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2. イオンチャネルの細胞局在化と機能制御に関する研究

2000年8月17日−8月18日
代表・世話人:倉智嘉久(大阪大学医学系研究科情報薬理)
所内対応者:井本敬二(液性情報)

(1)
Paracellular pathwayにおける物質輸送を制御する分子機構:
タイトジャンクションを構成する膜タンパク質クローディンファミリー
古瀬幹夫,片平じゅん,堀口安彦,月田承一郎
京都大学大学院医学研究科,大阪大学微生物病研究所)
(2)
内向き整流性K+channel, Kir4.1の細胞内局在の多様性と細胞機能
藤田秋一1, 2,東佳代子1,種本雅之1,稲野辺厚1,倉智嘉久1
1大阪大学医学系研究科情報薬理,2大阪府立大学農学部獣医薬理)
(3)
Ca2+チャネル活性化機構における極在化と輸送
森泰生(生理学研究所)
(4)
ClC-3クロライドチャネルの神経細胞分化の過程における細胞内局在化
河崎雅暢1,水谷顕洋2,御子柴克彦2,山内小津枝1,新保 斎1,3,佐々木成1,丸茂文昭1
1東京医科歯科大学医学部第2内科,2医科学研究所化学科,3理学研究所神経病院科)
(5)
異物排除におけるMRPトランスポーターファミリーの役割
杉山雄一(東京大学大学院薬学系研究科・製剤設計)
(6)
Na+-非依存性アミノ酸トランスポーターファミリー(SLC7)のトランスポーターの
細胞膜移行における1回膜貫通型糖タンパク質の役割
金井好克(杏林大学医学部・薬理学,科学技術振興事業団さきがけ研究21)
(7)
NMDA受容体の集積に関わる神経シナプス裏打ち蛋白質S-SCAM
畑 裕(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・病態代謝解析学)
(8)
三量体G蛋白質(Gβγ)-感受性PI3-キナーゼに結合する活性型Rab5と小胞のベクトル輸送
黒須 洋,紺谷圏二,堅田利明
(東京大学大学院薬学系研究科・生理化学)
(9)
mitsugumin29と骨格筋興奮収縮連関
竹島 浩(久留米大学・分子生命研究所・細胞工学研究部門)
(10)
胃プロトンポンプのサブユニット構造
竹口紀晃,浅野真司,木村 徹,森井孫俊,鈴木秀博
(富山医科薬科大学薬学部)
(11)
チャネル蛋白相互作用の分子構造基盤
中村春木(大阪大学蛋白質研究所)
(12)
2光子励起法を用いた新しい細胞機能の可視化
根本知己,河西春郎(生理学研究所)
(13)
核包標本からのイオンチャネルと細胞機能
丸山芳夫,大佐賀敦,佐藤功造,大城社子
(東北大学大学院大学医学研究科・細胞生理学)
(14)
神経因性疼痛とイオンチャネル発現制御
田邊 勉(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・高次機能薬理学)

【参加者名】
 倉智嘉久(大阪大医),丸山芳夫,大城社子(東北大医),金井好克(杏林大学医),杉山雄一,堅田利明,紺谷圏二,黒須洋(東京大薬),畑裕,田邊勉,佐々木成,河崎雅暢(東京医歯大),田辺秀(中外製薬),加藤由充(協和発酵),増田典之(山之内製薬),松山善次郎(岐阜大医),竹口紀晃,浅野真司,酒井秀紀,森井孫俊,田渕圭章,鈴木智之(富山医薬大薬),古瀬幹夫(京都大医),掘口安彦,片平じゅん(大阪大微研),石井優(大阪大医),中村春木(大阪大蛋白研),藤田秋一(大阪府大農),茶珍元彦(日本ベーリンガーインゲルハイム),森豊樹(大塚製薬),竹島浩(久留米大分子生命研),河西春郎,根本知己,赤塚結子,出崎克也,森泰生,大橋正人,重本隆一,馬杉美和子,石井正和,池中一裕,柴田理一,中平健祐,柴崎貢志,中井淳一,原雄二,大倉正道,若森実,森誠之,松本信幸,井本敬二(生理研)

【概要】
 神経細胞や上皮細胞など極性をもった細胞では,イオンチャネルなどの機能分子が各膜ドメインに特異的に局在している。これはシナプスにおける神経伝達や上皮細胞によるイオン・小分子の一方向性輸送など,重要な細胞・組織機能を支える基本的な機構である。最近,世界的には神経細胞シナプス後膜におけるグルタミン酸受容体の局在やシナプス伝達強度制御におけるPDZドメインを持つアンカー蛋白の役割が,急速に明らかになってきている。しかしながら,他のイオンチャネルやトランスポーター・膜受容体については,それらの細胞膜ドメインへの局在の分子構築基盤・その制御シグナル機構・細胞機能における役割など,不明な点が多い。本研究会では種々のイオンチャネル・トランスポーター・アンカー蛋白の研究者が集まり,この問題にそれぞれの立場から焦点をあて情報を交換し,この領域が総合的に発展することを目的としている。

(1) Paracellular pathwayにおける物質輸送を制御する分子機構:
タイトジャンクションを構成する膜タンパク質クローディンファミリー

古瀬幹夫,片平じゅん,堀口安彦,月田承一郎
京都大学大学院医学研究科,大阪大学微生物病研究所)

 多細胞動物の体は,上皮細胞のシートによって様々なコンパートメントに分けられており,個々のコンパートメントがそれぞれ特有の環境を維持することが,各器官の機能発現には必須である。apical-basal方向に明瞭な極性をもつ上皮細胞は,細胞上に偏って分布するトランスポーターによって方向性をもった物質輸送を行うことで,細胞シートの両側にそれぞれ特有の環境からなる2つのコンパートメントを形成する。一方で,細胞同士の隙間(paracellular pathway)を介した物質の自由な拡散,いわゆる「漏れ」を制限して,これらの2つの環境が混ざらないように維持することも上皮細胞シートのきわめて重要な役割である。脊椎動物において,この役割を担うのがタイトジャンクション(以下TJ)と呼ばれる細胞間接着装置である。TJは,隣り合う細胞膜が完全に密着したように見える構造で,細胞周囲を取り巻くことによって,上皮細胞シートにおける細胞と細胞の隙間をシールしてparacellular pathwayにおける物質透過を制限している。これまでの形態学および生理学的手法による研究から,TJは完全なバリアではなく,イオン等の小分子を通す開いたり閉じたりする小孔が存在すると考えられること陽イオンを通しやすいこと,TJのバリア機能の特性が上皮の種類に応じて様々であことなどが明らかにされてきた。しかしながら,TJの分子構築,特にバリア構造をつくる膜タンパク質が明らかにされていなかったために,分子レベルでのTJの機能解析はほとんど進んでいなかったと言える。
 私たちはこの問題にアプローチするために,TJを構成する分子の同定を試みてきたが,最近,新しい膜タンパク質「クローディン」の同定に成功してその機能解析を行っている。クローディンはTJに局在する分子量約23 kDの4回貫通型膜タンパク質で,遺伝子ファミリーを形成している。1)本来TJをもたない線維芽細胞にクローディンを強制発現させると,細胞は接着能を獲得し,クローディンは細胞間に濃縮して発達したTJを形成すること,2)特定のクローディンを受容体とするウェルシュ菌の毒素Clostridium perfringens enterotoxinを上皮細胞に投与すると,そのTJが壊れてバリア機能が低下することから,クローディンがTJの構造と機能を直接担う分子であることが明らかになった。また,クローディンファミリーの各タイプは,それぞれ特有の組織発現パターンを示し,多くの器官で一つの上皮細胞に複数のクローディンタイプが発現している。よって各組織の上皮細胞は固有の組み合わせのクローディンファミリーを発現しており,このことが組織の違いによるTJのバリア特性の多様性を生み出す要因となっていると推測される。今後,クローディンの機能解析を進めることによって,paracellular pathwayにおける物質透過の選択性の分子基盤,個体におけるTJバリアの意義が明らかにされてゆくと思われる。

(2) 内向き整流性K+ channel, Kir4.1の細胞内局在の多様性と細胞機能

藤田秋一1, 2,東佳代子1,,種本雅之1,稲野辺厚1,倉智嘉久1
1大阪大学医学系研究科情報薬理,2大阪府立大学農学部獣医薬理)

 膜2回貫通型である内向き整流性K+ channel (Kir) familyは現在までのところ,7つのsubfamilyに分類されている。その内Kir4.1/Kir1.2/KAB-2はグリア細胞および上皮系細胞に分布し,グリア細胞ではK+ siphoningに,上皮細胞ではNa+/K+-ATPaseあるいはH+/K+-ATPaseへのK+ recyclingに関与すると考えられている。
 各組織でのKir4.1の細胞内局在を免疫組織染色法(光学および電子顕微鏡的手法)を用いて検討したところ,ラット脳および網膜では,どちらも血管,神経細胞樹上突起およびシナプス周囲を取り囲むグリア細胞(脳:アストロサイト,網膜:ミュラー細胞)の,またミュラー細胞では水晶体に接する終足に分布していた。いずれも血管周囲および水晶体を取り囲む基底膜または神経細胞膜に接する細胞膜ドメインに限局した局在を示した。これらKir4.1の局在は水チャネルのAQP4 の局在とよく一致することから,Kir4.1がK+ siphoningに,そしてAQP4がそれに伴う水の移動に関与すると考えられる。また,腎臓尿細管および内耳血管条上皮細胞ではKir4.1はbasolateral側に局在するのに対し,同じ上皮細胞である網膜色素上皮細胞,胃の壁細胞ではapical側に局在していた。これら上皮細胞におけるKir4.1の局在は腎臓尿細管,内耳血管条上皮細胞および網膜色素上皮細胞でのNa+/K+-ATPaseの局在と,胃の壁細胞でのH+/K+-ATPaseの局在に一致する。これらのことからKir4.1はNa+/K+-ATPaseおよびH+/K+-ATPaseの活性維持に重要とされるK+ recyclingに関与すると考えられる。
 Kir4.1はそのC末端にPDZドメインが結合するモチーフを持ち,実際にSAP97およびPSD-95がこのモチーフを介して結合することがわかっている。Kir4.1-GFP融合蛋白質をMDCK細胞に発現させたところ,Kir4.1はbasolateral側に局在した。C末端のPDZ結合モチーフ(-SNV)を欠損させたKir4.1(-SNV)-GFP融合蛋白質はbasolateral側には局在がみられず,核周辺の細胞内器官に集積した。このことから,Kir4.1のC末端とPDZドメインを持つアンカー蛋白質が結合することはKir4.1のbasolateral膜への局在に重要な役割を果たすと考えられる。
 上皮細胞でのKir4.1の局在が細胞種により異なることから,局在決定の機構が各細胞種間で異なることが予想されるが,少なくともbasolateral側へのKir4.1の局在決定は,PDZドメインとの結合が重要であると考えられる。またグリア細胞でのKir4.1の局在に関与する機構に関しては現在のところ不明であるが,単離ミュラー細胞においてSAP97とKir4.1のクラスタの局在が一致することから,グリア細胞においてもKir4.1の局在決定にPDZドメインとの結合が重要と考えられる。今後,各細胞種においてKir4.1の局在に関与するアンカー蛋白を同定し,そして腎臓介在細胞でのH+ポンプとCl-/HCO3+交換系の局在のスイチング機構にみられるような上皮細胞におけるKir4.1の局在決定の機構を解明したいと考えている。

(3) Ca2+チャネル活性化機構における極在化と輸送

森 泰生(生理学研究所)

 形質膜越えのカルシウム流入は,最も重要な細胞内カルシウムイオン濃度調節機構の一つである。なかでも,受容体刺激により惹起されるPI応答に連関した,Receptor-activatedcalcium channel (RACC) 群が注目を集めつつあるが,その活性制御機構に関しては未解明な課題が多い。最近我々は,RACC研究に関するいくつかの興味深い知見を得た。
 RACCの分子的実体である7つのTRPは,protein kinase C 非依存的にdiacylglycerolによって活性化されるTRP3,6,7,カルシウムによって活性化されるTRP5,カルシウムストアの枯渇に連関した容量性カルシウム流入を調節するTRP1等,に機能分類される。中でもカルシウムによるTRP5活性制御は,チャネル開口確率の上昇及び,myosin light chain kinase活性による形質膜へのタンパク質組み込みの2つの機序により司られていることがわかってきた。また,TRP1欠損細胞を用いることにより,TRP1が容量性カルシウム流入を担うCa release-activated Ca channelを構成するのみならず,endoplasmic reticulumに存在するIP3受容体をも機能修飾することが示された。さらには,カプサイシン受容体の他に,アラキドン酸により活性化されるカチオンチャネルも加え,TRPは非常に大きなスーパーファミリーを形成していることも明らかになった。
 このように,その活性制御機構が細胞内の位置情報やタンパク質輸送機序と連関していることは,TRP関連チャネルが特定の生体応答に必要なカルシウムシグナルの空間的・時間的パターンを制御する,重要な基盤をなすことを示唆している。

(4) ClC-3クロライドチャネルの神経細胞分化の過程における細胞内局在化

河崎雅暢1,水谷顕洋2,御子柴克彦2,山内小津枝1,新保 斎1,3,佐々木成1,丸茂文昭1
1東京医科歯科大学医学部第2内科,2医科学研究所化学科,3理学研究所神経病院科)

 容量感受性外向き整流性クロライドチャネル(ClC-3)の機能解析を目的として,ClC-3の細胞内領域C末端178アミノ酸のGST融合タンパクを作成し,抗体作成を行った。この抗体により脳においては以前報告したin situ hybridizationと同様,ClC-3は脳内の広い領域にわたり発現していることが明らかになった。最も発現の多い小脳において詳細な観察を行ったところ,ClC-3はPurkinie細胞の樹状突起,特に棘突起に局在することから,ラット海馬神経初代培養細胞を用いて分化の過程におけるClC-3の局在変化及び細胞骨格との関連について調べた。
 神経細胞が未熟な2,3の突起を出した球状の細胞にあるときは,核周囲にClC-3は存在していた。培養開始1週間後,軸索や樹状突起が成長する時期には,ClC-3は細胞体及び樹状突起の膜直下に多く存在するようになった。培養3週間以上経過し,成熟した神経細胞では細胞体や樹状突起にはほとんど存在せず,棘突起に局在した。シナプス関連蛋白に対する抗体を用いた二重染色では,ClC-3はsynaptophysinと対をなし,drebrinと共存しており,ClC-3はシナプス後膜に集積していると考えられた。棘突起のアクチンフィラメントをラトルンクリンAで脱重合させるとdrebrinと同様にClC-3は棘突起から消失した。以上よりClC-3の局在化には棘突起内のアクチンフィラメントが大切であり,シナプス後膜においてClC-3が重要な役割を果たしていることが示唆された。現在,我々はClC-3の棘突起における機能と局在化シグナル領域の検索,アクチンと複合体を形成するであろうClC-3結合蛋白の検索及び樹状突起における膜蛋白輸送系を構成する分子群の検索を行っている。

(5) 異物排除におけるMRPトランスポーターファミリーの役割

杉山雄一(東京大学大学院薬学系研究科・製剤設計)

 生物は,有害な環境物質や薬物などの生体外異物(ゼノバイオティクス)に対し,長い進化の過程で防御機構を備えるに至った考えられる。本発表では,医薬品を含む広範な異物に対して生体が,免疫機構とは異なる防御機構として獲得した排除機構を,主に,分子輸送(トランスポーター)による排除機構と分子変換(代謝酵素)による排除機構という観点から考察してみたい。低分子性異物の排除に関わる代謝酵素や輸送担体に見られる特徴として,これら蛋白が一般的に多くのメンバ−より構成されており,適応進化による多様化の側面を持つことが挙げられる。また細胞の生死に直接関与する蛋白ではないが故に,遺伝子変異のpenetranceが高く,遺伝子多型が多く見られる。これが薬物動態の個体差に反映し,副作用の原因となっていることが幾つかの代謝酵素,輸送担体(トランスポーター)について証明されつつある。肝,腎における胆汁中,尿中排泄は異物の解毒機構として重要であることが旧くから知られてきたが,この 7年ほどの間に排泄機構を支配する実体である輸送担体についての解明が急速に進んだ。例えば,第2相代謝反応の結果生じる各種抱合代謝物の胆汁排泄に関与するトランスポーターの存在,トランスポーターを欠損する遺伝的疾患を持ったヒト,実験動物が発見されるという最近の成果を挙げることができる。こうした解毒機構の持つ多様性,大きな種差,遺伝的多型の存在は,医薬品の安全性の確保を極めて困難にしており,信頼あるヒトでの薬物動態予測法の開発が切望されている現状である。肝臓は種々の異物を血液側から取り込み,肝実質細胞内で代謝し,胆汁中に排泄することにより解毒化する重要な臓器である。これまで多くの医薬品の肝胆系移行が担体輸送によることが証明され,現在では輸送蛋白,遺伝子の同定を目指した研究が世界中で展開されている。我々の研究グループでも,最近,胆管側の有機アニオン輸送体,cMOAT/rMRP2のクローニングを行い,その基質認識特異性を明らかにするとともに,一連の一次性能動輸送担体は,保存性の高いATP binding cassette (ABC) 領域を有すること,類似のトランスポーターが複数存在することなどを明らかにしている。さらにその後,一連のMRP family蛋白が,我々を含め国の内外でクローニングされ,その臓器分布,基質特性の解析から,種々の臓器における異物解毒に関わることが実証されつつある。当日は,その現状について整理する。

(6) Na+-非依存性アミノ酸トランスポーターファミリー(SLC7)のトランスポーターの
細胞膜移行における1回膜貫通型糖タンパク質の役割

金井好克(杏林大学医学部・薬理学,科学技術振興事業団さきがけ研究21)

 細胞への糖やアミノ酸などの親水性栄養物質の輸送は,細胞膜脂質二重層に埋め込まれた膜蛋白質であるトランスポーター(輸送体)を介して行われる。1980年代半ばから,トランスポーター研究の分野にも分子クローニングの手法が導入され,種々のトランスポーターの分子的実体が明らかにされてきたが,アミノ酸輸送系の約半数を形成するNa+-非依存性アミノ酸トランスポーターに関する手掛かりは長い間得られていなかった。われわれは,一群のトランスポーターは複数のサブユニットを必要とし,それが単一因子のみを追跡する従来の方法でのクローニングを困難にしている可能性を考え,アミノ酸トランスポーターの活性化因子(補助サブユニット)と考えられていた細胞表面抗原4F2hc (4F2 heavy chain: CD98)とcDNAライブラリーの共発現を行う発現クローニングを試み,機能発現に4F2hcを必要とする12回膜貫通型のトランスポーター(LAT1: L-type amino acid transporter 1) を単離した。LAT1は,1回膜貫通型の糖タンパク質である4F2hcとジスルフィド結合を介して連結する古典的4F2 light chainに相当するタンパク質であり,4F2hcと共存することにより,Na+-非依存性中性アミノ酸輸送系Lの機能活性を示す。
 LAT1の同定に続き相同配列の探索を行い,LAT1と類似構造を持ち,輸送基質選択性の異なる一群のNa+-非依存性アミノ酸トランスポーターが同定され,Na+-非依存性アミノ酸トランスポーター(SLC7)ファミリーが確立された。このうち,LAT1を含む6種が4F2hcと連結し,残りの1種(BAT1: b0,+-type amino acid transporter 1) は,4F2hcと類似構造を持つ1回膜貫通型タンパク質rBAT(related to b0,+-type amino acid transporter) と連結することが明らかになった。
 4F2hcとrBATは,トランスポーターの細胞膜移行を推進するシャペロン機能を有する補助因子であると考えられ,両者は上皮細胞において興味深い役割分担を示す。すなわち,4F2hcは上皮細胞において側底膜に,rBATは管腔側膜に細胞内輸送され,このため4F2hcと連結するタンパク質は側底膜に,rBATと連結するタンパク質は管腔側膜へと輸送されることになる。従って,上皮細胞におけるアミノ酸トランスポーターの配置は,上皮細胞内の特定の膜ドメイン(管腔側膜あるいは側底膜)にトランスポータータンパク質を輸送するシャペロン機能を持った1回膜貫通型補助因子(rBAT及び4F2hc)と,特定の12回膜貫通型トランスポーターの連結により決定されると考えられる。すなわちこの系は,1回膜貫通型補助因子が細胞膜移行のシグナルを担い,1回膜貫通型補助因子との連結が特異的であることにより,12回膜貫通型トランスポーターが細胞内のどの膜ドメインへ移行するかが運命付けられるという特徴がある。現在われわれは,1回膜貫通型補助因子4F2hcとrBATのキメラ解析を進行させており,その解析により1回膜貫通型補助因子の特定のトランスポータータンパク質認識機序,および1回膜貫通型補助因子に内在すると考えられる膜移行シグナルを明らかにすることができると期待される。

(7) NMDA受容体の集積に関わる神経シナプス裏打ち蛋白質S-SCAM

畑 裕(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・病態代謝解析学)

 リガンド型カルシウムチャネルであるNMDA受容体は,哺乳類の中枢神経の興奮性シナプスの主要な神経伝達物質受容体である。NMDA受容体の一部は,前シナプスに局在することが報告されているが,大多数は後シナプスの後シナプス肥厚部(PSD)に集積している。NMDA受容体のPSDへの集積に重要な役割を果たす分子としては,PSD-95がよく知られている。PSD-95は3つのPDZ領域,1つのSH3領域,1つのグアニル酸キナーゼ領域をもち,これらの蛋白質結合領域を介して,一酸化窒素合成酵素や低分子量G蛋白質の制御因子などシナプス可塑性に関わる分子や細胞骨格と相互作用している。私共は,神経シナプスの裏打ち蛋白質を探索し,PSD-95と類似の分子構造をもつ新規分子S-SCAMを発見している。S-SCAMは6つのPDZ領域,2つのWW領域,1つのグアニル酸キナーゼ領域をもち,PSD局在している。S-SCAMはC末端のPDZ領域を介してNMDA受容体のサブユニットに結合し,また,C末端の2つのPDZ領域を介してホモダイマーを形成する。この他,S-SCAMは,細胞接着因子や,MAPキナーゼのシグナル伝達系に関与する分子を結合し,さらに,PSD-95とも相互作用している。したがって,S-SCAMはPSD-95と共に,NMDA受容体の集積に関わり,NMDA受容体に細胞骨格の裏打ちを与え,NMDA受容体を介するシグナル伝達に関与していると想定される。

(8) 三量体G蛋白質(Gβγ)-感受性PI3-キナーゼに結合する活性型Rab5と小胞のベクトル輸送

黒須 洋,紺谷圏二,堅田利明(東京大学大学院薬学系研究科・生理化学)

 イノシトールリン脂質(PI)の3位水酸基をリン酸化する脂質キナーゼである2量体型PI 3-キナーゼ(p110/p85)は,p85調節サブユニットに存在するSH2領域を介して,チロシンリン酸化された増殖因子受容体あるいはアダプター蛋白質と結合し,p110触媒サブユニットのキナーゼが活性化される。我々は先に,p110触媒サブユニットがβサブタイプからなる2量体型PI 3-キナーゼp110β/p85 が,p110α/p85サブタイプとは異なり,チロシンキナーゼ型とG蛋白質共役(GPCR)型の2種の異なる受容体の共刺激によって,相乗的に活性化されることを報告した。このユニークな特性を示す p110β/p85 PI 3-キナーゼについてさらに検討を加え,以下に示す知見を得た。
 1)非受容体チロシンキナーゼによってリン酸化され,p110β/p85と結合する新規アダプター分子として 100-kDa 蛋白質を見出した。このアダプター蛋白質は,Tyr残基に加えて,GPCR刺激によってさらにSer/Thr残基がリン酸化された。2) p85に存在する2つのSH2ドメインの内部配列をp110βのN末端側に付加して,構成的に活性化型のPI 3-キナーゼを作製し,それと相互作用する分子を酵母のtwo-hybrid系を用いて検索した。その結果,低分子量GTP結合蛋白質のRab5をp110β結合分子として同定した。p110βと低分子量GTP結合蛋白質との結合は,GTP結合型のRab5に特異的であり,GDP結合型のRab5及びRabファミリーの他のメンバーとは結合しなかった。また,p110αとRab5との結合は認められなかった。3)PKB/AktはPI 3-キナーゼの産生物であるPIP3によって活性化されるが,インスリン刺激で上昇する PKB/Aktの活性化は,活性化型Rab5(S29V, Q79L)の遺伝子導入により増強され,不活性化型Rab5(S34N)によって抑制された。4)活性化型Rab5と相互作用する分子を,さらにtwo-hybrid系を用いて検索し,SH2ドメインをもつ新規分子を同定した。共焦点レーザー顕微鏡による解析から,このRab5結合蛋白質は細胞内の小胞に局在化しており,クラスリン被覆小胞から初期エンドソームへの輸送において,Rab5のエフェクターとして融合装置に果たす役割が期待される。

(9) mitsugumin29と骨格筋興奮収縮連関

竹島 浩(久留米大学・分子生命研究所・細胞工学研究部門)

 骨格筋においては,細胞表層膜上のジヒドロピリジン受容体と細胞内Ca2+ストアである筋小胞体膜上のリアノジン受容体が蛋白-蛋白相互作用による機能的なカップリングを行うことで,脱分極シグナルを筋小胞体Ca2+放出による細胞質のCa2+濃度上昇変換すると考えられる。この骨格筋のシグナル変換は表層膜と筋小胞体膜が近接構造を形成する三つ組構造中で起こり,両受容体はそこに局在する。我々の以前の実験結果から,ジヒドロピリジン受容体ととリアノジン受容体が機能的なカップリングをするためには表層膜と筋小胞体膜の近接構造が必要であり,両受容体はその形成に寄与しないことが示された。しかしながら,三つ組構造構築の分子機構やその構造のCa2+シグナリングへの寄与はまったく不明である。
 最近我々は,mitsugumin29と名付けた新規膜蛋白質を骨格筋三つ組構造中に見い出した。本発表においては,その構造的特徴,三つ組構造の膜構築に対する役割,その欠損によるCa2+シグナリングの異常について紹介する。

(10) 胃プロトンポンプのサブユニット構造

竹口紀晃,浅野真司,木村 徹,森井孫俊,鈴木秀博(富山医科薬科大学薬学部)

 胃酸分泌細胞は,細胞の管腔側に酸(H+)を,漿膜側にアルカリ(OH- + CO2→ HCO3-)を分泌する。酸分泌開始シグナルにより,細胞内オルガネラの再配置がおき,管腔側細胞膜表面積が数倍増加するという細胞形態の変化がおきる。胃プロトンポンプ(H+,K+ -ATPase)は胃酸分泌を最終的につかさどる。このポンプは分泌停止状態では,細胞内の細管小胞に存在する。酸分泌刺激により,細管小胞間に細い連結管(neckという)が形成され,その連結された細管小胞の一端は管腔側細胞膜と融合する。ポンプは活性化し,管腔内に酸を分泌する。酸分泌中,細管小胞は絶えず融合・脱融合を繰り返し,働いているポンプと休んでいるポンプの交代がおきる。ポンプ分子は膜を10回貫通するαサブユニット(1033個のアミノ酸からなる)と,膜を1回貫通し,細胞外ドメインに糖鎖を有するβサブユニットからなる(291個のアミノ酸)。
 我々は,A) プロトンポンプのイオン認識・輸送機序を分子レベルで解明すること,B) 細管小胞の管腔側細胞膜との極性ある融合・脱融合を決定する要因は何かを解明すること,C) 細管小胞内に存在するリン脂質輸送flippaseの分子的実体とその役割を解明することなどを目指して研究をおこなっている。
 分子構造的に極めて類似しているNa+,K+ -ATPaseと胃プロトンポンプがなぜそれぞれ漿膜側膜と管腔側膜へと移動するのかを分子内ドメイン解析から明らかにすることは,細胞内機能分子の極性のある移動機構解明に大きく寄与する。そこで,Na+,K+ -ATPaseのβサブユニットとの間のキメラ体cDNAを多数作成し,H+,K+ -ATPaseαサブユニットcDNAともども,HEK細胞に導入した。形成される遺伝子改変ポンプの発現,細胞内移動,ポンプ機能を調べ,βサブユニットの細胞内・膜貫通部位・細胞外ドメインのどこがどのような役割を担っているかを明らかにする試みを行っている。本講演では,これらについて我々の研究成果について述べる。

(11) チャネル蛋白相互作用の分子構造基盤

中村春木(大阪大学蛋白質研究所)

 1.序
 これまで,チャネル蛋白質によって維持・制御されている小分子のベクトル輸送に関しては,チャネル蛋白質分子の立体構造が不明であったため,構造的な議論ができず,抽象的なモデルによってしか輸送機構の解析がなされなかった。しかし,近年になって,バクテリアのK+チャネルおよび機械受容性イオンチャネルの膜貫通部位(αサブユニット)のX線結晶解析がなされ,またショウジョウバエ(shaker)のN末細胞質ドメインの四量体構造,ラットのKチャネルβサブユニット(細胞質側)の四量体構造などが,続々と決定されている。
 チャネル蛋白質では,その機能と構造に広い多様性はあるものの,αサブユニットのポア部分やβサブユニットのコア部分のアミノ酸配列は,バクテリアからほ乳動物にいたるまで良く保存されており,その部分の立体構造もほぼ保存されていると考えられる。立体構造をもとにしたチャンネル機能の議論を始めたいと考えている。
 講演では,コンピュータによるモデリングの手法とその精度と新しい技術について紹介し,倉智らによるKirチャンネルの機能解析への応用と,イオノトロピック・グルタミン酸受容体の構造モデリングについて紹介する。
 2.Kirチャンネルの機能解析と構造モデル
 内向き整流型Kチャンネル(Kir)は,ほ乳類において,立体構造解析が行われたバクテリア(KcsA)Kチャンネルに相当するKチャンネルであり,イオン透過を行うポアを形成するH5と呼ばれる領域とその前後の膜貫通ヘリックス(M1, M2)とから構成される。Kir6.1 と Kir6.2はアミノ酸配列上70%のホモロジーを有し,同一のサブファミリーのチャンネル・タンパク質であるが,Kir6.2ではKir6.1の2倍以上のコンダクタンスを持ち,高いKイオンの透過性が観測されている。
 倉智らは,Kir6.1 と Kir6.2とでは,H5ポア領域のアミノ酸配列は同一であることから,Kir6.2において,アミノ酸配列の異なるM1-H5間のリンカー領域(Lk1)およびH5-M2間のリンカー領域(Lk2)でのアミノ酸置換を導入し,それら変異体タンパク質をHEK293T細胞で発現させ,インサイドアウト法によって単一チャンネル・コンダクタンスを測定した。その結果,Kir6.2におけるSer113-His115およびVal138が,高い透過性に直接関与していることを示している(Repunte, V.P. et al. (1999) EMBOJ., 18, 3317-3324)。
 KcsAのKチャンネル構造をもとにKir6.2の立体構造モデルを作成したところ,(1)Val138はチャンネルの入り口部位に位置し,直接Kイオンの拡散に関わること,(2)Ser113はチャンネル入り口からは離れた場所に存在するが,側鎖の大きなアミノ酸ではコンダクタンスが有意に低下することから,タンパク質内部のパッキングを変化させる可能性があること,が考察された。
 3.イオノトロピック・グルタミン酸受容体の構造モデル
 中西らによってクローニングされたNMDA受容体は,イオンチャンネル型のグルタミン受容体であり,主要な脳機能である記憶や学習の基礎過程と考えられるシナプスの形成・可塑性に関与していると考えられている(Moriyoshi, K. et al. (1991)Nature 354, 31-37)。このNMDA受容体は,アミノ酸配列解析によって,細胞外ドメインにbacterial periplasmic-binding protein 様の構造を持つことが示唆され,その細胞外ドメインにある2つのLobe間に挿入されたイオンチャンネル部分には,K+チャンネルとの相同性が見いだされていた。
 Kチャンネルとの比較的高い相同性と4量体形成を示唆する実験とから,バクテリアKチャンネルの構造と水溶性の基質結合部位の結晶構造とを基に,NMDA-R1受容体の立体構造モデルを作成した。その結果,bacterial periplasmic-binding proteinにおいて観測されている基質結合により生じるヒンジ回転が,グルタミン酸やグリシンの結合によってやはり起こるとすると,細胞外ドメインに接続した膜貫通ヘリックスの変位が生じ,チャンネルの開閉が制御されるという機構が推察された。

(12) 2光子励起法を用いた新しい細胞機能の可視化

根本知己,河西春郎(生理学研究所)

 多光子励起法を用いて,膵臓外分泌腺腺房標本の開口放出を可視化し定量的に測定した。コレシストキニン(CCK)による開口放出は,酵素源顆粒が3光子励起紫外蛍光をもつ物質を含みこれが放出されること,及び細胞外の極性トレーサー(SRB, Texas red-dextran, Lucifer Yellow)がΩ状に細胞内に陥入することで測定した。これらのことは共焦点顕微鏡では観察不可能だった。Ω状の開口放出像はCa振動に同期して発生し,CCK濃度にベル型に依存した。Ω状の開口放出は元よりあった腺腔面のみでなく,既に形成されたΩ構造の上に頻繁に形成され,開口放出が連続的に起きる逐次開口放出が主たる開口放出の様式であることがわかった。開口放出の際,単一の顆粒の大きさ以上のΩ構造が形成されたことはなく,顆粒の融合には細胞膜因子が不可欠であり,顆粒間の融合は生理的条件では禁止されていると考えられた。開口放出に要する時間は一次的な顆粒でも二次的な顆粒でも約13秒と一定であり,内層に存在して細胞膜に接していない顆粒も,細胞膜に接した顆粒と同じ準備状態にあると考えられた。開口放出を起こすCa振動においては5マイクロモル以上のCa濃度上昇が顆粒領域内層にまで及び,これが逐次開口放出を誘発していると考えられた。こうして,外層の顆粒が開口放出するとその内側の顆粒が自動的に開口放出完了状態となる逐次充填機構の存在が明らかとなった。この開口放出方式は重積した分泌顆粒の内容を最小の形態変化で,小さな細胞膜の一領域から,顆粒の移動を伴わずに,早く放出するのに適した方式と考えられ,外分泌腺と同様の構造をとる内分泌腺や神経終末においても刺激条件によっては用いられている可能性がある。このように,2光子励起法の深部到達性は厚みのある生体標本の生理的機能解析には極めて有効である。

(13) 核包標本からのイオンチャネルと細胞機能

丸山芳夫,大佐賀敦,佐藤功造,大城社子(東北大学大学院大学医学研究科・細胞生理学)

 体細胞の内膜系標本よりイオンチャネルの同定を試みた。粗面および滑面小胞体膜を対象に,それらの比率が比較的高いとされる膵腺腺房細胞および肝実質細胞を用いた。細胞膜を低浸透圧下に破壊し核包標本を得た。膵腺腺房細胞の核包には,電位と管腔Caにより制御されイベリオトキシンに感受性のある220-250 pSのKチャネル(large Kチャネル)と5-10pS程度のClチャネル(Clチャネル)が存在し,肝実質細胞のそれには電位に依存する300-600 pSのアニオン選択性チャネル(アニオンチャネル)が存在した。Large Kチャネルは唾液腺等の外分泌腺腺房細胞膜,大腸粘膜細胞,尿細管細胞等,分泌上皮細胞に豊富に存在し,溶液分泌機能の主要部を担っている。しかしこのLarge Kチャネルは,マウスおよびラット膵腺腺房細胞細胞膜上には存在しない。また,アニオンチャネルの肝実質細胞細胞膜上での存在も考えにくい。これらチャネルはここでとりあげる個々のの細胞においては,内膜系に特有のチャネルであろうと思われる。膵腺腺房細胞細胞レベルにてKチャネルおよびClチャネル(あるいはKイオンおよびClイオン)に操作を施せば,細胞の電気的反応を様々に変化させうる。細胞内のNaCl,TEA-Cl溶液での灌流実験,から,またイベリオトキシンの細胞内注入から,これらチャネルの存在理由の一部は,小胞体Caの放出と取り込みにおけるカウンターイオン通路として機能することであると推測される。
 分泌上皮細胞膜上のlarge Kチャネルにつき,単一電流振幅をRbイオンの干渉効果の側面から調べた。その電圧・振幅関係はKイオン濃度に依存するが,Rb干渉効果による不可解な挙動を示した。

(14) 神経因性疼痛とイオンチャネル発現制御

田邊 勉(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・高次機能薬理学)

 痛みは臨床上最も頻度の高い訴えであり,患者が病院を訪れる動機の筆頭理由である。全成人の6人に1人が何らかの痛みに苦しんでいると言われ,そのコントロールは極めて重要な医学的研究課題であるとともに,有効な痛みのコントロール法の確立が社会・経済的利益に及ぼす影響は計り知れない。しかし,治療の基礎となる痛みの分子機構については未解明な点が多い。痛みはその原因により侵害受容体性疼痛,神経因性疼痛,心因性疼痛に大きく分けることができる。このうち侵害受容体性疼痛は組織の傷害に伴って発生する痛みで,特に急性の生理的な侵害受容体性疼痛は外部からの侵害性刺激や体内の病変に対する生体防御機構として働き,生命維持に重要な警告反応である。一方,慢性の侵害受容体性疼痛や神経因性疼痛は病的な慢性疼痛であり,治療を必要とするものである。これらの疼痛は機械的および熱的侵害刺激に対する閾値を下げて痛覚過敏現象を引き起こすばかりでなく,本来痛みを誘発しない触覚刺激が痛みを誘発する異痛現象(アロディニア)をしばしば伴い,疼痛管理に難渋する主要な原因となる。痛覚過敏やアロディニアの発症機構として,末梢侵害受容器の感作,侵害受容線維の機能変化,脊髄後角における可塑性変化及び感覚神経回路網の再構築等が重要であると考えられるが,その基盤に様々なイオンチャネルの発現変化および機能変化が想定されている。
 我々は種々の神経因性疼痛モデル動物を作製し,これらを用いて神経因性疼痛の発現,維持とイオンチャネル発現との関係の解析,イオンチャネル活性制御による疼痛制御の可能性を検討している。本研究会においては,電位いぞんせいNaおよびCaチャネルに関しこれまでに得られた研究成果を報告する。


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