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3.抑制性ニューロンの役割2001年6月14日−15日
【参加者名】 【概要】 (1)小脳抑制性シナプス前終末からのGABA,glycineの共放出鈴木紀光1,2,狩野方伸2 小脳皮質ゴルジ細胞からunipolar brush cellの抑制性入力について検討する目的で,10-14日齢のマウス小脳スライスのunipolar brush cellからホールセル記録を行い,抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録し,その生理,薬理的特性を調べた。その結果,刺激誘発性および自発性IPSCにGABAA受容体媒介性の成分と同時にglycine受容体媒介性の成分が存在することを確認した。またゴルジ細胞とunipolar brush cellのpaired recordingを行って検討した結果,ゴルジ細胞がunipolar brush cellに対し抑制性シナプスを形成し,シナプス前終末からのGABAとglycineを同時に放出していることが示唆された。さらに微小シナプス電流の解析の結果,一部のシナプス小胞はGABA,glycineを同時に含有していることを明らかにした。 (2)小脳皮質GABAシナプスのβ-アドレナリン受容体を介した増強機構齋藤文仁(三菱化学生命科学研究所,CREST・JST) ラット小脳プルキンエ細胞(PC)に入力するGABAシナプスで,ノルアドレナリン(NA)はβ-アドレナリン受容体を介して伝達効率を増強するので,この増強に関与する分子機構を明らかにすることを試みた。GABA作動性介在ニューロンであるバスケット細胞(BC)とPCから二重パッチクランプ記録を行い,NAおよびβアゴニストであるisoproterenol (ISP)の前シナプス細胞BCとGABA伝達に対する効果を検討した。β受容体刺激はBCの自発的発火頻度を増やし,BC発火に伴いPCから記録される自発的IPSCの頻度を増加させた。さらにadenylylcyclase刺激薬forskolinでもISPと同様の効果が認められ,細胞内cAMP上昇がβ-アドレナリン受容体を介したGABAシナプス増強に関与することが示唆された。次に,cAMP上昇がどのような経路でBC発火を増加するかを調べ,過分極活性化陽イオンチャネル(Hチャネル)がcAMPで直接的に活性化され,その結果BCが脱分極することが原因であることが示された。以上の結果から,NAはBC上のβ受容体を介して,少なくとも2つの作用機構でGABAシナプスを増強することが示唆された。 (3)AMPA受容体で仲介される小脳GABA伝達抑制とその機構佐竹伸一郎(三菱化学生命科学研究所・分子神経生物,CREST・JST) 中枢シナプスの情報処理において,異なるシナプス入力間の相互作用が重要な役割を果たすと推定されている。小脳プルキンエ細胞に入力する登上線維由来の興奮性シナプスと籠細胞に由来する抑制性GABAシナプスの間に見られる異シナプス間相互作用について検討を行った。登上線維に反復刺激を与えると,プルキンエ細胞から記録される抑制性シナプス電流は刺激頻度と回数に依存して抑制された。さらに,量子解析および薬理学的実験から,このGABAシナプス抑制は登上線維から放出された興奮性伝達物質が籠細胞上のAMPA型グルタミン酸受容体に作用し,シナプス前終末からのGABA放出を減らすことによって引き起こされることが示唆された。 (4)プルキンエ細胞における抑制性シナプス可塑性の制御機構平野丈夫,川口真也(京都大学理学研究科生物物理学教室) 小脳皮質プルキンエ細胞で起るシナプス可塑性として,抑制性介在ニューロン・プルキンエ細胞間のシナプスで見られるGABA性シナプス伝達の脱分極による増強現象が知られている。この脱分極依存性増強について検討を行い,以下の結果を得た。 (5)タキキニンによる扁桃体GABAシナプスの選択的促進 小西史朗(三菱化学生命科学研究所) (6)GAD65ノックアウトマウス扁桃体外側核局所回路における興奮性と可塑性の変化兼子幸一,季 鳳雲,小幡邦彦(生理学研究所神経化学部門) GABAを合成するグルタミン酸脱炭酸酵素,GAD65ノックアウトマウスでは,空間学習,運動などには粗大な障害を示さず,恐怖条件付け学習などの情動行動での異常が認められる。情動機能には扁桃体を含む辺縁系が重要な役割を果たしていることから,スライスパッチクランプ法を用いて扁桃体外側核(LA)局所回路の興奮性と可塑性の調節におけるGAD65の役割を調べた。GAD65ノックアウトマウス(KO)のLAの主細胞で記録した自発性興奮性シナプス後電流(sEPSCs)の頻度はKO群で有意に高く,また低濃度のBicucullineに対する感受性も高かった。さらに,視床から扁桃体への入力線維束を電気刺激して主細胞に誘発したEPSCsはテタヌス刺激後に長期増強を示すが,増強率はKO群で有意に高かった。これらの結果から,GAD65が神経活動亢進時のGABA放出の維持に重要な機能を果たしていること,放出されたGABAが興奮性シナプス近傍での脱分極の程度を調節して興奮性と可塑性をコントロールしていることが考えられる。 (7)線条体抑制性インターニューロンネットワークの機能青崎敏彦,三浦正巳,鈴木健雄,辛龍文(東京都老人総合研究所自律神経部門) 線条体は大脳基底核における情報処理の入力部に相当する核で,大脳皮質および視床からグルタミン酸による興奮性入力を,黒質緻密部からはドーパミン入力を受ける。一方,線条体からの出力RD細胞と呼ばれるGABA作動性ニューロンが司り,線条体の95%以上を占める。残りはインターニューロンで,主としてLA細胞,FS細胞,LTS 細胞からなる。線条体の局所回路の性質を調べるために,247ペアの同時パッチ記録を行った。その結果,明らかなシナプス応答が見られたものは,すべてFS細胞をめぐる神経連絡のみで,中でもFS細胞からRD細胞への抑制性GABA入力が28ペア中14ペア(50%)観察された。一方,皮質で見られるLTS 細胞間のelectrical couplingは線条体では全く見られなかった。以上の結果は,線条体神経回路の構築にはFS細胞が重要な役割を占めていることを示唆している。 (8)大脳皮質白質層内のGABA作動性神経細胞の分布と投射冨岡良平,中村公一,玉巻伸章(京都大学大学院医学研究科) 胎児期脳発生過程において,サブプレート,中間帯(後の白質)の神経細胞が視床から大脳皮質への投射パターン形成や,皮質間及び皮質下への投射形成に関与していることが指摘されている。これらの神経細胞は生後まもなくほとんどが死滅するが一部の神経細胞は成熟マウスにおいても残存する。この残存する神経細胞の成熟脳での役割を明らかにする目的で以下の実験を行ない,結果を得た。1)逆行性トレーサーであるFast Blue,cholera toxin B-subunitを大脳新皮質に微小量注入した結果,皮質の白質層にも標識された細胞が見つかった。2)白質内におけるGABA作動性神経細胞とグルタミン酸作動性神経細胞の存在比を調べるためにGAD67,BNPI (v-GluT1)のin situ hybridizationを行った。GAD67陽性細胞が約70%,BNPI陽性細胞が30%であり,白質内の神経細胞はGABA作動性神経細胞が多数を占めていた。3)cholera toxin B-subunitを大脳新皮質に微小量注入し,GAD67のin situ hybridizationと重ねると,白質内に二重標識される細胞が存在した。これら結果から白質内のGABA作動性神経細胞は遠く離れた大脳新皮質に軸索を伸ばし,大脳新皮質の活動に重要な影響を与えると考えられた。 (9)大脳皮質視覚野抑制性シナプスにおける長期増強の誘発・維持機構小松由紀夫(名古屋大学環境医学研究所視覚神経科学) ラット視覚野では,興奮性シナプスだけでなく抑制性シナプスにも長期増強と長期抑圧が起こることを,スライス標本を用いて我々は見出した。抑制性シナプスの長期増強は発達期に限局して起こるので,視覚反応可塑性の基礎過程と思われる。 (10)Gap juncitonを介して大脳皮質GABAニューロンが形成する樹状突起ネットワーク福田孝一(九州大学大学院医学研究院神経形態学) gap juncitonは細胞間の特殊な情報伝達部位であり,哺乳類の脳においても特定の神経細胞間にgap junctionが存在することが,電子顕微鏡により示されている。しかしながらこれらの神経細胞間gap junctionが生体の中で実際に果たす機能的役割については,不明な点が多かった。そこで,私たちは海馬におけるのgap junctionについて検討した結果,GABAニューロンの中でparvalbumin(PV)を含有するグループが,相互の樹状突起間に多数の接触部位を形成し,電子顕微鏡的にそこにgap junctionが存在することが観察された。PVニューロンの樹状突起は,gap junctionをなかだちとする他のPVニューロンの樹状突起との結合が確認され,樹状突起ネットワークともいうべき構造を形成していることを見いだした。さらに,PVニューロンはお互いの細胞体近傍にGABAシナプス終末を密に形成することも明らかにした。以上の結果から,海馬PVニューロンは,(1)軸索細胞体間の化学シナプスによる相互結合,(2)樹状突起間のgap junctionによる相互結合,に由来する二重のネットワークを形成していると考えられた。 (11)大脳皮質同期活動におけるGABA細胞の発火様式川口泰雄(生理学研究所大脳神経回路論研究部門) 大脳皮質のGABA作働性介在ニューロンを調べた結果,生理的・形態的・化学的性質の異なるいくつかのグループに分けられ,皮質の中に複数のGABA作働性システムが組み込まれていることが考えられる。皮質GABA細胞は,細胞内通電に対する発火様式が多様であることが知られているが,皮質が同期的な活動をしている時にどのようにスパイクを出すかは殆ど調べられていない。脳切片標本では自発的な活動は弱いので,外液のマグネシウム濃度を下げNMDA受容体を活性化させて強い発作的活動をおこし,その時の非錐体細胞の発火様式を調べ,サブタイプごとに比較した。その結果,皮質に引き起こされた特定の周期的活動時に非錐体細胞のそれぞれのサブタイプでは異なる発火様式を示した。以上の結果から,GABAニューロンのサブタイプがそれぞれ固有の生理的性質・シナプス結合パターンを使って,皮質の同期的活動の調節に関わると考えられる。 (12)GABAシグナリングに関わる新しい分子兼松 隆,平田雅人(九州大学大学院歯学研究院口腔細胞工学) 我々が精製・遺伝子クローニングしたPRIP1(新規Ins(1,4,5)P3結合蛋白質)は,PLC-d1類似蛋白質であるが,この分子はPLC酵素活性を持たない。Yeast two-hybrid screeningした結果,PRIP1とGABARAP(GABAA receptor gamma-2 subunit associated protein)とが結合することを観察した。GABARAPはPRIP1のEF-hand領域に結合し,その結合はGABARAPのGABAA receptor gamma-2 subunitに対する結合を阻害した。この結果に基づき,PRIP1のノックアウト(KO)マウスを作製し,GABAA受容体情報伝達経路に及ぼす影響を調べた。マウスの海馬細胞を用いwhole-cell patch記録法でGABA誘発性Cl-電流のZn2+による効果を調べた結果,KOマウスでは,Zn2+によるCl-電流の抑制効果が減弱化した。そこで,gammaサブユニットに作用点をもつベンゾジアゼピン系薬剤の影響を調べた。KOマウスの海馬細胞にジバゼパムを作用させたところGABA誘発性Cl-電流の増強効果が抑えられた。さらに,抗不安効果を評価するプラス迷路を用いたKOマウス行動解析実験においてもジバゼパム作用効果が減弱していた。これらの結果は,PRIP1 KOマウスではGABAA受容体のgammaサブユニットを介した情報伝達経路が正常に機能しない事を示唆している。 (13)GABA受容体rサブユニットの局在と機能的発現新貝鉚蔵(岩手大学工学部福祉システム工学科) GABA受容体rサブユニットはGABA,muscimolに応答し,GABA応答がpicrotoxinやzincイオンにより強く抑制されるなどのGABA受容体の基本的性質を有するが,一方,GABAA受容体の多くの薬理学特徴と異なる特徴(例えばbicuculline,pentobarbital,neurosteroids に対する感受性が低い)を持っている。これらの事からρサブユニットは薬理学的に分類されたいわゆるGABAC受容体の分子的実体とみなされている。我々はラット神経組織からρ1,ρ2,ρ3サブユニットcDNAをクローニングし,これら受容体の生理学的性質や神経系での局在を研究した。ρ3サブユニットは全生物を通して最初のクローニングであった。ρ1,ρ3サブユニットは,それぞれが機能的なhomomeric receptorsを形成した。各サブユニットの発現をRT-PCR法で検討した結果,ρ1サブユニットは脳に発現しておらず(網膜には発現),ρ2サブユニットは中脳,大脳,海馬に,ρ3サブユニットは小脳,中脳,海馬,視床,基底核で発現することを明らかにした。また,胎児(16日齢),生後8日齢,成熟ラットの脳を比較すると,ρ2サブユニットは胎児時から生後にかけて,発現量が大幅に増えるが,ρ3サブユニットは発生が進むに従い発現量が低下した。以上の結果は,海馬C3領域で報告されているGABAC様の応答を担う受容体の実体の解明等,GABAC受容体の機能を明らかにする上で有用な情報となる。 (14)GABAニューロン特異的遺伝子発現調節機構柳川右千夫(生理学研究所神経化学部門) (1)GABAニューロン特異的発現調節機序を解明すること,(2)GABAニューロンを標識することを目的として,マウスGAD(mGAD65, mGAD67)遺伝子を単離し,構造と発現について検討した。特に,mGAD65遺伝子あるいはmGAD67遺伝子のプロモーターを含む上流域に lacZ レポーター遺伝子を連結した融合遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作成して解析した結果,それぞれのプロモーターが組織及びGABAニューロン特異的発現に必須な役割を果たしていることを明らかにした。しかしながら,両GAD遺伝子ともすべてのGABAニューロンの発現には,遺伝子上流域のみでは不十分であり,さらに他の遺伝子領域が必要と考えられた。これらの結果を背景にして,in vivoでGABAニューロンを正確に標識することを目的として,mGAD67遺伝子に相同組み換えを利用した遺伝子標的法を用いて発光オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白,Green fluorescent protein(GFP)遺伝子をノックインしたマウス(GAD67遺伝子GFPノックインマウス)の作成を試みている。この遺伝子改変マウスの利用により,GABAニューロンの電気生理学的解析や発生過程の解析が進捗することが期待される。
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