生理学研究所年報2002

13.第2回脳磁場ニューロイメージング

2001年11月28日－11月30日
代表・世話人：栗城眞也（北海道大学電子科学研究所）
所内対応者：柿木隆介（岡崎国立共同研究機構生理学研究所）

（１）: グラジオメータとマグネトメータで計測された脳磁界の信号源推定精度

竹内文也， Kimmo Uutela, Lauri Parkkonen，栗城眞也（北海道大学電子科学研究所）
（２）: MEG raw data 時系列の遅延時間座標系での振る舞い

中岡高博，Md.M.Rahman Khan，浅田　博，谷塚　昇（大阪府立大学・総合科学部）
外池光雄（業技術総合研究所関西センター）
（３）: MEGにおける測定変量間の開ループ伝達関数の同定

原崇，岸田邦治（岐阜大学・工学部・応用情報科学）
篠崎和弘，鵜飼聡（大阪大学・医学部・神経機能医学講座）
（４）: LORETA法による言語優位脳半球の推定

三島喬，竹内文也，栗城眞也（北海道大学電子科学研究所）
鎌田恭輔（北海道大学・医学部・脳神経外科）
（５）: 脳磁図・MRI統合ソフトの開発

橋詰　顕，栗栖　薫，有田和徳，飯田幸治，花谷亮典（広島大学・医学部・脳神経外科）
籬　拓郎（日比野病院）
（６）: 指の一次体性感覚野の発達的変化に関する検討（第2報）

權藤健二郎，飛松省三，原　寿郎（九州大学・医学部附属病院・小児科）
（７）: 鍼灸のツボ打撃による脳のMEG信号の検出

川端啓介（大阪府立大学）
内野勝郎（全国柔整師協会）
外池光雄（産技総研ライフエレクトロニクスセンター）
（８）: 口唇に局所失調症を患う器楽奏者のMEG反応

平田恵啓（北海道大学電子科学研究所）
マティアス・シュルツ，クリスト・パンテフ
（Institute for Experimental Audiology, University of Muenster, Germany）
エッカート・アルテンミュラー
（Institute of Music Physiology and Performing Arts Medicine, Academy of Music and Drama, Germany）
（９）: 電気味覚に対する脳磁場計測

武原志帆，森川聖美，山本千珠子，山本　隆（大阪大・人間科学・行動生理）
中川誠司，山口雅彦，岩木　直，外池光雄（産業技術総合研究所）
（10）: 味覚誘発電位・磁場の同時計測

小早川　達，溝口千恵，斉藤幸子（産業技術総合研究所）
小川　尚（熊本大学・医学部）
（11）: 磁界計測を用いた脊髄機能マッピング

小森　博達，川端　茂徳，大久保　治修，福岡　優子，四宮　謙一
（東京医科歯科大学・医歯学総合研究科・脊椎脊髄神経外科学）
（12）: 坐骨神経標本を用いた活動磁界測定

福岡優子，小森博達，川端茂徳，大久保治修，四宮謙一（東京医科歯科大学・脊椎脊髄神経外科学）
（13）: 針電極を用いた表皮内電気刺激による誘発脳磁場

乾　幸二，Tran Diep Tuan，秋　云海，王　暁宏，宝珠山稔，柿木隆介
（岡崎国立共同研究機構・生理学研究所・統合生理研究施設）
（14）: Cerebral activation by the signals ascending through unmyelinated C-fibers in humans:
a magnetoencephalographic studyTuan Diep Tran, Koji Inui, Minoru Hoshiyama, Khanh Lam, Yunhai Qiu, Ryusuke Kakigi

（岡崎国立共同研究機構・生理学研究所・統合生理研究施設）
（15）: 絶対音感保持者の脳磁場計測～中潜時以降のダイポール分布について

広瀬宏之，久保田雅也，木村育美，大澤麻記，榊原洋一，湯本真人（東京大学・小児科・検査部）
（16）: 楽譜を見て音を想起する時の脳磁場について

久保田雅也，木村育美，広瀬宏之，榊原洋一（東京大学・小児科）
（17）: 音楽性幻聴および幻視（シャルル・ボネ症候群）のMEGの空間フィルター解析

山本雅清，篠崎和弘，鵜飼聡，川口俊介，石井良平，小川朝生，水野（松本）由子，
井上　腱，武田雅俊（大阪大学大学院医学系研究科・精神医学教室）
吉峰俊樹(大阪大学大学院医学研究科・脳神経外科学教室)
平吹度夫(大阪大学大学院医学研究科・放射線医学教室)
田中迪生(田中診療所）
Stephen E.Robinson（CTF Systems Inc.）
（18）: 演算処理に関する脳磁界計測－数の大小比較について－

高栄　智，樋脇　治（広島市立大学・情報科学部）
橋詰　顕，栗栖　薫（広島大学・医学部・脳神経外科）
（19）: てんかんのdipole推定における導体モデルの影響　－ファントムによる実験の総括－

金子　裕^1,2，湯本真人³ ，斎藤　治⁴ ，大槻泰介¹，有馬邦正²
（¹国立精神・神経センター武蔵病院脳神経外科，²国立精神・神経センター武蔵病院臨床検査部，
³東京大学医学部附属病院・臨床検査部，⁴国立精神・神経センター武蔵病院精神科）
（20）: 当院での脳磁図による部分てんかん焦点診断の現状

大石　誠，亀山茂樹，師田信人，増田　浩（国立療養所・西新潟中央病院）
（21）: MEGの速波発生源とてんかん源性領域との関連の検討

二宮宏智，加藤天美，平田雅之，新居康夫，山田淳二，平野俊一朗，谷口理章，吉峰俊樹
（大阪大学・脳神経外科）
今井克美（大阪大学・小児科）
（22）: 脳磁図におけるてんかん棘波の持続時間とdipole集積との関係について

芳村勝城，渡辺裕貴（国立療養所・静岡神経医療センター）
（23）: 非磁性ゴーグル型光刺激装置を用いた光感受性てんかんの検査について

吉田　綾，渡辺裕貴，芳村勝城（国立療養所・静岡神経医療センター）
（24）: 手・足・顎のself-paced運動に伴う運動準備磁界の検討

遠藤博史，成田紀之，加藤雄一郎，武田常広
（産業技術総合研究所・脳神経情報部門・感覚認知科学研究グループ）
（25）: 随意性顎運動に関連する大脳皮質領域の脳磁場解析

澁川義幸^1,2，熊井敏文^1,2,3，新谷益朗¹，鈴木　隆^1,2，中村嘉男^1,4
（¹東京歯科大学・口腔科学研究センター，²東京歯科大学・生理学講座，
³松本歯科大学・口腔生理学講座，⁴帝京平成大学・福祉情報学科）
（26）: ボタン押し運動における運動強度の制御と運動関連脳磁場の検討

江坂茂朗，高木孝志，小谷賢太郎，堀井　健（関西大学・工学部・管理工学科）
外池光雄（産業技術総合研究所関西センター）
（27）: 大脳基底核に対する複雑手指運動の運動頻度の影響

岡山　晶，谷脇考恭，後藤純信，飛松省三（九州大学大学院医学研究院・脳研臨床神経生理）
吉良潤一（九州大学大学院医学研究院・脳研神経内科）
吉浦　敬（九州大学大学院医学研究院・放射線科）
中村泰彦（九州大学大学院医学研究院・放射線部）
（28）: Behavioral and MEG measures reveal brain plasticity in training Japanese adults to learn the /l-r/ contrast

Yang Zhang ^{1, 2}, Patricia Kuhl^{1, 2}, Toshiaki Imada ^{1, 2, 3, 4}, Makoto Kotani⁵, John Pruitt⁶
（¹Center for Mind, Brain and Learning,
²Department of Speech and Hearing Sciences, University of Washington, Seattle, WA 98195, USA;
³NTT Communication Science Laboratory,
⁴Real World Computing Partnership, Nippon Telegraph and Telephone Corporation,
Atsugi-shi, Kanagawa 243-0198, Japan; ⁵Tokyo Denki University, Chiyoda-ku, 101-8457, Japan;
⁶Microsoft Corporation, Redmond, WA 98052, USA）
（29）: 周波数変化に対する脳磁界反応

神本さゆり¹, 浅香雪夫¹, 今田俊明^2,3, 関原謙介⁴, 小谷　誠⁵
（¹東京都立科学技術大学大学院・システム基礎工学専攻，
²日本電信電話株式会社・NTTコミュニケーション科学基礎研究所
³マルチモーダル機能NTT研究室 Real World Computing Partnership，
⁴東京都立科学技術大学・電子システム工学科，⁵東京電機大学）
（30）: 聴覚言語刺激の途切れによる聴覚野の神経活動の脳磁界計測

岩木　直, 浜田隆史, 外池光雄（産業技術総合研究所・ライフエレクトロニクス研究ラボ）
東義隆（神戸大学・自然科学研究科）
川野常夫（摂南大学・工学部）
（31）: 骨導可聴音および骨導超音波の知覚メカニズム：脳活動計測による検討

中川誠司，山口雅彦，外池光雄（産業技術総合研究所）
細井裕司（奈良県立医科大学）
今泉　敏（広島県立保健福祉大学）
渡辺好章（同志社大学）
（32）: ペア刺激による聴覚誘発P50m，N100mの回復曲線

湯本真人，伊藤憲治，加我君孝（東京大学・医学部）
宇野　彰，金子　裕，齋藤治（国立精神・神経センター）
（33）: 刺激間隔における1/fnゆらぎのGO/NO-GO反応に及ぼす影響についての検討

原田暢善，中川誠司，岩木　直，山口雅彦，外池光雄，守谷哲郎
（産業技術総合研究所・関西研究センター・ライフエレクトロニクス研究ラボ）
（34）: アスペルガー症候群小児における顔の表情認知処理機構－脳磁場計測による解析

木村育美，久保田雅也，広瀬宏之，榊原洋一（東京大学医学部附属病院・小児科）
湯本真人（東京大学医学部附属病院・検査部）
（35）: 運動順応の運動検出とV5反応の効果

谷川昌司，外山敬介，荒川　彰，梶原茂樹，吉田圭一，江島義道
（京都大学人間・環境学研究科，島津製作所）
（36）: 顔パターン検出過程の脳磁図による検討

加藤　隆，加藤元一郎（東京歯科大学市川総合病院・精神神経科）
村松太郎（慶應義塾大学・医学部・精神神経科学教室）
新谷益朗（東京歯科大学口腔科学研究施設）
（37）: Williams症候群の神経生理学的研究

中村みほ^1,2，金桶吉起¹，渡邊一功³，柿木隆介¹
（¹国立共同研究機構・生理学研究所，²愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所，
³名古屋大学医学部・小児科）
: （特別講演）MEGの新しい方法論：脳研究への適用

外山敬介（島津基盤技術研究所顧問，京都府立医科大学名誉教授）

【参加者名】
浅田　博（大阪府立大・総合科学），足立　信夫（早稲田大大院・理工），井原　綾（大阪大大院・医学研究），今田　俊明（日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所能診断学），岩木　直（産業技術総合研究所ライフエレクトロニクス研究ラボ），岩本　一秀（大阪鉄道病院神経内科），鵜飼　聡（大阪大大院・医学研究），江坂　茂朗（関西大・工），遠藤　博史（産業技術総合研究所脳神経情報部門），大石　誠（国立療養所西新潟中央病院），岡山　晶（九州大大院・医学研究），小川　朝生（大阪大大学医学系研究），小野田　恵子（日本大・医学部附属病院），小野　弓絵（早稲田大大院・理工），梶原　茂樹（（株）島津製作所基盤技術研究所），加藤　隆（東京歯大・市川総合病院精神神経科），金子　裕（国立精神・神経センター武蔵病院MEG検査室），神本　さゆり（東京都立科学技術大大院・システム基礎工），川口　俊介（大阪大大院・医学系研究），川端　啓介（大阪府立大），神鳥　明彦（日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部），岸田　邦治（岐阜大・工），木村　育美（東京大・医学部附属病院小児科），久保田　雅也（東京大・小児科），小谷　賢太郎（関西大・工），後藤　寛（横河電機（株）航機事業部MEGセンタ），小早川　達（産業技術総合研究所），小南　敦之（筑波大大院・運動生化学），小森　博達（東京医歯大・脊椎脊髄外科学），權藤　健二郎（九州大・医部附属病院小児科），斉藤　幸子（産業技術総合研究所），坂本　真一（大阪市立大大院・脳神経外科），佐々木　博俊（CBC株式会社），篠崎　和弘（大阪大大院・医学研究），澁川　義幸（東京歯科大・生理学講座・口腔科学研究センター），新谷　益朗（東京歯科大・口腔科学研究センター脳科学研究施設），須田　頼昌（CBC株式会社），高栄　智（広島市立大・情報科学），高木　孝志（関西大・工），高田　あゆみ（エレクタ株式会社MEGプロジェクト部），高梨　芳彰（京都府立洛東病院），竹内　文也（北海道大・電子科学研），竹下　和秀（東京大・医），武原　志帆（大阪大・人間科学），谷川　昌司（京都大・人間），谷脇　考恭（九州大大院・医学研究），千々布　敏弥（国立教育政策研），Yang（Center for Mind，Brain and Learning，University Washington），露口　尚弘（大阪市大・脳神経外科），外池　光雄（産業技術総合研究所関西センターライフエレクトロニクス研究），飛松　省三（九州大大院医学研究院脳研臨床神経生理），外山　敬介（島津基盤技術研究所，京都府立医科大），中岡　高博（大阪府立大大院・理学研究），中川　誠司（産業技術総合研究所ライフエレクトロニクス研究ラボ），中田　大貴（筑波大・人間総合科学），長峯　正典（大阪大大院・医学研究），中村　みほ（愛知県コロニー発達障害研究所），二宮　宏智（大阪大・医），橋詰　顕（広島大・医），橋本　章子（信州大社会医学系大院），畑中　啓作（エレクタ株式会社），花岡　繁（国立精神・神経センター武蔵病院），馬場　俊輔（京都府立医大・歯），早川　友恵（通信総合研究所関西先端研究センター脳機能グループ），原　崇（岐阜大大院・工学研究科），原田　暢善（産業技術総合研究所関西センターライフエレクトロニクス研究），平田　恵啓（北海道大・電子科学研），廣江　総雄（東京工大大院総合理工学研究），広瀬　宏之（東京大・医），樋脇　治（広島市立大・情報科学），福岡　優子（東京医歯大脊椎脊髄外科学），藤巻　則夫（通信総合研究所関西先端研究センター脳機能グループ），宝珠山　稔（生理研），三島　喬（北海道大・電子科学研），美馬　達哉（京都大・医学研究），宗綱　信治（九州工大・生命体工学），森川　聖美（大阪大・人間科学），山口　雅彦（産業技術総合研究所関西センターライフラボ），山崎　貴男（九州大大院・医学研究），山田　信一（広島大・歯），山本　千珠子（独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門），山本　雅清（大阪大大院・医学系研究），湯本　真人（東京大・医学部附属病院検査部），横田　公一（CBC株式会社），吉田　綾（国立療養所静岡神経医療センター），芳村　勝城（国立療養所静岡神経医療センター），和坂　俊昭（筑波大・体育科学），渡辺　裕貴（国立療養所静岡神経医療センター），荒川　彰（島津製作所基盤技術研究所）

【概要】
　昨年度に続く第2回目として，「脳磁場ニューロイメージング」研究会を岡崎コンファランスセンターで平成13年11月28日（13時）から11月30日（12時）の日程で開催した。世話人は筆者と，統合生理研究施設の柿木隆介教授である。
　研究発表は「体性感覚，味覚」「運動」「聴覚」「視覚」「臨床応用」「高次機能・音楽」「逆問題・信号解析」のセッションに分け，計37演題の発表が行なわれた。
　体性感覚と味覚に関しては，運動系の局所失調症（dystonia）と感覚中枢の塑性的変化の関係を探る試みや，c-fiberを経由する遅い痛み感覚の神経基盤の解明，舌に与える電気刺激による味覚のMEG応答など，新しい研究の展開が紹介された。また，運動関連MEGの計測では，足関節のvoluntary運動において手の運動準備を示す活動が観測された。てんかんの臨床応用では，従来の棘波を使ったダイポール推定の他に，速波の発生源を調べる研究が行なわれ，てんかん源性領域との高い関連が指摘された。聴覚，視覚，音楽関係では，学習による子音(rとl)の弁別能の増加に伴い聴覚野のMEG反応に可塑的な変化が見られること，骨導超音波の知覚に関する前庭有毛細胞の関与が示唆されること，遺伝子欠陥（Williams 症候群）により空間認知障害をもつ患者では，視覚情報処理（背側）経路のなかで動きの認知経路がintactであること，音楽性幻聴と幻視患者において症状にともないそれぞれ聴覚野と視覚野（紡錘状回）が活動するなどの興味ある発表があった。
　さらに，京都府立医科大学名誉教授の外山敬介先生による「MEGの新しい方法論：脳研究への適用」に関する特別講演では，fMRIで活動が認められた皮質上にダイポールを仮定し，Wiener推定に基づく空間フィルタ法でMEG活動を推定する方法と，高次視覚野(V2/V3, V4, V5)が刺激の属性に応じて特異的に活動する様子が紹介された。
　本年も十分な発表時間のなかで自由なディスカッションが行なわれ，出席者（109名）間で活発な情報交換が行なわれた。

（1）グラジオメータとマグネトメータで計測された脳磁界の信号源推定精度

竹内文也，Kimmo Uutela, Lauri Parkkonen, 栗城眞也（北海道大学電子科学研究所）

　MEG計測では検出コイルとしてグラジオメータ（GM）あるいはマグネトメータ（MM）が使われ，脳深部にある信号源の検出にはMMがGMよりも有利であると言われてきた。本研究では，それぞれの検出コイルで計測された磁界を背景ノイズとして用いて等価電流双極子推定を行い，その位置精度について検討した。脳深部に信号源がある場合には，GMで計測した磁界だけを用いた推定の位置誤差の平均は3.1 mmであり，MMからの磁界では4.3mmであって，MMにおける推定誤差が大きい。MMからの磁界では，環境ノイズを減らすための信号処理であるSSPが信号成分を著しく減衰させたためと考える。また，両方の磁界を用いた場合には推定誤差の平均は2.8mmであり，GMにおける推定結果に比べ小さい。GM+MMにおける推定精度の改善はチャネル数の増加によると考えられるがその程度はわずかであった。

（2）MEG raw data 時系列の遅延時間座標系での振る舞い

中岡高博，Md.M.Rahman Khan，浅田　博，谷塚　昇（大阪府立大学・総合科学部）

　ここではMEG計測による脳磁気波のraw data時系列を，遅延時間座標系の空間にプロットし，磁気波の非線形力学的な情報構造を見ることに努めた。Takensの埋め込み定理とフラクタル遅延埋め込みプレバレント定理によって，時系列信号から再構成状態空間上に形成されたアトラクタと時系列を生み出す元のシステムを支配する未知力学系の状態空間上のアトラクタとは1対1対応関係である事から，遅延時間座標系への時系列の変換によって，MEGのあるチャンネルに対応する部分の神経回路網に働くダイナミックスを推定するためである。波を積算（誘発波を見るために行う）する前のraw dataの時系列を対象にした。まず，刺激を与えずリラックスした時に観測される磁気波は三次元状態空間上で，トーラス状空間の内部をカオティック（日常のカオスでなくカオス力学的な意味）に動く軌道を描いた。波のスペクトルは10Hz付近に鋭いピークを持つα波であった。状態空間上でランダムな軌道でないことから，このraw dataは雑音に邪魔された意味の無いものでなく，システムのその部分のその時のその状態を示すものであると考えられる。アトラクタが現れずカオティックな軌道は，システムが特定の仕事をせずリラックスな状態であるためであろう。

（3）MEGにおける測定変量間の開ループ伝達関数の同定

原崇，岸田邦治（岐阜大学・工学部応用情報学科）
篠崎和弘，鵜飼聡（大阪大学・医学部・神経機能医学講座）

　（目的）原子炉雑音解析で開発したフィードバックシステム論的手法を用いてMEGの測定変量間の方向性を持つ伝達関数を同定した。（方法）相関関数行列を要素とするHankel行列の特異値分解を経由して同定されたイノベーションモデルが最小位相性を満たしている場合，フィードバック結合構造を利用して方向性をもつ伝達関数が決定できる。2名の健常被検者で開眼時と閉眼時を記録した。データ数9万点，サンプリング周波数625Hz。（結果）被検者1では閉眼時，α波帯域について左中側頭部L51，右後側頭部R46間の伝達関数の振幅損失は左から右に向かうときは0dB，逆向きは10dBで非対称であった。開眼時の損失は各々10dB, 20dBで，閉眼時と同じく非対称がみられた。被検者2では左後側頭部L46 と右同名部位R46間の伝達関数の損失で開眼時左から右へは10dB, 逆向きは15dBなる同様の非対称が見られた。尚，被験者2の閉眼時，伝達関数の振幅損失は各々10dBで対称であった。（考察）方向性をもつ伝達関数によって領域間の機能関連を検討できる可能性が示された。

（4）LORETA法による言語優位脳半球の推定

三島喬，竹内文也，鎌田恭輔，栗城眞也（北海道大学電子科学研究所）
鎌田恭輔（北海道大学・医学部・脳神経外科）

　本研究ではアミタール検査により言語優位半球が既知の被験者5名(左半球優位4名,右半球優位1名)を対象として，言語課題遂行中の脳磁場応答(MEG)を用いて計測した。言語課題は，提示された縦書きのかな3文字(名詞)が，具象名詞か抽象名詞かを判断するものとした。計測磁場から脳内の電気的活動を表す電流分布をLORETA(Low Resolution Electromagnetic Tomography)法で計算し，言語優位半球と非言語優位半球で電流分布に差が見られるかを調べた。解析の結果，アミタール検査で左半球優位とされた被験者は左側頭部において，右半球優位とされた被験者では右側頭部において電流分布の和がより大きくなり左右差が見られた。以上より各被験者において電流分布解析の結果はアミタール検査の結果と一致した。従って，MEGを用いて無侵襲的に言語優位半球を推定できる可能性が示唆された。

（5）脳磁図・MRI統合ソフトの開発

橋詰　顕，栗栖　薫，有田和徳，飯田幸治，花谷亮典（広島大学・医学部・脳神経外科）
籬　拓郎（日比野病院）

　目的：Neuromag社脳磁計はplanerのgradiometerを有しており，電流源がgradiometer直下にあるとき信号が最大となる特性をもつ。現時点では，Neuromag社の三次元表示ツールは脳表とセンサーの位置関係を表示することができないため，別途センサー位置，電流源，脳表を表示できるプログラムの開発を試みた。方法：プログラミング言語は米国 Inprise社Delphi Ver.5を用い，DICOM画像読込，脳表の三次元表示，脳表の三次元表示DICOM座標とHPI座標間の補正（電流源表示），HPI座標とセンサー座標間の補正（センサー表示）などのプログラムを開発した。結果：脳表の三次元表示画像にセンサー，電流源の情報を重ね合わせることが可能となった。
　結語：脳表とセンサーの位置関係を表示するプログラムを開発した。Planer gradiometerを有する脳磁計では，各センサーの波形とセンサー・脳表の位置関係から，脳の磁気活動の広がりを推測できる可能性があり，様々な用途があるものと期待される。

（6）指の一次体性感覚野の発達的変化に関する検討（第2報）

權藤健二郎，飛松省三，原　寿郎（九州大学・医学部・小児科）

　乳児の体部位局在の発達的変化について昨年に引き続き検討した。昨年の対象は健常発達と判定された乳幼児10名と健康な成人5名であったが，これに幼児4名，学童3名（てんかん例）を追加した。対象は全て抱水クロラールを用いて鎮静し拇指と薬指の掌側をair-tapping装置を用いて刺激した。脳磁界の測定は37チャンネル脳磁計を用いた。SEPにおけるN1に相当する反応(W1)に注目し，母指と薬指の等価双極子電流源の三次元座標を算出し2点間の距離を求めた。乳児群で平均3.9±0.85cmであるのに対し成人群では平均2.0±0.51cmと有意に距離が短かった(P ＜0.01)。電流源の3次元的な拡がりを冠状面で比較すると大きな順に乳児薬指－乳児拇指－成人薬指－成人拇指であった。また幼児例と学童例も加えて年齢に伴う電流源分布の変化を観察し，乳児群より成人群の方が2点間距離が短いという結果の意義を考察した。

（7）鍼灸のツボ打撃による脳のMEG信号の検出

川端啓介（大阪府立大学）
内野勝郎（全国柔整師協会）
外池光雄（産技総研ライフエレクトロニクスセンター）

　鍼灸のツボを打撃したときの脳のMEG信号をはじめて検出した。方法：ツボの上に皮内鍼，あるいは直径4m/mの仁丹粒をテープで留め，その上を木槌で約40g/cm2 の強さでパルス打撃した。（このとき痛覚はなかった。）トリガーはこのテープの上に光ファイバーの末端に繋いだエンパイアtubeを置き，これを同時打撃して得た。15秒間隔で大体50回叩いた。MEGは産技総研関西センターの122チャネル全頭型脳磁計を使用した。鍼を打ったとき遅く鈍い感覚“ひびき”が現れるが同様な信号を予想して計測は打撃後6秒までとした。現在迄に約14回の実験を約9人の被験者（男性，右きき，年齢16～35）について行い大体同じ傾向を示す信号を得た。
　結果：例えば，会谷とよばれる親指と人指指の間にあるツボの場合，（1）打撃後1000mSも経過してピークに達する大きな信号を観測した。（2）この信号は前額，左前側頭，右前側頭，左後側頭などの広いチャネルに分布して現れるのが特徴である。（3）このツボの横10m/mぐらい横の人差指上の骨の上を打撃したときには，この広範囲の信号は現れない。（4）打撃より数十mS後に早い立ち上がりを持つ体性感覚の明瞭な信号があらわれる。この信号は現れるチャネルが限られており，弱くタッチした場合の信号と一致し，刺激した手と対側の脳に現れる。総括：我々はツボを刺激したときに生ずる本質的なMEG信号（おそらく鍼と関連する）を初めて検出したと考えている。

（8）口唇に局所失調症を患う器楽奏者のMEG反応

平田恵啓（北海道大学電子科学研究所）
マティアス・シュルツ，クリスト・パンテフ
（Institute for Experimental Audiology, University of Muenster, Germany）
エッカート・アルテンミュラー
（Institute of Music Physiology and ²Institute of Music Physiology and）

　金管楽器奏者は顔面筋肉の緊張と呼気で唇を振動させ演奏を行う。そして過度の反復練習を行うことにより口唇や頬筋肉部に痙攣などの局所失調症を起こす危険性があることが知られている。一方，局所失調症を患うピアニストでは隣接する罹患指の刺激で観測された磁場応答の等価電流双極子の推定位置間距離が体性感覚野上で健常者に比べて近接していることが報告されている。本報では局所失調症を患っている金管奏者に対して，空気圧により膜表面が膨らむ刺激装置を用いて左右どちらか一方の上下口唇部および同側の手指腹部に機械的な刺激を呈示し，反対側脳半球からのMEG反応をBTi社製37チャネルSQUID磁束計により記録した。30分程度の休息後，反対側の口唇と手指腹を刺激して同様の計測を行った。健常者のデータと比較検討を行い，ピアニストの手指で見られるような等価電流双極子の活動に関して可塑性が生じているかどうかを検討した。

（9）電気味覚に対する脳磁場計測

武原志帆，森川聖美，山本千珠子，山本　隆（大阪大・人間科学・行動生理）
中川誠司，山口雅彦，岩木　直，外池光雄（産業技術総合研究所）

　これまでの味溶液を刺激としていた実験では，オンセットを正確に捉えることが技術的に容易ではなく，また被験者への負担が大きいという欠点があった。一方，電気味覚刺激では刺激の立ち上がりがはっきりしており，実験が簡便になることから実験時間も短縮される。さらに，舌に対して左右別に刺激を与えることができるという利点もある。そこで今回我々は，電気味覚計(リオン社TR-05)を用い，舌面に電気刺激を与えることにより生じる独特な味（人によって異なるが，酸味と金属味を混ぜたような味）により誘発される脳磁場応答を記録した。本実験では，電気刺激によるアーチファクトを考慮して刺激の持続時間は200msとし，刺激間隔は20sと固定した。被験者は全員右利きの過去に味覚異常を訴えたことのない成人で，①右刺激のみで刺激強度を変える実験，②刺激強度を固定し左右刺激を与える実験を行った。

（10）味覚誘発電位・磁場の同時計測

小早川　達，溝口千恵，斉藤幸子（産業技術総合研究所）
小川　尚（熊本大学・医学部）

　医療現場における味覚の他覚的検査法の一つして味覚誘発電位の計測がある。味覚誘発電位計測で得られた波の成分に対して，意味付けを行うために誘発電位と誘発磁場の同時計測を5人の被験者に対して行った。40回の味刺激提示を1セッションとし，日時を変えて6セッション行った。誘発磁場の計測には全頭型を用い，誘発電位はCz, Fz, Pz, C1, C2において計測を行った。0.3Mの食塩水を味刺激として被験者に提示した場合，誘発磁場の第一次味覚野の活動が推定された潜時 (115ms) において誘発電位では陽性電位 (P1) が計測された。振幅はCzにおいて最大になった。誘発電位ではP1に続き，N1，P2が観測され，各々の潜時において得られた脳磁場から活動部位の推定を行ったところ，誘発電位でP1の潜時では従来のArea Gと中心溝近傍にダイポールが推定された。

（11）磁界計測を用いた脊髄機能マッピング

小森博達，川端茂徳，大久保治修，福岡優子，四宮謙一
（東京医科歯科大学・医歯学総合研究科・脊椎脊髄神経外科学）

　我々は磁界計測による脊髄機能診断法の確立に向けて研究を進めている。昨年の本研究会において，我々はネコの脊髄を硬膜外電極で電気刺激し，上行性脊髄誘発磁界を測定することにより，従来の電位計測より高精度に脊髄障害部位診断が可能なことを報告したが，今回は，より低侵襲である坐骨神経刺激-脊髄誘発磁界によっても，脊髄切断による伝導障害が診断できることを確認した。また，胸髄において，大脳運動野刺激後の下行性脊髄誘発磁界および，坐骨神経刺激後の上行性脊髄誘発磁界を測定し，それぞれの脊髄内伝導路をマッピングできることを確認した。脊髄誘発磁界測定は，脊髄障害高位診断のみならず，脊髄の生理学的知見を低侵襲に知ることができる優れた検査法といえる。

（12）坐骨神経標本を用いた活動磁界測定

福岡優子，小森博達，川端茂徳，大久保治修，四宮謙一（東京医科歯科大学・脊椎脊髄神経外科学）

　我々は，坐骨神経標本を用いて活動磁界測定を行い，正常モデルと，結紮による急性障害モデルについて検討した。摘出したウサギの坐骨神経をリンゲル液で満たしたチェンバー内に静置し，神経遠位端を吸引電極を用いて電気刺激した。磁界測定は平面型8チャンネル磁束計を用いて液面上の72ヶ所で行った。併せて，電位測定を行った。末梢神経活動磁界は四重極子パターンを呈し中枢に向け伝導し，結紮部で消失した。最小二乗法によりdipole推定を行い，障害部位を推定したところ，実際の結紮部位との誤差は3mm以内であった。また，これらのdipole推定は現在Z方向のセンサーのみ用いて行っているが，我々の使用している3次元配列のセンサーによって，脱分極に伴う体積電流から生じると思われる磁場も検出することができた。末梢神経の障害部位推定にとって，3次元的な磁場の解析が今後有用なのではないかと思われる。

（13）針電極を用いた表皮内電気刺激による誘発脳磁場

乾　幸二，Tran Diep Tuan，秋云海，王暁宏，宝珠山稔，柿木隆介
（岡崎国立共同研究機構・生理学研究所・統合生理研究施設）

　皮膚Aδ線維の選択的刺激を目的として表皮内電気刺激用針電極を作成し，この刺激法の有用性を脳磁図を用いて検討した。電極は針の長さが0.2mmの押しピン型針電極で，皮膚に刺入した後0.1-0.3mA，0.5msの条件で電気刺激した。手背を刺激した際の誘発脳磁場初期成分のピーク潜時は156msであり，前腕刺激のピーク潜時（136ms）との時間差は20msであった。刺激部位間の皮膚上の距離と潜時差より，本刺激に関わる末梢伝導速度は約15m/sと算出され，Aδ線維により伝達されると考えられた。初期成分の信号源は，8名の被験者で両側第2次体性感覚野（SII）に推定された。残りの5名では，SIIに加え，これとほぼ平行する第1次体性感覚野（SI）の活動が認められた。SI，SIIのピーク潜時はそれぞれ161ms，158msであった。これらの結果はレーザー刺激を用いたこれまでの報告と一致するもので，本刺激法はヒト痛み関連の研究に有用であると思われた。

（14）Cerebral activation by the signals ascending through unmyelinated
C-fibers in humans: a magnetoencephalographic study

Tuan Diep Tran, Koji Inui, Minoru Hoshiyama, Khanh Lam, Yunhai Qiu, Ryusuke Kakigi
（岡崎国立共同研究機構・生理学研究所・統合生理研究施設）

　Cerebral processing of first pain, associated with Aδ-fibers, has been studied intensively, but the cerebral processing associated with unmyelinated C-fibers, relating to second pain, remains to be investigated. This is the first study to clarify the primary cortical processing of second pain by magnetoencephalography (MEG), through the selective activation of C-fibers, by the stimulation of a tiny area of skin with a CO₂ laser. In the hemisphere contralateral to the side stimulated, a one-source generator in the upper bank of the Sylvian fissure (secondary somatosensory cortex, SII) or two-source generators in SII and the hand area of the primary somatosensory cortex (SI) were the optimal configurations for the first component. The onset and peak latency of the two sources in SI and SII were not significantly different. In the hemisphere ipsilateral to the stimulation, only one source was estimated in SII, and its peak latency was significantly (approximately 18msec on average) longer than that of the SII source in the contralateral hemisphere. Our findings suggest that parallel activation of SI and SII contralateral to the stimulation represents the first step in the cortical processing of C-fiber-related activities, probably related to second pain.

（15）絶対音感保持者の脳磁場計測～中潜時以降のダイポール分布について

広瀬宏之，久保田雅也，木村育美，大澤麻記，榊原洋一，湯本真人（東京大学小児科・検査部）

　絶対音感とは，任意の音を聞いた時にその音が何の高さの音であるかを何の手掛りもなく言い当てることのできる能力のことである。今回我々は絶対音感保持者の聴覚誘発脳磁場を計測した。対象は成人絶対音感保持者9名，成人絶対音感非保持者7名，小児絶対音感保持者5名。課題は1000Hzの純音を両耳で聞くsingle tone課題と 1オクターブ内の8種類の純音(C3-C4)をランダムに聞き音名を判断するlabelling課題の2種類。labelling課題では，中潜時以降聴覚中枢を含む上側頭回，角回・縁上回などの頭頂後頭連合野，楔部・舌状回・視覚中枢を含む後頭葉，中心溝近傍やBroca野などの前頭葉，一次運動・感覚野，海馬傍回等が活性化された。それぞれの部位の神経生理学的意味について考察する。

（16）楽譜を見て音を想起する時の脳磁場について

久保田雅也，木村育美，広瀬宏之，榊原洋一（東京大学・小児科）

　楽譜を見て音を想起する行為も広い意味で「読む」過程だと言える。今回，成人5人，小児5人に対し，楽譜，非楽譜をランダムに提示し，楽譜に示された音を想起する課題を与え，視覚系における初期反応を全頭型脳磁図測定装置にて解析したので報告する。楽譜，非楽譜に対する反応をそれぞれ加算平均し比較すると楽譜を「読む」過程で右視覚連合野が強く反応した。左視覚連合野は楽譜，非楽譜において共通に反応した。中田らが fMRI用いた解析で楽譜を読む課題で右視覚連合野の反応を特異的に認め，music brainとして報告しているが関連する結果だと考えられる。楽譜の示す音の同定には音符の形態よりも五線譜上の位置の解析が優先される可能性がある。

（17）音楽性幻聴および幻視（シャルル・ボネ症候群）のMEGの空間フィルター解析

山本雅清，篠崎和弘，鵜飼聡，川口俊介，石井良平，小川朝生，水野（松本）由子，井上腱，武田雅俊
（大阪大学大学院医学系研究科・精神医学教室）
吉峰俊樹（大阪大学大学院医学研究科・脳神経外科学教室）
平吹度夫（大阪大学大学院医学研究科・放射線医学教室）
田中迪生（田中診療所）
Stephen E.Robinson（CTF Systems Inc.）

　音楽性幻聴およびシャルル・ボネ症候群の各1例についてMEGの空間フィルター解析を行い幻覚に対応する皮質領域を検討した。症例1：78歳女性。数年前より難聴，約2年前より童謡などの音楽性幻聴。幻聴時（安静時）と幻聴抑制時（ニュースのテープを聞かせた）の2区間を比較した。結果は幻聴体験時に右聴覚野でθ，α波帯域の脱同期が見られた。症例2：70歳女性。緑内障，白内障で視力低下。約1年半前より，様々な模様（色付き，直線，曲線など）の幻視が出現。幻視時（明所で開眼時に容易に出現）と幻視抑制時（閉眼時）の2区間を比較した。結果は幻視時に両側紡錘状回においてθ，α波帯域の脱同期が見られた。難聴，視力低下による正常感覚入力の遮断により，対応する皮質領域の過活動を伴い，幻覚を生じたものと推測された。

（18）演算処理に関する脳磁界計測－数の大小比較について－

高栄智，樋脇治（広島市立大学・情報科学部）
橋詰顕，栗栖薫（広島大学・医学部・脳神経外科）

　数の大小比較を行う高次脳機能について204チャンネル全頭型脳磁計を用いて脳磁界を計測し，単一ダイポールの推定を行った。被験者の前方のスクリーンに1から9までの2つの数字を同時にランダムな順番で提示した。被験者には，提示された2つの数字を比較し，左の数字が大きければ左手中指のボタンを，右の数字が大きければ左手人差し指のボタンを押すようなタスクを行わせた。課題遂行中の誘発脳磁図について100回加算平均を計測した。その結果，左頭頂葉付近において潜時約250msに磁場のピークが観察された。この潜時において，単一電流ダイポールの位置の推定を行い，MRI画像に重畳させた結果，左頭頂葉の上頭頂小葉(superior parietal lobule)に単一電流ダイポールが推定された。

（19）てんかんのdipole推定における導体モデルの影響
-ファントムによる実験の総括-

金子裕^1,2，湯本真人³ ，斎藤治⁴ ，大槻泰介¹，有馬邦正²
（¹国立精神・神経センター武蔵病院脳神経外科，²国立精神・神経センター武蔵病院臨床検査部，
³東京大学医学部附属病院・臨床検査部，⁴国立精神・神経センター武蔵病院精神科）

　てんかんのdipole推定において導体モデルが与える影響を検討した。実形状の導体をもつファントムを作成し，側頭葉底・前頭葉底に配置した人工dipoleに通電し，3種類の球モデルと3種類の実形状モデルを適用して電流源推定を行った。球モデルの中では，頭部全体から近似した球が誤差・再現性とも優れていたが，誤差は少なくない。側頭葉底の人工dipoleに対して実形状モデルを適用すると，全体的に誤差は小さくなった。しかし，前頭葉底の人工dipoleに対しては誤差はあまり変わらなかった。てんかんの症例に対して球モデルと実形状モデルを適用して，スパイク・マッピングを行った。実形状モデルの方がGoF値は高くなるが，局在推定としては明らかに改善したとは言い難い。てんかんの解析の際には，フィルターなどのノイズ除去の方が重要であって，導体モデルが与える影響は小さいと言える。

（20）当院での脳磁図による部分てんかん焦点診断の現状

大石　誠，亀山茂樹，師田信人，増田　浩（国立療養所・西新潟中央病院）

　当院では部分てんかんの外科治療において，より限局した焦点切除を目指し，術前脳磁図検査および頭蓋内電極留置による慢性硬膜下記録を行っている。2000年4月のNeuromag 204導入後てんかん外科を行った24症例27焦点（内側側頭葉9焦点，新皮質焦点18焦点）を対象に，てんかん術前診断としての脳磁図の現状を報告する。焦点推定は発作間欠時棘波の電流双極子により行っているが新皮質焦点4例で発作時記録も得られた。発作起始の解析は4例全例で有用であった。脳磁図と硬膜下記録所見・手術成績の比較検討では，新皮質焦点では15/18焦点 (83%)で完全に一致，前頭葉底部例と補足運動野例では推定誤差が大きく帯状回焦点例は推定ができなかった。一方内側側頭葉では5/9焦点(56%) で脳磁図による診断が得られた。脳磁図のてんかん焦点推定は新皮質焦点において，また発作時所見が極めて有用であった。

（21）MEGの速波発生源とてんかん源性領域との関連の検討

二宮宏智，加藤天美，平田雅之，新居康夫，山田淳二，平野俊一朗，谷口理章，吉峰俊樹
（大阪大学・脳神経外科）
今井克美（大阪大学・小児科）

　てんかん患者の皮質脳波(EcoG) の測定で，連続した速波は，initial seizure onsetやpartial seizureにおいて観察される。また，MEGにおいても同様に速波を測定する機会が少ないながらもある。そこで，MEGの速波の発生源と，てんかん源性領域との関連を検討した。Retrospectiveに過去の測定data中に7例（内，内側型側頭葉てんかん3例）。4例は発作時に，残り3例は，非発作時に観察された。これをECD解析，SAM解析を行い，その発生源を求めた。器質性変化のある4例は，その周囲から発生し，外側型側頭葉てんかんでは，側頭葉外側にその発生源がもとまった。また，手術の行われた3症例では，皮質脳波によりseizure onset zoneと同定された部位に，その発生源はほぼ局在し，MEGの速波の発生源は，てんかん源性領域との関連が高いことが，示唆された。

（22）脳磁図におけるてんかん棘波の持続時間とdipole集積との関係について

芳村勝城，渡辺裕貴（国立療養所・静岡神経医療センター）

　目的：棘波の振幅や持続時間等の特徴はてんかん焦点の広がり等の性質を反映していることが想像される。そこで，今回は棘波の幅（持続時間）に焦点をあてて，第一に，MEGにおけるてんかん棘波の持続時間がてんかん焦点の特徴を反映しているのか，第二に，選択されたMEG棘波の幅によりdipoleの集積結果に相違があるかについて調べた。
　方法：MEGを施行し，dipoleの集積が認められたてんかん患者について，選択したMEG棘波の幅の平均と，dipoleの空間的分布との関係を調べた。次に同一症例について幅の狭い棘波を選択した場合と，幅の広い棘波を選択した場合のそれぞれでdipoleを計算し，その特徴について比較した。
　結果：①MEG棘波の持続時間とdipoleの広がりの間には正の相関関係が認められた。②同一症例では，狭い棘波を選択した場合の方がdipoleは狭い領域に集積した。

（23）非磁性ゴーグル型光刺激装置を用いた光感受性てんかんの検査について

吉田　綾，渡辺裕貴，芳村勝城（国立療養所・静岡神経医療センター）

　てんかんの脳波検査においては，どこの施設でもストロボを用いた光感受性の検査が行われている。てんかん患者で脳磁図検査をおこなう際にも，当然光刺激による賦活が行われるべきであろうが，通常のストロボでは強い磁気ノイズが入るため，使用できない。今回は我々の施設で使用しているゴーグル型光刺激装置を紹介し，さらに，それを用いた光刺激検査のさいに臨床発作が誘発されたてんかんの1症例を経験したので，そのデータを呈示する。

（24）手・足・顎のself-paced運動に伴う運動準備磁界の検討

　遠藤博史，成田紀之，加藤雄一郎，武田常広（産業技術総合研究所・脳神経情報部門・感覚認知科学研究グループ）

　外部からの運動開始司令を必要としないself-paced運動では，運動準備磁界が観測され，その活動源は一次運動野において体部位局在を示すことが知られているが，活動の時間変化についてはあまり議論されていない。本発表では，我々がこれまでに計測してきた手・足・顎運動の運動準備磁界の時間変化を中心に解析を行った結果について報告する。手指の運動では，運動開始前から運動指と反対側の運動野でより有意な変化が観測された。足関節の運動では，一次運動野の足の領域からだけでなく，手の領域付近からも運動準備の活動が観測される場合があった。顎関節の運動では，運動方向に関係なく，左の運動野でより有意な変化が観測された。手・足・顎運動の運動準備磁界の変化は一様ではなく，運動準備活動には，運動部位の機能的役割の違いが反映されている可能性が考えられた。

（25）随意性顎運動に関連する大脳皮質領域の脳磁場解析

澁川義幸^1,2，熊井敏文^1,2,3，新谷益朗¹，鈴木隆^1,2，中村嘉男^1,4
（¹東京歯科大学・口腔科学研究センター，²東京歯科大学・生理学講座，
³松本歯科大学・口腔生理学講座，⁴帝京平成大学・福祉情報学科）

　ヒトの随意性顎運動のプログラミングに関与する脳領域を同定するために，随意性顎運動に関連する運動準備磁場の分布・時間経過を解析し，その等価電流双極子（ECD）の位置をMRIに基づいて同定した。健康成人10名で，全頭型SQUIDセンサーを用いて，両側対称性自発性閉口・開口運動あるいは，左側薬指の自発性タッピング運動に関連する運動準備磁場を記録した。得られた磁場分布からECDの推定を行い，その位置をMRI上で決定した。自発性両側対称性顎運動では咬筋あるいは顎二腹筋筋電図の起始に約800msec先行して開始する緩徐磁場が中心前回に両側性に分布していたのに対して，左側手指運動では右側中心前回に緩徐磁場が出現した。ECDは，自発性開閉口運動では両側中心前回に，左側手指運動では右側中心前回に，それぞれ推定された。したがって，両側中心前回は随意性顎運動の中枢性プログラミングに関与すると考えられる。

（26）ボタン押し運動における運動強度の制御と運動関連脳磁場の検討

江坂茂朗，高木孝志，小谷賢太郎，堀井健（関西大学・工学部・管理工学科）
　外池光雄（産業技術総合研究所・関西センター）

　従来，MEG計測におけるヒトの運動制御の解析には，運動開始条件を考慮した反応課題が多く用いられ，運動開始と一次運動野の関係が報告されてきた。しかし，運動強度を考慮した実験課題の報告は見られず，運動強度の制御と脳内活動の関係は明らかにされていない。そこで，我々は脳内の運動制御メカニズムを調べる方法として，運動強度を考慮した拇指のボタン押し課題を用いた。まず，運動を制御するための実験環境として，目標とする力の強さと被験者自身が発揮している力の強さを視覚フィードバックで与えるシステムを構築した。被験者には動作開始前に運動準備の視標を呈示し，次の運動開始の視標と同時にボタン押し動作を開始してもらった。また，力の視覚フィードバックのあり・なしの条件下で課題を遂行してもらい，運動制御の有無による実験結果を比較した。本報告では，これらの実験より得られた結果をもとに運動制御とMEGの関係について検討している。

（27）大脳基底核に対する複雑手指運動の運動頻度の影響

岡山晶，谷脇考恭，後藤純信，飛松省三（九州大学大学院医学研究院・脳研臨床神経生理）
吉良潤一（九州大学大学院医学研究院・脳研神経内科）
吉浦敬（九州大学大学院医学研究院・放射線科）
中村泰彦（九州大学大学院医学研究院・放射線部）

　【目的】大脳基底核は，1)運動頻度に関係する，2) 自己ペースと外的ペースとで活性が異なると予想されるが，機能画像で証明されていないので検証した。
　【方法】対象は健常人10名。課題は手指の複雑連続運動を自己ペースと外的ペースで各々5段階の速度で行い，fMRIを記録した。SPM99を用いて(各速度の活動時)－(安静時)のマッピングを行い，その部位の信号変化と運動頻度との相関，および運動関連部位同士の相関を調べ，ネットワーク解析を行った。
　【成績】両ペースとも対側被殻後部に活性化を認めたが，自己ペース時のみ信号変化が運動頻度と高い相関を示した。ネットワーク解析にて自己ペースでは対側被殻-視床-補足運動野-1次運動野の間に高い関連を認めたが，外的ペースでは関連は弱かった。
　【結論】複雑手指運動では，自己ペース時に運動頻度と基底核活性との間に高い相関があり，基底核-視床-補足運動野-1次運動野の回路が作動していることが示唆された。

（28）Behavioral and MEG measures reveal brain plasticity in training Japanese adults to learn the /l-r/ contrast

Yang Zhang ^{1, 2}, Patricia Kuhl^{1, 2}, Toshiaki Imada ^{1, 2, 3, 4}, Makoto Kotani⁵, John Pruitt⁶
（¹Center for Mind, Brain and Learning,
²Department of Speech and Hearing Sciences, University of Washington, Seattle, WA 98195,USA;
³NTT Communication Science Laboratory, ⁴Real World Computing Partnership, Nippon Telegraph and Telephone Corporation, Atsugi-shi, Kanagawa243-0198, Japan; ⁵Tokyo DenkiUniversity, Chiyoda-ku, 101-8457, Japan;
⁶MicrosoftCorporation, Redmond, WA 98052, USA）

　The present study investigated brain plasticity in Japanese adults learning the English /l-r/ distinction. Both behavioral and brain (MEG) measures were used. Training was designed to mimic the listening experience of infants who are exposed to the exaggerated acoustic events contained in infant-directed speech ("motherese"). The training program consisted of 12 1-hour sessions. Pre- and post-training measures were collected from nine subjects including two controls. The MEG experiments examined training effects in preattentive discrimination vs. categorization in the oddball paradigm. An average improvement of 21.7% was obtained in behavioral identification. The training effect was significant for all factors of speaker, vowel, and syllabic context. Perceptual learning generalized to three untrained voices. No effects were observed in the two control subjects. Consistent with the behavioral improvement, the trainees showed enhanced mismatch responses in the left hemisphere. The data indicated that the learned phonetic boundary in Japanese subjects did not match that of the American listeners. This pattern of results suggests the existence of substantial neural plasticity in adulthood as well as a potential limit.

（29）周波数変化に対する脳磁界反応

神本さゆり¹, 浅香雪夫¹, 今田俊明^2,3, 関原謙介⁴, 小谷誠⁵
（¹東京都立科学技術大学大学院・システム基礎工学専攻，
²日本電信電話株式会社・NTTコミュニケーション科学基礎研究所，
³マルチモーダル機能NTT研究室Real World Computing Partnership，
⁴東京都立科学技術大学・電子システム工学科，⁵東京電機大学）

　刺激前半から後半にかけて周波数がステップ関数的に変化するときの脳磁界反応を計測解析した。まず，周波数が500 Hzもしくは2000 Hzから1000 Hzに変化する刺激を用いて，周波数変化までの時間（刺激前半部呈示時間：150, 300, 600, 1200, 2400 ms）がピーク振幅に影響を与えないことが分かった。そこで，刺激前半部呈示時間を300 ms一定とし，今度は，1000 Hzから500 Hzもしくは2000 Hzに変化する刺激の一方を4～6回繰返し，次いで他方を4～6回繰返すというシーケンスを繰返し被験者に与えた。周波数変化時点に対するピーク振幅は，1回目の方が最後より大きかった。これは，音の立ち上がりに対するN1mピークと同様の「慣れ」の効果と見られるが，この中にはMMFが含まれている可能性もある。また，周波数変化に対するピーク振幅は，下降変化より上昇変化に対する方が大きかった。

（30）聴覚言語刺激の途切れによる聴覚野の神経活動の脳磁界計測

岩木直, 浜田隆史, 外池光雄（産業技術総合研究所・ライフエレクトロニクス研究ラボ）
東義隆（神戸大学・自然科学研究科）
川野常夫（摂南大学・工学部）

　本研究では，聴覚off反応の脳磁界計測を用いて，音声言語およびノイズに対する，聴覚野における神経活動の差を明らかにすることを目的とした。60秒に10回の頻度で500ms途切れるように加工した連続言語音刺激，および上記言語音刺激のエンヴェロープで振幅変調した白色雑音の2種類を刺激として用い，音声刺激聴取中の被験者の脳磁界を，全頭型MEGシステムを用いて計測した。計測された信号は音声刺激に途切れをトリガとして50回以上の加算平均を行った。側頭部を覆う52個のセンサで計測されたMEG信号の，各時刻における二乗平均値を求め，N1m成分に対応する聴覚offset反応の最大ピーク振幅を言語音とノイズとで比較した。この結果，言語音に対するoff反応が，ノイズに対するoff反応に比べて有意に大きいことを明らかにした。この結果は，聴覚野における神経活動が，言語音に対して増大することを示している。

（31）骨導可聴音および骨導超音波の知覚メカニズム：脳活動計測による検討

中川誠司，山口雅彦，外池光雄（産業技術総合研究所）
細井裕司（奈良県立医科大学）
今泉　敏（広島県立保健福祉大学）
渡辺好章（同志社大学）

　可聴音，超音波に関わらず，骨導音に対する皮質活動計測の報告例はほとんど存在しない。本研究では骨導音に対する脳磁界を計測し，その知覚メカニズムを検討した。聴覚健常者 11 名に気導音，骨導可聴音，および骨導超音波を呈示した。すべての刺激に対し，聴覚野内にN1m 活動が推定された。骨導超音波は気導音や骨導可聴音に比べ N1m 潜時が大きく，活動強度が小さく，やや外側かつ後方に活動が推定された。また，すべての刺激において，対側刺激に対しては同側刺激に比べ活動強度が大きく，潜時が小さい活動が得られた。これらの結果から，骨導可聴音の場合は内耳以降の知覚メカニズムが気導音とほぼ同様なのに対し，骨導超音波ではやや異なることが推測された。骨導超音波に対する活動部位は前庭皮質の一部に含まれる可能性もあり，骨導超音波知覚に対する前庭有毛細胞の関与も示唆される。

（32）ペア刺激による聴覚誘発P50m，N100mの回復曲線

湯本真人^1,2，伊藤憲治¹，宇野　彰²，金子　裕²，加我君孝¹，齋藤治²
（¹東京大学・医学部，²国立精神・神経センター）

　ペア刺激課題にて聴覚誘発P50m，N100mを記録，検討した。対象は聴力正常の健常者12名とし，刺激は周波数2kHz，持続時間10msのトーンバーストをペア（間隔は50, 70, 100, 150, 200, 300, 500, 700msの8種類）として等確率ランダムに呈示した。誘発脳磁場はNeuromag社製の全頭型204チャネル脳磁計を用い，加算回数は各刺激100以上とした。P50m‐N100mが最大となるチャネル（全例で右側頭部）において，第二，第一刺激による誘発反応の振幅比をP50m，N100m成分毎に検討し回復曲線を得た。P50ｍ振幅比がペア間隔200ms～150ms間で70％～40％と急激な低下を示したのに対し，N100mには顕著な変化は見られなかった。ペア間隔500msにおいてもP50電位で報告されている程顕著な“gating”は磁場成分には認められなかった。

（33）刺激間隔における1/fnゆらぎのGO/NO-GO反応に及ぼす影響についての検討

原田暢善，中川誠司，岩木　直，山口雅彦，外池光雄，守谷哲郎
（産業技術総合研究所・関西研究センター・ライフエレクトロニクス研究ラボ）

　これまでの研究で，環境中の規則性・不規則性が，メモリートレースの形成に影響を与え，結果としてミスマッチフィールド(MMF)およびN100m成分に影響を与えることが明らかになった。ここでさらに，環境中の規則性・不規則性によるメモリートレースの形成が，人間の随意反応に対しどのような影響を与えるのかについて検討を行った。聴覚刺激間隔を，全くランダムな状態から段階的に規則性を増加させた時，すなわち，刺激間隔を1/f0ゆらぎ，1/f1ゆらぎ，1/f2ゆらぎ，1/f∞ゆらぎ(一定間隔)で変動させたとき，聴覚刺激により引き起こされる，GO/NO-GO反応に対する刺激間隔の影響について検討を行った。
　刺激間隔の規則性の増加とともに，刺激に伴う，NO-GO反応におけるベータ波帯域の非同期の時間が増加することが観測された。

（34）アスペルガー症候群小児における顔の表情認知処理機構ー脳磁場計測による解析

木村育美，久保田雅也，広瀬宏之，榊原洋一（東京大学医学部附属病院・小児科）
湯本真人（東京大学医学部附属病院・検査部）

　アスペルガー症候群(以下AS)は自閉症スペクトラムの疾患群に含められ，対人関係の障害を中心とした基本的性質は自閉症と共通するが比較的良好な言語発達において古典的自閉症とは臨床的に区別される一群である。これまでの研究により人の顔の表情を認知する際健常群での腹側視覚経路；特に右紡錘状回(FG)の特異的活性化に対しAS群ではFG以外の複数の部位の活性化が指摘されている。今回私達は8歳のAS女児を対象に，正立および倒立の顔写真を用いた“笑顔”の選択課題を含むいくつかのTaskを与えつつ脳磁場計測を行った。顔写真を用いた課題でいずれもFGの活性化は認めず，正立の顔写真の課題にて背側視覚経路の活性化を認めた。表情の認知の問題は他人の心を理解する「心の理論」の問題と大きく関わるものであり，他の計測結果もあわせ若干の考察を加えて報告する。

（35）運動順応の運動検出とV5反応の効果

谷川昌司，外山敬介，荒川彰，梶原茂樹，吉田圭一，江島義道
（京都大学人間・環境学研究科，島津製作所）

　運動検出と運動適応の座を同定するためにコヒーレンスを変数とするランダムドット運動刺激を被験者に呈示し，運動検出の精神物理学とMEGの同時計測を運動順応（3分間の順応刺激呈示）の前後に行った。MEG計測には201ch全頭脳磁計(島津SBI201)を用い，空間フィルタ法によって脳活動を計測した。順応前の対照実験（n=3）では，運動検出とV5反応は，運動刺激のコヘレンスの減少と共に並行して減少（20-40％）した。順応効果には方向選択性があり，順応刺激と同方向（0度）で運動検出とV5反応の減少が最も強く（20%），90-270度で軽度の減少（5-10%）があった。これらの実験結果は運動順応の座がV5であることを示している。

（36）顔パターン検出過程の脳磁図による検討

加藤隆，加藤元一郎（東京歯科大学市川総合病院・精神神経科）
村松太郎（慶應義塾大学・医学部）
新谷益朗（東京歯科大学・口腔科学研究施設）

　【目的】顔認識モデルでは，顔の弁別過程（既知性判断）とそれより早期の処理である顔パターンの検出過程（顔を顔として分類する）とを想定する仮説がある。今回，顔パターンの検出過程を検討した。
　【方法】対象は正常成人5例。4つの楕円と4つの長方形が配置された刺激を用いた。この図版では，楕円成分に注目した場合，4つの楕円が全体として人の顔として見え，長方形成分に注目した場合には顔には見えない。この2条件で1-back taskを施行した。Vector view whole head 306chを用い，刺激提示は500ms，刺激間隔は3000msで，200回加算平均した。
　【結果】楕円を顔としてみる条件で，後頭葉・側頭葉境界領域から右半球優位に潜時120-140msで誘発磁場成分が認められた。この反応はこれまで報告された顔弁別による応答より早期の反応であり，顔パターン検出過程を反映していると考えられた。

（37）Williams症候群の神経生理学的研究

中村みほ^1,2，金桶吉起¹，渡邊一功³，柿木隆介¹
（¹国立共同研究機構・生理学研究所，²愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所，³名古屋大学医学部・小児科）

　Williams症候群は心血管系の異常，特異な顔貌，精神発達遅滞などの症状を有する症候群で，認知能力のばらつきが大きいという特徴がある。中でも，視覚認知においては，顔，色，などの認知に対し，視空間認知に劣ることから，背側経路の障害の関与が指摘されている。ただし，背側経路の機能のひとつである動きの認知については，一部のWilliams 症候群患者においては心理物理実験で健常者と変わりない結果を示すものも報告されている。われわれは，典型的な視空間認知障害を示し，動きの刺激に対する心理物理的反応も健常者と変わりない，13才男性のWilliams 症候群患者の協力のもと，RDK(random dot kinematogram)による動きの刺激に対する反応を脳磁図を用いて検討した。その結果，健常成人とほぼ同様の潜時で，V5/MT野に相当する部位に反応がえられた。これにより，本症候群における視空間認知障害は，背側経路の中でも動きの認知に関わる部分の障害によるものではなく，その他の部位の障害である可能性が示唆された。

（特別講演）MEGの新しい方法論：脳研究への適用

外山敬介（島津基盤技術研究所顧問，京都府立医科大学名誉教授）

　PET，fMRI，MEGを用いたヒトの脳研究の進展ぶりには目を見張るばかりである。しかしながら，微小電極の世界から非侵襲的脳計測の世界に転入した新参者の私には，どの手法も脳研究に対する決定力を今ひとつ欠いている感をいなめない。この問題を克服するための最も有力な手法として，fMRIの高空間分解とMEGの高時間分解能を結びつけることを模索してきたが，Wiener推定によりそれをほぼ実現することができた。これまでにも，fMRIとMEGを結びつける試みはいくつかなされてきたが，そのほとんどはfMRIで推定した脳活動部位の中心にダイポールを仮定してMEGのダイポール推定を行うなど，fMRI-MEG結合の核心部分は研究者の恣意的処理に依存していた。我々が開発したWiener推定法では，MRI計測により被験者の脳ポリゴンモデルを作り（ポリゴン3角面に直交するダイポールを仮定），fMRIにより脳活動（ダイポール活動）の地理的，統計的（分散・共分散）性質を知り，それを基礎にしてMEGの逆問題（脳のダイポール活動の時間経過）を解く。したがって，Wiener推定がfMRI-MEG結合と逆問題処理の数学的道具となっている。Wiener推定では刺激前のベースライン活動からノイズを推定し，それをダイポール活動から差し引くので，ノイズが少ない利点もある。この手法を中心として，我々の研究室が開発したいくつかの脳研究のための新しい非侵襲的計測の方法論についてお話したい。



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