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脳機能計測センター

形態情報解析室

脳機能を脳神経系の微細構造や神経結合から研究することを目的としている。設備としては超高圧電子顕微鏡(H-1250M型:常用加速電圧1,000kV)を備えている。本装置は医学・生物学専用としては国内唯一の超高圧電子顕微鏡であり,常に技術的改良が加えられると共に,画像解析方法や観察方法に関しても開発が行われている。この装置を用いた全国共同利用実験が行われている。この共同利用実験は(I)生体微細構造の三次元解析,(II)生物試料の高分解能観察,(III)生物試料の自然状態における観察の三課題を主な柱としている。

またよりマクロなレベルの形態研究用として,各種の細胞の初代培養や継代培養,脳スライスの培養,モノクロナール抗体の作成を行える設備および凍結切片やパラフィン切片等の標本作成用設備を備えている。これらの試料を観察するためにビデオ観察も行える各種の光学顕微鏡設備を備えている。


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医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型: 常用加速電圧 1,000kV)


職  員

photo 助教授  有 井 達 夫  ARII, Tatsuo
東北大学理学部卒,名古屋大学大学院理学研究科修士課程修了,同工学研究科博士課程修了,工学博士。レーゲンスブルク大学助手,名古屋大学助手を経て昭和54年10月から現職。
専攻:電子顕微鏡学。
photo 助 手  古 家 園 子  FURUYA, Sonoko
東京大学薬学部卒,同大学院博士課程修了,薬学博士。日本医科大学助手を経て昭和53年3月から現職。
専攻:培養細胞の形態生理学。




機能情報解析室

 思考,判断,意志などを司る脳のしくみを明らかにするには,ヒトの脳を研究する必要がある。非侵襲的な脳機能検査法がこのために有用である。しかし現在のところそれらによる情報だけでは不十分であり,脳活動を直接的に記録あるいは操作できる動物実験を行うことも必要不可欠である。このような観点から,サルの研究とヒトの研究を相互に関連させながら進めている。研究手法としては,大脳皮質電位の直接記録法,PET(陽電子断層撮影法),脳磁図などを併用している。

fig.1

図1 3種類の運動をしている時の脳活動状態(1日分の計測例)
手でレバーを動かして報酬を得る次の3通りの課題をサルに学習させた。(1)自分のペースで動かす(SELF課題)。(2)眼前で光がついたら動かす(VISUAL課題)。(3)赤と緑の光がランダムな順序でつくので緑の時だけ動かす(GONOGO課題)。これら3つの課題を図中の1から12の数字の順序で2分間ずつ計測した。脳活動状態は一見ランダムな変動を示すが,計測を繰返して統計学的に有意な変化を抽出し,脳の立体図上に表示したものが図2,3,4である。

fig.2

図2 SELF課題のときに活性化する領域

fig.3

図3 GONOGO課題のときに活性化する領域

fig.4

図4 課題を1日に何度も繰返していると脳活動が漸減する領域
課題の種類とは無関係であり,「やる気」の減退と関係している可能性がある。


職  員

photo 助教授  逵 本  徹  TSUJIMOTO, Toru
京都大学医学部卒,同大学院医学研究科博士課程修了,博士(医学)。彦根市立病院内科医長,生理学研究所助手,京都大学医学研究科助手を経て平成11年4月から現職。
専攻:脳生理学。




生体情報解析室

1. 2光子顕微鏡イメージンググループ
日本で唯一の,世界でトップクラスの深部到達性を有する2光子顕微鏡を構築した,バイオ分子イメージングの共同利用拠点である(図1)。光機能分子,非線型光学,遺伝子工学や電気生理学の援用により,最先端の細胞機能イメージングの新局面を切り拓いている。特に,2光子顕微鏡の低障害性,同時多重励起性などの長時間ライブイメージングに適した特徴を活用し,新しい細胞機能の可視化解析法を開発し,シナプスや分泌腺細胞での分泌=開口放出・溶液輸送の分子機構に新知見を与えてきた。さらに今後は,この低侵襲的な画像解析法を展開させ,生理機能の根本原理の解明とその個体への関与を明らかにする(図2,3)。

2. コンピューター・ネットワークグループ
今や研究を進める上で,コンピュータや情報ネットワークは無くてはならないものになっている。当室は,データ解析やシミュレーションのためのHP ES45を中核とする生体情報解析システムを始め,高速で安定した情報ネットワークやそれを利用した様々な情報サービス,高画質ディジタルカラープリンタ等の端末・周辺装置群を運用し,所内の研究に活用されている。また,これらの設備を有効に利用するための技術開発を進めている(図4,5)。



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図1. 生きているマウスの大脳皮質のGFP発現神経細胞群の3次元再構築。2光子顕微鏡の優れた深部到達性は,生体深部の微細な細胞の形態や活動を観察することを可能とする。新たに構築した“in vivo ”2光子顕微鏡は,大脳表面から0.9mm以上の深部を観察することが可能であり,マウス個体を生かしたまま大脳皮質全体を可視化し得る世界トップクラスの顕微鏡である。(鍋倉淳一教授との共同研究)。


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図2. 2光子顕微鏡を用いた開口放出の定量的測定法を確立した。この方法論は,観察する平面内のすべての開口放出を検出し,融合細孔の動態をナノメーター(1-20 nm)の解像で測定でき,また,すべての分泌臓器に適用可能である。この手法を用いることにより,小胞の動員が逐次的に細胞内に進む様式があることが明らかとなった。この様式は様々な細胞で確認され,極めて一般性が高い。


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図3. 多光子励起とは,フェムト秒の近赤外レーザーパルス光を対物レンズで集光することにより,1個の分子が同時に,複数個の光子を吸収し第一電子励起状態へ遷移する現象である(A)。多光子吸収は焦点でしか起きないので,焦点以外での無駄な吸収が無い上(B),深部到達性が高く,レーザーを走査することで断層像が取得できる。従って,臓器標本における分子・細胞機構を調べるのに最善の方法論である。多光子励起を用いた顕微鏡法(2光子顕微鏡)は,医・生物学に応用されてからまだ間がなく,その可能性の一部しかまだ使われていないことも魅力の一つである。今後,2光子顕微鏡はその高い定量性と空間解像によって,微小電極やパッチクランプ法と肩を並べる方法論になると我々は考えている。


Fig.1A

図4 生体情報解析システム


Fig.1B

図5 ネットワークサーバ群


職  員

photo 助教授  根 本 知 己  NEMOTO, Tomomi
東京大学理学部物理学科卒,東京工業大学大学院博士課程修了,博士(理学)。理化学研究所フロンティア研究員,同基礎科学特別研究員,東京大学医学部生理学教室日本学術振興会研究員,生理学研究所助手,科学技術振興機構さきがけ研究21研究員を経,平成18年1月から現職。
専攻:細胞生理学,生物物理学。




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