生理学研究所年報 年報目次へ戻る生理研ホームページへ


1.コンディショナルジーンターゲティングによるGnRHニューロンの機能解析

佐久間康夫(日本医科大学生理学第一講座)
 小幡 邦彦(生理学研究所神経化学部門)
 八木 健(生理学研究所高次神経機構部門)
 柳川右千夫(生理学研究所神経化学部門)
 加藤 昌克(日本医科大学生理学第一講座)
 桑名 俊一(帝京大学・医学部・生理学講座)
 小泉 周(慶應義塾大学・医学部・生理学講座)
 七崎 之利(日本医科大学生理学第一講座)

 昨年度までにコンディショナルノックアウトマウスのターゲティング遺伝子を作成し,ES細胞に導入,選抜し,8細胞胚への注入まで行ったがキメラマウスは得られていない。本年度ES細胞のスクリーニングからやり直してみたが,結果は全て不成功であった。考えられる原因の一つはES細胞の分化である。すなわち,我々の系ではES細胞の培養期間が長くなり,その間にES細胞の分化が進んだと考えられる。分化したES細胞ではキメラ率が低くなることが知られている。そこで,ES細胞の培養期間が短くて済むようなコンストラクトを作る必要があると考えられる。現在その方向で実験を進めている。

 

2.容積感受性Clチャネルの候補蛋白質の機能解析

富永真琴(三重大学医学部第一生理学講座)
赤塚結子(国際科学振興財団・研究開発部・専任研究員)
岡田泰伸

 細胞外及び細胞内の浸透圧変化に対応して自らの体積を一定に保とうとする働きは,動物細胞にとっては必要不可欠な機能である。このような容積調節を行うために細胞はイオンチャネルやトランスポータ及び細胞内の様々な蛋白質を動員する。細胞が一旦膨張した状態から元の体積に戻る調節性容積減少(regulatory volume decrease: RVD)の過程は,細胞内の蛋白質による情報伝達を介して,最終的には細胞内からのK+とCl-流出が駆動力となって細胞内の水が細胞外に流出することによって達成される。特にこの場合のCl-の通り道であるチャネルは細胞の容積上昇を感知して開口するために容積感受性Cl-チャネルと名づけられており,チャネルそのものやその開口のメカニズム等に興味が集まっている。しかしながらこの容積感受性Cl-チャネル分子の実態はいまだ明らかではなく,さらにその開口のメカニズムを究明するためにはこのチャネル分子のcDNAを単離し,一次構造を決定することが必要不可欠である。

 報告者は,現在このチャネルの制御因子の候補蛋白質を同定しており,この候補蛋白質を培養細胞に発現させて電気生理学的に検討する実験を,機能協関部門の岡田泰伸教授と共同で行っている。その結果,本候補蛋白質が容積感受性Cl-チャネルの制御因子であることが証明されれば,さらに容積感受性Cl-チャネルの同定をすすめる。

 

3.海馬神経における虚血性Ca2+動員とイオンチャネル異常

出崎克也,矢田俊彦(自治医科大学医学部生理学講座統合生理学部門)
岡田泰伸

 海馬における虚血性神経細胞死では,細胞内Ca2+濃度上昇が細胞障害の引き金と考えられており,そのCa2+動員機構はイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)の過興奮による細胞外からのCa2+流入に起因するものと想定されている。しかし,iGluRの関与については否定的な報告もあり,Ca2+動員経路については未だ確立していない。そこで本研究では,マウス海馬スライス標本における虚血時の細胞内Ca2+動態をfura-2蛍光法を用いて測定した。その結果,虚血刺激によって細胞内Ca2+濃度の上昇が観察され,このCa2+濃度上昇はiGluR拮抗薬(MK-801,CNQX)存在下でも観察された。また,急性単離した海馬神経細胞においても,虚血刺激によって外液Ca2+依存的な細胞内Ca2+濃度の上昇が観察された。このCa2+動員は,Ca2+チャネル阻害剤(La3+,Nifedipine)によって抑制された。さらに,細胞内Ca2+遊離阻害剤のDantroleneおよび小胞体Ca2+-ATPase阻害剤のCyclopiazonic acidは,部分的な抑制効果を示した。以上の結果,海馬神経において虚血時にCa2+チャネルを介した細胞外からのCa2+流入および細胞内ストアからのCa2+遊離が惹起されることが示唆された。一方,iGluRを介した細胞外からのCa2+流入は,少なくとも虚血初期のCa2+動員には関与しないと思われる。今後は,虚血性Ca2+動員に寄与するチャネルの同定および虚血性細胞膨張との連関を明らかにする予定である。

 

4.大腸粘膜下神経叢による上皮Cl-分泌制御

河原克雅,安岡有紀子(北里大学医学部生理)
真鍋健一,岡田泰伸

 モルモット大腸粘膜のCl-分泌は,粘膜下神経叢(Meissner’s plexus)により制御されている。粘膜下神経叢のcholinergicおよびVIP-ergic線維は協調的にクリプト細胞のCl-分泌を制御し,さらに,自律神経系や筋層間神経叢とも協調しより複雑な分泌制御を行っているが,その詳細は不明である。われわれは,単離したモルモット大腸(Ussing chamberに固定)血管側に投与した低濃度Ba2+(0.2-1 mM)が,振動性の上皮Cl-電流を誘発し,TTXおよびatropineで阻害されることを発見した(Nishikitani et al, 2002)。この振動性Cl-電流の細胞生理学的機序を明らかにするために,実験1)粘膜下神経叢を電位感受性色素で染色し,神経網の振動的膜電位変化を可視化し,シグナル伝播を同時空間的に解析すること,実験2)単離したクリプト細胞の細胞内Ca2+変化を可視化する事を試みた。実験1:Di-8-ANEPPS (100mg/ml)を単離モルモット大腸粘膜組織(粘膜下神経叢を含む)に負荷し,北里大学医学部に設置してある共焦点レーザー顕微鏡(LSM510, Zeiss)で観察した。結果:大腸粘膜クリプト直下層に,赤色蛍光の神経叢ネットワークが同定された。アセチルコリン(Ach)投与による一過性膜電位変化や低濃度Ba2+(0.2-1 mM)投与による,同期する振動的膜電位変化は観察されなかった。実験2:モルモット大腸を単離し,スパイラル管に反転して固定後,撹拌装置(和研薬株式会社)に取り付け,冷Ca2+-free標準液(+EDTA)内で震盪した。剥がれ落ちたクリプトを遠沈し,標準液(+Ca2+)中に保存した。Indo-1-AMを負荷した後,生理学研究所に設置してある2光子レーザー顕微鏡(FLUOVIEW FV300, Olympus)で細胞内Ca2+の濃度変化を可視化し,クリプトの底部から入口部へのシグナル伝播の観察を試みた。結果:単離クリプト細胞は刺激前の細胞内Ca2+レベルが高く,Ach,ATP投与直下に位置するクリプト細胞内Ca2+増加は認めたが,一方向性のCa2+シグナル伝播は観察されなかった。

 


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