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10. 生殖細胞の構造と機能発現

2000年11月24日−11月25日
代表・世話人:年森清隆(宮崎医大)
所内対応者:有井達夫(生理研)

(1)
マウスGC2精原細胞株表面に発現している分子の検索
山本雅一,中野 匡,伊藤克彦,藤田 潤(京都大学大学院医学研究科・遺伝医学講座分子病診療学)
(2)
ectoplasmic specialization:環境ホルモンおよび遺伝子ノックアウトからの新局面
外山芳郎(千葉大学医学部解剖学第2講座)
(3)
内分泌攪乱物質曝露におけるマウス精巣での遺伝子発現への影響
足達哲也1,2,櫻井健一2,3,深田秀樹1,芝山孝子1,2,井口泰泉1,4,森 千里1,2
 (1科技団CREST,2千葉大学医学部解剖学第一,3千葉大学医学部内科学第二,
4岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター生命環境)
(4)
先体反応前後に起こる精子頭部の膜表面構造の変化−マウス精子の原子間力顕微鏡による観察
高野広子(北海道大学大学院医学研究科・生体機能構造学講座生態機能形態学分野)
(5)
Aborted Cytokinesis and the formation of syncytial spermatids in mice
Manandhar, G.1, Toshimori, K.1 and Schatten, G.2
 (1Dept. of Anatomy, Miyazaki Medical College, 2Oregon Regional Primate Research Center)
(6)
特別講演:生理的状態および病的状態の精巣間細胞
森 浩志(大阪医科大学医学部病理学第2講座)
(7)
哺乳動物の受精における精子セリンプロテアーゼの役割
山縣一夫(筑波大学応用生物化学系)
(8)
哺乳類初期胚の微細構造−高圧凍結置換固定法を用いて−
舘 澄江(東京女子医科大学解剖学・発生生物学教室)
(9)
生殖幹細胞の特質
蓬田健太郎(大阪大学微生物病研究所)
(10)
 特異的に発現する遺伝子から見た精巣生殖細胞の特徴
野崎正美(大阪大学微生物病研究所)
(11)
Molecular interaction leading to sperm-oocyte fusion; role of acrin 3 (MC101) and an equatorin (MN9).
Saxena DK., Oh-oka T., and Toshimori K. (Dept. of Anatomy, Miyazaki Medical College)

【参加者名】
 年森清隆(宮崎医大),高野広子(北海道大・医),外山芳郎(千葉大・医),高 圭範(千葉大・医),足達哲也(科技団CREST),山縣一夫(筑波大),舘 澄江(東京女子医大),桧山武史(基生研),向井徳男(基生研),山本雅一(京都大・医),蓬田健太郎(大阪大・微研),西宗義武(大阪大・微研),野崎正美(大阪大・微研),笠原恵美子(大阪市大・医),増田 裕(大阪医大),森 浩志(大阪医大),大岡唯祐(宮崎医大)Manandhar, G.(宮崎医大),Saxena D.K.(宮崎医大),有井達夫(生理研)

【概要】
 本研究会では,精細胞の分化・成熟過程における形態変化,遺伝子/タンパク質レベルでの発現調節や関連する新規遺伝子の探索,内分泌攪乱化学物質の影響そして初期胚発生に関する研究発表と討論を行った。その主な内容は次の通りであった。精巣生殖細胞に関しては,精細胞移植法を用いて生殖幹細胞の増殖・生存の特質が示された。精細胞分化に関しては,精原細胞株からの単クローン抗体作製と関連分子の検索,精細胞細胞質の分裂形態と合胞体細胞形成との関係,精巣生殖細胞に特異的に発現する遺伝子の探索とその特徴や内分泌攪乱物質との関係,そして精巣生殖細胞構造分化と内分泌攪乱化学物質との関係が発表された。受精に関しては,原子間力走査顕微鏡法による精子先体反応前後に起こる精子頭部膜表面構造の変化,精子先体内セリンプロテアーゼ(アクロシン)の受精との関係および先体内タンパク質と透明帯通過および受精能獲得との関係の解析例が報告された。哺乳類初期胚については,高圧凍結条件下での凍結置換固定法を用いて,可能な限り自然な状態に近い状態での形態把握が試みられ,受精卵から胚盤胞期に至るまでの微細構造変化が示された。特別講演では,生理的状態および病的状態の精巣間細胞の構造と機能変化および精子形成への関与と病態変化(腫瘍誘発ホルモン異常による変化やアポトーシス)について詳細に解説された。
 このように,本研究会では,精細胞の発生から胚子初期発生までに起こる形態変化や機能発現について,異なるアプローチを行っている研究者が多角的な面から発表・討論し,最近の生殖生物学の研究の動向や結果について有意義な議論がなされた。

(1) マウスGC2精原細胞株表面に発現している分子の検索

山本雅一,中野匡,金子嘉志,伊藤克彦,藤田 潤(京都大学大学院医学研究科遺伝医学講座分子病診療学分野)

 哺乳類雄性生殖細胞の分化は,体細胞分裂を行う精原細胞が精母細胞へと分化して減数分裂し,更にハプロイドの精子細胞が成熟精子へと形態変化をとげる複雑な過程である。この過程を解析する細胞株としては,HofmannとMillanの樹立したマウス精原細胞株GC1, GC2が有名である。特にGC2は32度培養条件下で減数分裂を起こしハプロイド細胞になると報告され注目を集めた。(もっとも,その後この細胞株は減数分裂を起こさなくなってしまっている。)しかし,GC2がマウスの未分化な精子形成細胞株であることには変わりがなく,増殖因子,分化因子に対するレセプターを発現している可能性がある。そこでわれわれは,GC2細胞膜表面に発現している分子を同定するためにGC2細胞を入手して,32℃で培養後,膜分画を免疫原として雌マウスを免疫し,多数のhybridomaを作製。これらのhybridomaの培養上清を用いて,マウス精巣および肝,腎,脳,脾の免疫組織染色やフローサイトメーターによるGC2細胞の免疫染色などのスクリーニングを行い,12個のモノクローナル抗体を得た。現在ヌードマウスを用いて大量に抗体を産生させている途中である。今後この大量抗体を用いexpression cloningでGC2精原細胞株膜表面に発現している分子を同定する予定である。

(2) Ectoplasmic Specialization:環境ホルモンおよび遺伝子ノックアウトからの新局面

外山芳郎(千葉大学医学部解剖学第二講座)

 Ectoplasmic Specialization(以下ESと略)は1)セルトリ細胞が精子細胞の頭部を取り巻く部分,2)隣り合うセルトリ細胞間,の2カ所に存在する。2)にはさらに密着帯が存在し,これはESと共に血液・精巣関門を形成する。ESの機能はまだ解っていない。エストラジオールを成熟雄マウスに投与したところ,ステップ8以降の精子細胞の先体,核に形態異常が見られた。この精子細胞の頭部を取り巻くESは不完全な形態をしていたので,この部分のESは精子頭部の形態を決めるのかもしれない。隣り合うセルトリ細胞間のESには異常は見られなかった。また,新生仔雄ラットおよびマウスにジエチルスティルベストロールを投与したところ血液・精巣関門の形成がコントロールに比べて約4週間遅滞した。この間は精母細胞が減数分裂の環境を得られないために,精子が作られなかった。basigin蛋白の遺伝子ノックアウトマウスでは造精細胞が減数分裂中期で死ぬために無精子症である。この場合,隣り合うセルトリ細胞間のESは正常であったが,精子細胞を取り巻くべきESには精子細胞が存在しないために種々の異常(異所発生)が見られた。
 このように種々の実験条件下でESを調べることにより,その機能が解ることと思われる。

(3) 内分泌攪乱物質曝露におけるマウス精巣での遺伝子発現への影響

足達哲也1,2,櫻井健一2,深田秀樹3,芝山孝子1),2,井口泰泉1,4,森 千里1,2
1科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業 (CREST) 内分泌攪乱物質研究グループ
2千葉大学医学部解剖学第一,3深田生命科学研究所,
4岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター生命環境)

 【目的】 今回我々は内分泌攪乱物質をマウス新生仔期に投与することによって,生殖能を有する時期において精巣で発現が変化する遺伝子を探索した。
 【方法】 1. 生後1日のICR雄性マウスに,Diethylstilbestrol (DES)を 50μg/mouse/day,Genistein (Gen)を1 mg/mouse/day,またはBisphenolA (BisA)を0.2 mg/mouse/dayを5日間皮下投与を行った。3か月後に精巣を摘出,RNAを調製し,DNAマイクロアレイ法にて対照群に対して発現に差のあるものを検索した。
 2. 生後1日のICR雄性マウスにDESを 5μg/mouse/dayで5日間投与した。2か月後に精巣を摘出,RNAを調製し,cDNAサブトラクション法にて対照群に対して発現に差のあるものを検索した。
 【結果】 1. DNAマイクロアレイ法を用いた検討により,
 精巣において各化学物質投与によって発現に差が生じた遺伝子として,DESでは635種,Genでは388種,BisAでは455種が見い出された。2. cDNAサブトラクション法を用いた検討により,精巣で発現上昇を認めた遺伝子が3種得られた。
 【結論】 今回,内分泌攪乱物質曝露によって発現変化を引き起こす遺伝子を2通りの方法で検索した。DNAマイクロアレイ法を用いた検討では発現変化を引き起こす遺伝子を一挙に多数見い出すことができた。またcDNAサブトラクション法を用いた検討では精巣において発現誘導される遺伝子の存在が認められた。

(4) 先体反応前後に起こる精子頭部の膜表面構造の変化―マウス精子の原子間力顕微鏡による観察

高野広子(北海道大学・大学院医学研究科・生体機能構造学講座・生体機能形態学分野)

 授精機構の解明のために,成熟精子の頭部の表面構造の違いを調べ,さらに,これらがキャパシテーションや先体反応に伴ってどのように変化するのかを調べた。キャパシテーションした精子はマウス精巣上体尾部の精子(成熟精子)の培養により得た。先体反応を起こした精子は尾部精子の単独培養あるいは透明帯つき卵細胞との共培養によって得た。精子は遠心洗浄してグルタールで固定し,ガラスに貼り付け,臨界点乾燥して原子間力顕微鏡に表面構造を描出させた。成熟精子の頭部は直径100 nm以下の粒子で覆われていた。粒子を,直径20〜30 nmの小粒子と直径40 nm以上の大粒子にわけると。先体帽には,小粒子が主として分布し大粒子が所々にのっていた。赤道部は,成熟精子では粒子が不明瞭で表面はほぼ平滑であったが,キャパシテーション精子では輪郭が明瞭な小粒子で覆われていた。先体反応後,赤道部の小粒子は前縁から次第に大粒子に置き換わった。一方,先体後部は,先体反応以前は大粒子によって覆われていたが,先体反応後は大粒子が次第に小粒子へと置き換わった。
 以上,本研究によって得られた先体反応前後に起こる精子頭部の膜表面構造の変化を示す原子間力顕微鏡像は,キャパシテーションによって精子膜が不安定化することや先体反応が起こった精子だけが卵細胞膜と膜融合しうるというようなこれまでよく知られた現象にたいして形態学的基盤を与えるものと考える。

(5) Aborted cytokinesis and the formation of syncytial spermatids in mice

G Manandhar1,2, K Toshimori 2 and G Schatten1
1ORPRC, 2Miyazaki Medical College)

 Some spermatocytes of mice fail to divide by cytokinesis. They develop sparse and dispersed midzone spindles which however, undergo normal compaction but localize asymmet-rically towards one side of the cell cortex.  Actin myosin fibers associate with the midzone spindles and midbodies in the normal cytokinetic cells as well as those cells which fail to develop cytokinetic furrow.Anticentrin antibody labels the putative centrioles while anti-g-tubulin labels the minus- ends of the midzone spindles in the normal and abortive cytokinetic cells.  These observations implicate that syncytial bi- and tetranuclear spermatids form during mouse spermat- ogenesis without major cytological anomaly.Such spermatids displayed apparently normal nuclear morphology, chromatin condensation, manchette microtubules, axoneme and acrosomedevelopment during the early stages of spermiogenesis.  Some syncytial spermatids degenerate during the late stages.

(6)特別講演:生理的状態および病的状態の精巣間細胞

森 浩志(大阪医科大学病理学教室)

 精巣間細胞(Leydig細胞:L細胞)が産生する男性ホルモンは胎生期の内外性器の分化,脳の男性化,二次性徴の発現・維持および精子発生に不可欠である。男性ホルモン産生能の動物種属差はL細胞の数・サイズのみならず,滑面小胞体やミトコンドリアの量とともに,それらに局在する酵素活性の違いによってもたらされる。
 ヒトL細胞に特徴的なReinke結晶は,中間径フィラメントが烽窩状構造をとる六角柱であるが,これに機能的意味はなく,一種の老廃物質と思われる。出生後のL細胞に細胞分裂像をみることはきわめて稀であるが,高齢者でも青年期の約1/3の数のL細胞が存在する。Ethanedimethane sulphonateはある種の動物のL細胞を選択的にアポトーシスに陥らせるが,1月後にはL細胞の数は回復する。この薬剤の反復投与実験から,L細胞に幹細胞が存在することが示唆された。L細胞には自然発生的な腫瘍の他,実験的に精巣の脾内移植,あるいは女性ホルモン持続投与によって発生させることができる。前二者ではluteinizing hormoneが,後者では女性ホルモンが誘発因子である。精巣間細胞腫では正常細胞とは異なったホルモン合成状態となり,また腫瘍誘発ホルモンに対するレセプターの変化が生じていること,一旦発生した腫瘍では誘発ホルモンの持続作用の有無が形態学的な変化を生じさせることが示された。

(7) 哺乳動物の受精における精子セリンプロテアーゼの役割

山縣一夫,馬場 忠(筑波大学応用生物化学系)

 われわれは精子の卵透明帯通過の分子機構を理解すべく,精子アクロソームに存在する各種プロテアーゼに主眼を置いて研究を行ってきた。そのうちの一つ,アクロシンはトリプシン様セリンプロテアーゼであり,これまで卵透明帯の限定分解に関与していると考えられてきた。しかし,その欠損マウスの解析から主たる生体内機能はアクロソーム反応の際に各種アクロソームタンパク質の放出を促進することであった。さらに,アクロシンとは別にマウス精子アクロソームにはトリプシン様セリンプロテアーゼである42キロダルトンプロテアーゼが存在し,それが透明帯通過に関与する可能性が示唆された。これらアクロソームプロテアーゼについて各種げっ歯動物間で比較したところ,マウスで見られた42キロダルトンプロテアーゼに相当するものはラット,ハムスターでは検出されなかった。一方,ラットやハムスターと比較するとマウスアクロシンのゼラチン分解活性は極端に低下していることが明らかとなった。
 そこで,その原因について検討を行ったところ,マウスアクロシン特異的に存在するCys143が酵素の基質特異性に影響を与え,その結果ゼラチン分解活性の低下を引き起こしていると考えられた。このことはアクロシン欠損マウスの結果は必ずしも他の動物種へは反映できないことを示唆している。

(8) 哺乳類初期胚の微細構造−高圧凍結置換固定法を用いて−

舘 澄江(東京女子医科大学医学部解剖学・発生生物学教室)

 哺乳類初期胚の微細構造をできるだけ人工的な操作を加えず観察することを目的とし,妊娠第1日から4日までのマウス胚(受精卵,2細胞期,8細胞期,胚盤胞期)を高圧凍結(BAL-TEC HPM 010, Balzers AG) により物理的に固定し,2%OsO4・アセトン溶液中で凍結置換固定後,樹脂包埋を行ない,超薄切片を作成して微細形態の観察を行なった。その結果,初期胚の細胞質中には,従来の化学的固定法であるOsO4溶液単独の浸漬固定ではその構造が存在せず,グルタールアルデヒド溶液で前固定後,OsO4溶液で後固定(二重固定)した場合にのみ観察される,特有の格子構造 (または線維状構造) (Schlafke & Enders, 1967) が観察されることが解った。この構造がグルタールアルデヒドによる化学的固定の産物ではないことが明らかである。高圧凍結置換固定法では,Muller & Moor (1984) は表層から200μm,また菅原(1997)は50-80μmまでは氷結晶のできない硝子様凍結(vitrification) が可能と報告しているが,哺乳類胚は約80μm径であるが胚子全体の硝子様凍結は不可能で,核と核小体,及び,割球と割球の隣接部近傍の細胞質に氷結晶が生じやすいこと,また,硝子様凍結が得られても細胞膜が細胞質から離脱しやすいこと,等の傾向がみられた。受精卵の場合は,周囲を厚い放射冠が囲むため,卵子は全て氷結晶が生じ良好な像は得られなかった。高圧凍結用試料キャリアの構造にも工夫が必要であると思われる。

(9) 生殖幹細胞の特質

蓬田健太郎 (大阪大学 微生物病研究所)

 幹細胞の増殖と分化の制御機構を解析する上で,この生殖幹細胞系はいくつかの利点を有する。すなわち,1)精細胞の分化段階の判別が組織学的に容易であること,2)さまざまな精細胞分化障害を示す変異マウスが利用可能であること,3)精細胞移植法の確立により,幹細胞の特質の評価が可能となっていることなどである。さらに,我々はGFPで標識した精細胞を用いることにより,移植後の精細胞の動態を経時的に観察可能とすることに成功している。これにより,生殖幹細胞は,移植生着後,まず増殖してから分化することが示された。これは,幹細胞が非対称分裂をするのではなく,対称性分裂を行っていることを示唆する。そこで,この増殖と分化の過程をさらに解析するために,c-kit/SCF (Stem cell factor) 系の変異マウスを利用した。SCFの変異マウスでは,生殖細胞の分化に必須であるSCFに異常があるため,未分化精原細胞から分化できない。このため,ここに精細胞を移植することにより幹細胞の増殖のみを評価することが可能となる。この結果,生殖幹細胞の増殖は,c-kit/SCF系によらないことが明らかとなった。さらに,内在性に精原細胞が存在すると移植効率が低下することから,生殖幹細胞の生着維持にはその存在部位(stem cell niche)が必要であることが示唆された。

(10) 特異的に発現する遺伝子から見た精巣生殖細胞の特徴

野崎正美(大阪大学微生物病研究所)

 減数分裂以後の精子形成細胞の特徴を分子レベルで明らかにするために,この時期に特異的に発現する遺伝子群のクローニングを行い,80以上の特異的遺伝子を得た。そのうち,26%は既に報告されているもの,32%は既知遺伝子との相同性を持つ新規遺伝子,残りの42%は相同性を持たない新規遺伝子であった。コードする蛋白質構造からこれらの遺伝子はクロマチン構造,シグナル伝達,精子形態あるいは運動性などに関与することが予想された。この結果は,考えられていた以上に重要な機能を持つ遺伝子が減数分裂以後に新たに発現することを示す。他の遺伝子との比較からこれらは体細胞で発現する遺伝子に対する精巣型アイソフォームと,生殖細胞特有の構造を持つ遺伝子に大別された。また,遺伝子構造の解析から,半数体精子細胞で特異的に発現する遺伝子の半数はイントロンをもたないレトロポゾンと考えられた。レトロポゾンはイントロンを持つ別の遺伝子mRNAが逆転写酵素によりcDNAとなりゲノム上に挿入されて生まれる。通常プロモーターを持たないために発現せず,変異が蓄積して偽遺伝子となる。ところがまれに転写されることがあり機能的遺伝子となることもある。精巣生殖細胞でこのような遺伝子が多く発現することは機能的な必要性もさることながら,特別なプロモーター配列を持たないこれらの遺伝子を高頻度で発現させる特有の発現制御機構の存在を示唆している。

(11) Molecular interaction leading to sperm-oocyte fusion: Role of acrin3 (MC101)
and an equatorin (MN9).

Saxena DK, Oh-oka T and Toshimori K (Department Of Anatomy, Miyazaki Medical College)

    The major events of sperm-oocyte fusion are mediated by multiple ligand-receptor interactions. We examined the role of two sperm molecules, acrin 3 (MC101) and an equatorin (MN9) in the processes of gamete fusion using pertinent monoclonal antibodies mMC101 and mMN9. Both antibodies did not affect sperm motility or sperm-zona binding but affected fertilization in vitro. mMC101 inhibited and also delayed fertilization of the zona-intact oocytes, but did not affect the dispersal of acrosomal content during zona induced acrosome reaction. In contrast, fertilization of the zona free oocytes was inhibited significantly when sperm completed acrosome reaction in the presence of mMC101 inseminated the zona-free oocyte. These findings indicate that acrin 3 may be involved in the zona penetration and might play some role in modifying the sperm plasma membrane during acrosome reaction for the development of fusibility (Saxena et al., 2000). Another antibody mMN9 also inhibited fertilization of both the zona-intact and zona-free oocytes. Further the percentage of oocytes with presence of many supernumerary sperm in perivitelline space was higher in the presence of mMN9. These findings suggest involvement of equatorin in the sperm-oocyte fusion (Toshimori et al., 1998).


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