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1.腹足類外套にみられる特異な星形筋細胞内の筋原線維の超高圧電顕観察

片桐 展子(東京女子医科大学・総合研究所.研究部)
片桐 康雄(東京女子医科大学・看護学部・基礎科学)
有井達夫

 イソアワモチ(Onchidiumsp.軟体動物,腹足類)の外套の背表面は凹凸が著しく,その名の由来になった大小の疣状または粟状突起で覆われている。孵化後1年以内の幼動物の外套は成体に比べて凹凸が少なく滑らかにみえ,突起は未発達である。

 これまでの超高圧電顕観察によって,幼動物の外套の皮下組織に大形で特異な星形の筋細胞が存在すること,この筋細胞から延びる多数の突起に囲まれた領域内に眼外光受容器である皮膚光覚細胞の存在を認めた。大形で不整形の筋細胞の全体像の解明には,厚切切片を超高圧電顕で観察するのが有効で,三次元再構築しその全体像を明らかにした(片桐ら,2001,2002)。本研究では筋細胞の基本的な微細形態,特に筋原線維を高倍率で観察した。

【材料と方法】イソアワモチの幼動物(体長10mm以下) を2%オスミウム水溶液で40℃,48時間加温処理,脱水過程で酢酸ウランによるブロック染色した。エポン樹脂に包埋,0.3μm厚さの連続切片を作成。グリッドの枠内に皮膚光覚細胞および星形の筋細胞が入るように切片を載せその上にホルムバール支持膜を貼った。酢酸ウランと鉛染色し,超高圧電顕H-1250M,1,000kVで観察した。

【結果と考察】筋細胞は多数の突起を有し,長楕円形の核は細胞の中心で最も厚い細胞体部に位置する。筋細胞の細胞体および突起の内部に2種類の筋原線維;電子密度が高く太い線維と細い筋原線維を認めた(図2)。試料作成において加温オスミウム染色を行ったこと,厚切り切片であるために筋原線維の超微細構造は一部しか明らかにできなかった。また,神経線維や他の細胞との接着についても判然としなかった。

 筋細胞の長大な突起は細胞体から放射状に延びる。筋原線維は突起の長軸に沿って走行するが,細胞体を通り越して他の突起に連続して走行する。走行がカーブするものや筋原線維が束または層状で走行して交差するものを認めた(図1)。これらの走行は厚切り切片を超高圧電顕によって観察し明らかにできた。電顕写真を基にデジタル・フーリエ合成法を利用して,筋原線維の構造解析を試みた。2種の筋原線維の配列に規則性が認められる部位もあったが,今後の課題である。

図1 筋細胞の細胞体

 

筋原線維(▼)が細胞質内のオルガネレの傍を束または層状で走行する。細胞体部の近くでは方向の異なる突起内を筋原線維が走行する。

図2 筋細胞の突起の末端部。

 

突起の内部に筋原線維が平行に走行する。電子密度が高く太い線維(▼)と細い筋原線維(↓)が認められる。

 

2.アクチンフィラメントの構造解析・リン酸カルシウム化の影響について 

一海 孝光(愛知県立芸術大学・美術)
有井達夫

 超高圧電子顕微鏡は微小なクリスタルの電子線回折像を得るのに適した装置である。電子線の透過力が強く,3次元的なクリスタルの回折像も得られる。エックス線回折にかけるには小さすぎるクリスタルであっても可能である。200オングストローム以下の範囲に収まる小さなクリスタルからの回折像も報告されている[1]。アクチンフィラメントのクリスタルは低い塩濃度の緩衝液中のアクチン溶液にモル比で過剰になるようにATPを加えると作られる。我々はこの装置を使って約数mm程度のアクチンフィラメント由来と考えられるクリスタル(図1)の電子線回折の様子を調べてきた。壁面に沿ってフィラメント状の構造が見られる。図2にこれらと類似の微小クリスタルからと思われる回折像の写真を示した。アクチンによってATPが加水分解されると無機燐酸が出来るが,これとCa2+が反応して燐酸カルシュウムを形成する。この像の中で大きい回折スポットが1/3.3Åの間隔で子午線上に並んでいる。これらはハイドロキシアパタイトのクリスタルの格子定数に一致している[2]。ハイドロキシアパタイトは,フィラメントがあるとC軸がフィラメントの長軸方向に沿うようなepitaxialな結晶成長をするといわれている。強いスポットが出ている軸の方向は,図1のフィラメント状の長軸方向と一致していると予想される。この軸と約45度の角度で交わる軸方向に層状の回折がある。これらの反射面間隔は約1/5Åである。これはa-ヘリックスがつくる反射面の間隔に相当している。さらにこの軸上には細かい間隔の回折スポットがある。このスポットの間隔は約1/50Åでありアクチンモノマーに由来するものと思われる。このようなクリスタルも水を結合していると考えられる。谷口・神谷らはアセトン中でクリスタルを成長させたが,我々はATPによって成長させたアクチンフィラメントのクリスタルをアセトンであらかじめ脱水することにより回折像を得ることに成功した。

 Ref.1 Dupouy, G., Perrier, F., Uyeda, R., Ayroles, R. and Bonoque, M.A. (1963) C.r. Hebd. Seanc. Acad. Sci., Paris 257, 1511.

 Ref.2 Hartgerink, J.D. , Beniash, E. Stupp, S. I.  (2001) Science 294, 1684-1688

 

図1アクチンフィラメント由来と考えられる微小結晶

 

図2微小結晶からの制限視野回折像

 

3.ガス中蒸発法によって作成した有機化合物微粒子の結晶構造解析

仙石昌也(愛知医科大学)
有井達夫

 昨年度,10TorrのAr雰囲気ガス中で作成した微粒子の中に,既存の結晶データにない,約1.0nmの格子間隔を持つコロネン微粒子の格子縞が観察されたと報告した[1]。しかしながら,その後同様の条件で作成した微粒子について,電子線回折を中心に観察を行ったが,結局同じ間隔を持つ微粒子は確認されなかった。

 そこで,雰囲気ガスをHeに変更してガス中蒸発法でコロネン微粒子を作成し,生理学研究所の超高圧電子顕微鏡で観察を行った。図1は作成された微粒子のTEM像である。はっきりとした晶癖を持ち,電子線回折像が観察される粒子は針状結晶が多いが,それ以外に微粒子の成長過程,または微粒子同士が融合したと思われる粒子などもよく見られる。図の右上は針状結晶の一部分,直径約750nmの円で囲んだ制限視野における電子線回折像である。このように回折強度が強い,長軸に対して平行な面に対応する1次元の回折パターンが現れる粒子が多く見られた。回折像から面間隔を計算すると0.75nmとなり,JCPDS(ASTM)カードのデータから,これはコロネンの(200)面に相当することが確認された。次にこれらの微粒子の高分解能観察を行った。観察倍率を15万倍〜20万倍にしてイメージングプレートに記録したところ,先ほどの回折像に対応する0.75nmの格子縞が観察された。図2はその時撮影された長さ約1mm,幅約50nmの針状コロネン微粒子の先端付近の高分解能像であり,左上は枠で囲った部分の拡大像である。この微粒子の上半分には格子縞がはっきりと現れ,下半分は格子縞が確認されなかった。ここから,この微粒子が単結晶でなく,成長後に融合したものである可能性が考えられる。

【参考文献】

1.大野 完,仙石昌也,有井達夫:岡崎国立共同研究機構 生理学研究所年報 第23巻148pp.

 

図1コロネン微粒子のTEM像と電子線回折像

 

図2コロネン微粒子の高分解能像とその拡大像

 

4.腎生検検体を用いた糸球体疾患の三次元的構造異常の解析

杉山  敏,富田  亮(藤田保健衛生大学・医学部 腎臓内科)

 糸球体腎炎は免疫複合体が腎糸球体に沈着し,それに引き続き炎症細胞が入り込み組織障害を起こすと考えられている。今回我々は日本の慢性糸球体腎炎の中で一番頻度の高いIgA腎症を対象にメサンギウム領域への沈着物の侵入の仕方,炎症細胞の浸潤の仕方を超高圧電子顕微鏡を用い三次元的に解析することを試みている。

 

5.ギャップ結合連結した網膜及び脳ニューロンの樹状突起の構造:アマクリン細胞の同種間の連結

日高 聰(藤田保健衛生大学医学部生理学第二講座)

 The evidence of gap junction connections between vertebrate retinal neurons has been accumulated to date [1]. An important role of amacrine cells, third-order retinal interneurons, is thought to intensify inhibitory synapses among the cell populations in the proximal retina, since lateral gap junction connections between these cells are possible pathways for spreading light-evoked signals laterally in the inner plexiform layer (IPL) via electrotonic transmission and the majority of amacrine cells containsGABA [2].

 In this study, network properties of gap junction connections between amacrine cells in the IPL were evaluated by techniques of intracellular recording, dye injection and electron microscopy conducted on vertebrate retinas. First, retinal amacrine cells were identified with their light-evoked responses to light flashes, either transient ON-OFF or sustained. Second, tracer-coupled networks of the cell populations were visualized by transfer of intracellularly injected Neurobiotin into neighboring cells. Following light microscopic observation of contacts between the cells, the speciemens were then investigated with high voltage as well as conventional electron microscopy [3].

 Cell-type specific, homotypic connections (those between cells of the same morphological type) in the populations werefound (Fig. 1). Dendrodendritic contacts were seen either in tip- or cross-contact manner, i.e. those between dendritic tips(arrowheads, Fig. 1) versus those between dendritic shanks (not shown). Electron microscopical analysis revealed gapjunctions between light-microscopically documented dendrites, but not in dendrites apart from interconnected sites.Figures 2 and 3 show anatomically identified gap junctions laterally localized between Neurobiotin-labeled dendritic tips. In Fig. 2, high voltage electron microscopy demonstrated that the size of gap junction plaques at tip-to-tip dendritic contacts was 7mm in longitudinal axis in the transient bistratified cells (Fig.1) in 5mm section in thickness. In the monostratified amacrine cells, another type of transient cells (not shown), the size of gap junctions at tip-contacts was estimated as 16mm (Fig. 3).

 This study shows that gap junctions between amacrine cellsare in homotypical manner in vertebrate retinas. Thehomotypic lateral gap junctions between these cells may play animportant role in GABAergic synaptic behavior in cells in the IPL.

References:

[1]

Hidaka, S. et al. (2002) Expression of gap junction protein connexin36 in adult rat retinal ganglion cells. J. Intgr. Neurosci., Vol 1, pp 3-22.

[2]

Hidaka, S. et al. (2003)Homotypic gap junction connection between retinal amacrine cells. The Neural Basis of Early Vision, Springer-Verlag,Vol 11: pp 126 - 133.

[3]

Hidaka, S., and Hashimoto, Y. (1993) Intracellular labelingwithinjectionofbiotinylated compounds (biocytin, Neurobiotin) and its application for analysisof neuron network. J. Physiol. Soc. Jpn. Vol 55: pp 241 254.

Fig. 1:

Cellular morphology and tracer coupling of retinal amacrine cells. The recorded cell (asterisk), generating transient-type light-evoked responses, are hexagonally connected at dendritic tips (tip-contact) with neighbors of the same type. Note no labeling of cells of other morphological types, apart from the tip-contact homotypic cells.

Fig. 2:

High voltage electron micrograph of a gap junction (between arrowheads) at tip-to-tip contact between Neurobiotin-labeled dendritic tips of the transient bistratified amacrine cells shown in Fig. 1, observed at 1,000 kV in a tangential 5µm section in thickness. Note that gap junctions occur between laterally connected dendritic tips.

Fig. 3:

Conventional electron micrograph of a gap junction at tip-to-tip contact between dendritic tips of transient monostratified amacrine cells, observed in an ultrathin section.

 

6.脳スライス培養系による神経突起バリコシティの構造解析

遠藤 泰久,西田倫希,吉見仁志(京都工芸繊維大・繊維)

 中枢神経系におけるバリコシティ(varicosity)の構造と形成機構を解明する目的で,ラットの脳スライス培養系を用い,細胞骨格タンパクの免疫染色後,厚切切片を超高圧電顕で3次元的に解析した。神経突起の途中に形成される数珠状のふくらみ(バリコシティ)は,神経伝達物質を含むシナプス小胞や有芯小胞が蓄積し,神経終末として機能すると考えられているが,その形成機構は中枢および末梢神経系においてほとんど解明されていない。

 氷冷麻酔した新生ラット(生後5−10日)を断頭後,ティッシュチョッパーを用いて間脳の前額断スライス(厚さ400mm)を作製し,フィルターインサート上で2−3週間培養した。バリコシティ形成におけるチュブリンの影響を調べるため,αチュブリンmRNAのアンチセンスオリゴヌクレオチド(15mer)を50mMの濃度で48時間作用させた。対照にはセンスオリゴヌクレオチドを用いた。4%パラフォルムアルデヒドで固定後,チュブリンの特異抗体で免疫染色(ABC−HRP法)し,発色にはジアミノベンジジンに硫酸ニッケルアンモニウム(10mM)を加えてコントラストの増強を行った。オスミウム酸後固定,エタノール脱水,エポキシ樹脂包埋した後,厚さ2mmの厚切切片を作製し,超高圧電顕H-1250Mにより加速電圧1000kVで観察した。

 視床下部室傍核の大型神経分泌ニューロンには,チュブリンの特異抗体によく反応するバリコシティが多数観察された。細胞体および神経突起内部の微小管を厚切切片で十分に観察できるコントラストが得られた。チュブリンmRNAのアンチセンス処理により,明らかにバリコシティの大きさが減少し,細胞質全体のチュブリン免疫反応の減少が観察された。バリコシティ内部の細胞質には,ミトコンドリアと考えられる約1mmの球体と分泌顆粒と考えられる約100nmの小胞が存在し,その周囲の細胞質にはチュブリンの免疫反応を示す高い電子密度が均一に観察され,微小管ではなく遊離のチュブリンの存在が示唆された。以上の観察から,バリコシティ形成に遊離のチュブリンが深く関与することが示唆された。

図1.対象区のバリコシティ(±8°のステレオ)。

チュブリンの免疫反応により細胞質の電子密度が高い。ミトコンドリアや小胞が透けて見える。Scale bar = 1mm

図2.チュブリン アンチセンスmRNA処理区のバリコシティ(±8°のステレオ)。

バリコシティの縮小,小胞の減少がわかる。Scale bar = 1mm

 

7.ステロイドホルモンによる神経細胞の機能制御と構造変化の三次元的解析

小澤 一史,河田 光博(京都府立医大)

 ステロイドホルモンは脂溶性の物質で,脳血管関門を容易に通過し,各種ステロイドホルモン受容体を有する神経細胞に働きかけ,様々な機能を調節することが知られている。我々は特に,海馬−視床下部−下垂体−副腎皮質系を介するステロイドホルモンとストレス応答について,神経細胞構築,神経回路構築,神経細胞機能変動などの観点から考察を進めている。

 海馬領域,特に錐体細胞のCA1, CA2領域,顆粒細胞では多数の神経細胞でグルココルチコイド受容体(GR)の発現が認められ,受容体を介してグルココルチコイドの直接作用を受けていることが知られる。これらの神経細胞の構造構築,機能発現を調べる目的で,グルココルチコイドの変動と神経細胞の形態変化について,特に樹状突起とその棘(spines)の変化に注目し,超高圧電子顕微鏡をもちいて三次元的に解析した。正常のラットのCA1の神経細胞の樹状突起(図1A, 1B)に比べて,副腎を摘出しグルココルチコイド欠落状態になったラットでは樹状突起の分岐の数や長さに変化が生じ,さらに棘の数,形態に大きな変化(減少)が観察された(図2A, 2B)。コルチコステロンを投与することによって,これらのステロイドホルモン欠落による形態変化は回復を示した。

 これらのことより,グルココルチコイドは海馬の神経細胞の形態構築,特に樹状突起の棘の形態構築や維持に,重要な役割を持つことが明らかになり,これらはシナプス構築,シナプス可塑性と関係して,記憶や空間認知,行動の制御と大きな関連性を有する可能性が示唆された。さらにストレス応答の観点から,ストレス暴露による副腎皮質ホルモン分泌変化が海馬の神経細胞に大きな影響を与え,様々な神経症状を起こすことの機序を考える場合に,重要な形態学的情報になり得ると考えた。

図1:正常ラットの海馬CA1錐体細胞の樹状突起。
図1:(A) +16°傾斜像(B) -16°傾斜像

図2:副腎摘出ラットの海馬CA1錐体細胞の樹状突起。
(A) +16°傾斜像(B) -16°傾斜像

 

8.嗅球ニューロン樹状突起の三次元構造解析

樋田 一徳(徳島大学医学部情報統合医学講座形態情報医学分野)

 一次中枢の嗅球において嗅覚情報は既にかなり処理されていることが最近明らかになり,特に表層の糸球体は特定な匂い刺激に特異的に反応し注目されている。この糸球体では嗅受容細胞(入力)と投射ニューロン(出力)がシナプス結合をするが,これには多様な局所ニューロンが介在し,高次中枢への情報伝達を調整している。

 本研究は,超高圧電子顕微鏡の高解像力を利用し,嗅球糸球体層の介在ニューロンの複雑な樹状突起網の三次元構造の解明を目的とし,特に今年度は複雑な糸球体内樹状突起網を構成するcalretinin (CR)免疫陽性ニューロンに焦点を絞り解析を行なった。

 方法は昨年度と同様,抗CR抗体と蛍光・1.4nm金コロイド標識Streptavidinを用いて共焦点レーザー顕微鏡で観察後,銀増感DAB発色によりCRニューロンを選択的に標識した。エポン包埋後5μm厚の切片を超高圧電子顕微鏡で立体解析を行なった。

 CRニューロンは主に糸球体層に存在する傍糸球体介在ニューロンであるが,投射ニューロンにも弱い免疫反応がみられる。共焦点レーザー顕微鏡による三次元的観察では,糸球体周囲の細胞体から樹状突起が糸球体内に伸長し,複雑に分枝する蜂巣状の立体的網目構造が明らかとなった(図1)。しかし解像度の限界から突起細部の解析は困難の為,更に超高圧電子顕微鏡で構造解析を行なった。

 解析領域が限られるが,超高圧電子顕微鏡は糸球体内三次元突起網の解明には極めて有効である。CRニューロンは糸球体内で複雑に枝分かれして突起が絡み合うが,糸球体内の特定の領域に限局的に分布し,全体として蜂巣状構造を示すことが明らかとなった(図2)。この構造は我々が以前解析したcalbindin (CB)ニューロンの形態に類似するが,その突起はより細く,また空間内密度はより高く,一方,CRやCBニューロンと対照的なシナプス結合をするtyrosine hydroxylaseニューロン(昨年度報告)とは全く異なる樹状突起構造を呈した。

 現在,染色法の更なる改善を進めるのと同時に,他のタイプの介在ニューロンの詳細な樹状突起構造の解明を行なっている。

図1;ラット嗅球の糸球体層のCRニューロンの共焦点レーザー顕微鏡像,Bar; 50μm。

図2a, b;同嗅球糸球体内CRニューロンの樹状突起網(ステレオペア),Bars; 10μm。

 

9.星状グリア細胞突起のCT解析

濱   清
M. Ellisman, M. Martone, N. Yamada(Univ. Calif., San Diego. NCMIR)

 我々は高い電子線透過能と,5mmを越える生物試料でも4 - 5 nmの解像力が期待できる1,000kV超高圧電子顕微鏡の特性を利用して,主としてGolgi染色を行ったラットCNSにおける星状グリア細胞突起の3次元立体計測を行っている。 

 星状グリア細胞の突起を3mmの切片について,−60度から+60度まで2度間隔で連続傾斜撮影を行い,トモグラフイー解析(CT)(例えば図1)を行いその後同じ試料を90度回転して同様に解析を行なった。その結果は,S / V = 26.2±5.0 (mm-1)となり,Grosche et al.(Nature Neuroscience 1, 139(1999))により,連続切片から求められた値

 S/V(mm-1) = 13 (mm-1) バーグマングリア

 S/V(mm-1) = 20 (mm-1) ミクロドメイン

と比較すると,同程度でより大きな値をとることが明らかとなった。

図1 星状グリア細胞の突起:CT処理後Depth Gradient Shading表示をしたステレオ像(交差視;±8°傾斜)

 

10.発達とその異常に伴う神経細胞および骨格筋の形態変化に関する超微細3次元的研究

RHYU, Im-Joo,UHM, Chang-Sub,LEE, KeaJoo(Korea大・医)
井本 敬二,有井達夫

 Wemainlyanalyzed thethree-dimensional ultra-structure of Purkinje cell (PC) dendrites of Ca2+channel mutant mice,rolling Nagoya (Cacna1atg-rol).

 Morphology of PC dendritic spines is suggested to be regulated by signal molecules such as Ca2+and interactions with afferent inputs. The amplitude of excitatory postsynaptic current (EPSC) was decreased in PF to PC synapse whereas increased in climbing fiber (CF) to PC synapse in rolling mice. We have studied synaptic morphology changes in cerebella of this mutant strain. We found altered synapses between parallel fiber (PF) varicosity and Purkinje cell (PC) dendritic spines.

 To study dendritic spine plasticity of PC in the condition of insufficient P/Q type VDCC function, we used high voltage electron microscope (HVEM).

 4mm sections were prepared from rapid Golgi preparations of therolling and wild type cerebellum. We measured the density and length of PC dendritic spines at the tertiary branches with NIH image.

 We observed statistically a significant decrease in spine density as well as shorter spine length inrolling mice compared to wild type mice at tertiary dendritic branches. However, in proximal PC dendrites there were more numerous dendritic spines in rolling.

 The differential regulation of rolling PC spines at tertiary and proximal dendrite inrolling suggests two major excitatory afferent systems may be regulated reciprocally in the cerebellum of rolling mouse Nagoya.

 

《超高圧電子顕微鏡共同利用実験での業績リスト》

発表論文

  1. Wu S,Suzuki Y, Noda T, Bai H, Kitada M, Kataoka K, Nishimura Y, Ide C (2002) Immunohistochemical and electron microscopic study of invasion and differentiation in spinal cord lesion of neural stem cells grafted through cerebrospinal fluid in rat. J. Neurosci.Research 69: 940-945.
  2. Ogata K, Kosaka T (2002) Structural and quantitative analysis of astrocytes in the mouse hippocampus. Neuroscience, 113: 221-233.
  3. Ohno T, Sengoku M, Arii T (2002) Measurements ofelectron beam damage for organic crystals in a high voltage electron microscope with image plates. Micron 33: 403-406.
  4. Matsushita K, Wakamori M, Rhyu IJ, Arii T, Oda S, Mori Y, Imoto K (2002) Bidirectional alterations in cerebellar synaptic transmission of tottering and rolling Ca2+channel mutant mice. J Neurosci., 22: 4388-4398.
  5. Toida K, Kosaka K, Aika Y, Kosaka T (2002) Cathecolaminergic neurons in the olfactory bulb. in Cathecholamine Research: From Molecular Insights to Clinical Medicine(ed Nagatsu T et al) Kluwer Academic/Plenum, 289-292.
  6. Nagata, T (2002) X-ray microanalysis of biological specimens by high voltage electron microscopy. Proc. ICEM -15: 165-166.
  7. 小澤一史,謝 蔵霞,小川弘,西 真弓,河田光博(2002)ストレスとグルココルチコイド受容体。脳の科学24 (3) 219-226.

 

学会発表

  1. 片桐展子,重松康秀,片桐康雄(2002.2)三次元画像再構成システムOZ-95を用いて電顕写真からどんな立体再構築像が得られるか。第325回東京女子医科大学学会例会(東京)
  2. Katagiri N, Shigematsu Y, Arii T, Katagiri Y(2002.3) Three-dimensional analysis on the peculiar stellate muscle cells examined with high voltage TEM.第107回日本解剖学会全国学術集会(浜松)
  3. 日高 聰,宮地栄一(2002.3)網膜と嗅球におけるギャップ結合蛋白コネキシン36の発現ニューロンの解析。第79回日本生理学会大会(東広島)
  4. 濱 清(2002.5)超高圧電子顕微鏡と生物試料;メリットとデメリット。日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会(大阪)
  5. 濱 清,伊藤嘉邦,山田直子,有井達夫(2002.5)超高圧電子顕微鏡による神経細胞およびグリア細胞のCT画像解析。日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会(大阪)
  6. 片桐展子,重松康秀,岡野正史,有井達夫,片桐康雄(2002.5)眼外光受容(皮膚光覚)細胞の軸索の走行:連続切片の超高圧電顕写真の立体再構築。日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会(大阪)
  7. 井出千束,呉 溯帆,鈴木義久,野田 亨(2002.5)神経幹細胞による脊髄再生。日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会(大阪)
  8. 樋田一徳(2002.5)嗅球におけるニューロン構成と性ステロイド。日本電子顕微鏡学会第58回学術講演会(大阪)
  9. Toida K(2002.7)Steroid-synthesizing enzymes in the olfactory bulb. The 6th US-Japan Joint Meet. Histochemistry & Cytochemistry(シアトル, USA)
  10. Nagata, T (2002.8) X-ray microanalysis of biological specimens by high voltage electron microscopy. 15thInternat. Conf. Electron Microsc. (ダーバン,東アフリカ)
  11. KatagiriN,ShigematsuY,OkanoM,AriiT,KatagiriY(2002.9)Three-dimensional analysis on the axons of dermal photoreceptor cells in the dorsal mantle of the juvenile Onchidium with high voltage electron microscope. 12th Keio Univ. Internat. Sympo. Life Sciences and Medicine.(東京)
  12. HidakaSand MiyachiE(2002.9)Gap junctions between retinal ganglion cells.12th Keio Univ. Intern. Sympo. Life Sciences and Medicine.(東京)
  13. 小澤一史,謝 蔵霞,有井達夫,河田光博(2002.9)老化による脳の神経細胞の超微細構造-超高圧電子顕微鏡を用いた解析-。第34回日本臨床電子顕微鏡学会学術集会(札幌)
  14. HidakaSand MiyachiE(2002.11)Mammalian retinal ganglion cells express gap junction connexin36.Soc. Neurosci. 32nd annual meet.(Orland, USA)
  15. 一海孝光,有井達夫(2002.11)アクチン微小クリスタルの超高圧電子線回折。日本生物物理学会第40回年会(名古屋)

 


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