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13. シナプスの形成・維持・可塑性2000年12月7日−12月8日
【参加者名】 【概要】 (1) シナプスの形態変化と機能分子の動態岡部繁男(東京医科歯科大学医歯学総合研究科) 海馬の錐体細胞上での興奮性シナプスは,活動依存性にその機能の変化を起こすことが知られている。シナプス機能の変化の基礎として,その分子構築の変化が存在する可能性が指摘されてきたが,近年,GFP分子をレポーターとして用いて細胞内機能蛋白質のイメージングを行うことが可能になった。培養海馬神経細胞では,培養後10日から20日の間に興奮性シナプスの局在が樹状突起のshaftからspineへと変化する。この間のシナプスの形態形成と機能分子の動態を解析する為に,シナプス後肥厚部の分布,シナプス小胞の分布,spineの形態をGFPのvariantであるCFP, YFPの蛍光シグナルを用いて可視化する事を試みた。この方法により,シナプス後肥厚部の構成蛋白質が既に伸長したfilopodia/spineの中に集積し,シナプス後部構造の特異化が起こる過程が観察された。また,シナプス後肥厚部の形成とシナプス小胞の集積はお互いに時間的に相関して起こることも明らかになった。 (2) シナプス小胞動態の可視化と応用片岡正和1, 2,関口真理子1,高橋正身1(1三菱化学生命科学研究所,2信州大学工学部環境機能工学科) 我々が前シナプス機能の基盤である神経伝達物質の開放出機構を理解するために実施している,GFP,あるいはその変異体を利用したシナプス小胞動態可視化解析の結果を中心に紹介する。GFPラベルしたシナプス小胞蛋白質のVAMP-2,制御性分泌蛋白質のヒト成長ホルモン (hGH) を,PC12細胞および,ラット海馬初代培養細胞で発現し,それらの生細胞での振る舞いを可視化した。PC12細胞において,hGHの構成性分泌の瞬間を可視化したところ,kiss and runモデルに合致する画像が得られ,また,優先的分泌部位と考えられる領域が存在した。VAMP-2の小胞膜上の位相,小胞内のpH環境,pH感受性変異GFPを組み合わせて利用し,小胞内のpH環境という視点から分泌現象,ならびに突起伸長と小胞分泌の関連を調べた。この場合においてもkiss and runモデルに合致する分泌を確認し,さらに突起伸長時の膜供給にシナプス小胞が利用されていると考えられる結果を得た。 (3) シナプス活動によるアクチン細胞骨格再構築過程の可視化古屋敷智之,尾藤晴彦,成宮 周(京都大学大学院医学研究科高次脳科学) アクチン線維は興奮性シナプスにおける主な細胞骨格である。近年,アクチン線維がシナプスの形態制御やシナプス蛋白の局在,さらにはシナプス伝達効率の修飾に関与することが示唆されてきた。我々はGFPとbeta-actinの融合蛋白GFP-actinを用いて,生きた海馬神経細胞のアクチン細胞骨格を可視化した。この方法により,シナプス活動によって海馬神経細胞のアクチン分子の分布が速やかに変化し,シナプスや細胞体周囲など機能的に異なる部位に集積することを明らかにした。この集積は数分でピークに達する速やかな反応であるが,シナプスと細胞体周囲での集積の速度は大きく異なっていた。さらに,シナプスにおけるアクチン制御にはNMDA受容体が,一方細胞体周囲の集積には電位依存性Ca[2+] チャネルが特異的に関与することが示唆された。以上の結果は,複数のCa[2+] 流入源の活性化の組み合わせを介して,シナプス活動が多彩なアクチン分布を誘導する可能性を示唆している。 (4) 神経成長円錐のカルシウムシグナル制御機構竹居光太郎(東邦大学医学部生理学第二) 神経系の発生や再生の過程において,伸長する神経突起の先端には成長円錐と呼ばれる特殊な構造体が存在し,成長円錐は周囲の微小な外界環境を感知しながら神経突起を正確に標的細胞に導く。神経細胞の分子基盤の解明は,複雑緻密な神経回路網の形成機構理解する上で非常に重要な課題である。神経突起の成長発達において,成長円錐内の細胞内Ca2+は極めて重要な情報変換分子として働くことが知られている。神経細胞のように極度に発達した極性を持つ細胞における研究では,細胞の局所で特定分子を実験的に操作できるような研究技術が要求される。そのニーズに対応して,我々はレーザー分子不活性法(CALI法)を用いている。CALI法とは,抗体やリガンドによる特異的な結合によって標的分子を特定化し,色素を介してレーザー照射によって生じるフリーラジカルで標的分子を機能的に不活性化させ得る新規の細胞生物学的研究手技で,突起先端に存在する成長円錐のような細胞の特殊な局所領域での分子機能の解析には特に功を奏する。 (5) エンドサイトーシスにおける膜脂質の機能と動態竹居孝二(岡山大学医学部生化学) シナプス小胞は,分泌に続いて,エンドサイトーシスによる小胞膜の取込み,シナプス小胞再生のサイクルをくり返している。このためエンドサイトーシスはシナプスが機能するための重要な一過程であり,その過程においては細胞膜からの小胞形成が行われる。エンドサイトーシスの分子機構,特に膜脂質の機能動態を調べるため,膜成分と脳細胞質を反応させることにより,小胞形成をin vitroで再構成する実験系を確立した。 (6) 痛み刺激受容の分子機構:カプサイシン受容体とそのホモログの構造,機能と制御機構富永真琴(三重大学医学部第一生理) 痛みは化学的・熱・機械的刺激によって感覚神経終末が活性化されることによって惹起されるが,こうした侵害性刺激受容体を有する感覚神経 (nociceptor) はトウガラシの主成分カプサイシンに感受性があることによっても特徴づけられるため,カプサイシン投与による細胞発現クローニング法を用いてカプサイシン受容体遺伝子が単離された。そして,カプサイシン受容体(VR1)がCa透過性の高い6回膜貫通型の非選択性陽イオンチャネルであり,カプサイシンのみならず同じく痛みを惹起する43度以上の熱や酸(プロトン)によっても活性化される痛み刺激に対する多刺激受容体として機能することが明らかとなった。 (7) 単一嗅神経細胞における嗅覚応答の再構成及び嗅上皮における応答細胞の空間的分布東原和成(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学) マウスで約千種類といわれている嗅覚受容体のクローニング当初は匂い物質と結合する証拠はなかったが,1998年,ラットorphan嗅覚受容体I7のリガンド決定がなされ,推定上の匂い受容体が匂い物質を認識することが証明された。一方我々は嗅覚受容体が匂い物質を認識するという証拠を得るために別のアプローチをとった。Ca2+イメージングを使って匂いに応答する嗅細胞を同定したのち各々の応答細胞から発現受容体をクローニングし,アデノウイルスで受容体遺伝子を嗅細胞に導入して匂い物質に対する特異的応答を再構成することに成功した。また,HEK293培養細胞を用いて受容体の再構成を行い,嗅覚受容体がGsタイプのGタンパク質に共役し細胞内cAMP濃度を上昇させるという結果も得ている。さらに我々は,新生児マウスから生の前額断切片を作成し,嗅上皮上での匂い物質に対する応答をCa2+イメージングによってin situで測定した。様々な匂い物質をこの生切片に与えたところ,応答細胞が嗅上皮上でどのように分布しているかが明らかになった。さらに,匂い物質の濃度を変化させたところ,濃度依存的に応答細胞数の増加が見られ,同一匂い物質でも濃度によって感じる香調が変わってくるという経験則を支持する結果が得られている。 (8) 酸味受容体遺伝子の同定と機能解析島田昌一,鵜川眞也,植田高史(名古屋市立大学医学部第二解剖) 味覚の受容体は塩味,酸味,甘味,苦味,うま味に対してそれぞれ特異的な様々なタイプの受容体が想定されてきた。最近単離された苦味受容体や,うま味受容体はG蛋白と共役する代謝型受容体であるのに対して,我々が同定した酸味受容体はイオンチャネル型である。我々は,味覚の受容体を単離する目的でラット舌有郭乳頭よりcDNAライブラリーを作製し,相同性によるスクリーニングとアフリカツメガエル卵母細胞による機能発現スクリーニングを組み合わせて,プロトンで開くアミロライド感受性陽イオンチャネルを単離した。そして全塩基配列を明らかにしたところ,非翻訳領域は多少異なるものの翻訳領域は最近脳から単離されたmammalian degenerin (MDEG1)と一致するものであった。さらにこの受容体の他のサブユニットを同定するために,相同性を用いたラット有郭乳頭のcDNAライブラリーのスクリーニングやRT-PCR法を行った結果,MDEG2も味蕾に発現していることが分かった。次にMDEG1とMDEG2の関係について調べたところ,免疫組織化学法でMDEG1とMDEG2は同一の味蕾細胞に共存して発現していることを明らかにした。また,電気生理学的な解析でMDEG2は,MDEG1と共発現させると,チャネルの脱感作を修飾する働きがあることが分かった。
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