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分子生理研究系

神経化学研究部門

【概要】

当部門は脳機能を分子レベルで理解することを目指して,GABA系遺伝子改変マウスの作成・解析,タンパク質リン酸化の研究を行ってきた。本年度はとくに当部門で作成したGAD67-GFPノックインマウスを用いて,下記の上丘,大脳皮質におけるGABAニューロンの発生の解析と所内所外研究者との共同研究による小脳,上丘等におけるGABAニューロンの電気生理学的研究を行った。

 

マウス上丘におけるGABAニューロンの発生

小幡邦彦,常川直子

最近,大脳皮質や脊髄の発生過程におけるGABAニューロンの発生,移動様式が明らかにされてきた。当部門で作成したGFPノックインマウスはGABAニューロンがGFPを発現するので,これを用いて大脳皮質に似た層構造を持つ上丘の発生を調べた。上丘のニューロンはGABA性も含めて胎生(E)11-14日にほとんどが誕生した。GABAニューロンは大脳皮質ではganglionic eminensで生まれてtangentialな移動で皮質に拡がり,脊髄ではv1という特定部位で生まれるが,上丘では内面のventricular zoneで生まれて,表層へradialに移動することが結論された。これはGABAニューロンの形態観察,細胞マーカーの免疫組織化学,生きたスライス標本の経時的観察,微小切断実験にもとづく。また上丘にGABA細胞がみられないE10-12に,中脳外側に発するGABA線維が上丘表層を束をなして走行していることを見出した。

 

GAD67-GFPマウスを用いた大脳皮質GABAニューロンの移動様式の解析

柳川右千夫,小幡邦彦
村上富士夫(大阪大学大学院生命機能研究科)

GABAニューロンで特異的にGFPが発現するGAD67-GFPマウスを用いて大脳皮質におけるGABA作動性ニューロンの動態を経時的に観察し,その移動速度と運動方向を解析した。その結果,中間層と脳室下層では接線方向の顕著な移動が観察された一方,辺縁層や皮質板,サブプレートに分布するGABAニューロンの多くはわずかな運動性しか示さなかった。さらにその移動の運動性や移動方向は多様であり,脳表面に対し垂直方向に移動する細胞や,接線方向ではあるが大部分の細胞とは逆に大脳基底核原基の方向へ戻る細胞も少数ではあるが観察された。また,複数の層とをまたがって移動する細胞も観察された。これら移動細胞の多くが,ストップアンドゴーを繰り返す,跳躍的な動態を示していた。以上の結果より,発生中の大脳皮質においてGABAニューロンはそれぞれの層で特異的な動態を示すことを明らかにした。

 

ノックインする遺伝子による相同組み換え効率の検討

柳川右千夫,山本友美,神原叙子,小幡邦彦
戸塚昌子(科学技術振興事業団,CREST)
八木 健(大阪大学細胞生体工学センター)

遺伝子標的法を用いて特定の遺伝子をノックインした遺伝子改変マウスは,個体レベルでの機能を解析するのに有効な材料となる。しかしながら,ES細胞における相同組み換えを利用するため,ノックインする遺伝子により相同組み換え効率が異なる可能性がある。この点を明らかにする目的で,緑色蛍光蛋白質(GFP,0.7 kb),テトラサイクリンアクティベーター(tTA2,0.7 kb),プロゲステロン受容体・クレレコンビナーゼ(CrePR,1.8 kb),ルシフェラーゼ(luc,1.7 kb)の各遺伝子をGAD67遺伝子にノックインしたコンストラクトをそれぞれ作成し,ES細胞に導入することにより相同組み換え効率を調べた。その結果,GFPとCrePRで相同組み換え率が高く,tTA2で低いことが明らかになった。この結果は,相同組み換え効率がノックインする遺伝子の長さよりもその塩基配列に影響される可能性を示唆している。

 

遺伝子変異動物によるCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIの機能解析

山肩葉子,柳川右千夫,小幡邦彦

Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)は,中枢神経系に豊富に存在する多機能型のプロテインキナーゼで,神経活動の制御やシナプス可塑性に深く関わると考えられている。我々はこれまでに,生体内における神経活動とCaMKIIの活性状態との関連を明らかにしてきた。本研究においては,CaMKIIの主要なサブユニットであるαの遺伝子を点変異によって不活性型に変異させたマウスの作製を試み,その解析によって,生体内におけるCaMKIIαの果たす役割について新たな知見の獲得をめざしている。本年度は,Creレコンビナーゼによって薬剤耐性遺伝子を除去した相同組換えESクローンを用いて,マウス胚へのマイクロインジェクションを行い,キメラマウスの作成を行った。キメラ率の高いマウスについて交配を行い,ヘテロマウスを作成中である。

 

神経活動活性化に伴う沈降型,過剰リン酸化型,不活性化型Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIの形成

山肩葉子,小幡邦彦

Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)は,中枢神経系に豊富に存在する多機能型のプロテインキナーゼとして,神経活動の制御やシナプス可塑性に深く関わると考えられている。我々は,生体内における神経活動とCaMKIIの活性状態との関連を調べる中で,けいれん活動中には,脳ホモジネート中のCaMKIIの脱リン酸化,活性化型の減少と共に,細胞内分布の変化と一部不活性化が起こることを観察している。そこで,この不活性化を伴う細胞内分布の変化の実体について,さらに解析を行った。その結果,可溶性画分に残存するCaMKIIでは脱リン酸化が起こるが不活性化が認められないのに対し,顆粒画分で増大したCaMKIIではリン酸化の増大と不活性化が認められた。このけいれんに伴う,沈降型,過剰リン酸化型,不活性化型のCaMKIIについて,その生成機構,生理的役割についてさらに検討を行っている。

 

グルタミン酸脱炭酸酵素欠損マウスにおける視床扁桃体路興奮性シナプス可塑性亢進のメカニズム

兼子幸一,小幡邦彦

グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)65欠損マウス扁桃体のスライス標本では,視床扁桃体路の高頻度刺激によるLTPが変異型で大きく,GABAB受容体拮抗剤CGP55845はとくに野生型の増強率を増す。扁桃体外側核主細胞から全細胞記録を行い,シナプス前,後何れのGABAB受容体が可塑性調節に関わるのかを検討した。Gタンパク阻害剤GDP-b-S(1.5 mM)のパッチ電極内投与で野生型のLTP増強率は対照条件下よりも大きくなり,変異型は増強を示さなかったが,依然変異型の増強率が高かった。パッチ電極内のCsでシナプス後GABAB応答を抑制する条件下で単離したNMDA受容体性EPSC振幅は低頻度刺激時には差はなかったが,高頻度刺激時には変異型で有意に大きくなった。以上の結果から,シナプス間隙に拡散したGABAがシナプス前,後両方のGABAB受容体を活性化し,可塑性調節に関与していることが示唆された。

 

Ca2+感受性非選択性カチオンチャネル活性化による扁桃体基底外側核GABAニューロンに対するノルアドレナリンの興奮性作用;GFPノックインマウスを用いた解析

兼子幸一,小幡邦彦,柳川右千夫

ノルアドレナリン(NA)の扁桃体基底外側核GABA作動性細胞に対する作用を検討するため,GAD67-GFPノックインマウス脳から作成した扁桃体スライス標本のGFP陽性細胞から全細胞記録を行った。電流固定記録でNAはGFP陽性細胞のうち,遅い時定数の後過分極を示すRS細胞の全例に脱分極と持続性発火を起こした。TTX存在下に-60 mVで電位固定するとNAによる内向き電流が生じ,INAはa1受容体拮抗剤で抑制された。外液Ca2+の除去及びCd2+の外液への添加,外液Na+の低下でINAはそれぞれ対照群の8%,37%,11%に減少した。voltage-rampからINAの平衡電位は-20 mV付近にあり,INAに伴いRS細胞の入力抵抗は15%低下した。以上の結果から,RS細胞に対するNAの興奮性作用はa1受容体を介したCa2感受性カチオン非選択性チャネルの活性化によることが明らかとなった。

 

 

超微小形態生理研究部門

【概要】

物質輸送に関する研究が主眼である。外分泌腺では分泌刺激により水輸送と開口分泌が両方活性化されるが,in vitroでの蛋白分泌と水分泌の同時測定が不可能であるため不明であった。また経細胞輸送と傍細胞輸送の相関は不明であった。村上は分泌定量の可能な唾液腺血管潅流系を材料に分泌時間経過,形態観察,開口放出関連蛋白定量,傍細胞輸送の4テーマについて共同研究を組織し,研究を展開した。大橋はエンドサイトーシス経路における選別輸送の研究を変異細胞を用いて行った。

 

潅流ラット顎下腺における水分泌調節機構

村上政隆,大河原浩
細井和雄,KwartariniMurdiastuti(徳島大学歯学部)
Bruria Sachar-Hill, Adrian E. Hill(ケンブリッジ大学生理科学部)

原唾液は細胞の中からの分泌と傍細胞経路を通過した成分との混合物であり,血液成分が唾液に移行するのはこのためである。標識デキストランをプローブとして唾液,潅流液,細胞間液に分布するデキストラン分子のサイズを決定した。分子径に対する分泌プローブの唾液/潅流液比は二つの成分(自由拡散(Stokes-Einstein)双曲線成分に一致する大きな通過経路を示す成分及び半径5Åに切片をもつ直線成分で溶媒牽引による成分)に分けられた。フィルター特性は,水の分子半径1.5Åでは1の値に外挿され,水のほとんどが細胞間隙/tight junctionを通過することを強く示唆した。ここに水分子を主に通過させると考えられてきた管腔側膜に存在するAQP5がどのような機能を有するかが大きな疑問となった。HillはAQP5が浸透圧受容器として働く仮説を提出した。一方細井らは通常のSDラットにAQP5発現と分布が異なる個体が存在することを見い出した(Pflugers Archs, 445(3), 405-412, 2002)。本年度は,細井らの開発したAQP5低発現ラットを用い,血管灌流ラット顎下腺を作成し,高浸透圧ショックに対する水分泌反応の違いを比較検討した。その結果,通常ラットでは浸透圧変化に応じて水分分泌速度が低下した。AQP5低発現ラットでは分泌速度の変化が小さく,調節機能低下が示唆された。この調節はAQP5で受容され傍細胞輸送経路が効果器として働くと考えられた。一方,実際に傍細胞輸送経路を通過する水分分泌を推定した。これは北里大学 瀬川と共同研究で一般共同研究に記載した。

 

灌流ラット顎下腺の細胞間分泌細管の分泌時形態変化

村上政隆,前橋寛

Alessandro Riva, Felice Loffredo, Francesca Testa-Riva(Cagliari大医,細胞形態学)

分泌刺激強度により水輸送と開口分泌反応が変化するが,分泌境界面である細胞間分泌細管の形態変化が刺激強度とどのように対応するかをラット顎下腺血管潅流標本を材料に高分解走査電子顕微鏡により観察した。試料は分泌刺激に対応し採取し固定後Osmiumマセレーション法により細胞内容をかき出し細胞質側より細胞間分泌細管を連続して観察することができた。その結果,なにも刺激しない対照系においても,同じ細胞間分泌細管の一部に開口分泌あり,他の部分は開口分泌像がない場合があること(開口分泌の不均一分布)この分布が分泌強度をあげることにより密になること(開口分泌の細管状での均一な分布)が分かった。すなわち,電子顕微鏡レベルのミクロの変化(分泌顆粒が細胞間分泌細管に接着,接着顆粒にベシクルが付着するエンドサイトーシス,microvillの消失)の出現頻度が上昇し,腺全体で測定されるマクロな分泌反応は,ミクロな変化の加算として理解できた。平成12-13年度にCCh0.1uMの刺激強度では水分泌反応はcAMPにより調節されることを示したが,この分泌刺激の強度においては無刺激下で観察される開口分泌反応のミクロな形態変化と童謡の変化のみ観察された。このことは生理的な刺激強度の範囲ではユニットになるミクロな形態変化は同じでその出現頻度が空間的時間的に上昇することにより,マクロな分泌反応になることが結論付けられた。

 

エンドサイトーシス選別輸送のメカニズムの解析

大橋正人,永山國昭

エンドサイトーシス経路は,細胞の環境応答の前線となっている膜動輸送系である。我々は,エンドサイトーシス経路によるシグナル伝達制御などの生理機能とそのメカニズム,そして,その異常による病態の解明を目指し,この経路の哺乳類変異細胞株を用いて解析を行っている。これまでに,複数の後期エンドソーム過程のCHO変異株を得,レトロウイルスベクターによる発現クローニング法などにより,後期エンドソーム多胞体(MVB)からゴルジに向かう受容体の,MVBからの選別・搬出にコレステロールが必要である事,さらに,MVBからゴルジへの輸送異常を修正する遺伝子産物であり,コレステロール合成系の後期酵素であるNAD(P)Hステロイド脱水素酵素様蛋白質(Nsdhl)が,後期エンドソームでの受容体選別機能蛋白質であるTIP47と細胞内の脂肪滴表面で共存することを見いだした。本年度は,ヒト胎児発生異常であるCHILD症候群の原因となるミスセンス変異のひとつ,G205Sを持つNsdhlは,LD上に局在できなかったことなどを見いだし,Nsdhlの脂肪滴への局在が,機能的な重要性を持っている可能性がいっそう強く支持された。脂肪滴表面機能と後期エンドソーム選別輸送制御,コレステロールの生合成,および胎児発生異常の相互の関連が注目される。

 

「意識科学の視点」から,「ヒト・ゲノムの文法解析(=暗号解読)」の試み

東 晃史

「分子生物学は,分子によって,生命を理解しようとする科学である」と解説される。これに対して,「意識科学は,ヒトの言語の,生成メカニズムを明確にしようとする科学である」と解説できるであろう。「ヒトの言語生成の,メカニズム解析」のために,数年来,「現代物理学の基礎概念(=アインシュタイン,ハイゼンベルグ,ファインマン)とは異なる基礎概念,つまり,認識論の伴う,東仮説(=マクロの量子論)」を体系化してきた。しかし,「東仮説(=マクロの量子論)」は,一般研究者に,なかなか,理解されなかった。「理解されない最大の理由」は,多分,「時間と空間の概念が,従来の,物理学や哲学の基礎理論とは異なる」からであろう。そこで,今年度は,「現代物理学の基礎概念と,東仮説の基礎概念との,理解の接点(=橋渡し=連続的な理解)を創る」目的で,「一般の科学者が,自分で,東仮説を,検証できるような具体的な方法論(=コンピュータのロジック)」を示し,かつ,「東仮説の具体的な応用例として,ヒト・ゲノムの文法解析(=暗号解読)のモデル」を示した。モノクロでは実例(=モデル解析例)を示せないので,「ホームページ(=http://www.nips.ac.jp/~higashi)の,東レポートNo.10,No.11」を参照されたい。

 

 

細胞内代謝研究部門

【概要】

細胞内代謝部門では,生物活性物質や細胞-細胞間刺激に対する細胞の刺激受容機構,細胞内情報伝達機構,細胞機能発現機構を研究対象としている。特に刺激時や細胞活性時の細胞内カルシウムイオン(Ca2+)の動態を画像解析装置を用いて詳細に解析することにより,上記のメカニズムの解明を目指している。また,受精時のCa2+増加やCa2+振動機構の研究を通して受精機構,卵成熟機構の研究を行っている。海産動物(ウニ卵)受精時のカルシウム変化について代表的なカルシウム蛍光色素2種(Fura-2とCa Green)を用いカルシウムキレーターの阻害作用を詳しく検討した。またマウス卵母細胞の自発的Ca2+振動機構,内分泌撹乱物質(エストロゲン)の卵母細胞への影響について研究を行った。

 

カルシウムキレーターのウニ卵受精時への異なる効果

毛利達磨,
Chambers EL (Univ Miami),
Landowne D (Univ Miami)

ウニ卵にカルシウムキレーターBAPTAを前注入し,受精時の細胞内カルシウム増加と膜電流変化を同時測定した。細胞内Ca2+測定には代表的なカルシウム蛍光色素fura-2とCa Greenを用いた。0.5-1.0 mM BAPTAは容量依存的に細胞内Ca2+増加とCa2+依存性phase 2電流を抑制した。1 mMやそれ以上のBAPTAとfura-2の卵ではphase 2電流と細胞内カルシウム増加はともに抑制された。ところが,同様のBAPTAとCa Greenの卵ではphase 2電流は抑制されるが,はっきりしたカルシウム増加を示した。このことからfura-2とCa Greenの使用について問題点が提起された。またFura-2のInsP3受容体に対する抑制作用が示唆された。

 

マウス未成熟卵母細胞の自発的Ca2+振動に対するエストロゲンの作用

毛利達磨
吉田 繁(近畿大理工)

哺乳類の成熟卵は受精時に細胞内カルシウム濃度が変動する(カルシウム振動)。このカルシウム振動はその後の発生に伴う様々な卵内の反応を引き起こす原因になる現象である。一方,卵巣から取出したマウス未成熟卵母細胞(以下卵母細胞)も自発的カルシウム振動をしていることから,卵巣内でも,カルシウム振動をしており各種ホルモンの制御を受けて成熟すると考えられる。しかし,代表的なホルモンであるエストロゲンと卵母細胞発達との関係は不明である。内分泌かく乱物質のリスクに対する評価方法を確立するためにエストロゲンやエストロゲン様内分泌かく乱物質による卵細胞機能に及ぼす作用を調べた。マウス卵巣から採取した卵母細胞をカルシウム蛍光色素Fura-2で染色し,顕微鏡下で自発的カルシウム振動測定と同時に明視野での形態変化解析をおこなった。また,単離状態だけでなく卵巣内での機能を確かめるためにスライスを作成した。その結果,1)単離卵母細胞だけでなくスライスした卵巣内でも卵母細胞は自発的カルシウム振動を示していることがわかった。(図1a参照)。(図2参照)。2)エストロゲンの代表であるE2(17b-estradiol)はカルシウム振動を抑制するだけでなく,振動パターンも乱すことが判明した(図1b参照)。

 

 

 

上衣細胞濃度感受性ナトリウムチャネル

毛利達磨(細胞内代謝研究部門)
吉田 繁(近畿大学理工学部生命科学科)
小幡邦彦(神経化学研究部門)
須谷康一(近畿大学大学院総合理工学研究科)
尾松万里子(滋賀医科大学第二生理学教)

Na+濃度感受性Na+チャネルNaC(c=concentration)が存在すると考えられる上衣細胞(別称:タニサイト[tanycyte])の機能を解明するためにマウス(C57BL/6J)脳の内側隆起を含む部位の150-250ミクロン厚スライスを作成してNa+感受性蛍光色素(SBF)で染色し,細胞外Na+濃度変化に対する第三脳室周囲部の応答を画像解析装置で観察した。140 mM Na+標準細胞外液から高濃度160-200 mM Na+溶液に替えると,内側隆起各部の細胞内Na+濃度は持続的かつ可逆的に上昇した。他方,第三脳室側壁部および周辺部は高濃度Na+溶液に殆どまたは全く反応しなかった。単離したタニサイトをパッチクランプ法で調べたが,刺激後,K+電流が記録されるのみで興奮性は見られなかった。一方,球形の神経細胞は,自発放電を示し刺激に応じてNa+電流を発生した。このことから脳脊髄液のNa+濃度をモニターするタニサイトの感覚受容器としての役割が示唆された。

 


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