生理学研究所要覧
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巻 頭 言

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生理学研究所は,「ヒトのからだ,とりわけ脳の働きを,大学と共同で研究し,若手生理科学研究者の育成をしている研究機関」です。人々が健康な生活を送るための科学的指針や,病気の発症のメカニズムを解明するための基礎となるような科学的情報は,ヒトのからだの働きとその仕組みを研究する人体基礎生理学によって与えられます。その人体基礎生理学の研究・教育のための唯一の大学共同利用機関が生理学研究所であります。ヒトを「考える葦」としてヒトたらしめているのはよく発達した脳であります。また,脳・神経系は全身の臓器や組織の働きと相互関係を結びながら,それらを統御したり,調節したりする役割も果しています。それゆえ,生理学研究所は現在の研究対象の中心に,脳・神経系を据えております。

生理学研究所は,分子から細胞,組織,器官,そしてシステム,個体にわたる各レベルにおいて先導的な研究を行うと共に,それらの各レベルにおける研究成果を有機的に統合して,生体の機能とそのメカニズムを解明することを第1の使命としています。生命科学は,近年ますますそのレベルを高度化し,その内容を多様化しています。その中で,生理学研究所は,生理学とその関連領域の研究者コミュニティの力強いご支援とご支持のもとに,生理学・脳神経科学の分野で常に国際的にトップレベル(例えば2004−2008年ISI論文引用度指数:総合第3位,神経科学第2位)の研究を展開してまいることができました。

生理学研究所は,大学共同利用機関法人自然科学研究機構の1機関として,全国の国公私立大学をはじめとする国内外の研究機関との間で共同研究を推進すると共に,配備されている最先端研究施設・設備・データベース・研究手法・会議用施設等を全国的な共同利用に供することを第2の使命としています。その結果,生理学研究所では毎年,多種・多様な「共同研究」,「共同利用実験」,「研究会」,「国際シンポジウム」が持たれ,毎日のように国内外から多数(招聘参加者年間約1000人)の研究者に滞在いただいております。一昨年度から,国の特別教育研究経費のサポートを得て「多次元共同脳科学推進センター」が新設され,全国の多数の脳科学研究者の協力によって,脳科学の異分野連携的な共同研究を推進する事業を開始いたしました。昨年度からは,ここに「流動連携研究室」を新設し,国内の脳科学者が客員教授又は客員准教授としてサバティカル的に3~12ヶ月間滞在して,共同利用研究を密に行うための受け皿も用意しました。そして、本年度から「行動・代謝分子解析センター」に遺伝子改変動物の代謝・生理機能を網羅的に解析する「代謝生理解析室」を新設しました。

生理学研究所は,大学院生や若手研究者を国際的な生理科学研究者へと育成すること,そして全国の大学,研究機関へと人材供給することを第3の使命としています。総合研究大学院大学では生命科学研究科生理科学専攻を担当しており,5年一貫制の教育により毎年数十名の大学院生を指導しています。また,他大学の多数の大学院生も受託によって指導しています。更には,トレーニングコースやレクチャーコースなどの開催によって,全国の学生や若手研究者の育成に貢献しています。「多次元共同脳科学推進センター」は,全国の若手脳科学研究者の育成を異分野連携的に推進する場も提供しています。

生理学研究所は,これらの3つのミッションに加え,学術情報の発信や広報活動にも力をいれています。ホームページを充実させ,人体の働きとその仕組みについての初・中・高等学校教育へのパートナー活動や,市民講座の開催や研究所一般公開などを通じて,コミュニティの研究者ばかりでなく,広く国民の皆様や子供達との交流も深めてまいりたいと考えております。これによって,未来の若手研究者の発掘と育成にも寄与できるものと期待しております。

生理学研究所は,その成果や取り組みを,毎年発刊している「生理学研究所要覧」や「生理学研究所年報」ばかりではなく,毎週のように更新している生理研ホームページ(http://www.nips.ac.jp/)や隔月刊の「せいりけんニュース」によって広く紹介をさせていただいておりますので御高覧いただければありがたく存じます。また,市民の皆様に生理学研究所の活動を見ていただけるように「広報展示室」を開設いたしておりますので,是非とも見学にお越しいただければ幸いに存じます(お問い合わせはpub-adm@nips.ac.jpまで)。

引き続き,皆様方の,生理学研究所へのご理解とご支援を誠心よりお願い申し上げます。

生理学研究所所長 岡田 泰伸
OKADA,Yasunobu

岡田 泰伸:医学博士。京都大学医学部卒業。京都大学医学部助手,京都大学医学部講師,生理学研究所教授,総合研究大学院大学教授(併任),総合研究大学院大学生命科学研究科長,生理学研究所副所長を歴任し,2007年4月1日から生理学研究所長,自然科学研究機構副機構長,2010年4月1日から自然科学研究機構理事となる。
専攻:分子細胞生理学,細胞死の生理学

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