生理学研究所年報 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

1.Onchidium sp. 幼動物の外套にみられる眼外光受容(皮膚光覚)細胞の超高圧電顕観察による立体再構築

片桐展子(東京女子医科大学・総合研究所・研究部)
片桐康雄(東京女子医科大学・看護学部)
重松康秀,小坂誠一(東京女子医科大学・総合研究所・共同利用施設)
有井達夫

 イソアワモチ類(軟体動物・腹足類)の外套背面は多数の大小の疣状突起で覆われる。小さな陰影を外套に与えるとその陰影下に局所的な収縮が起こる。陰影反応は外套から切り離した小突起でも生ずることから,外套の皮下組織に分布する眼外光受容器;皮膚光覚(DP)細胞(Katagiri et al 1990)からの光情報が筋細胞(MF)に伝えられMFの収縮によると考えられる。幼動物の外套は成体より疣状突起が少ないが,多数のMFが小突起を含め結合組織内を諸方向に走行する。これまでに外套の皮下組織に大形で特異な星形のMFを認めその全容を明らかにした。特異な星形MFから延びる多数の突起に囲まれた領域内にDP細胞を認めたのでその全容を観察・立体再構築し,星形MFとの関係や陰影反応への関与を探った。
 材料と方法:生理研年報(22,2001)参照。
 結果と考察:星形MFから延びる長い突起が囲む領域に2個のDP細胞が存在,両者には成熟度に差異があった。DP細胞は発達した微絨毛とオスミウム染色で黒染するphotic vesicles(PV)が細胞質内に充満するのが特徴である。DP1細胞はほぼ球形で細胞質にPVを多量に含む。核は成体では複雑な切り込みが見られるのに対して楕円形を呈した。DP2細胞はまだ未成熟な微細構造を示し,微絨毛は発達途上にあり細胞質が少なくPVも少ない。立体構築像から得られたDP細胞のサイズと細胞の全容量に対する微絨毛と核の占める割合は,DP1細胞(474μm3)では微絨毛35%,核32%で,DP2細胞(280μm3)では微絨毛16%,核51%であり,成熟するにつれて微絨毛の占める割合が増加,未熟な細胞では細胞質が少なく核が大きかった。DP1細胞の軸索は微絨毛の基部から成体におけると同様に延びるが,DP2細胞の軸索は細胞質の突起のようである。いずれの軸索もDP細胞に近接して走行する小神経束に入る。小神経束は星形MFの突起の囲む領域内にある太い神経束に合流する。太い神経束内ではDP細胞の軸索と他の神経繊維との識別は難しかった。星形MFは多数の突起を延ばして他の星形MFの突起と接し全体として篭状のネットワークを成してDP細胞や神経束を囲む。星形MFは光受容細胞であるDP細胞からの情報をもとに他のMFと連携して外套上の疣状突起を局所的に収縮させると推測される。

2.超高圧電子顕微鏡による有機化合物微粒子の結晶構造解析

大野 完,仙石昌也(愛知医科大学)
有井達夫

 ガス中蒸発法によって作成した有機物微粒子を超高圧電子顕微鏡で観察した。試料は芳香族炭化水素のコロネン(C24H12)微粒子である。昨年度まで主に用いたペリレン(C20H12)微粒子[1,2]と同様,結晶構造は単斜晶であるが,晶癖はペリレン微粒子の板状に対し,コロネン微粒子は針状結晶が多く作成される[2]。融点はペリレンの約270℃に対しコロネンが約440℃と有機物の中でも非常に安定な物質であり,有機物の構造解析を行うには比較的容易であると考えたが,予想に反して観察は困難であり,当初は格子像が確認できなかった[2]。
 今回,観察に成功したコロネン微粒子は不活性ガスをAr,ガス圧を10Torr,試料の蒸発温度を240〜260℃の条件で作成した。作成された微粒子のモルフォロジーは,幅が数十nm,長さが数μmの針状結晶が多くみられた。図1はその代表的な微粒子の格子像である。格子縞は長軸に対して平行な方向しか現れず,その格子間隔は約1.02〜1.04nmであった。結晶構造のデータベースであるASTMカードによると,回折が現れる最も大きな結晶方位の面間隔はコロネンの場合約0.95nmであり,これまでに知られているものとは異なる結晶構造を持つ微粒子が作成された可能性がある。しかしながら,データ数が不足しているため,他の分析方法でも解析を行い,今後も引き続き実験を行って確認する必要があると思われる。

 参考文献
 1.大野 完,仙石昌也,有井達夫:岡崎国立共同研究機構生理学研究所年報第21巻 pp.150-151
 2.大野 完,仙石昌也,有井達夫:岡崎国立共同研究機構生理学研究所年報第22巻pp.146-147

図1ガス中蒸発法によるコロネン微粒子の格子像(at 1,000kV)

図1ガス中蒸発法によるコロネン微粒子の格子像(at 1,000kV)

3.アクチンの微小クリスタルの電子線回折像

一海孝光(愛知県立芸術大学)
有井達夫

 低い塩濃度のアクチン溶液にモル比で過剰なATPを加えるとアクチンのフィラメントが出来る。このフィラメントは会合して微小なクリスタルを作る。我々は微小クリスタルの構造の特徴を明らかにしようと仕事を進めてきた。厚みのある3次元クリスタルの電子線回折には超高圧電子顕微鏡(HVEM)が適している。一般的な低圧の電子顕微鏡では電子線の透過力が十分でない。HVEMの電子線なら透過することができる。高角での反射スポットは2Å辺りまで観測できるが困難な問題もある。それは低角散乱領域での回折スポットが弱いことである。アクチンの場合にはシート状のクリスタルが層状に重なっている可能性が高いが(1),HVEMの場合低角散乱の領域で十分なコントラストの回折スポットが出にくいと思われる。そこでごく薄いカタラーゼクリスタルを用いてこの回折像の反射角度への依存の様子を観測しておき,このモデルとアクチンフィラメントのクリスタルの回折像とを比較しながら解析を進めることにした。これにより,観測した回折像が目的のクリスタルからのものかどうかの判断がやり易くなると思う。そこで,市販のカタラーゼを10%のNaClに溶かした後に,水に透析して得られるごく薄いクリスタルを用いてHVEMの生じる回折像を観測した。約6 nm の格子が観察された。回折像においては,狭い領域からの回折像を撮ってみると比較的短い間隔に相当する回折斑点が見られたが,それとともに,その間がストリークでつながっているのも観察された。この結果は,部分的にカタラーゼの構造を反映すると考えられる。低角においては,構造を反映する回折斑点が観察されていないためさらに検討中である。
 以上述べたようにHVEMでは染色しなくてもカタラーゼクリスタルの実像や回折像を得ることができた。従って,この方法によれば染色物質が引き起こす様々のアーティファクトへの心配を除くことができる。次に考慮しなければならないのは照射損傷である。低圧の電子顕微鏡によるタンパクのクリスタルの観察では照射損傷が大きな問題となるが,HVEMの観察においては厚いクリスタルを観測できることから照射損傷が通常の場合よりは少なくなる可能性がある。さらにHVEMではイメージングプレートが使用でき,照射量を少なくしても感度よく回折像を捉えることができる。このような特性を持つHVEMを用いて現在アクチンフィラメントのクリスタルの観察を継続している。
 (1)生物物理42巻 S41〔2002〕一海孝光,有井達夫アクチン微小クリスタルの超高圧電子線回折

4.ギャップ結合で連結した網膜ニューロンの樹状突起の構造

日 高  聰(藤田保健衛生大・医・生理)

 光受容神経組織である網膜のニューロンの二次元的な配列様式は各々のタイプによって異なっており,それらの分布の解明は光情報処理の神経機構の解析にとって重要である。これまでに,双極細胞,アマクリン細胞及び神経節細胞が同一タイプの間で特定のモザイクを呈しながらギャップ結合で連結していることを明らかにした。我々は,電気生理学的手法によってニューロンの活動を解析した後に,神経活動をギャップ結合で連結した神経突起の形態と相関して,各タイプに特徴的なギャップ結合の視覚機能上の意義を調べている。電気生理学的に同定した網膜ニューロンを細胞内標識し,超高圧電子顕微鏡を用いて,厚さ数mmの樹脂包埋切片を解析することによってギャップ結合で連結した神経突起の三次元形態を解明することが本研究の目的である。
 視覚生理学的に調べて来た網膜神経節細胞について,平成13年度は引き続き,ラット網膜を用いて解析した。成熟Wistar系ラットから剥離した全載網膜標本を用いて核染色色素DAPIで標識したa-神経節細胞を形態学的に同定し,37℃でO2/CO2を供給したAMES’溶液で潅流しながら微小電極法またはパッチクランプ法によって電流注入に対するスパイク列応答を解析した後に,電極内に充填したルシファー黄とビオチン複合物を用いて細胞内注入法によって細胞を標識した。ビオチン複合物(Neurobiotin, Vector)を注入した標本の電子顕微鏡解析のための処理(日高と橋本,1993)を経て,光学顕微鏡によって注入細胞と周囲の標識細胞との接触突起を同定した後,エポン樹脂包埋した標本から,1-5 mmの厚さの網膜切片を作成し,ギャップ結合で連結した樹状突起の3次元構造を超高圧電子顕微鏡で1,000 kVで解析した。
 電気生理学的に解析した神経節細胞の形態をルシファー黄の標識からalpha-神経節細胞として同定した。組織化学反応(日高と橋本,1993)によって注入したNeurobiotinの局在を検出し,注入細胞から回りの同型の細胞へtracer couplingを示した標本を超高圧電子顕微鏡解析に用いた。光学顕微鏡下での観察から,Neurobiotinで標識された隣接するalpha-神経節細胞の樹状突起の先端同士の間で直接の接触の可能性があると観察された標本を,厚さ3 mmの網膜水平断の連続切片を用いて超高圧電子顕微鏡で解析し,光学顕微鏡での観察と超高圧電子顕微鏡での解析の対応を試みた。光学顕微鏡で見られた樹状突起の先端同士の間の接触の所に,厚切り切片の超高圧電子顕微鏡での解析から,確かに樹状突起間の結合が認められた(Fig. 1A)。そこには電子密度の高いclose membrane appositionが観察され,隣接する網膜神経節細胞の樹状突起間にギャップ結合の存在が考えられた。超薄切片での解析から,Neurobiotinで標識された隣接するalpha-神経節細胞の樹状突起間で形態学的に認められるギャップ結合を同定した(Fig. 1B)。最近,我々はWistar系ラット網膜の神経節細胞がギャップ結合チャネル蛋白・コネキシン36を発現していることを明らかにした(Hidaka等, 2002)。今回の超高圧電子顕微鏡解析で同定した隣接する網膜神経節細胞間のギャップ結合の存在は,コネキシン36の細胞発現に対応し,また,神経節細胞間のギャップ結合にコネキシン36チャネルが局在していることが示唆された。網膜神経節細胞でのコネキシン36の発現と細胞間でのギャップ結合の形成の視覚機能を電気生理学的に解析している。
 [文献]
 日高 聰, 橋本葉子(1993) ビオチン複合物(biocytin, Neurobiotin)注入による細胞内標識法と神経系解析への応用. 日本生理誌 55: 241-254.

Fig.1

5.Leupeptin投与後のラット肝細胞における細胞質貪食機構の研究

野田 亨(京都大学大学院医学研究科生体構造医学講座)

 これまでleupeptin投与後のラット肝細胞は自己貪食を示す実験モデルとして研究されていた。しかし,厳密な意味でこのモデルが真の自己貪食胞を表わすものであるか,またその形成膜がこれまで提唱されてきた小胞体膜であるか否かを改めて検証した。
 ラットにleupeptinを2mg/100gの量で投与し,投与後20分後に肝を還流固定した。対照群には薬剤を投与しない正常ラットの肝を用いた。それぞれから採取した組織を形態観察用試料とフェリシアン化カリウム・オスミウム法で形質膜を高電子密度に標識した試料の2種類を作製し,それぞれを電顕で観察した。
 薬剤投与後の肝細胞には自己貪食胞様構造が現れたが,それらの多くは形質膜の近くに比較的多く分布していた。形質膜直下には一部,滑面化した小胞体が存在していた。また自己貪食胞様構造にはしばしば粗面小胞体から延びるリボゾームを欠いた層板が一体化しているものも認められた。稀に形質膜の一部が細胞質内にのび,自らの細胞質を取り囲むものも観察された。
 フェリシアン化カリウム・オスミウム法で形質膜を高電子密度に染めだした試料の厚切り切片を作製し,超高圧電顕で形質膜の形状を観察したところ,正常ラットでは一部で指状陥入様の構造ををとるが,その他の部位は直線的な細胞境界を示した。Leupeptin投与後のものでは形質膜が球状にどちらか一方の細胞の細胞質へ突出するものが正常組織に比較して増加しており,また直接形質膜との連絡が捉えられないが,形質膜に沿って分布する自己貪食胞様構造の限界膜も高電子密度に染めだされた。しかし,形質膜よりやや内部の細胞質に分布する自己貪食胞様構造には高電子密度の反応産物は認めなかった。
 以上の結果より,leupeptinに誘起された自己貪食胞とこれまで呼ばれていたものの中には隣接する細胞質を細胞内に取り込み,消化する特殊な異物貪食胞,および形質膜の陥入により形成される自己貪食胞などが含まれている可能性が高まった。これらの貪食胞の限界膜は小胞体ではなく,形質膜である。ところが,小胞体由来の層板が自己貪食胞様構造と一体化しているものも観察されていることから,小胞体由来の限界膜をもつ自己貪食胞の出現も否定できない。しかし,これらの構造の中には形質膜直下の小胞体が隣接する細胞質の取り込みの際に二次的に一体化したものも含まれている可能性もある。

6.超高圧電子顕微鏡を用いた神経細胞の三次元的形態解析

小澤一史,謝 藏霞,河田光博(京都府立医科大学第一解剖学教室)

 本研究は,超高圧電子顕微鏡の高解像力とステレオ観察効果を利用し,種々環境下,特に老化や血中循環ステロイドホルモン濃度の変化に伴う脳の神経細胞の超微細構造変化について三次元的に描出,形態学的,定量的に計測を行うことを目的とした。通常の透過型電子顕微鏡による観察から,様々な細胞体内の変化やシナプスの変化等が認められたが,特に軸策や樹状突起の変化については二次元的観察の限界があり,充分な情報が得られないでいた。しかし,超高圧電子顕微鏡を用いて,ゴルジ渡銀染色を行った試料をステレオ観察することにより,特に樹状突起及びその棘(spines)の変化をダイナミックに捉えることが出来た。大脳皮質や海馬領域の神経細胞では,若い動物(2ヶ月齢のラット)では高い密度できちんとしたヘッドとテイルを有する樹状突起の棘が鮮やかに観察されるのに対して,老化動物(24ヶ月齢のラット)ではこれらの密度が低下し,また棘の形態が萎縮するような像が観察され,老化に伴う変動が顕著に観察された。また,ステロイドホルモン受容体を有する神経細胞では,これらのホルモンの変動に対応すべく,形態変動が起こることが示唆されている。例えば,性周期に伴うエストロゲン変動によって,エストロゲン受容体が発現する神経細胞の樹状突起の形態変化が示唆され,報告されている。これらの現象を,より立体的にかつ詳細に観察する目的で,超高圧電子顕微鏡を用いて,様々なステロイドホルモンの変化,例えば性腺摘出による性ホルモン欠如状態や副腎摘出によるコルチコステロイドの欠如状態,あるいは欠落させたホルモンの補充による神経細胞への影響について,現在,さらに観察を続けている。

図1 2ヶ月齢ラットの大脳皮質神経細胞樹状突起のステレオ像

図1 2ヶ月齢ラットの大脳皮質神経細胞樹状突起のステレオ像

図2 24ヶ月齢ラットの大脳皮質神経細胞樹状突起のステレオ像

図2 24ヶ月齢ラットの大脳皮質神経細胞樹状突起のステレオ像

7.嗅球ニューロンの定量的三次元構造解析

樋田一徳(徳島大学医学部)

 嗅覚の一次中枢・嗅球内の糸球体は,特定な匂い刺激に特異的に反応し,嗅覚の機能的構造単位として注目されている。この糸球体には嗅受容細胞(入力)と投射ニューロン(高次中枢への出力)がシナプス結合をするが,これには多様な局所ニューロンが介在しシナプス結合する。
 本研究は,超高圧電子顕微鏡H1250Mの1000kVの加速電圧による高解像力を利用し,嗅球・糸球体層の介在ニューロンの複雑な樹状突起網の三次元構造を明らかにすることを目的とし,特に今年度は複雑な糸球体内樹状突起網を構成するtyrosine hydroxylase (TH) 免疫陽性介在ニューロンに焦点を絞り解析を行なったものである。
 方法は昨年度に引き続き,抗TH抗体,ビオチン化2次抗体,および蛍光と1.4nm金コロイド同時標識 Streptavidin を用い染色し,共焦点レーザー顕微鏡によって観察後,これに銀増感 DAB 発色を応用してTHニューロンを選択的に標識した。エポン包埋後これを最終的に5μm厚の切片に薄切し,超高圧電子顕微鏡にて立体解析を行なった。
 THニューロンは主にして糸球体に局在する傍糸球体介在ニューロンであるが,一部はより大型の投射ニューロンタイプが糸球体層から外網状層(表層)にかけて存在する(図1)。超高圧電子顕微鏡により,糸球体内の樹状突起は径1μmを超える比較的太い樹状突起と,径1μm以下の細い突起が互いに絡み合っているのが観察される。このうち太い突起は分枝構造が少なく直線的に走行しているのが特徴的である。一方細い突起は比較的多くの分枝構造を有し,時に数珠玉状に波打った構造を呈しているのが特徴的であった(図2)。以前観察を行った calbindin免疫陽性介在ニューロンのように樹状突起が糸球体内の特定の領域に限局して分布することなく,両タイプの突起共より広範な領域に突起を伸長していることが明らかとなった。現在,これらの2種類の突起構造が単一のニューロンの異なる部位か,あるいは異なる種類のニューロンによるものかを識別し,更にシナプス結合の解析との対応を試みている。
 THニューロンのように複雑な樹状突起網の個々の突起構造については共焦点レーザー顕微鏡の解像力の限界を超え,その詳細は明らかになっていない。このため超高圧電子顕微鏡による高解像力が期待され,今後連続切片による立体解析も計画している。

図1 ラット嗅球の糸球体層よりの外網状層に見られるTHニューロン。Bar; 20μm。

図1 ラット嗅球の糸球体層よりの外網状層に見られるTHニューロン。Bar; 20μm。

図2 ラット嗅球糸球体内におけるTHニューロンの樹状突起構造。Bar; 20μm。

図2 ラット嗅球糸球体内におけるTHニューロンの樹状突起構造。Bar; 20μm。

8.小脳変性症マウスにおける小脳プルキンエ細胞形態変化の超微細3次元的観察

RHYU, Im-Joo(Korea大学医学部)
有井達夫,井本 敬二

 The rolling mouse Nagoya (tgrol/tgrol) is a spontaneous P/Q-type calcium channel mutant, which is suggested as an animal model for human neurologic disease such as autosomal dominant cerebellar ataxia (SCA6), familial hemiplegic migraine, and episodic ataxia type-2. Morphology of the spines is reported to reflect functional status of the neurons. To understand the functional status of Purkinje cell in calcium channel insufficiency, dendritic spines were analyzed quantitatively.
 After rapid Golgi preparations of the rolling and wild cerebellum, the blocks were embedded in Epon-Araldite mixture. 4-mm sections were cut and observed with high voltage electron microscopy operated at 1,000 kV. Dendritic spine density and length of the spine were measured with NIH image.
 Many spines emanating from the proximal dendrites in rolling mice were observed. The average spine density was 2.12 ± 0.18/10 mm in wild and 1.78 ± 0.22/10 mm in rolling. The average length of the spines was 1.12 ± 0.21 mm in wild and 0.82 ± 0.21 mm in rolling. The density and height of the spines were significantly decreased in rolling Purkinje cells (p < 0.01).

9.星状グリア細胞突起のCT解析

濱 清
M. Ellisman, M. Martone, N. Yamada (Univ. Calif. NCMIR)

 我々は高い電子線透過能と,5ミクロンを越える生物試料でも4−5ナノメターの解像力が期待できる1,000kV超高圧電子顕微鏡の特性を利用して,主としてGolgi 染色を行ったラットCNS における星状グリア細胞突起の3次元立体計測を行っている。
 海馬及び,大脳皮質で球形の細胞枝ドメインを形成する細胞質性星状グリア細胞の突起を3ミクロンの切片を用いて,CTを行った(例えば図1)。
 超高圧電顕を用いて−60度から+60度まで2度間隔で連続傾斜撮影を行い,トモグラフイー解析を行っている。CT 三次元再構成には,UCSD, NCMIRによるソフトを用いている。さらに,再構成画像の表示や表面積などの計測には,Mayo財団によるanalyze7.5.5 ソフトウェアを,用いた。体積/表面積の値は,19-33/mm と,大きな値を取ることが明らかとなった。

グリア細胞のCT解析による像から求めた再構成ステレオ像(交差視)

10.プロトプラストの融合過程におけるネットワーク形成

谷口美恵子,鈴木繁二,広瀬貴士(名古屋大学工学研究科)

 植物培養細胞に,パルス電場をかけると細胞融合が,おこる。 AC 電場で,細胞同士が接合し,DC 電場で
 融合が,開始する。この過程で,アクチンフィラメントが,ネットワークを形成し,細胞融合に必要な構造を,構築する。今回は,アクチンフィラメントを結びつけているジョイント分子の構造を,より高分解能でとらえることを目的としている。超高圧電顕の持つ深い焦点深度は,比較的厚い試料に有効に作用する。
 ダイズ及びレタスを,明・暗室で,培養し,プロトプラストを,調整する。これに,AC 及び DC 電場をかけて,細胞融合を,起こさせ固定包埋した切片試料を作成して,超高圧電子顕微鏡を用いて,切片試料を,室温でまたは液体窒素温度まで冷却して,ステレオ観察することにより,アクチンフィラメントに結合しているミオシン様分子の構造を,明らかにしようと試みているところである。
 また,このほかに,ミオシン単分子の運動に関連しての折れ曲がり位置に関する情報を得るために,酢酸ウランによるネガティブ染色を,試みた。

11.マウスとラットにおける樹状突起スパインの頻度および大きさの比較

濱 清

 中枢神経細胞にとって主な興奮性入力の場であるスパインは,興奮伝達効率の調節とシナプス可塑性に重要な関わりを持っている。そこで光顕による形態の解析が行われてきたが,光顕では分解能の限界があり,真の値を求めることが困難である。そこで超高圧電顕を用いて,厚い試料を立体観察し,解析することにより,定量的な値を求める方法を用いて種による変化を明らかにすることを目的にしている。これまでのラットにおける樹上突起スパインの頻度の値は,既に報告しているように,細胞の核に近いところでは,(3.4±0.4)個/mm 核から離れた位置で (2.0±0.3個)/mm である。このときのスパインの表面積と樹状突起の表面積にも一定の関係がある。マウスにおいては,これらの値が,どのように変化するかを定量的に求める方向で,研究を進めている。

12.翼手類唾液腺線条部導管細胞のportasomeの構造と分布

村上政隆
Bernard Tandler,Carlton J. Phillips(州立テキサステック大学環境健康研究所,理学部生物学)

 昆虫幼虫の中腸で栄養物吸収の第一段階を担う膜輸送体蛋白のひとつH+ V-ATPaseのV1 subunitがmicrovilli細胞膜直下に存在する約10nmの粒子portasomeに局在することが見い出された。このportasomeの存在は無脊椎動物あるいはカメで知られているが,哺乳類については知られていなかった。最近果物を餌とする種々の翼手類(コウモリ)の唾液腺線条部導管細胞にこのportasomeが多量に見い出された。一般に唾液腺線条部導管細胞は,Na再吸収K分泌機能をもち,ATPase活性が高く,H+ポンプをもつといわれてきたが,portasomeの形態/分布と機能発現の関連は不明である。平成13年度,超高圧電顕を用い,厚い試料を立体観察し,線条部導管細胞におけるportasomeの構造と細胞内分布を立体的に観察し,輸送機能との関連を解析する目的で,計画を申請採択されたが,残念なことに9月11日の同時多発テロ事件により,共同研究者の来日が延期され,本研究の実施は不可能となった。

《超高圧電子顕微鏡共同利用実験での業績リスト》

A)英文原著論文

1)
Noda T, Fujimoto K, Ide C (2001) Annulate lamellae are interconnected by three distinct cisternal structures.Acta Histochem. Cytochem. 34, 103-110.
2)
Nagata, T (2001) Three-dimensional high voltage electron microscopy of thick biological specimens. Micron 32, 387-404.
3)
Murakawa R, Kosaka, T (2001) Structural features of mossy cells in the hamster dentate gyrus, with special references to somatic thorny excrescences. J. Comp. Neurol. 429, 113-126.
4)
Kosaka K, Aika Y, Toida K, Kosaka T (2001) Structure of intraglomerular dendritic tufts of mitral cells and their contacts with olfactory nerve terminals and calbindin-immunoreactive type 2 periglomerular neurons. J. Comp. Neurol. 440, 219-235.
5)
Saito Y, Katsumaru H, Wilson C J, Murakami F (2001) Light and electron microscopic study of corticorubral synapses in adult cat: evidence for extensive synaptic remodeling during postnatal development. J. Comp. Neurol. 440, 236-244.

B) 学会発表

1)
片桐展子,重松康秀,片桐康雄(2001.2)無脊椎動物(腹足類)の外套組織に分布する筋繊維の三次元形態解析。第323回東京女子医科大学学会例会 (東京)
2)
日高 聰,宮地栄一(2001.3)神経系で発現するギャップ結合チャネル蛋白・コネキシンの解析。第78回日本生理学会大会(京都)
3)
Toida K(2001.4) Cathecolaminergic Neurons in the Olfactory Bulb. The 9th Intern. Catecholamine Symposium (Joint Congress with "The 5th Intern. Conf. Progress in Alzheimer's and Parkinson's Disease") (Kyoto)
4)
小澤一史,謝 蔵霞,落合育雄,河田光博(2001.4)超高圧電子顕微鏡による老齢ラット脳の神経細胞の超微細構造。第106回日本解剖学会全国学術集会 (南国)
5)
片桐展子,重松康秀,有井達夫,片桐康雄(2001.5)腹足類の外套組織にみられる筋繊維の超高圧電顕観察とその立体再構築。日本電子顕微鏡学会第57回学術講演会(福岡)
6)
樋田一徳 (2001.5) 共焦点レーザー顕微鏡を組みあわせた電子顕微鏡連続切片再構築法による嗅球ニューロン構成の三次元構造解析。日本電子顕微鏡学会第57回学術講演会(福岡)
7)
Hama K (2001.5) High voltage electron microscope in cell and tissue research. Korea Elect Micros Soc.(Korea)
8)
小澤一史,謝 蔵霞,落合育雄,秋山翹一,有井達夫,河田光博(2001.9)超高圧電子顕微鏡を用いた老化ラットの海馬および大脳皮質領域における神経細胞の超微細構造観察。第24回日本神経科学および第44回日本神経化学合同大会(京都)
9)
片桐展子,重松康秀,有井達夫,片桐康雄(2001.10) イソアワモチ幼動物の皮膚光覚細胞と特異な星形筋細胞の超高圧電顕観察。第72回日本動物学会大会(福岡)
10)
Toida K (2001.12) Neuronal organization in the rat olfactory bulb. The 6th Japan-China Joint Meeting on Histochemistry and Cytochemistry(第42回日本組織細胞化学会総会・学術集会兼催)(東京)

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