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生体情報研究系神経情報研究部門【概要】 オリゴデンドロサイト発生制御機構と脱髄モデルマウスの解析鹿川哲史,竹林浩秀,和田圭樹,中平英子,清水健史,松本路生,田中久貴,池中一裕 オリゴデンドロサイトは中枢神経系でミエリンと呼ばれる構造をつくるグリア細胞である。ミエリンは神経細胞の軸索を取り巻くことにより電気的に絶縁し,跳躍伝導という現象を引き起こす構造である。胎生期脊髄ではオリゴデンドロサイト前駆細胞は腹側のごく限られた部位から発生することが知られている。我々のグループは,これまで胎生期脊髄の背側にオリゴデンドロサイト分化を抑制する因子があることを示してきた。今回,脊髄背側に発現するWnt1, Wnt3aに着目しin vitroにおいてこれらがオリゴデンドロサイトの分化を負に制御することを示した。 アストロサイトの分化・発生様式に関する研究岩崎靖乃,長谷川明子,小川泰弘,竹林浩秀,池中一裕 アストロサイトの発生は神経細胞の発生と密接に関連しており,神経幹細胞から両細胞の発生は相互に抑制をかけながらどちらかだけ選択的に産生されることが示されてきている。すなわち,アストロサイトの発生・分化調節機構の研究は神経発生全体に大きな意義を有する。 N結合型糖タンパク質糖鎖の機能解析藤本一朗,池田武史,石井章寛,佐久間圭一朗,池中一裕 脳の発生・分化や細胞変性疾患やガン化の機能発現には隣接する細胞との細胞間相互作用として細胞表面を覆うように存在する糖蛋白質糖鎖が重要な役割を担っていると考えられる。我々はこれまでに系統的に糖タンパク質糖鎖をスクリーニングする方法を開発し,その自動化に成功してきた。この方法を用いて正常マウス大脳皮質の発生の各段階における系統的な糖鎖解析を行った結果,脳に特徴的な糖鎖構造が成熟するに従い優位に増加してくることが観察された。パターンの変化を見ただけではなく全体の70%を越える主要糖鎖の構造決定を酵素消化やMALDI-TOF-MSを駆使して行った。この結果,脳特徴的糖鎖が脳の発生・分化および形態形成に重要であると考えられた。さらに本解析法は固定後の組織からも解析可能であるから,ヒトの中枢神経変性疾患の脳内糖鎖解析を行い,細胞を取り巻く糖鎖環境と細胞障害に関係がないかを解析した。細胞障害部位の組織のみならず障害が無いと考えられていたアルツハイマー病の白質領域や多系統萎縮症の灰白質領域においても糖鎖の発現パターン異常が認められた。このことは糖鎖の異常が病態のベースに存在する可能性があり,神経変性疾患の発病自体をも引き起こしている可能性を強く示唆するものであった。次にガン細胞の糖鎖とガン転移臓器の特異性を知る目的で,B16メラノーマの転移実験を行った。マウス尾静脈から注入したB16細胞は肺および脾臓に高頻度で生着した。培養B16細胞と肺から摘出してきたB16転移組織の糖鎖解析を行った結果,多くの糖鎖構造が培養時と肺生着時においては変化し,その変化は必ず肺組織の糖鎖発現パターンに近づく方向であった。この結果からガン細胞の転移もしくは生着にも細胞表面糖鎖が重要であることが示唆された。一つの糖鎖構造の生合成に数十種類の糖転移酵素が必要であり,今後は酵素群の網羅的遺伝子発現の解析が不可欠と考えDNAアレイの作成を行った。報告されているマウス糖鎖生合成酵素遺伝子の137遺伝子中108個までクローニングが終了した。実験条件の検討を行い最適条件を見出した。数個の報告されている糖転移酵素遺伝子発現のノーザン解析結果と同じ結果が得られ,網羅的遺伝子発現解析が可能となってきた。 癌遺伝子治療の基礎研究片倉浩理,河野洋三,池中一裕 我々は,以前Serial Analysis of Gene Expression (SAGE)法を用いて悪性グリオーマに高発現する腫瘍特異抗原MAGE-E1をクローニングした。その後Human BAC cloneを用いたゲノム構造解析にて,その構造はMAGE-Dに酷似しており,遺伝子座に於いてもXp11と同一であることを見出した。 液性情報研究部門【概要】 P/Q型電位依存性Ca2+チャネル変異マウスにおけるシナプス伝達の変化松下 かおり,Kadrul Huda,井本 敬二 電位依存性Ca2+チャネルは,細胞膜の脱分極により開いてCa2+を細胞内に透過させ,細胞内の様々なCa2+依存性の生理現象を引き起こす。電位依存性Ca2+チャネルには多くのサブタイプがあるが,疾患には中枢神経系の主なCa2+チャネルであるP/Q型 Ca2+チャネルが一番深くかかわっており,このチャネルをコードするα1Aサブユニット遺伝子の変異は,ヒトやマウスの小脳失調症や,ある特定の変異においては欠神発作も合わせて引き起こすことが知られている。変異マウスはとりわけヒトのチャネル病疾患の理解あるいは診断や治療に向けた研究をするにあたって貴重なモデルとなりうる。 GFPを用いた蛍光カルシウムプローブ,G-CaMPの開発中井淳一,大倉正道,井本敬二 GFPはオワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白である。我々はGFP,カルシウム結合蛋白であるcalmodulinおよびその相互作用ペプチドであるM13を遺伝子操作により改変融合し,細胞内のカルシウムイオン濃度をリアルタイムに測定するための蛍光プローブ,G-CaMPを開発した。 カルモデュリンによる電位依存性イオンチャネルの制御機構森誠之,井本敬二 電位依存性イオンチャネルの制御機構のひとつとして,カルモデュリンによる直接的相互作用があきらかになってきた。これまで,一般的にカルモデュリンはカルシウムと結合した後,不特定多数のターゲット分子に働きかけると考えられてきたが,電位依存性イオンチャネルの場合,カルモデュリンが常に直接的にチャネルに相互作用しており,カルシウムと結合することで,即座にそのイオンチャネル自身を制御することが明らかになりつつある。このような電位依存性イオンチャネル特にCa2+チャネルやNa+チャネルに対するカルモデュリンの作用はこれまで明らかになっている作用メカニズムと一線を画するものであると考えられる。更にCa2+チャネルの場合このようなlocalな場所での制御機構が,新たな遺伝子の発現にも関係していることも明らかとなってきた。我々はこの様に神経細胞のlocalな場におけるカルモデュリンによるイオンチャネルの制御機構の解明を目的に実験を行ってきた。我々は神経型の電位依存性Na+チャネルのカルモデュリン結合部位(IQ-region)に変異を導入したところ,電位依存性の不活性化に変化を見出した。そこで,相互作用の詳細を捕らえるため,更に構造化学的視点から研究を行った。その結果,カルモデュリンは主に,カルシウムと高い親和性をもつC-terminal ドメインを介してNa+チャネルと結合し,カルシウムと結合した後,N-terminalとC-terminalの両方に抱きかかえられる構造に変化し,作用をもたらすことが明らかとなった。また興味深いことに,他のCa2+カルモデュリンに対するターゲット分子が存在していても,Na+チャネルとカルモデュリンの結合はほとんど影響を受けないlocal な場での相互作用を生化学的実験で再現することができた。より詳細な結合様式の解明を今後の研究課題としている。 高次神経機構研究部門【概要】 CNR分子多様性における機構解析先崎浩次,八木 健 マウスCNRは14種類のサブタイプが存在し,マウスゲノム上にCNR遺伝子クラスター構造を形成している。CNR分子群の分子多様性の機能を明らかにすることを目的として,(1)CNR遺伝子多重欠損マウスの作製および,(2)各CNR分子特異抗体作製の2つのアプローチによるCNR分子多様性の機能解析を行っている。CNR多重欠損マウスの作製にはマウスCNRゲノム構造を利用し2ヶ所にloxP配列を遺伝子ターゲティング法により導入しCre-loxP系を用いてCNRサブタイプを複数欠損させるマウスの作製を行った。また,各CNR特異抗体作製においてはラットモノクローナル抗体8種とおよびウサギポリクローナル抗体10種が作製でき,これらの抗体を用いて免疫染色法によりマウス発生過程での各CNR蛋白質の発現・局在解析を行っている。 マウス嗅球での周波数帯によって分離される独立な2つの経路田仲祐介,八木健 遺伝子と行動との関係を明らかにするために,マウスはターゲッティングなどの遺伝的・分子生物学的な手法を用いて,個体レベルでの表現型としての行動異常の解析が可能である。しかし,行動を制御しているのは中枢神経であり,処理を行うのはそこでの神経回路網である。この観点から,In vivoでのマウス中枢神経系からの神経活動の記録・解析系を確立させた。この過程の中で,マウス嗅球にて低濃度刺激によって誘発される神経活動(LFP)を見いだした。この活動は,従来に報告されている嗅覚性誘発活動(誘起波)より低い周波数帯(7-14Hz)にピークが見られる。さらに垂直多点電極を用いて,この活動が糸球体層と僧帽細胞層の間に由来することを見いだした。また,この低周波活動中でのスパイクの有意な増大は見られなかったが相関を示した。これらの結果は,嗅球において周波数帯によって分離される独立な2つの経路が存在することを示し,低周波発振器(Low Frequency Oscillator)として中枢神経系において機能していることが示唆される。 遺伝子変換ラット作製系の開発金子涼輔,八木健 今後,高次脳機能発現における遺伝子機能を調べていく際に必須となる遺伝子変換ラット作製系の開発を行っている。遺伝子変換動物作製法には大きくわけて2つの方法が知られており,一つは遺伝子変換体細胞核を用いたクローン動物作製による方法である。マウスを用いた検討の結果,クローン動物作製のための核ドナー細胞としては神経幹細胞が優れていることがわかった。そこで,ラット神経幹細胞の培養方法を確立し,遺伝子導入方法を検討したところ,電気穿孔法を用いて高効率に遺伝子導入することに成功した。現在は神経幹細胞を用いたクローン動物作製を行っている。一方,もう一つの方法は遺伝子変換ES細胞を用いたキメラ動物作製である。現在はラットES細胞樹立の検討を進めている。 中枢神経系におけるCNRの体細胞突然変異の解析平山晃斉,八木 健 CNRファミリーは中枢神経系に強い発現を示し,遺伝子構造は可変領域と定常領域とからなる免疫グロブリンの遺伝子構造に類似している。この特徴的な遺伝子構造から中枢神経系の多様なネットワークを担う分子の一つとして注目されている。CNRの発現メカニズムを調べる目的で転写産物の解析をおこなった結果,興味深いことに,CNRの転写産物には通常より高い体細胞突然変異が認められ,変異率が脳の発生が進むにつれて蓄積すること,変異はAからG,UからCへの割合が高く塩基置換に偏りがあることが明らかになった。また,塩基置換に伴うアミノ酸置換を調べた結果,CNRの機能に重要であると考えられるEC1ドメインに高いアミノ酸置換を認めた。以上の結果から,脳の発生に伴ってCNRの転写産物に体細胞突然変異が起きている可能性が示された。 ゼブラフィッシュCNRの機能解析多田基紀,八木 健 CNRはカドヘリン様受容体遺伝子群で,神経細胞で発現し,マウスでは大脳層構造形成に働いていることが知られている。私はWhole mount in-situ hybridization法を用いて,発生段階におけるゼブラフィッシュCNR遺伝子の時間的,空間的発現パターンを明らかにした。この結果,神経組織の発生時期・領域,神経細胞分化時期・領域と一致してCNRの発現が見られることを明らかにした。また,ゼブラフィッシュにおいて利用可能なことが知られているMorpholinoアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて,CNRタンパク質発現阻害を行うことでCNRの機能解析を行った。この結果,受精後24時間胚において神経細胞分化の起こる領域に同調してアポトーシスによる細胞死が観察された。 情報記憶研究部門【概要】
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