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総合バイオサイエンスセンター

【概要】
 生体内において細胞は,細胞自身の置かれている環境に対して応答反応を起こしながら環境に適応している。細胞は,平常と異なる浸透圧条件下に置かれた時,膨張や収縮を起こした後に次第に元の体積へと回復していく。この現象も細胞における環境適応現象の1つといえる。低浸透圧条件下において,細胞が一旦膨張した後に元の体積へと回復していく細胞体積調節メカニズムについては,細胞膨張時に活性化されるイオンチャネルの研究を中心として明らかにされてきた。また,細胞膨張時にはイオンチャネル開口によるK+やCl-のイオン流が発生するばかりでなく,種々のアミノ酸を始めとして,様々な細胞内分子が細胞外へ放出されることが知られている。これら放出された分子は,放出した細胞あるいは周囲の細胞に対して,細胞外から作用を及ぼすことになる。細胞膨張時に活性化されるイオンチャネルの研究に比して,他の分子の放出機構については,未だ研究が進んでいない。また,細胞膨張は,細胞外の低浸透圧条件下のみならず,例えば低酸素条件や細胞障害時にも起こることが知られていて,その様な条件下でも種々の細胞内分子は細胞から放出され,周囲の細胞に影響を及ぼす。本部門では,細胞膨張時に放出されるアミノ酸の中でも特にグルタミン酸に着目してグルタミン酸の放出経路の同定を目指している。

細胞膨張性グルタミン酸放出機構

挾間章博

 細胞に低浸透圧刺激を加えると速やかに膨張するが,その際に種々のアミノ酸の放出が起こることは既に知られているが,それらの分子の膜透過経路については不明である。現在,低浸透圧性膨張に伴うグルタミン酸放出経路の同定を目指している。まず,グルタミン酸脱水素酵素とNADに対する発色基質を用いて,グルタミン酸をプレートリーダを用いて容易かつ迅速に測定できるシステムを確立した。このシステムを用いて,グリオーマ細胞株C6に低浸透圧刺激を与えると,細胞外液のグルタミン酸は刺激前の数μMから,10μM以上にまで増大することが観察された。このグルタミン酸放出はCl-チャネルの阻害剤を加えても抑制されず,低浸透圧性ATP放出を抑制することが知られているGd3+を加えても抑制されなかった。これらの結果から,C6より放出されるグルタミン酸は,Cl-チャネルでもなくATP透過路とも別の透過経路より細胞外に放出されることが示唆された。


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