近年,我が国において独創的な学術研究の推進や先導的分野の開拓の重要性が強く叫ばれており,それを支える創造性豊かで高度な研究者の養成が緊急の課題となっている。また,我が国の学術研究の国際化の進展と,従来の学問分野の枠を越えた学際領域,複合領域の研究の発展にともなって,幅広い視野を持つ国際性豊かな研究者の養成に格段の努力を払わなければならない時期を迎えている。
総合研究大学院大学は,大学共同利用機関との緊密な連係及び協力の下に,その優れた研究機能を活用して,高度で,かつ国際的にも開かれた大学院教育を行い,学術研究の新しい流れに先導的に対応できる幅広い視野を持つ創造性豊かな研究者の養成を目的として,昭和63年10月に開学,平成元年4月から学生の受入れ開始。文化科学研究科,物理科学研究科,高エネルギー加速器科学研究科,複合科学研究科,生命科学研究科,先導科学研究科の6研究科から成る。生命科学研究科は国立遺伝学研究所を基盤とする遺伝学専攻,基礎生物学研究所を基盤とする基礎生物学専攻,それに生理学研究所を基盤とする生理科学専攻の3専攻から構成されている。生理科学専攻の概要は以下のとおりである。
1.教育研究の概要と特色
本専攻では,人体の機能を総合的に研究する研究者の養成を行う。生理科学は,生物科学と共通の基盤を有しつつ,基礎医学の諸科学を統合する中心的な役割を果たし,臨床医学の諸分野とも極めて深い関係を保っている。本専攻では,生理科学の本来の理念に立って,生体の基本構造である分子レベルから,システムとして構成される個体のレベルに至るまで,その機能を多角的に追究し得るよう教育・研究指導を行い,医学及び生命科学全般にわたる広い視野を持たせるよう指導する。
2.複数の課程制度による多様な人材の受入
本専攻は5年一貫制博士課程として,大学を卒業した者及びそれと同等と認められる者,3年次編入として,修士課程修了者及びそれと同等と認められる者(医学,歯学,獣医学の課程卒業者を含む)を受け入れている。5年一貫制については5年以上在学して所定の単位を修得,3年次編入については3年以上在学して,それぞれ必要な研究指導を受けた上,在学中の研究成果をとりまとめた博士論文を提出し,その審査及び試験に合格した者に博士(学術)又は博士(理学)の学位を授与する。なお,別に定めた要件に該当する者については博士論文の内容により博士(医学)の学位を授与する。入学定員は5年一貫制が3名,3年次編入が6名である。入学時期は4月と10月の2回であり,それに合わせて入試も8-9月と1月の2回行っている。また学位審査および授与も9月と3月の2回行われる。
3.入学受入方針(アドミッションポリシー)
3-1.生命科学研究科の理念
生命科学研究科は,生命現象とそれらのメカニズムを分子から個体に至るさまざまなレベルで研究し,生命科学の発展に資する高度な教育研究を行っている。基盤となる大学共同利用機関の研究環境を最大限に生かして,多様な学修歴や経験を有する学生に対応した柔軟な大学院教育を実施し,国際的に通用する広い視野を備えた高度な研究者の養成を目指している。
3-2.生理科学専攻の基本方針
生理科学専攻では,生体の基本ユニットである分子細胞から,ユニットの統合したシステムである個体レベルに至るまで,生体機能とそれらのメカニズムを多角的に追求し得る人材を養成する教育・研究指導を行う。これらを通して,医学,神経科学及び生命科学全般にわたる広い視野と分野を切り拓く先見性を有する,優れた研究者を養成する。
3-3.生理科学専攻の求める学生像
生命科学研究科の理念と生理科学専攻の基本方針を理解してそれに共感し,「深い知性と豊かな感性を備え,広い視野をもった高度な研究者」として育成するのに相応しい学生
3-4.入学者選抜の基本的な考え方
1)入学者選抜は,総合研究大学院大学生命科学研究科の理念や生理科学専攻の基本方針に相応しい入学者を適切に見いだすという観点から行う。
2)学力検査のみならず,入学志願者の個性や資質,意欲等,多様な潜在能力も勘案し,多面的な選抜方法を採用する。
3)学力検査においては,理解力,表現力,思考力,英語力等をみる総合的な試験を実施する。
4.博士論文審査評価基準
生理科学専攻は,生理科学の分野において主体的に研究を遂行する能力を有していると認められる者に学位を与える。主に博士論文によって判定するが,当該分野の発展に寄与するような本質的で新しく高度な研究成果を含む必要がある。具体的には,査読付き学術論文,あるいはそれに相当すると認定される研究を基準とする。併せて,当該分野を俯瞰する深い学識,将来を展望する豊かな構想力,生命現象に対する真摯な態度,研究者としての倫理性も求められる。
5.カリキュラム
5-1.生理科学専門科目
大学院生が分子,細胞,神経回路,個体に至るさまざまなレベルでの生理学,神経科学の基礎知識を系統的に学習するために,生理科学専攻が計画的に設定している専門科目。1年に3つの講義科目を設定して,春(4-7月),秋(9-12月),冬(1-3月)に1つずつ開講している。各講義は9回(1回2時間)程度行われる。3年ですべてのレベルが学習できるよう内容を設定する。5年一貫制課程入学者は受講が義務付けられている。広い視野をもって新しい研究分野を開拓できる研究者になることを期待して生理研が力を入れている授業科目である。
平成20年度(2008年4月~2009年3月)には以下の3つの専門科目の講義が行われた。
・4月~7月 「分子感覚生理学」 富永真琴教授(山手)
・9月~12月 「脳神経系の細胞構築」 重本隆一教授(山手)
・1月~3月 「感覚認知機構論」 小松英彦教授(明大寺)
5-2.生理科学特別講義
毎月1名の講師が専門とする分野の基礎から最新の知識に至るまで,講師自身の研究を含めて解説する。1回2時間程度。生理科学の幅広い知識を吸収してもらうために開設している。
5-3.生理科学研究技術特論
生理科学専攻に入学した大学院生は,入学後の約1ヶ月間は所属研究室以外で研修を行うことが義務付けられており,この研修を単位化したものある。所属研究室以外の研究室で,生理学研究に必要なさまざまな方法論と実験技術について,具体例にもとづいて学習する。所属研究室以外にもネットワークを張り,より豊かな大学院生活を過ごす機会を作るものである。
5-4.生命科学実験演習
所属研究室で行う専門的研究と学位論文の作成。
5-5.生命科学プログレス
大学院で行う研究および研究発表に対して指導教官とそれ以外の教官が助言を行うもの。
5-6.生命科学論文演習
最新の生命科学論文の紹介,解説,議論を通じて,最新の生理学の知識を修得すると共に論文の理解力を身につける。各研究室で教官の指導のもとに行われる文献紹介セミナー,ジャーナルクラブなどが相当する。
5-7.生命科学セミナー
生命科学の最先端研究を直接当該研究者から学ぶ。生理研では年間50回程度の所内外の研究者によるセミナーが開かれている。また年間20回程度の研究会が行われている。これらのセミナーや研究会に出席し,最先端の知識を習得すると共に,研究者本人と直接議論して論文や本では得られない機会を与える。
5-8.共通専門科目
生命科学と社会,神経科学,発生生物学,分子生物学が生命科学研究科の共通専門科目としてe-ラーニング形式で開講されている。
5-9.英語教育
総研大特定教育研究経費の支援を受けて,外国人英語教師による口頭表現のトレーニングを行っており,英語による発表や討論の力を身につけることができる。
6.年間行事
6-1.研究発表会
毎年12月に大学院生によるポスター発表会を行う。D2とD4の学生は発表が義務付けられている。指導教員以外の多くの教員や大学院生からコメントをもらって研究の発展に役立てるプログレスの重要な契機であると共に,発表練習の場ともなっている。
6-2.生命科学合同セミナー
総研大特定教育研究経費の支援を受けて毎年秋から冬に2~3日間行われる行事で,生命科学研究科3専攻と先導科学研究科生命共生体進化学専攻が合同でセミナーを行う。学生や教員による研究発表や講演,外部講師による講演が行われる。地理的に離れた場所に存在する生命科学関係の他専攻の人的交流の貴重な機会である。
6-3.博士論文中間発表会
学位を申請する予定の学生が提出予定の研究内容を口頭で発表する公開の発表会で,9月の学位を予定する学生は4月に,3月に予定する学生は10月に発表会で発表しなければならない。あらかじめ決められた審査委員による予備審査の意味を持つと共に,学位論文作成に向けて追加実験や考察を深める機会を与えるものである。
6-4.体験入学
総研大予算の支援を受けて,生理学・神経科学分野に進むことを考えている学部学生を主な対象として,1週間から2ヶ月程度夏季に体験入学を受け入れている。
7.講座および担当教員一覧
生理科学専攻
平成21年4月1日
講 座 |
教育研究指導分野 |
教 授 |
准教授 |
助 教 |
分子生理学 |
分子生理学 |
久保 義弘 池中 一裕 永山 國昭
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村上 政隆 等 誠司 立山 充博
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大橋 正人 中條 浩一 片岡 正典 Danev,Radostin Stoyanov 田中 謙二
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細胞生理学 |
細胞生理学 |
岡田 泰伸 富永 真琴 深田 正紀
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有井 達夫 木村 透 根本 知己 深田 優子 山中 章弘
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古家 園子 松田 尚人 樫原 康博 柴崎 貢志
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情報生理学 |
情報生理学 |
小松 英彦 井本 敬二 吉村 由美子
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伊藤 南 東島 眞一 小泉 周 古江 秀昌
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山肩 葉子 佐竹 伸一郎 久木田 文夫 森 琢磨 郷田 直一 鯉田 孝和
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統合生理学 |
統合生理学 |
柿木 隆介 南部 篤
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金桶 吉起 逵本 徹
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乾 幸二 橘 吉寿 畑中 伸彦 知見 聡美
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大脳生理学 |
大脳生理学 |
重本 隆一 川口 泰雄 定藤 規弘
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窪田 芳之 田渕 克彦
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深澤 有吾 大塚 岳 田邊 宏樹 松井 広 森島 美絵子 北田 亮
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発達生理学 |
発達生理学 |
伊佐 正 鍋倉 淳一 箕越 靖彦
|
平林 真澄 石橋 仁
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関 和彦 志内 哲也 吉田 正俊 岡本 士毅 毛利 達磨 冨田 江一 金田 勝幸
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8. 生理科学専攻大学院学生(平成21年度在学生)
入学年度 |
氏 名 |
研 究 課 題 |
平成16年度 |
平 井 康 治 |
大脳皮質局所神経回路の解析 |
平成17年度 |
石 井 裕 |
イオンチャネル,受容体の動的構造機能連関 |
〃 |
稲 田 浩 之 |
神経回路機能の発達可塑性と制御機構 |
〃 |
牛 丸 弥 香 |
大脳皮質神経細胞の発火パターン解析 |
〃 |
浦 川 智 和 |
イメージング手法を用いたヒトの脳機能の研究 |
〃 |
佐 藤 千 恵 |
ゼブラフィッシュにおける神経発生の解析 |
〃 |
進 藤 誠 悟 |
視聴覚情報の複雑性や密度が脳に与える影響について |
〃 |
原 田 卓 弥 |
大脳皮質における視知覚の神経機構の研究 |
10月入学 |
坂 野 拓 |
視覚の神経機構の電気生理学的解析 |
平成18年度 |
飯 島 寛 文 |
生物電子顕微鏡用の光電子銃の開発 |
〃 |
高 浦 加 奈 |
ニホンザル盲視モデルにおける視覚運動変換機能の神経生理学的検討 |
〃 |
戸 田 知 得 |
視床下部によるインスリン感受性調節機構の解明 |
〃 |
松 下 真 一 |
膜機能素子の分子間相互作用に関する研究 |
〃 |
松 下 雄 一 |
脳の高次機能に対する成体脳神経新生の役割 |
平成18年度 |
宮 崎 貴 浩 |
脳磁図を用いた高次認知機能の研究 |
〃 |
岡 さち子 |
脳磁場計測によるヒト視覚認知の解明 |
〃 |
佐々木 章 宏 |
異種感覚の情報処理と身体認識の関係について |
〃 |
佐 藤 かお理 |
脳の浸透圧受容ニューロンにおけるイオンチャネルの研究 |
〃 |
髙 原 大 輔 |
サル運動前野における行動と機能の解明 |
〃 |
中 川 直 |
視床を介する感覚情報処理機構の研究 |
〃 |
林 正 道 |
機能的MRIを用いた脳機能局在に関する研究 |
〃 |
山 口 純 弥 |
発達期における神経回路の再編成機構の解明 |
10月入学 |
藤 井 猛 |
FMRIによる高次脳機能の神経基盤の解明 |
〃 |
谷 中 久 和 |
ヒトにおける反応抑制の神経基盤 |
〃 |
KECELI, Mehmet Batu |
Molecular biophysical analysis of P2X2 channel towards the molecular mechanisms of the expression density dependent changes |
〃 |
KUMAR, Akhilesh |
神経発生過程における糖鎖の生理的意義 |
平成19年度 |
綾 部 友 亮 |
脳磁場計測による視覚的注意の研究 |
〃 |
内 田 邦 敏 |
温度感受性チャネルによる温度受容の分子機構の解明 |
〃 |
大 鶴 直 史 |
痛みの脳内機構 |
〃 |
竹 内 雄 一 |
視床-大脳皮質を介する体性感覚処理機構の解析 |
〃 |
山 代 幸 哉 |
体性感覚刺激に対する脳内機構 |
〃 |
大 和 麻 耶 |
肝臓における糖・脂質代謝メカニズムの解明 |
〃 |
臼 井 紀 好 |
神経幹細胞の発生及び分化における分子機構 |
〃 |
清 水 崇 弘 |
グリア細胞の発生・分化と神経細胞の移動・軸策ガイダンス |
〃 |
西 尾 亜希子 |
視知覚の神経メカニズムの解析 |
10月入学 |
平 尾 顕 三 |
発達期における神経回路の再編成機構 |
〃 |
AZIZ, Wajeeha |
Finding a key molecule required for the stabilization of long term memory in motor learning, using mutant mice. |
〃 |
PARAJULI, Laxmi Kumar |
Investigation of calcium channel localization in the brain |
〃 |
ZHOU, Yiming |
TRPV1,TRPA1の機能連関の侵害刺激需要における意義の解明 |
平成20年度 |
石 野 雄 吾 |
Bre1遺伝子に関する幹細胞維持機構の解析 |
〃 |
加 塩 麻紀子 |
温度感受性受容体の生理機能に関する研究 |
〃 |
常 松 友 美 |
オレキシンニューロンによる睡眠覚醒調節メカニズムの解明 |
〃 |
岡 澤 剛 起 |
霊長類の脳内視覚情報処理の生理学的研究 |
〃 |
岡 本 悠 子 |
fMRIを用いた模倣されるときの神経基盤の研究 |
〃 |
上 條 真 弘 |
中枢神経系によるエネルギー代謝機構 |
〃 |
髙 山 靖 規 |
視床下部に発現するTRPV4を介した体温調節の分子メカニズムの解明 |
〃 |
吉 田 優美子 |
機能的MRIを用いた社会的認知能力の神経基盤の解明 |
10月入学 |
奥 慎 一 郎 |
ラットもしくはマウス脳組織から新規のシナプス膜蛋白質複合体を精製し,質量分析法にて同定する。同定した蛋白質の機能を初代培養神経細胞系,スライス培養系さらにはマウス個体で明らかにしていく。 |
〃 |
牧 田 快 |
機能的MRIを用いた第二言語習得時の脳機能解明 |
〃 |
中 畑 義 久 |
発達期における神経回路の再編成機構(の研究) |
〃 |
DWI WAHYU, Indriati |
Using Electron microscopy method, we want to analyze Synapse size and shape from CA3 hippocampus in iv mouse |
〃 |
BUDISANTOSO, Timotheus |
Morphological and physiological factors contributing to the plastic change in the efficacy of synaptic transmission. |
平成21年度 |
唐 麗 君 |
脂肪組織の代謝ならびにサイトカイン産生に及ぼす視床下部調節機構の解明 |
〃 |
杉 尾 翔 太 |
グリア細胞の機能解析 |
〃 |
横 田 繁 史 |
AMPKおよびAMPKファミリーによるミトコンドリア機能調節機構の解明 |
〃 |
松 本 恵理子 |
TRP受容体におけるサイトカイン類の関与 |
〃 |
宮 本 愛喜子 |
発達期における神経回路の再編成機構の解明 |
〃 |
波 間 智 行 |
視知覚のメカニズムに関する研究 |
〃 |
金 子 将 成 |
(未定) |
※ 平成21年4月現在
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