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脳機能計測・支援センター

概要

20年度から,脳機能計測センターが脳機能計測・支援センターに改組された。センターは形態情報解析室,生体情報機能解析室,多光子顕微鏡室,電子顕微鏡室,機器研究試作室,伊根実験室の6室より構成される。以前に比し,機能情報解析室のネットワーク管理部門がネットワーク管理室として情報処理・発信センターに移った。また,生体情報解析室が多光子顕微鏡室と改名され,新たに電子顕微鏡室,機器研究試作室,伊根実験室の3室が加わった。この改組により,本センターは多分野における脳機能計測を支援するセンターとしての機能を一層深めることになった。

脳研究は自然科学研究の中で最もホットなトピックスの1つとして,世界的に関心が高まっており,研究の進展はまさに日進月歩である。もちろん,日本における近年の研究の進歩にも著しいものがある。生理研の研究者のほとんどが何らかの形で脳研究に関連していると考えられ,生理研は理研と並んで日本における脳研究の拠点の1つと位置づけられている。本センターの活動の一層の充実が,生理研における脳研究の進展の大きな支えとなることを目指して活動を続けている。

センター長 (併任)
教 授  鍋 倉 淳 一  NABEKURA, Junichi



形態情報解析室


脳機能を脳神経系の微細構造や神経結合から研究することを目的としている。設備としては超高圧電子顕微鏡(H-1250M型:常用加速電圧1,000kV)を備えている。本装置は医学・生物学専用としては国内唯一の超高圧電子顕微鏡であり,常に技術的改良が加えられると共に,画像解析方法や観察方法に関しても開発が行われている。この装置を用いた全国共同利用実験が行われている。この共同利用実験は(I)生体微細構造の三次元解析,(II)生物試料の高分解能観察,(III)生物試料の自然状態における観察の三課題を主な柱としている。

またよりマクロなレベルの形態研究用として,各種の細胞の初代培養や継代培養,脳スライスの培養,モノクロナール抗体の作成を行える設備および凍結切片やパラフィン切片等の標本作成用設備を備えている。これらの試料を観察するためにビデオ観察も行える各種の光学顕微鏡設備を備えている。


医学生物学用超高圧電子顕微鏡
医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型: 常用加速電圧 1,000kV)
ゴルジ染色したラット小脳におけるバーグマングリアの突起ステレオ像
ゴルジ染色したラット小脳におけるバーグマングリアの突起
ステレオ像(±8º 傾斜,加速電圧1,000kVにて撮影)。試料膜厚: 3mm。スケールの長さ: 2mm。


職  員

有井 達夫 准教授  有 井 達 夫  ARII, Tatsuo
東北大学理学部卒,名古屋大学大学院理学研究科修士課程修了,同工学研究科博士課程修了,工学博士。レーゲンスブルク大学助手,名古屋大学助手を経て昭和54年10月から現職。
専攻:電子顕微鏡学。
古家 園子 助 教  古 家 園 子  FURUYA, Sonoko
東京大学薬学部卒,同大学院博士課程修了,薬学博士。日本医科大学助手を経て昭和53年3月から現職。
専攻:培養細胞の形態生理学。

生体機能情報解析室


思考,判断,意志などを司る脳のしくみを明らかにするには,ヒトの脳を研究する必要があり,近年発達した非侵襲的な脳機能検査法が有用である。しかしそれらによる情報だけでは不十分であり,脳活動を直接的に記録あるいは操作できる動物実験を行うことも必要不可欠である。このような観点から,サルの研究とヒトの研究を相互に関連させながら進めている。研究手法としては,大脳皮質電位の直接記録法,PET(陽電子断層撮影法),脳磁図などを併用している。「注意集中」の神経機構について研究中。

図1
図1 注意・意欲・判断に関係する脳活動
レバーを動かしてほうびを得る課題をサルに学習させた。ただし6秒以上の間隔をあける必要があり,早すぎるとほうびは出ない。大脳皮質に入れた電極から脳活動を記録すると,レバー運動の前後に4-7 Hzの電気的活動が出現することがわかった。成功時(ほうび有り)と失敗時(ほうび無し)ではこの脳活動の出現のしかたが異なる。


図2
図2 図1から4-7 Hzの脳活動を抽出した。この脳活動は「待つわ,動こう!,わーい,がっかり」などの心の変化に関係すると考えられる。


図3
図3 図2と同様の脳活動が記録できた場所には▲◆●を,記録できなかった場所には△◇○をつけた(3頭の集計)。▲◆●の場所は,別の実験で調べた「やる気」に関係している領域(色で表示)と一致する。(この領域は前頭前野9野と前帯状野32野である。)
[結論] 大脳皮質のこの領域の4-7Hzの脳活動は,注意・意欲・判断と関係が深いと考えられる。


職  員

逵本 徹 准教授  逵 本  徹  TSUJIMOTO, Toru
京都大学医学部卒,同大学院医学研究科博士課程修了,博士(医学)。彦根市立病院内科医長,生理学研究所助手,京都大学医学研究科助手を経て平成11年4月から現職。
専攻:脳生理学。

多光子顕微鏡室


世界で最も優れた性能の2光子顕微鏡を開発し,提供する日本唯一のバイオイメージングのための共同利用拠点である。新たな「光・脳科学」「光・生命科学」領域を切り拓いている。特に,神経活動,分泌,生体防御などの生命活動に欠くことのできない生理機能や分化発生過程について研究を推進している。

超短光パルスレーザーやベクトルレーザー等の最先端の光学技術に加え,新規蛍光タンパク質,電気生理学,光機能性分子などの技術を縦横に活用し,独自に,生きた個体,生体組織でのin vivoイメージング超解像イメージングに成功している。特に,シナプスや分泌腺細胞の分泌機能=開口放出・溶液輸送の分子機構について「逐次開口放出」といった生理学上の新概念の提出に成功している(図1-3)。

本室の使命は,光の持つ高い時空間分解能と低侵襲性を用いて生きた個体,生体組織での,「光による観察」と「光による操作」を同時に実現した新しい機能イメージングを創出することにある。最終的には,生体や組織の機能がそれを構成する下部構造の要素である生体分子や細胞群のどのような時間的空間的な相互作用によって実現されているか,生命機能の統合的な理解を目指す。



図1

図1. 生きているマウスの大脳皮質のEYFP発現神経細胞群の3次元再構築。我々の新たに開発した“in vivo” 2光子顕微鏡法は世界で最も優れたもののひとつである。その優れた深部到達性は生体深部の微細な細胞の形態や活動を観察することを可能とする。マウス個体を生かしたまま,空間分解能を損なうことなく大脳表面から1mm以上の深部の断層像が取得でき,生きた大脳皮質全体を可視化する。



図2

図2. 多光子励起とは,フェムト秒の近赤外レーザーパルス光を対物レンズで集光することにより,1個の分子が同時に,複数個の光子を吸収し第一電子励起状態へ遷移する現象である(A)。多光子吸収は焦点でしか起きないので,焦点以外での無駄な吸収が無い上(B),深部到達性が高く,レーザーを走査することで断層像が取得できる。従って,生体臓器標本における分子・細胞機構を調べるのに最善の方法論である。多光子励起を用いた顕微鏡法(2光子顕微鏡)は,医・生物学に応用されてからまだ間がなく,その可能性の一部しかまだ使われていないことも魅力の一つである。今後,2光子顕微鏡はその高い定量性と空間解像によって,微小電極やパッチクランプ法と肩を並べる方法論になると我々は考える。



図3

図3. 「逐次開口放出」の発見。2光子顕微鏡を用いた開口放出の定量的測定法を確立した。この方法論は,観察する平面内のすべての開口放出を検出し,融合細孔の動態をナノメーター(1-20nm)の解像で測定でき,また,すべての分泌臓器に適用可能である。この手法を用いることにより,小胞の動員が逐次的に細胞内に進む様式があることが明らかとなった。この様式は様々な細胞,組織で確認されており,極めて一般性が高い。


職  員

鍋倉 淳一 教 授 (併任)  鍋 倉 淳 一  NABEKURA, Junichi
九州大学医学部卒,医学博士,東北大学医学部助手,秋田大学医学部助教授,九州大学医学研究院助教授を経て,平成15年11月から生理研教授。
専攻:神経生理学,発達生理学。
根本 知己 准教授  根 本 知 己  NEMOTO, Tomomi
東京大学理学部物理学科卒,東京工業大学大学院博士課程修了,博士(理学)。理化学研究所フロンティア研究員,基礎科学特別研究員の後,東京大学医学部生理学教室日本学術振興会研究員,生理学研究所助手,科学技術振興機構さきがけ研究21研究員(兼任)を経,平成18年1月から現職。
専攻:細胞生理学,生物物理学。
日比 輝正 研究員  日 比 輝 正  HIBI, Terumasa
名古屋市立大学薬学部製薬学科卒,同大大学院博士課程修了,博士(薬学)。平成21年4月から現職。
専攻:分子細胞生物学,生物物理学。

電子顕微鏡室



機器研究試作室



 

伊根実験室


〒626-0424
京都府与謝郡伊根町字亀島小字向カルビ道ノ下1092番地2
電話 0772-32-3013 IP電話 050-3040-9780


脳機能計測・支援センター伊根実験室は,生理学研究所の付属施設として京都府与謝郡伊根町に昭和61年に開設された。海生生物を用いた生理学の研究を目的とした臨海実験室として,世界的にもユニークな施設である。これまでヤリイカを中心としたイカ類を用いた神経生理学の研究で有名である。現在,ゲノム解析がされた尾索動物や動物性プランクトンの生理学実験にも活用されている。生理学研究所の研究者を窓口として施設の利用が可能である(ホームページhttp://www.nips.ac.jp/ine/)。実験室は風光に恵まれた若狭湾国定公園と山陰海岸国立公園の境目の丹後半島北西端に位置する。宮津天橋立方面を望む実験室は伊根湾外湾に面し,水質の良い海水に恵まれており,実験室前の海は豊かな漁場となっている。四季を通じて豊富な日本海の海産動物を入手することができ,ヒトデ,ウニ,オタマボヤ,プランクトンなどの採集に適している。実験室は舟屋で有名な伊根町亀島(旧伊根村)の集落から800m程離れており,静かな環境に恵まれ,落ち着いた雰囲気で研究に専念できる。実験室には1階に水槽室,浴室,台所,居室,電気室,2階に電気生理実験室及び準備室,工作室,寝室などが設けられている。


伊根実験室
伊根実験室(京都府与謝郡伊根町)


職  員

久木田 文夫 助 教(併任)  久木田 文 夫  KUKITA, Fumio
東京大学理学部物理学科卒,同大学院博士課程修了,理学博士。昭和52年12月から現職。
専攻:神経の生物物理学,神経生理学。

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