポータの役割について研究する。


Fig.1
図1:低浸透圧環境下での細胞容積調節(RVD:調節性容積減少)とそのメカニズム.
Fig.2
図2:細胞容積調節破綻とアポトーシス性及びネクローシス性細胞死(RVI:調節性容積増加,AVD:アポトーシス性容積減少,NVI:ネクローシス性容積増加,VSOR:容積感受性Cl-チャネル)


職  員

photo 教 授  岡 田 泰 伸  OKADA,Yasunobu
京都大学医学部卒,医学博士。京都大学医学部講師を経て平成4年9月から現職。
専攻:分子細胞生理学,細胞死の生理学。
photo 助教授  サビロブ ラブシャン  SABIROV,Ravshan
タシケント大学化学部卒,ウズベキスタン生化学研究所博士課程修了,理学博士。ウズベキスタン生理生物物理学研究所助教授を経て,平成11年10月から現職。
専攻:分子生理学,細胞生理学。
photo 助 手  樫 原 康 博  KASHIHARA,Yasuhiro
富山大学文理学部卒,九州大学大学院理学研究科博士課程修了,理学博士。昭和58年7月から現職。
専攻:神経生物学。
photo 助 手  清 水 貴 浩  SHIMIZU,Takahiro
富山医科薬科大学薬学部卒,同大学院薬学研究科修士課程修了,総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程修了,理学博士。生理学研究所非常勤研究員,日本学術振興会特別研究員を経て,平成14年7月から現職。
専攻:細胞生理学。
photo 助 手  高 橋 信 之  TAKAHASHI,Nobuyuki
京都京都大学農学部卒,同大学院医学研究科博士課程学修退学。医学博士。旧通産省旧産業技術融合領域研究所非常勤研究員,生物系特定産業技術研究推進機構派遣研究員を経て,平成14年12月から現職。
専攻:細胞生物学。
photo 学振外国人特別研究員 ダッタ アマル クマル  DUTTA,Amal Kumar
ラジシャヒ大学医学部卒,総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程修了,学術博士。研究員(科学研究)を経て,平成16年4月から現職。
専攻:細胞生理学。
photo 非常勤研究員  眞 鍋 健 一  MANABE,Kenichi
総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻博士課程修了,理学博士。科学技術振興機構研究員を経て,平成15年11月から現職。
専攻:細胞生理学。
photo 研究員(科学研究)  浦 本 裕 美  URAMOTO,Hiromi
日本女子大学家政学部卒,総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程単位取得退学。科学技術振興機構研究員を経て,平成16年4月から現職。
専攻:細胞生理学。
photo 科学技術振興機構研究員  井 上   華  INOUE,Hana
早稲田大学教育学部卒,同大学院理工学研究科修士課程修了,総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程修了,理学博士。平成15年4月から現職。
専攻:細胞生理学。




能動輸送研究部門(客員研究部門)

本研究部門では,細胞間の接着の情報が如何にして細胞膜を横切って核へ伝達され,そして伝達された情報が如何にして細胞の増殖や分化を制御しているかという問題に焦点を絞り研究を行っている。このような問題を解析することは,多細胞動物の形づくりの分子機構の理解のためだけでなく,細胞の癌化や癌細胞の転移の分子機構を理解するためにも重要である。

具体的には,接着分子カドヘリンが働く場であるAdherens Junction(AJ)と呼ばれる細胞間接着装置を単離する方法を開発することに成功したので,この単離AJを構成する蛋白質群の構造・機能解析を行ってきた。これまですでに多くの新しい蛋白質を同定しており,それらのcDNAの単離も進んでいる。その詳しい解析の結果,これらのうちの多くが,癌抑制遺伝子産物として機能する可能性が示されるに至っている。これらの蛋白質群のさらに詳細な解析により,接着の情報が細胞の増殖・分化を抑制する機構を,分子レベルで明らかにできる可能性が高い。

さらに,最近,このAJ単離分画の中に,上皮細胞や内皮細胞の機能に必須であるタイトジャンクション(TJ)も多く含まれていることに気づき,この分画からTJで機能する接着分子,オクルディンとクローディンを同定することに成功した。この発見は,多細胞生物がその体のなかでホメオスタシスを保つ機構を理解する上で重要な情報を与えるもので,分子細胞生物学に新しい分野がうまれつつある。


職  員

photo 教 授  月 田 承一郎  TSUKITA,Shoichiro
東京大学医学部卒,同大学院修了,医学博士。東京大学医学部講師,都臨床研室長,生理学研究所教授を経て平成7年4月より京都大学大学院医学研究科教授。平成14年4月より現職を併任。
専攻:細胞生物学。
photo 助教授  鹿 川 哲 史  KAGAWA, Tetsushi
大阪大学理学部卒,同大学院理学研究科博士課程修了,博士(理学)。生理学研究所助手を経て熊本大学助教授。平成15年7月より現職を併任。
専攻:分子神経生物学。
photo 助 手  東   晃 史  HIGASHI, Akifumi
東北大学理学部,東京大学理学系大学院修了,理学博士。東京大学医学部助手を経て昭和52年12月から現職。
専攻:「ヒト・ゲノム言語解析」の概念を提案中。
http://www.nips.ac.jp/‾higashi/




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