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統合生理研究系


感覚運動調節研究部門


主としてヒトを対象とし,非侵襲的に脳波と脳磁図を用いて脳機能の解明を行っている。最近は,機能的MRI,経頭蓋的磁気刺激(TMS),近赤外線分光法(NIRS)を用いた研究も行っており,各種神経イメージング手法の長所と短所を良く理解したうえで,統合的な研究を行っている。現在は主として以下のようなプロジェクトが進行中である。

(1)ヒトに各種感覚刺激(視覚,体性感覚,痛覚,聴覚,臭覚等)を与えた時の脳磁場(誘発脳磁場)を計測し,知覚や認知のプロセスを解明する。特に痛覚認知機構の解明,二点識別認知機構の解明,体性感覚と運動の干渉および機能連関の解明,運動視(動態視)認知機構の解明,などに力を注いでいる。

(2)ヒトに様々な心理的タスクを与えた時に出現する脳磁場(事象関連脳磁場)を計測し,記憶,認知,言語理解といった高次脳機能を解明する。現在は主として,顔認知機構の解明、抑制判断(Go/NoGo)に関する脳内機構の解明,連続刺激によって出現するマスキング現象の解明,などに力を注いでいる。

(3)「脳研究成果の教育への応用」を主要テーマとし,乳幼児や学童を対象として,脳機能の発達とその障害機構の解明を行っている。脳磁図やfMRIは長時間の固定が必要であるためこの研究には不適であり,脳波とNIRSが有用である。

Fig.1
図1 [ELEKTA-Neuromag社製306チャンネル脳磁場計測装置]
Fig.2
 
図2 [ヒト大脳皮質における感覚情報処理]
触覚(左手背),聴覚(左耳クリック音),視覚(フラッシュ)及び侵害刺激(左手背)に対する皮質活動を脳磁図を用いて記録したもの。いずれの感覚系においても,4-5ミリ秒の時間差で隣接する皮質領野が順次活動し,階層的処理を支持する。情報を一定レベルまで洗練する過程を反映すると考えられる。一連の初期活動の後,持続の長い後期活動が生じ(青),明らかに初期活動とは異なる活動様式を示す。感覚情報の認知に関わると考えられる。


職  員

photo 教 授  柿 木 隆 介  KAKIGI,Ryusuke
九州大学医学部卒,医学博士。佐賀医科大学助手,ロンドン大学研究員,佐賀医科大学講師を経て平成5年3月から現職。
専攻:神経生理学,神経内科学。
photo 准教授  金 桶 吉 起  KANEOKE,Yoshiki
名古屋大学医学部卒,同大学院修了,医学博士。米国エモリー大学神経内科助手を経て平成7年9月から現職。
専攻:神経生理学,神経内科学。
photo 助 教  乾   幸 二  INUI,Koji
佐賀医科大学医学部卒,三重大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。三重大学医学部助手を経て平成13年8月から現職。
専攻:精神医学,神経生理学。
photo 助 教  渡 邉 昌 子  WATANABE,Shoko
佐賀医科大学医学部卒,総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻修了。博士(医学)。生理学研究所非常勤研究員を経て,平成11年9月から現職。
専攻:神経生理学,神経内科学。
photo 科学技術振興機構研究員 三 木 研 作  MIKI, Kensaku
浜松医科大学医学部医学科卒。総合研究大学院大学生命科学科博士課程終了,医学博士。日本学術振興会特別研究員を経て平成16年12月より現職。
専攻:神経生理学。
photo 研究員  和 坂 俊 昭  WASAKA, Toshiaki
徳島大学総合科学部卒,同大学院人間・自然環境研究科修了,筑波大学大学院体育科学研究科単位取得済み退学,博士(理学)。平成16年4月より現職。
専攻:運動生理学,神経生理学。
photo 日本学術振興会特別研究員  木 田 哲 夫   KIDA, Tetsuo
筑波大学体育専門学群卒,同大学大学院博士課程体育科学研究科修了,博士(学術)。平成17年4月から現職。
専攻:運動生理学,神経生理学。
photo 研究員  橋 本 章 子  Akiko, Hashimoto
立教大学社会学部卒,信州大学人文学部修士課程修了,信州大学医学部医学研究科修了(精神医学,社会予防医学),博士(医学)。
専攻:社会予防医学,認知心理学,臨床心理学。
photo 日本学術振興会特別研究員  平 井 真 洋   HIRAI, Masahiro
東京大学大学院総合文化研究科広域科学広域システム科学専攻博士課程修了。博士(学術)。東京大学21世紀COE「心とことば-進化認知科学的展開」研究拠点形成特任研究員を経て平成18年4月から現職。
専攻:発達認知神経科学,社会認知神経科学。
photo 科学技術振興機構研究員  本 多 結城子   HONDA, Yukiko
愛知淑徳大学文学部卒,同大学修士課程修了。総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻修了。博士(理学)。 平成17年4月から現職。
専攻:発達心理学,神経生理学。
photo 精神・神経科学振興財団研究員(特別訪問研究員)  望 月 秀 紀  MOCHIZUKI, Hideki
東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。国立精神・神経センター流動研究員を経て,平成19年4月より現職。
専攻:神経生理学,神経薬理学。
photo 日本学術振興会特別研究員  赤 塚 康 介   AKATSUKA, Kosuke
鹿児島大学教育学部卒,同大学修士課程修了。総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻修了。博士(理学)。平成19年4月から現職。
専攻:神経生理学,運動生理学。
photo 科学技術振興機構研究員  田 中 絵 実   TANAKA, Emi
奈良女子大学文学部卒,同大学院人間文化研究科修了,総合研究大学院大学生命科学研究科修了,博士(理学)。平成19年4月より現職。
専攻:視覚神経科学,人間行動科学。

生体システム研究部門


日常生活において私達ヒトを含め動物は,周りの状況に応じて最適な行動を選択し,自らの意志によって四肢を自由に動かすことにより様々な目的を達成している。このような運動には,例えばピアノを弾くように手指を巧妙・精緻に自由に使いこなす運動から,歩行や咀嚼などのように半ば自動化されたものまで幅広く存在する。このような随意運動を制御している脳の領域は,大脳皮質運動野と,その活動を支えている大脳基底核と小脳である。一方,例えばパーキンソン病などのように運動に関連したこれらの脳領域に病変が生じると,運動遂行が著しく障害される。

本研究部門では,脳をシステムとして捉え,これらの脳領域がいかに協調して働くことによって随意運動を可能にしているのか,そのメカニズムや,これらの脳領域が障害された際に,どのような機構によって症状が発現するのかなどの病態生理を明らかにし,さらにはこのような運動障害の治療法を開発することを目指して,以下の研究を遂行している。1)神経解剖学的あるいは電気生理学的手法を用い運動関連領域の線維連絡やその様式を調べる。2)運動課題を遂行中の動物から神経活動を記録することにより,脳がどのように随意運動を制御しているのか明らかにする。また,特定の神経経路の機能を調べるため,薬物注入などにより,その経路を一時的にブロックする方法も併用する。3)パーキンソン病やジストニアなどの疾患モデル動物から神経活動の記録を行い,どのようなメカニズムによって症状が発現するのか,また,異常な神経活動を抑制することによって治療が可能か検討する。4)ヒトの定位脳手術の際の神経活動のデータを解析することにより,ヒトの大脳基底核疾患の病態を解明する。


Fig.1
 
大脳基底核の正常な機能と大脳基底核疾患の病態を説明するモデル。正常な場合(左)は,ハイパー直接路・直接路・間接路からの情報により,必要な運動のみが正確なタイミングで発現する。パーキンソン病の際(中央)には,淡蒼球内節から視床への脱抑制が不十分になり,その結果,無動を来す。一方,ジストニアなどの場合(右)には,淡蒼球内節の活動性が下がり,その結果,視床の活動が常に脱抑制された状態になるため,不随意運動が引き起こされる。
Fig.1
運動異常モデルマウスのひとつであるWriggle Mouse Sagami。神経活動を記録することにより,病態を探る。


職  員

photo 教 授  南 部   篤  NAMBU,Atsushi
京都大学医学部卒,医学博士。京都大学医学部助手,米国ニューヨーク大学医学部博士研究員,生理学研究所助教授,東京都神経科学総合研究所副参事研究員を経て,平成14年11月から現職。
専攻:神経生理学。
photo 助 教  畑 中 伸 彦  HATANAKA,Nobuhiko
奥羽大学歯学部卒,歯学博士。奥羽大学病院研修医,同大学歯学部助手,東京都神経科学総合研究所非常勤研究員,同流動研究員を経て,平成15年4月から現職。
専攻:神経生理学,神経解剖学。
photo 助 教  橘   吉 寿  TACHIBANA,Yoshihisa
大阪大学歯学部卒,同大学院歯学研究科博士課程修了,博士(歯学)。生理学研究所非常勤研究員を経て,平成15年11月から現職。
専攻:神経生理学。
photo 助 教  知 見 聡 美  CHIKEN, Satomi
東京都立大学理学部卒,同大学院理学研究科生物学専攻博士課程修了,博士(理学)。東京都神経科学総合研究所非常勤研究員,同流動研究員,日本学術振興会科学技術特別研究員,テネシー大学医学部博士研究員を経て,平成18年4月から現職。
専攻:神経生理学,神経生物学。
photo 研究員  佐 野 裕 美  SANO, Hiromi
京都薬科大学薬学部卒,奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科細胞生物学専攻博士前期課程修了,同大学院博士後期課程修了,博士(バイオサイエンス)。福島県立医科大学医学部助手,京都大学大学院医学研究科科学技術振興助手を経て,平成19年4月から現職。
専攻:分子神経生物学。

計算神経科学研究部門(客員研究部門)


計算論的神経科学の手法を用いて脳の機能を理解することを目指す。

(1)小脳は運動制御のための神経機構であると考えられてきたが,道具を使う,人の意図を推測するなど,人間らしい「こころの働き」にも貢献していることが解ってきた。小脳を含む脳全体のネットワークが,高次な認知機能をどのように実現しているかを解明する。

(2)人間は様々な環境に適応し,巧みに運動を制御して道具を扱う。このような運動の制御と学習のメカニズムを理解し,その神経機序を探ることを目指す。

(3)今日の実験神経科学により得られる大量のデータの理解は,確かな理論に裏打ちされた計算手法を必要としている。そこでMEGデータからの信号源推定などの,新たな計算モデルとソフトウェアツールの開発を目指す。


Fig.1

不安定な方向に延長された剛性楕円体。


職  員

photo 教 授  川 人 光 男  KAWATO, Mitsuo
昭和51年東京大学理学部卒,昭和56年大阪大学大学院基礎工学研究科修了,工学博士。昭和56同大学助手,講師を経て,昭和63年よりATR視聴覚機構研究所,平成15年にATR脳情報研究所所長,平成16年ATRフェロー。
専攻:計算論的神経科学。
photo 准教授  大 須 理英子 OSU, Rieko
平成3年京都大学文学部卒,平成8年京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学,平成9年文学博士。平成6年ATR人間情報通信研究所学外実習生,平成8年科学技術振興事業団研究員を経て,平成15年よりATR脳情報研究所主任研究員,平成16年上級主任研究員。
専攻:計算論的神経科学。

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