生理学研究所年報2002

1.Na⁺チャネルと細胞機能

2001年5月24日－5月25日
代表・世話人：緒方宣邦（広島大・医・生理）・吉田　繁（生理研）

（１）: Naチャンネル分子のクローニングと機能解析：17年間を振り返って

野田昌晴（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物）
（２）: フグのナトリウムチャネル　－フグはどうして毒をもつ？－

長島裕二（東京水産大・食品生産学・生物資源化学）
（３）: 電位依存性Na⁺チャネルと生物毒－グラヤノトキシン結合部位の解析とその展望－

木下英司，結城常譜，山岡薫，瀬山一正（広島大・医・生理）
前島洋（広島大・医・保健）
（４）: 神経Na⁺チャネルに特異的なトキシンPMTXの作用部位　　　　－光アフィニティラベルによるアプローチ－

中山　仁，國安明彦，清水英介，横手さわな（熊本大・薬・生体機能）
川合述史（自治医科大・生理）
村田和義, 永山國昭（生理研・超微小形態生理）
（５）: 電圧感受性ナトリウムチャネルの3次元構造

佐藤主税，上野　豊（産総研）
藤吉好則（京都大・生物物理）
（６）: 新規ナトリウムチャネルの単離および単一神経細胞における発現分布の解析

鄭　善容，尾方克久，高橋祐二，橋田秀司，鈴木高史，後藤　順，金澤一郎
（東京大院・医・神経内科/科学技術振興事業団・SORST）
（７）: 膜電位依存性イオンチャネルの水・溶媒効果と構造

久木田文夫（生理研・生体膜）
（８）: 小脳プルキンエ細胞のNaチャネルの性質と生後発達

岡村康司（統合バイオサイエンスセンター・時系列生命現象／産総研・脳神経情報）
（９）: 痛みとイオンチャネル－テトロドトキシン非感受性ナトリウムチャネル－

緒方宣邦，山本詳子，丸山泰司（広島大・医・生理）
（10）: Na_xチャンネルは脳弓下器官における塩分濃度のセンサーである

檜山武史（基生研・感覚情報処理／総研大・生命科学）
渡辺英治（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物／総研大・生命科学）
吉田繁（長崎大・医・神経感覚医学／生理研・細胞内代謝）
野田昌晴（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物／総研大・生命科学）
（11）: アミロライド感受性上皮型ナトリウムチャネル（ENaC）の生理学的意義とその調節機構

丸中良典，新里直美（京都府立医科大・生理）
（12）: プロスタシンによる上皮性ナトリウムチャネル（ENaC）の活性化

北村健一郎（熊本大・医・第三内科）

【参加者名】
緒方　宣邦（広島大・医・生理），山本　詳子（広島大・医），松富　智哉（広島大・医），丸山　泰司（広島大・医），大石　芳彰（広島大・医），木下　英司（広島大・医・生理），丸中　良典（京都府立医科大・生理），長島　裕二（東京水産大・食品生産），鄭　善容（東京大院・医／科技団・SORST），尾方　克久（東京大院・医），久木田　文夫（生理研），佐藤　主悦（産総研），中山　仁（熊本大・薬・生体機能化学），清水　英介（熊本大・薬），横手　さわな（熊本大・薬），北村　健一郎（熊本大・医・第三内科），野田　昌晴（基生研），渡辺　英治（基生研），檜山　武史（基生研），岡村　康司（統合バイオサイエンスセンター），宮崎　俊一（生理研），吉田　繁（生理研），毛利　達磨（生理研）

【概要】
　最近の分子生物学の急速な進展によってさまざまなタイプのNa⁺チャネルが発見されており，その数はさらに増していくものと考えられる。Na⁺チャネルの中でも神経細胞や筋肉細胞などの興奮性細胞にみられる「電位依存性Na⁺チャネル」に関しては，構造のみならず機能に関してもその詳細が明らかにされつつあるが，上皮や肺などに存在する膜電位に依存しないNa⁺チャネルについては未解明な部分が多い。
　多種多様な構造と機能をもつNa⁺チャネルを総合的に考えなければ，電位依存性あるいは非依存性Na⁺チャネルを含めた全体としてのNa⁺チャネルの本質が見えないと思われる。このような観点から，平成13年5月24・25日の両日，岡崎国立共同研究機構・生理学研究所において，「Na⁺チャネルと細胞機能」と題した研究会が催された。さまざまなNa⁺チャネルについて異なった立場から研究している方々に集まっていただき，通常の学会では実現が困難な徹底した討論の場を持つことが出来た。
　研究会は22名の参加者により，12の演題報告を基に活発な討論が行われた。その内容は1）電位依存性ナトリウムチャネルの構造解析および毒物学，2）組織特異的電位依存性ナトリムチャネルの生理機能，3）「濃度感受型」ナトリウムチャネルの構造と生理機能，の三つのサブテーマにより構成された。1）ではテトロドトキシンやグラヤノトキシンなどのナトリウムチャネル特異的トキシンの作用機構，ナトリウムチャネル蛋白の立体構造，などに関する最新の知見が紹介され，2）では小脳において連発放電を制御しているナトリウムチャネルや末梢神経において痛みの伝導に関与しているナトリウムチャネルなど，組織特異的に生理機能を担っている各種ナトリウムチャネルについての解析結果が報告された。3）では上皮性ナトリウムチャネル（ENaC）やNaGなどの最近注目を集めている「濃度感受型」ナトリウムチャネルの性質についての分子生物学的研究成果が紹介された。
　本研究会の開催によって，発表・討論・懇親会を通じての研究者同士の理解と交流が深まり，今後，互いの利点を提供し合う形での多くの共同研究が実現できるものと期待される。

（1）Naチャンネル分子のクローニングと機能解析：17年間を振り返って

野田昌晴（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物）

　Naチャンネル分子の実体を明らかにする研究が，1970年代半ばからフグ毒やサソリ毒の結合を指標として行われ始めた。その中で最も進んでいたのは，nAchRがシビレエイの発電器官から初めて精製されたように，最も含量の高い電気ウナギの発電器官であった。我々の電気ウナギのNaチャンネルcDNAのクローニングはM.A. Rafteryからの共同研究の提案をきっかけに始まったが，論文の発表まで，彼はその進捗状況を知ることはなかった。このcDNAをプローブとしてRat脳からNaチャンネルI, II, IIIのcDNAクローンを得た。これらを用いてXenopus oocyteに機能的Naチャンネルを発現することに初めて成功し，この分子がNaチャンネルであることを示すことができた。次に，cDNAに変異を加えて変異蛋白の機能を見るといった，現在では当たり前となった手法によって，構造－機能相関があらかた明らかになった。その後，筋肉，末梢神経等から続々と異なるNaチャンネル遺伝子が報告され，現在では10個の遺伝子の存在が明らかになっている。その内，9つまでは電位依存的開口を示すことから，Na_v1という1つのファミリーに分類され，見つかった順にNa_v1.1からNa_v1.9と呼ぶことになった。残り1つは開口の様式を含めて性質が不明であることから，現在，Na_xという呼称が与えられている。我々はNa_xの生理機能を明らかにする為，約6年前から遺伝子ノックアウトマウスの作製を開始し，昨年，漸くその発現領域と行動解析の論文を発表することができた。Na_xは細胞外のNa⁺イオン濃度の上昇を感知して開くNa_cと呼ぶべきチャンネルであるらしい（檜山武史の項参照）。

（2）フグのナトリウムチャネル　－　フグはどうして毒をもつ？　－

長島裕二（東京水産大・食品生産学・生物資源化学）

　フグは強力な神経毒であるテトロドトキシン（TTX）を高濃度に蓄積している。フグが自らに対しても毒となるTTXを持つことができる理由の一つとして，TTXに対する神経（Naチャネル）の不感受性が推測される。各種魚類の骨格筋標本を使って活動電位に及ぼすTTXの影響を調べた結果，フグは他魚種に比べ1オーダー以上も感受性が低いことが明らかにされている。最近，山下らによってヒガンフグ骨格筋Naチャネルのサブタイプ（fMNa1）の全一次構造（1880アミノ酸残基）が決定され，既報のNaチャネルとアミノ酸配列を比較したところ，TTXとの結合に関与する電荷をもつアミノ酸群（ドメインⅠのAspとGlu，ドメインⅡの2つのGlu，ドメインⅢのLys，ドメインⅣのAsp）は保存されていた。一方，変異がみられた部分においてAsp382に隣接するアミノ酸383がAsnであり，これまでの点変異実験の結果からfMNa1はTTX耐性タイプと示唆された。しかし，別のサブタイプfMNa2やトラフグ脳のNaチャネルではこのような変異はみられず，他の部分での変異がTTXとの感受性に関与していることも推測される。
　また，フグから毒性を示さないTTX類縁化合物が検出され，さらにフグ肝臓ホモジネートの高分子画分からはTTX関連化合物の存在が確認されているため，フグの毒蓄積にTTXの化学形態あるいは存在形態が寄与している可能性が考えられる。

（3）電位依存性Na⁺チャネルと生物毒
－グラヤノトキシン結合部位の解析とその展望－

木下英司，結城常譜，山岡　薫，瀬山一正（広島大・医・生理）
前島　洋（広島大・医・保健）

　植物毒であるグラヤノトキシンは電位依存性Na⁺チャネルに特異的に結合し，その活性化の電位依存性を過分極方向へシフトさせ，かつ不活性化を取り除く作用を持つ。このため，グラヤノトキシンとNa⁺チャネルとの関係を調べる事でチャネルのゲート機構についての情報を得る事ができる。
　本研究では，この毒がラット骨格筋のNa⁺チャネルにおいて強い感受性を示すのに対し，心室筋のNa⁺チャネルにおいてはその感受性が有意に低いことを明らかにした。また，その感受性の差を利用してこれら２種のアイソフォーム間でキメラチャネルを作成することで，グラヤノトキシンの結合部位の探索を試みた。その結果，感受性の差はNa⁺チャネルのドメイン（D）1セグメント（S）6及びD1S4とS5間を連結する細胞内ループに位置する2つのアミノ酸に起因することがわかった。それら2つの部位は骨格筋Na⁺チャネルにおけるIle-433とSer-251であり，心室筋では，Val-406とAla-252に相当する。従って，これまでに私達がグラヤノトキシンの結合部位として報告しているD1S6のIle-433の他に，D1S4-S5細胞内ループのSer-251が，新たなグラヤノトキシンの結合部位であると結論した。さらに，このループ内のAla走査置換による知見を含めたグラヤノトキシン結合部位とこの毒が引き起こすゲート異常のメカニズムの関連について考察する。

（4）神経Na⁺チャネルに特異的なトキシンPMTXの作用部位
－光アフィニティラベルによるアプローチ－

中山　仁，國安明彦，清水英介，横手さわな（熊本大・薬・生体機能）
川合述史（自治医科大・生理）
村田和義, 永山國昭（生理研・超微小形態生理）

　Pomipilidotoxin（PMTX）は，紺野，川合らによってモンベッコウバチから見い出された13個のアミノ酸から成る新規ペプチドで，神経Na⁺チャネルに特異的に作用し，チャネル不活性化を遅延させる。類似の作用を示すサソリ毒やイソギンチャク毒と比較して，作用部位構造にどのような違いがあるのかは興味ある課題である。木下，瀬山グループの点変異実験と並行して，我々は光アフィニティラベルによるアプローチで解析を進めている。この手法で現在までに得られた結果を紹介する。また最近，佐藤らによって，電子顕微鏡像解析による電気ウナギNa⁺チャネルの立体構造が報告された。我々は同様の解析法で，L型Ca²⁺チャネルの全サブユニット複合体（ALL）とa1－β複合体（A1B）の立体構造の比較を行った。その結果，A1Bは12nmの深さをもつ中空の台形状で，中心にイオンポアと推定される穴が認められるのに対し，ALLでは深さ20nmの中空シリンダーをしており，その上部の一端に球形のドメインが着いた非対称形をしていることがわかった。

（5）電圧感受性ナトリウムチャネルの3次元構造

佐藤主税，上野　豊（産総研）
藤吉好則（京都大・生物物理）

　50年以上前のHodgkinとHuxley等によるイオンチャンネルの存在の予言以来，これまで様々の方法が電圧感受性Naチャンネルの構造に関連する情報を得るために用いられてきた。しかし，極めて部分的な短いペプチドの構造しか得られていなかった。我々は，アマゾン河の電気うなぎのNaチャンネルを可溶化し，極超低温のHeステージ電子顕微鏡と単粒子解析法を用いて解析した。チャンネルは高さ135Åの鐘に似た形であった。その内部にはいくつかの空洞が観察され，それが細胞外の4つの小さな穴と細胞内の8つの大きな穴につながっている。今回見つかったNaチャンネル分子内の空間や表面の孔は極めて新規で，同時にこの分子に特徴的な構造である^1）2）。そのため，この構造は電圧感受や開閉の機構に関与している可能性が高いと思われる。これとは対照的に，アセチルコリン受容体チャンネルは，たった一つのロート状の入り口を細胞外部に有する。また電圧感受性CaチャンネルやKチャンネルは，それぞれ細胞の分泌および膜電位を担っている。その中でもKチャンネルは神経可塑性をも担っていることが海産無脊椎動物アメフラシを用いて示された。これらのチャンネルはNaチャンネルとアミノ酸配列上の非常に高い類似性があるため，今回判明した構造と深く関連した立体構造を持つ可能性が高い。

1): The voltage-sensitive Sodium Channel is a bell-shaped molecule with several cavities．Sato, C., Sato, M., Iwasaki, A., Doi, T. & Engel, A. Nature 409, 1047-1051 （2001）．
2): The Na⁺ channel has four domains surrounding a channel. C. Sato, Y. Ueno, K. Asai, K. Takahashi, M. Sato, A. Engel, and Y. Fujiyoshi. J. Struct. Biol. 121: 314-325（1998）.

（6）新規ナトリウムチャネルの単離および単一神経細胞における7発現分布の解析

鄭　善容，尾方　克久，高橋　祐二，橋田　秀司，鈴木　高史，後藤　順，金澤　一郎
（東京大院・医・神経内科/科学技術振興事業団・SORST）

　膜電位依存性ナトリウムチャネルは神経・筋などの興奮性細胞の細胞膜に存在する膜蛋白分子である。膜依存性ナトリウムチャネルは複数のサブユニット（α ，β1，β2，β3）から構成されているが，膜電位感受性とナトリウムイオンの選択的な透過機能はα サブユニットに備わっている。神経系にはとりわけ多種のα サブユニットが発現し，神経細胞の機能の多様性・特異性との関連が推測される。
　本研究ではヒトの新規ナトリウムチャネルの単離および神経系においてαとb サブユニットの分子種ごとの発現分布と特異性の解析を行った。
　ヒトではまだ同定されていないα サブユニットをスクリーニングする目的でPCRを用いた系統的な探索を行ない，ヒトの新規ナトリウムチャネル遺伝子であるSCN1A，SCN3A，SCN8A，SCN12Aの完全長cDNAをクローニングした。特にSCN12Aは既知のナトリウムチャネルとは低いアミノ酸相同性を示し，また発現様式が異なることから，既知のものとは異なった機能を担っている可能性が示唆された。
　神経系組織の種々の部位から得たRNAを材料として，RT-PCRを用いて神経系におけるナトリウムチャネルの部位別発現特異性を検討した。また定量PCRを用いて神経系部位別にｍRNA発現量を定量した。さらに単一神経細胞においてナトリウムチャネルの詳細な発現分布を解析する目的で，レーザーダイセクターを用いて切り出した単一細胞からRNAを抽出・精製しRT-PCRを行った。以上の結果，各々のサブユニットは神経系部位別および単一神経細胞においてかなり特異的な発現パターンを示した。

（7）膜電位依存性イオンチャネルの水・溶媒効果と構造

久木田文夫（生理研・生体膜）

　イオンチャネルは脂質二重層膜を足場にして働く，膜タンパク質であるが，その機能には水界面での構造が重要な役割をしている。本研究ではイオンチャネルの周りの水環境での水の濃度（浸透圧）や粘性がこの分子機械の動作にどのような影響を与えるかについて述べる。膜電位依存性イオンチャネルの代表として，神経のNaチャネルやＫチャネル及びミトコンドリアのporin（電位依存性陰イオンチャネル，VDAC）に対する水・溶媒効果の比較を行い，その定性的な違いが，これらのイオンチャネルの三次元構造の違いに基づくことを示す。イカ軸索のNaチャネルは，非電解質（エチレングリコール，グリセロール，エリスリトール，グルコース，ソルビトール，ショ糖）を加えると，その動作の時間経過が緩やかになる¹^）が，電位センサーの変位・構造変化の速度が遅くなることに由来する²^）。非電解質効果の中で粘性効果はその効果に電位依存性がないので，Kramersの式³^）（速度が粘性に逆比例する）に従うような分子機構で，電位センサーの動きが遅くなることを示している²^）。一方で，浸透圧の効果（分子の数が重要で，低分量非電解質の方が顕著）は，ポアに典型的に現れる。porin（ポア内径15Å以上）では，分子量2万以上の巨大な非電解質（PEG，デキストランなど）で，浸透圧効果が観察されたが⁴^），電位センサーをポア壁全体に持つので，浸透圧で膜電位依存性がずれて，ポアを開き難くなる。Naチャネルでは電位センサーが動いた後，間があってポアが開くが，浸透圧により，その速度が遅くなる。しかし，Ｋチャネルでは逆に，浸透圧によりポアの1部が開いている。どちらも電位センサー（S4）がポア外にあるため，粘性効果は同程度に現れるが，ポアに対する浸透圧効果は逆である。Ｋチャネル・ポアの内容積が開状態では閉状態よりも小さいことを意味する。PDBから取得できるporinやＫチャネル・ポア（KcsA）の3次元構造を眺めると，そのようなことが起こっても良いように見える^5，6）。

1): Kukita, F.（1997）. J.Physiol.（Lond）498, 109-133. Erratum: 499, 849（1997）
2): Kukita,F.（2000）.J.Physiol.（Lond）522, 357-373.
3): Kramers, H.A.（1940）.Physica（Urecht）7, 284-304.
4): Zimmerberg, J. & Parsegian, V.A. （1986）.Nature323, 36-39.
5): 久木田文夫（2000）生物物理40（3）, 185-190
6): 久木田文夫（2000）生物物理40 supplement1, s205.

(8)小脳プルキンエ細胞のNaチャネルの性質と生後発達

岡村康司（統合バイオサイエンスセンター・時系列生命現象／産総研・脳神経情報）

　小脳プルキンエ細胞は，数十ヘルツの高頻度の発火特性を特徴として示すが，この性質は細胞を単離しても見られることから，細胞膜固有の性質に基づくと考えられる。最近，この特性が，Naチャネルの特殊な性質としての不活性化しにくい成分＝持続性Na電流，およびresurgent Na currentに依存することが明らかになってきた。また，哺乳類神経系全般に発現するSCN8a型Naチャネルの変異マウスの解析から，このNaチャネル蛋白の機能が注目されるようになってきた。しかし，持続性Na電流，およびresurgent Na currentの成立する分子機構は不明である。我々は小脳のスライス標本で，resurgent Na電流の性質が細胞体に比較的均一に存在すること，アフリカツメガエル卵母細胞での発現実験から，持続性Na電流の電流成分がtype1チャネルよりも多いこと，betaサブユニットはたぶんresurgent Na電流の成立には関与しないこと，等を明らかにした。

（9）痛みとイオンチャネル
－テトロドトキシン非感受性ナトリウムチャネル－

緒方宣邦，山本詳子，丸山泰司（広島大・医・生理）

　知覚神経特異的Naチャネル（sensory neuron-specific Na channel: SNS，便宜上，それによって引き起こされるNa電流も含めてSNSとよぶ）は，末梢知覚神経節の小型侵害受容ニューロンにのみ特異的に発現しているため，以前から痛覚情報の伝搬に重要な役割を担っているNaチャネルであると考えられてきた。私たちはSNS遺伝子をノックアウトしたマウスを作製し，その変異動物におけるNaチャネル機能や痛覚感受性の変化を検討した。
　末梢知覚神経節の神経細胞に発現するNaチャネルのうち，Na_V1.8，Na_V1.9は侵害刺激情報を伝搬すると考えられる小型細胞に特異的に分布している。Na_V1.8により引き起こされる電流は遅いカイネティクスでTTX非感受性のSNSであるが，Na_V1.9の機能発現は成功せず機能は不明のままであった。SNSノックアウトマウスでは，SNSが完全に欠如しており，加えて新たなTTX非感受性Na電流であるNa_V1.9によるNaNが観察された。
　NaNの特徴をまとめると，1）SNSと同様，TTX非感受性であり，Ｃ線維を発する小型知覚神経節ニューロンに特異的に発現する，2）活性化閾値が他のNaチャネルより約20 mV程度過分極側へシフトしており，SNSよりさらに遅いカイネティクスをもつ“持続型”Na電流であり，閾値下の興奮性を制御している，3）その発現レベルが何らかの栄養因子により影響を受けダイナミックに変化する“誘導型”Na チャネルである，4）チャネルの活性化が細胞内環境の変化により著しい影響を受ける，などが挙げられる。これらの性質は，SNSと同様にNaNが侵害刺激の伝搬に関与している可能性を示唆するとともに，神経線維における興奮性の異常亢進や神経損傷に伴うチャネルの発現異常などの神経因性疼痛の病態生理に関連しており，これらTTX非感受性Naチャネルが神経因性疼痛をはじめとする各種疼痛の発現において重要な役割を演じていることを裏づけるものである。

（10）Na_xチャンネルは脳弓下器官における塩分濃度のセンサーである

檜山武史（基生研・感覚情報処理／総研大・生命科学）
渡辺英治（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物／総研大・生命科学）
吉田繁（長崎大・医・神経感覚医学／生理研・細胞内代謝）
野田昌晴（基生研・感覚情報処理／基生研・形質転換生物／総研大・生命科学）

　Na_xチャンネルは電位依存性ナトリウムチャンネルと構造上低いながら相同性を有する。これまでいくつかの研究室で機能的発現が試みられたが成功せず，その生理的役割もチャンネル機能も不明であった。我々はNa_x遺伝子欠損マウスを作成し，Na_xの発現部位の同定と共に，マウスの行動異常からチャンネルの機能を推定することを試みた。その結果，中枢神経系では，体内の塩濃度を検出している部位とされている脳室周囲器官に発現がみられた。また二瓶法による食塩水摂取試験の結果，Na_x遺伝子欠損マウスは，味覚は正常にも関わらず塩水を過剰摂取することが明らかになり，Na_xが中枢におけるナトリウムイオンレベルの検出に関与する可能性が示唆された。そこで，Na_xを一様に発現している脊髄後根神経節細胞の初代培養系を用いて，外部環境のイオン濃度を変化させる実験を行ったところ，細胞外ナトリウムイオンのわずか数mMの上昇に応答して，細胞内ナトリウムイオン濃度が大幅に上昇することを見出だした。この応答はNa_x遺伝子欠損マウスでは見られなかった。塩濃度検出中枢である脳弓下器官の神経細胞を用いて同様の実験を行ったところ，Na_x発現ニューロンにおいて，選択的に同様の細胞内ナトリウムイオン濃度の上昇が認められた。このことからNa_xは哺乳類の中枢において，塩分濃度のセンサーとして機能していると考えられる。

（11）アミロライド感受性上皮型ナトリウムチャネル（ENaC）の生理的意義とその調節機構

丸中良典，新里直美（京都府立医科大・生理）

　上皮組織に存在するアミロライド感受性ナトリウム（ナトリウム透過性）チャネル（ENaC）は体内イオン環境調節に重要な働きを有している。例えば，腎遠位尿細管上皮細胞に存在するENaCは，ナトリウム再吸収量を制御することにより，我々の血圧や体液量を決定する重要な因子である体内ナトリウム量を調節している。また，肺呼吸上皮に存在するENaCは，ナトリウム輸送制御を介して，呼吸上皮におけるガス交換および肺上皮細胞防御の観点から，肺腔内液量を最適に調節する重要な役割を担っている。
　遠位尿細管管腔側膜に存在するENaCは，4 pSの単一イオンチャネルコンダクタンスを有し，Na⁺に選択的透過性を示す。抗利尿ホルモンおよび低浸透圧刺激は，このENaCの細胞内から管腔側膜への移動を促進させ，その結果，管腔側膜上の活性を持ったENaCの数を増大させることにより，遠位尿細管でのNa⁺の再吸収を促進させる。
　胎児肺呼吸上皮II型細胞肺腔側膜上には，28 pS非選択性陽イオンチャネル（NSCC）と12 pS Na⁺チャネルの2種類のアミロライド感受性ナトリウム（ナトリウム透過性）チャネルが存在する。この内，NSCCはカテコラミンに反応し，そのチャネル活性および肺腔膜上の数の増大を示して，肺腔内から血管側へとナトリウム輸送を増大させることにより，肺腔内からの水分除去に寄与している。

（12）プロスタシンによる上皮性ナトリウムチネル（ENaC）の活性化

北村健一郎（熊本大・医・第三内科）

　上皮性ナトリウムチャネル（ENaC）は体液のナトリウムバランスを調節する上で重要なイオンチャネルである。ENaCはα，β，γの3つのサブユニットから構成される4量体で，アルドステロン，バゾプレッシン等のホルモンによりその活性が制御され，近年セリンプロテアーゼによるENaCの活性化が注目されている。私たちはラット腎臓よりセリンプロテアーゼであるプロスタシンをクローニングした。ラットプロスタシンは腎臓，肺，大腸，皮膚，胃，前立腺に発現し，ENaCと類似した組織分布を示す。また尿細管レベルでもENaCの存在するCCD，OMCD，IMCDに存在する。Xenopus oocyteにENaCとプロスタシンを共発現させるとアミロライド感受性Na電流は約2倍増加した。アプロチニンを前投与するとプロスタシンによるENaCの活性化が阻害されることより，この活性化機構にはproteolytic activityが関与していることが示唆された。このセリンプロテアーゼによる活性化はαγまたはαβγサブユニットを発現させたときのみ観察されることからγサブユニットの存在が必須であると考えられた。さらにγサブユニットの細胞外ループにあるRKRR（135‐138）領域にmutationを入れるとこのセリンプロテアーゼによる活性化は抑制された。以上よりプロスタシンはENaCγサブユニットのRKRR領域に直接的または間接的に作用しチャネルを活性化すると考えられた。



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1.Na+チャネルと細胞機能