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6.細胞死の分子機構と病態生理2001年8月7日−8月8日
【参加者名】 【概要】 近年,細胞死のメカニズムが分子レベルで解明されつつある。特にカスパーゼを中心としたアポトーシス実行過程の研究は目覚ましいものがある。一方で,カスパーゼ活性化に至るまでのシグナル伝達機構には不明な部分が多く,また最近ではカスパーゼ非依存性細胞死の存在も明らかにされている。さらに,正常な細胞死メカニズムの破綻が,がん,免疫,神経変性疾患などの疾患の原因となることが示唆される一方で,実際には個別の疾患にどのように細胞死が関わっているかは不明な点が多く,これらの疾患の診断,治療,予防を実際的に考える上で重要な問題となっている。日本におけるこのような現状の一因は,分子レベルでの細胞死研究と病態生理学的見地からの細胞死研究が十分な情報交換がなされないままに進行していることにあると考えられる。本研究会は,生存と死のシグナル伝達機構を中心に,アポトーシス関連分子群を対象として解析している研究者と,様々な病態における細胞死の役割について研究している研究者が一堂に会し,情報交換を行なうことによって細胞死の分子機構ならびに病態生理を明らかにする機会を提供することを目的として開催され,予想通り極めて活発な討論が行われた。特に生存と死のシグナル伝達を軸に,カスパーゼ,Bcl-2,IAP,NF-κB,セリン/スレオニンキナーゼ,などのアポトーシス関連分子群の解析結果を中心として,お互いの最新の研究成果が発表された。その結果,特にがん,免疫,神経変性疾患等の疾患と細胞死の分子機構破綻の関連性がさらに強く示唆され,本研究会の指向する研究の重要性が再認識された。 (1)リンパ球アポトーシスの制御機構鍔田武志(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・免疫部門) B細胞抗原受容体(BCR)を介するアポトーシスの分子機構やその免疫システムにおける役割には不明の点が多い。我々は,TNF受容体ファミリーの一員であるCD40分子を介するシグナルがBリンパ球の抗原受容体(BCR)を介するアポトーシスを阻害することを明らかにしたが,CD40リガンドを過剰発現するトランスジェニックマウスを用いた解析により,BCRを介するアポトーシスが自己反応性B細胞の除去を誘導することにより,免疫システムの成立・維持に重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに,我々は,Bリンパ球株WEHI-231を用いて,BCR架橋によるアポトーシスの分子機構について検索した。WEHI-231細胞では,BCR架橋によりc-Mycの発現が亢進し,また,細胞周期阻害分子p27Kip1の発現がおこる。我々は,WEHI-231細胞のc-Myc活性を阻害,または誘導することのより,BCR架橋によるアポトーシスがMyc誘導性アポトーシスの1つであり,さらに,Bリンパ球ではc-Mycがp27Kip1と協調的にアポトーシスを誘導することを明らかにした。これまで,細胞周期阻害分子によるアポトーシス制御が細胞の種類によって異なることが示され,コンテキスト依存的であることが明らかになっていたが,我々の結果からc-Mycの発現レベルがこのようなコンテキスト形成に関与することが示唆された。 (2)TNFにより誘導される細胞死に対する抑制のメカニズム中野裕康(順天堂大学・医学部・免疫・PREST) 我々の作製したTNF receptor-associated factor (TRAF) 2 /TRAF5ダブルノックアウトマウス(DKO)由来の胎児線維芽細胞(MEF)はTNF単独刺激により著明な細胞死が誘導されることが明らかとなった。そこでその分子メカニズムを明らかにするために,wild-typeおよびDKO 由来のMEFをTNF刺激前後で種々の抗アポトーシス遺伝子の発現誘導を検討した。検討した範囲内においてはBcl2ファミリーに属するA1/Bfl-1の誘導が著明に低下していたが,この遺伝子をDKO由来のMEFに恒常的に発現させても,TNF誘導性細胞死に対する抑制効果は不十分であった。そこで我々は新規抗アポトーシス分子を同定するために,DKO由来の MEFにレトロウイルベクター用いcDNAライブラリーを導入し,TNFによる細胞死に抵抗性となるクローンを選択し,新たな遺伝子BMSを同定した。BMSは964個のアミノ酸よりなっており,発現レベルは低いながらもすべての組織において認められた。BMSを恒常的に発現させたDKO由来MEFはTNF誘導性の細胞死に部分的に抵抗性となったが,スタウロスポリンやUV照射などの刺激に対しては抵抗性とならなかった。さらにB細胞腫であるA20.2Jに発現させたところ抗Fas抗体刺激による細胞死を著明に抑制した。一方BMSを恒常的に発現させたMEFをTNF刺激存在下で培養することにより,著明な形態学的変化が誘導された。これらの結果はBMSが抗アポトーシス機能を有すること,さらにはこの遺伝子の過剰発現が細胞の癌化にも関与している可能性を示唆するものである。 (3)血球分化におけるDNaseIIの役割福山英啓(大阪大学・大学院医学研究科・生体制御医学遺伝学) 私達はこれまでに,アポトーシスにおけるDNA断片化を担う分子として,Caspase-Activated DNase(CAD)及びそのインヒビターであるICADをクローニングし,これらの分子の生化学的また生理的作用について解析を行ってきた。このCADを不活化したマウスの研究から,アポトーシス刺激によりcell-autonomousなDNA断片化は起きないが,アポトーシス細胞を貪食したマクロファージ内においてDNA断片化が起こることを明らかとした。このマクロファージによるnon-cell autonomousなDNAの断片化を行う候補分子としてリソソームDNaseであるDNaseIIが考えられる。そこでDNaseIIの遺伝子を欠損させたマウスを作成した。このマウスは胎生期14日目頃から貧血の症状を示し,胎生期の最終段階で死滅したことから,赤血球の増殖,分化過程に異常があると考えられた。しかし,DNaseII欠損マウス胎児肝細胞を他のマウスに移植すると正常の赤血球が形成された。一方,胎児肝臓には数多くの病巣が見られ,電子顕微鏡などの観察から,この病巣は赤血球前駆細胞から除去された多量の核を貪食しているマクロファージと結論された。マクロファージ内のDNaseIIは赤血球分化の最終段階の脱核した核のDNAの分解を担っている。 (4)JNK経路による細胞死の制御後藤由季子(東京大学・分子細胞生物学研究所) MST1はJNK/p38経路を活性化するMAPKKKKである。MST1はCaspaseにより切断を受けることで活性が上昇する。この切断によりキナーゼドメインが核外移行シグナルから離れ,核内に移行することが明らかになった。MST1の発現は,Caspaseの活性化を惹起し,DNAの断片化,核の凝集,アポトーシス小体の形成といったアポトーシスに典型的な形態変化をJNK依存的に引き起こした。MST1によるDNAの断片化はCaspase活性に依存していたが,細胞の形態変化や核の凝集,アポトーシス小体の形成はCaspase阻害剤によって抑制されなかった。従ってMST1の下流には,Caspase依存的な経路と非依存的な経路が存在する可能性が示唆された。JNKによるCaspase活性化のメカニズムは未だ明らかではないが,我々は最近JNKの活性化がBAXのミトコンドリアへの移行を引き起こすことを見いだした。これらの結果を踏まえ,細胞死におけるJNKの役割について考察したい。 (5)Bcl-2ファミリーたんぱくの機能辻本賀英(大阪大学・大学院医学系研究科・遺伝子学) アポトーシスの制御因子であるBcl-2ファミリーたんぱくは,アポトーシス抑制機能を有するメンバー(Bcl-2やBcl-xLなど)とアポトーシス促進機能を持つメンバー(Bax, BakなどとBH3-onlyたんぱくなど)からなっており,主にミトコンドリアで,カスペース活性化因子(シトクロムcやSmac/Diabloなど)の漏出につながる外膜の透過性を制御することにより,アポトーシスを調節している。 (6)T細胞の分化・増殖におけるミトコンドリア依存性アポトーシス経路の役割吉田裕樹,原 博満(九州大学・生体防御医学研究所・免疫学部門) 胸腺細胞は,CD4-CD8-ダブルネガティブ(DN)細胞から,CD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)細胞ステージを経てCD4+/CD8+シングルポジティブ(SP)細胞へと分化する。DP細胞のうち自己MHCを認識する細胞がポジティブセレクションを受ける一方,自己MHCを認識できないものはdeath by neglectにより除去される。さらに,自己抗原と反応性を持つクローンはネガティブセレクションにより除去されることによりT細胞レパトワーが形成される。末梢T細胞において,Fasを介したアポトーシスは活性化T細胞や自己反応性のクローンの除去に関与する。また末梢T細胞の生存にはMHCよりの生存刺激が必要とされ,対応するMHC非存在下ではT細胞は速やかに消失する。 (7)ショウジョウバエを用いた神経細胞死の遺伝学的研究三浦正幸(理化学研究所・脳科学総合研究センター・細胞修復機構) 神経細胞死の実行経路を遺伝学的に明らかにする目的で,ショウジョウバエを用いたスクリーニングを試みている。染色体欠失系統を用いたカスパーゼ依存的細胞死実行遺伝子reaperのドミナントモディファイアースクリーニングを行った結果,JNK の活性化がreaperによる細胞死実行に深く関わっていることが明らかになった。同様の染色体欠失系統を用いたスクリーニングによってDrob-1(proapoptotic bcl-2ファミリー)によるカスパーゼ非依存的な細胞死実行経路の研究を行っている。複数の染色体欠失系統の交配実験によってDrob-1による細胞死に必要な染色体領域(SD1と命名)を同定した。SD1欠失系統はGMR-Drob1による複眼の縮小を有意に回復させるが,repaer, hid, grimによるカスパーゼ依存的な細胞死を抑制する事はできなかった。 (8)アポトーシス誘導における細胞容積調節破綻の役割前野恵美,石崎泰樹,若林繁夫,鍔田武志,岡田泰伸(生理研・機能協関,群馬大・医,循環病セ,東医歯大・医) アポトーシスには等浸透圧環境下においても持続的細胞収縮が伴われるので,細胞容積調節メカニズムの異常の関与が考えられる。事実,このアポトーシス性細胞収縮(Apoptotic Volume Decrease:AVD)を示している細胞を低浸透圧液に置くと,浸透圧性膨張後の調節性収縮(Regulatory Volume Decrease:RVD)が著しく促進していることを以前報告した。このAVD発生は,チトクロームc放出や,カスパーゼ活性化,DNAラダー化などの生化学的反応に先行し,カスパーゼ阻害剤によっても阻止されない。RVDはK+チャネルとCl−チャネルの活性化によって達成されるので,これら容積調節性チャネル阻害剤の効果を調べたところ,AVDのみならず上記の生化学的反応も抑制され,細胞死もまた阻止されることが判明した。ミトコンドリアを介さないアポトーシスでもチャネル阻害剤で同様の結果が得られ,そして,アポトーシス抑制タンパク質Dcl-2を強制発現させた細胞では,アポトーシス刺激に対して上記の生化学的反応は起こさなかったが,細胞収縮はみられた。一方,高浸透圧負荷下の浸透圧性収縮の後にみられる調節性膨張(Regulatory Volume Increase:RVI)能を欠く細胞では,高浸透圧性負荷によってアポトーシスが誘導される。RVIの達成に関与することの知られているNa+/H+アンチポータのNHE1アイソフォームを強制発現させてRVI能を持たせた線維芽細胞では,高浸透圧性アポトーシスが見られなくなることを見出した。これらのことから,アポトーシスにおける細胞収縮は,ミトコンドリアとは独立した細胞容積調節破綻と深く関係していることが明らかとなった。 (9)アポトーシス初期過程における細胞内K+,Cl-濃度変化とCa2+動員出崎克也1,2,前野恵美1,岡田泰伸1(1生理学研究所・機能協関部門,2自治医科大学・生理学2) アポトーシス初期過程において,カスパーゼの活性化に先だって細胞容積の縮小(AVD;Apoptotic Volume Decrease)が認められる。AVD時には低浸透圧負荷時のRegulatory Volume Decrease(RVD)の促進が見られることから,AVDもまた容積調節性チャネルを介する細胞外へのK+およびCl-の流出に起因したものと考えられる。そこで本研究では,スタウロスポリン誘発アポトーシス初期過程における細胞内K+(PBFI蛍光),Cl-(MQAE蛍光)動態を測定した。その結果,スタウロスポリン投与によってカスパーゼ非依存的な細胞内K+およびCl-濃度の低下が観察され,それぞれK+およびCl-チャネルブロッカーによって抑制された。さらに,細胞内Ca2+濃度変化(Fura-2蛍光)を測定したところ,持続的な細胞内Ca2+の増加が観察された。そこで,細胞内K+,Cl-濃度の低下とCa2+濃度の増加との関連について検討を加え,アポトーシスにおけるこれら細胞内イオン動態の役割について考察する。 (10)Fas誘導アポトーシスを制御するシグナル伝達:マップキナーゼ(ERKとJNK)の関与米原 伸(京都大学・ウイルス研究所・がんウィルス研究部門) 我々が発見したアポトーシス誘導細胞表層レセプター分子Fasは,がん細胞,ウイルス感染細胞や自己反応性リンパ球などの除去に関わっており,自己免疫疾患の発症の防御や,がん抑制遺伝子としても機能している。そして,がん化した細胞や生体内で機能しなければならないリンパ球では,Fasを介するアポトーシスが抑制される細胞内分子機構が働いている。ここでは,Fasを介するアポトーシス誘導とその抑制の分子機構,またFas刺激に耐性となった細胞が感受性をとりもどす分子機構について,我々が明らかにしてきた最近の研究結果を報告したい。具体的には,がん遺伝子産物Rasやヒト成人T細胞白血病ウイルスのがん遺伝子産物p40Taxが,ERK→CREBの活性化や,NF-kBの強い活性化によってFasを介するアポトーシス誘導を阻害するメカニズムを報告する。また,Fas刺激非感受性白血病細胞株では,アダプター分子FADDのFasへの会合が阻害されているが,この阻害がFas刺激によって活性化されたJNKを介するアダプター分子FADDのリン酸化によって解除される分子機構も解説する予定である。 (11)神経細胞死の新しい分子機構:異常蛋白質から空胞形成・細胞死への分子シグナル垣塚 彰(京都大学・大学院生命科学研究科・高次生体統御学分野) これまで,神経変性疾患は,疾患ごとに特有の障害部位とその結果として特有の症状(痴呆・運動失調・異常運動・筋力低下等)を示し,多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構に関わる概念・分子機構を導き出すことはできないと考えられてきた。しかし,近年,変性しつつある神経細胞内に異常蛋白の凝集物や形態的に類似するvacuoleがかなり普遍的に存在することが判明し,神経が変性・消失する過程には,似通った分子機構が存在するという考えが広まってきた。本講演では,これまで我々が行ってきた遺伝性神経変性疾患の発症メカニズム,すなわちハンチントン舞踏病・Machado-Joseph 病等の原因となる伸長したCAGリピートが作り出すグルタミンリピートによって引き起こされる神経細胞の死・変性の分子解析を紹介し,これらの変異が生み出す生化学的実体(シグナル伝達分子)について議論する。 (12)RINGフィンガー蛋白質と細胞死高橋良輔(理化学研究所・脳科学総合研究センター・運動系神経変性研究チーム) 最近,RINGフィンガー蛋白質の多くはユビキチンプロテアソーム蛋白質分解系に関わるユビキチンリガーゼ(E3)であることがわかってきた。E3は特異的に基質蛋白質と結合し,基質のユビキチン化を促進させることで分解に導く酵素である。XIAPはN末側にBIRモチーフ,C末端にRINGフィンガーモチーフを有する抗アポトーシス蛋白である。XIAPはBIRを介してアポトーシスの実行分子であるカスパーゼに結合し,活性を阻害するうえ,RINGを介してカスパーゼ-3のユビキチン化及び分解を促進するE3であることが判った。E3作用を失ったXIAPは抗アポトーシス作用も減弱する。一方,常染色体劣性遺伝性パーキンソン病(AR-JP)の病因遺伝子Parkinも,RING-IBR-RINGモチーフを有するE3である。我々はParkinの基質としてG蛋白共役型受容体,Pael (Parkin-associated endothelin receptor-like)を同定した。Pael受容体はAR-JP患者脳に正常の10-30倍以上蓄積していた。またこの受容体は培養細胞で蓄積させると細胞死を誘発し,脳の神経細胞の中ではドパミンニューロンに比較的特異的に発現していた。以上より,Pael受容体はAR-JPの発症に重要な役割を果たすと考えられる。 (13)Rasにより制御される非アポトーシス性プログラム細胞死北中千史,口野嘉幸(国立がんセンター研究所・生物物理部) 近年カスパーゼに依存せずアポトーシスとは異なった形態を示すプログラム細胞死の存在が明らかになってきたが,このような細胞死の制御に関わる分子やその生体内での役割についてはよくわかっていない。rasは多くのヒト癌で高頻度に変異・活性化が見られる代表的癌遺伝子であるが,グリオーマや神経芽腫などいくつかの癌ではその変異が極めて稀である。この点に着目しこれら癌細胞におけるRas活性化の影響を調べたところ,活性型Rasの発現がグリオーマ細胞に対してautophagic degenerationと呼ばれアポトーシスとは異なる生理的細胞死をカスパーゼの活性化を伴わずに誘導することが明らかとなった。一方神経芽腫では自然退縮を起こしやすく予後良好な腫瘍でRasの発現が亢進していることが知られている。組織学的検討の結果,自然退縮傾向の強い神経芽腫において,Rasの高発現を伴いアポトーシスの形態学的・生化学的特徴を示さない細胞死が起きていることが確認された。さらに神経芽腫細胞内でRasを発現させると腫瘍組織で認められたのと同様の特徴を示す細胞死がカスパーゼ非依存的に誘導された。以上の結果は,Rasにより制御される非アポトーシス性細胞死が癌形成に対して抑制的に機能している可能性を示唆している。 (14)ストレス応答性MAPキナーゼの生理的役割仁科博史,中川健太郎,堅田利明(東京大学・大学院薬学系研究科・生理化学) SAPK/JNKシグナル伝達系は,物理化学的ストレスや炎症性サイトカインによって活性化されるMAPキナーゼファミリーの一つであり,細胞の生存や死の制御を含むストレス応答に関与することが明らかにされている。我々はこれまでに,SAPK/JNKの活性化因子であるSEK1/MKK4やSEK2/MKK7を欠損するマウスES細胞やマウス個体を作製し,発生や免疫系に必須の生理的役割を果たしていることを明らかにしてきた。本研究会では,1)SEK1およびMKK7による相乗的なSAPK/JNKの活性化機構,2)紫外線照射によって活性化されるSAPK/JNK系およびERK系の分子機構およびその生理的役割,3)生理的役割を理解するためのMAPキナーゼの基質探索法について紹介する予定である。 参考文献:
(15)小胞体ストレス応答の分子機構河野憲二(奈良先端科学技術大学院大学・遺伝子教育研究センター) 小胞体は,分泌蛋白や膜蛋白質合成を行う場として知られているが,新しく合成された蛋白質の高次構造形成を行う場として,またその立体構造が正しくとられているかどうかをチェックする場としての重要な機能もになっている。細胞が外界から各種のストレス(ウィルス感染,発熱,薬剤投与,重金属摂取など)を受けると,小胞体内での蛋白質の折り畳みに支障を生じ構造異常蛋白質が小胞体内に蓄積する。これは小胞体ストレスとよばれ,細胞はこの小胞体ストレスに対抗して,小胞体シャペロン遺伝子群の転写レベルでの誘導(Unfolded Protein Response: UPR)とタンパク質の翻訳レベルでの抑制を起こす。この細胞応答を小胞体ストレス応答と呼び,この応答に小胞体膜貫通タンパク質IRE1とPERKとが重要な役割をになっている。動物細胞のIRE1は IRE1αとIRE1βの2種類あることがわかっており,今回我々は小胞体ストレスに応答してIRE1βが活性化すると28S rRNAを特異的に切断し,タンパク質合成の抑制に働くことを明らかにしたのでその分子機構について報告する。 (16)小胞体および核機能異常とアルツハイマー病の神経細胞死今泉和則(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・細胞構造学) アルツハイマー病患者脳でみられる神経細胞死は,アミロイドの蓄積と密接に関連すると信じられているが詳細なメカニズムの解明には到っていない。我々は家族性および孤発性アルツハイマー病の原因遺伝子の機能解析を通し,アルツハイマー病でみられる神経細胞死がオルガネラの機能異常,特に小胞体および核の機能異常が引き金となる可能性を明らかとしてきた。本研究会では,家族性アルツハイマー病の原因遺伝子プレセニリン1が小胞体ストレスセンサーの機能を撹乱して各種ストレスに対し抵抗性を減弱させ神経細胞死を引き起こす可能性と,孤発性アルツハイマー病ではプレセニリン2の異常スプライシングがトリガーとなって,そのスプライシング変種由来のたんぱく質が神経細胞にダメージを与える可能性について紹介する。さらに最近,プレセニリン2の異常スプライシングを誘導する因子の同定に成功したので,その研究成果についても報告する。 (17)ポリQ蛋白質による神経細胞死のメカニズム西頭英起,一條秀憲(東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・分子情報伝達学分野) ポリグルタミン病の原因は,伸長したポリグルタミン鎖を含む原因遺伝子産物の凝固体が,神経細胞内に蓄積することによる。しかし,その神経細胞死の分子機構については未だ不明な点が多い。我々は,1)ポリグルタミン凝固体がユビキチンプロテアゾーム機構の破綻によってもたらされる小胞体ストレスを誘導する,2)JNK/p38経路においてMAPKKKとして機能するASK1が小胞体ストレス誘導性アポトーシスに必須である,3)ASK1−/−由来の初代培養神経細胞を用いた解析により,ポリグルタミン誘導性細胞死にASK1が必要であることを明らかにした。従って小胞体ストレス-ASK1系を介したアポトーシスシグナルが,ポリグルタミン病発症の分子メカニズムにおいて重要な役割をしていることが示唆された。
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