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5.細胞死の誘導と制御・その分子機構と生理病理機能2002年9月10日−9月11日
【参加者名】 【概要】
(1)Fasを介するアポトーシス誘導米原 伸(京都大学大学院生命科学研究科) 我々が発見したFas(CD95)はアポトーシスを誘導する細胞表層レセプター分子であり,Fasリガンド(主としてT細胞上に発現される)や抗Fasモノクローナル抗体の作用でアポトーシスを誘導するシグナルを細胞内に導入する。Fasの生理的機能としては,自己に反応する免疫担当細胞の末梢での除去,細胞障害性T細胞によるがん細胞やウイルス感染細胞などの除去をあげることができる。Fasはがん抑制遺伝子産物と認知されるようになっている。このようなFasの生理機能を生体内で調節するには,FasリガンドやFasの発現調節や,Fasを介する細胞内シグナル伝達機構の制御が重要である。このような視点から,Fasが刺激されるとどのような分子機構でアポトーシスが誘導されるのか,またこの分子機構が細胞内でどのように阻害されるのかを我々は研究している。そして,Fasを介するアポトーシス誘導シグナルを抑制する様々なシグナル(細胞の増殖増強や増殖抑制に関わるものや,生体の発生に深く関わるものが存在する)を見いだしている。具体的には,FGF(fibroblast growth factor)がRas/MAPK(ERK)/CREBの活性化を介して,ヒト成人T細胞白血病ウイルスのがん遺伝子産物Taxが三つの異なった分子機構でFas誘導アポトーシスのシグナル伝達を阻害することを示した。また,幹細胞の増殖および生存因子であるSCF (stem cell factor)のレセプターKitからのシグナルでFasの発現そのものが抑制されることも示した。
(2)TNFにより誘導される細胞死のメカニズム中野裕泰(順天堂大学 医学部 免疫学) 我々は昨年,traf2-/-traf5-/-(DKO)マウス由来の胎児線維芽細胞(MEF)のTNF誘導性細胞死を抑制することを指標とした機能的なスクリーニングにより,新たな転写活性化因子BSACを同定した。BSACは過剰発現させることにより,c-fosやmuscle特異的転写因子のプロモーター領域に存在するCArG boxと呼ばれるモチーフを介して,これらのプロモーターを強力に活性化することを明らかにした。また興味深いことにBSACの転写活性化能と抗アポトーシス効果が相関することが明らかとなった。しかしながらBSACの生体内における機能は不明であったが,最近二つのグループによりOTT/RBM15と呼ばれる遺伝子とヒトBSAC相同遺伝子であるMAL/MKL1がt(1,22)転座により生じる急性巨核芽球性白血病の原因遺伝子であることが明らかにされた。そこで本研究会では,OTTおよびOTT-BSACの機能解析結果を紹介し,討論したい。また最近我々はDKO由来MEFにおいてTNF刺激により誘導される細胞死は,アポトーシス様の形態ばかりではなく,ネクローシス様の形態を示すことを明らかにしており,その解析結果も合わせて紹介したい。
(3)TWEAKによる細胞死誘導機序の解析八木田秀雄(順天堂大学医学部免疫学) TWEAKは1997年にEST databaseから見い出されたTNFファミリーに属するII型膜蛋白質で,可溶性のrecombinant TWEAKは1部の癌細胞にアポトーシスを誘導することや血管内皮細胞の増殖と血管新生を誘導することが知られているが,その生理的な役割は未だ明らかでない。我々は,ヒト末梢血由来単球にIFN-g刺激によりTWEAKの発現が誘導され,TWEAK感受性腫瘍細胞に対する標的細胞傷害に働くことを示した。TWEAKによる細胞死は細胞株によりその機序が異なり,rhabdomyosarcoma Kym-1においてはTNF-aの誘導を介した間接的な経路,oral squamous cell carcinoma HSC3ではcaspasse依存性のアポトーシス経路,colon adenocarcinoma HT-29ではcaspase依存性のアポトーシス経路とcaspase非依存性のネクローシス経路の存在が示された。最近,血管内皮細胞上のTWEAK受容体としてFn14 (FGF-inducible 14)が同定されたが,我々はこれらのTWEAKによる細胞死は全てDR3ではなくFn14を介して起こることを明らかにし,そのアポトーシス及びネクローシス誘導経路の解析を進めている。
(4)p53によるアポトーシス誘導機構田矢洋一(国立がんセンター研究所放射線研究部) 細胞がDNAダメージなどのさまざまなストレスを受けたとき,p53が活性化されて,ある場合にはG1期停止を誘導するが,別の場合にはアポトーシスを誘導して細胞を自殺させる。この2つの経路の選択がどのようにしてなされるかということは重要な問題であったが,われわれは,p53のSer46がリン酸化されるとp53のプロモーター結合性が変わり,ミトコンドリアのアポトーシス誘導蛋白質p53AIP1の発現が起こって,アポトーシスが誘導されることを示した。その後,このSer46キナーゼの精製と同定を進めた結果,東大医科研の中村祐輔らのグループによってクローニングされたp53によって誘導される蛋白質p53DINP1を含み,カゼインキナーゼ2と他の転写のメディエーターとからなる蛋白質複合体であることがわかった。カゼインキナーゼ2はaあるいはa’とb2つずつのサブユニットからなる4量体であり,細胞内にかなり多く存在するキナーゼであるが,複合体形成する相手によって細胞内局在や基質特異性が変わるらしい。
(5)p53依存性アポトーシスにおけるNoxaの役割渋江 司,谷口維紹(東京大学大学院医学系研究科免疫学講座) p53による標的遺伝子の転写活性化を介したアポトーシスの誘導は発がんの抑制において重要であることが知られる。我々が同定したp53の標的遺伝子NoxaはBcl-2 family内のBH3-only subfamilyに属するものであり,高発現によりアポトーシスを誘導することから,p53依存性アポトーシスへの関与が示唆された。そこで,Noxa遺伝子欠損マウスを作成し,同マウス由来の細胞を用いてp53に依存性であることが知られるいくつかのアポトーシスの系について検討した。X線照射後のThymocyteのアポトーシスに関しては,野生型のものとの間に有意差はなかった。しかし,胎仔線維芽細胞(MEF)にアデノウイルスE1Aを発現させ,DNA損傷を加えた際のアポトーシスについて見たところ,Noxa遺伝子欠損細胞においては細胞死の割合が有意に低下しており,チトクロームcの放出やミトコンドリア膜電位の低下といった現象も抑制されていた。同じくp53の標的遺伝子であるBaxに関してもMEFのE1A依存性アポトーシスへの関与が既に報告されており,現在我々はNoxaとBaxの両遺伝子を欠損したマウスを作成し,p53依存性アポトーシスの経路についてさらに解析を行っている。
(6)アポトーシス誘導と抗がん剤シスプラチン耐性と容積感受性クロライドチャネル岡田泰伸1,前野恵美1,伊勢知子2,清水貴浩1,田辺 秀1,鍔田武志3,河野公俊 アポトーシスには細胞容積の減少が伴われる。リンパ系,上皮系,神経系培養細胞にFasリガントやTNFaやstaurosporinでアポトーシスを誘導すると,このapoptotic volume decrease (AVD)の発生は30分以内に見られ,caspase-8, -9, -3の活性化やDNAラダーの発生に先行することが判明した。このAVDは容積調節に関与するCl-チャネルやK+チャネルのブロッカーによって完全に阻止された。チャネル阻害剤によるAVDの発生阻止は,その後の上記のアポトーシス反応や,ミトコンドリアからのチトクロームc放出や,細胞死そのものの発生も阻止することが明らかになった。また,AVDの発生は,Fasリガンド刺激を受けたI型細胞SKW6.4でも,staurosporin刺激を受けたBcl-2強制発現WEHI細胞においても見られたので,ミトコンドリアのVDACチャネルとは独立した現象であることが明らかとなった。容積感受性Cl-チャネルのブロッカーの一つであるスチルベン誘導体DIDSは,staurosporin刺激された培養心筋細胞や,抗がん剤シスプラチン投与を受けた類上皮がんKB細胞のアポトーシス誘導も阻止することが観察された。シスプラチン前処理によってKB細胞の容積感受性Cl-チャネル活性の亢進が見出された。これに対し,シスプラチン耐性を獲得したKB-CP4細胞では容積感受性Cl-チャネルが機能的に欠失していることが明らかになった。これらの事実から,アポトーシスの誘導に容積感受性Cl-チャネル活性が重要な役割を果していることが結論された。
(7)アポトーシス細胞の貪食に関与する分子長田重一(大阪大学大学院生命機能研究科) アポトーシスは細胞の形態変化,染色体DNAの切断を伴う過程であり,その最終段階では食細胞にとりこまれて処理される。私達は,Fasリガンドによるアポトーシスの解析から,この過程はカスパーゼと呼ばれるプロテアーゼ,カスパーゼによって活性化されるDNase(CAD,caspase-activated DNase)によって実行されることを示した。一方,マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食に関与する分子のひとつとして,MFG-E8を同定した。この因子はマクロファージから分泌され,アポトーシス細胞に提示されるリン脂質(phosphatidylserine)を認識し,死細胞をマクロファージへ橋渡しすると考えられる。このようにして,貪食された死細胞のDNAはマクロファージのリソソームに存在するDNase IIによってさらに分解される。このような機構はショウジョハエ(Drosophila)でも保存されおり,CAD,DNase II両遺伝子を欠損するハエでは卵巣などに大量の未分解核を蓄積した。ところで,染色体DNAの分解は赤血球の分化過程でも起こる。DNase II遺伝子を欠損したマウスは胎生期に貧血により死滅した。その胎児肝臓には未分解の大量の核を持つマクロファージが見いだされ,赤血球の脱核過程にもアポトーシス細胞の貪食と同様な機構が関与していることが示唆された。
(8)抗原受容体を介するBリンパ球アポトーシスの生理機能と分子機構鍔田武志(東京医科歯科大学難治疾患研究所) B細胞株WEHI-231は抗原受容体を介するシグナルにより細胞周期停止とアポトーシスをおこし,この細胞周期停止およびアポトーシスはCD40分子を介するシグナルにより阻害される。CD40シグナルはアポトーシス阻害因子Bcl-xLやA1の発現を増強する。これらの過剰発現により細胞周期が停止したままで細胞死を阻害することができるが,CDKインヒビターp27kip1の過剰発現により細胞周期停止を誘導するとCD40シグナルによるアポトーシスが部分的に阻害される。この結果は,CD40シグナルによるB細胞の効率的な生存にはBcl-xLやA1の発現のみでは不十分であり,細胞周期停止の解除が必要であることを示している。したがって,B細胞の抗原受容体を介するアポトーシスには細胞周期停止が関与することが明らかである。細胞周期の際の細胞死誘導機構を解明するために,細胞周期停止によりアポトーシスがおこる系を樹立し,さらに,この系を用いてこの細胞死を制御する遺伝子を同定する発現クローニング系を樹立した。この系を用いて,我々は,c-Mycのアンチセンスにより細胞周期停止による細胞死が阻害されることを明らかにし,さらに,c-Mycが細胞周期制御によるアポトーシスにおいて重要な役割を果たすことを明らかにした。
(9)ASK1-MAPキナーゼ系による細胞死制御一條秀憲(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野) Apoptosis Signal-regulating Kinase (ASK)1はJNKとp38MAPキナーゼの上流に存在するMAPKKKである。これらのMAPキナーゼ系は,ストレス刺激に応答して細胞が自身の生死を決定するためのシグナル伝達として重要である。ASK1ノックアウトマウスの解析により,ASK1がTNFや酸化ストレスによるアポトーシスに必須であることが明らかになった。さらに最近,ハンチントン舞踏病を含む多くの神経変性疾患の本態であるポリグルタミンの凝集は,ASK1を介した小胞体ストレスシグナル伝達系を活性化することによって神経細胞死を誘導することが判明した。本研究会では,様々な物理化学的ストレスによるASK1活性化の分子機構ならびにASK1-MAPキナーゼ系を介するアポトーシスシグナルの病態生理について考察したい。
(10)神経系前駆細胞の生存シグナル伝達の解析後藤由季子(東京大学分子細胞生物学研究所) 大脳の初期発生において,多くの細胞がアポトーシスによって除かれることが知られている。この細胞死を人為的に抑制すると脳が肥大化することから,大脳の細胞死が発生過程で重要な役割を果たしていることが示唆されている。我々は,カスペース9の遺伝子破壊により人為的に細胞死を抑制したマウスを用い,発生過程で死んでいる細胞の多くが脳室帯の未分化マーカー陽性な神経系前駆細胞であることを示した。従って未分化な神経系前駆細胞の生死制御が発生上重要であると考えられる。そこで,我々は神経系前駆細胞の生存を促進するシグナル伝達経路の解明を試みた。マウス胎生11日終脳皮質細胞の初代培養系を用いて解析を行ったところ,増殖因子FGF2によって活性化する生存促進経路には,Akt経路とそれ以外の生存シグナル伝達が重要であることが明らかになった。増殖因子以外にも,細胞密度依存的な生存促進因子の存在が示唆され,細胞間相互作用に関わる分子Notchの生存促進効果が認められた。また,活性型Notchの発現により,生存促進型Bcl-2ファミリーメンバーのBcl-2およびMcl-1の発現が誘導されることも示された。
(11)ストレス応答性SAPK/JNKの活性化機構とその生理的役割仁科博史(東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室) ストレス応答性MAPキナーゼであるSAPK/JNKは,紫外線照射などの物理化学的ストレスやTNFaなどの炎症性サイトカインの刺激によって活性化され,細胞分化,増殖,生存からアポトーシスに至る様々な細胞機能に関与することが示唆されている。同一のシグナル系が如何にしてこれら多様な現象を発現するかが今後の重要な課題の一つであり,その理解には定量的なSAPK/JNK活性化の測定が必須であると考えられる。我々はこれまでに,SAPK/JNKを直接活性化する因子であるSEK1(別名MKK4)やMKK7を欠損した胚性幹(ES)細胞やマウスを作出し,そのSAPK/JNK活性化の程度や表現型を解析してきた。本ワークショップでは,SEK1やMKK7を欠損したES細胞の定量的解析から見出された,SEK1とMKK7の固有の生化学的特性に依存した協調的なSAPK/JNKのリン酸化と活性化のメカニズムを紹介する。また,SAPK/JNK活性化能をほぼ完全に失ったSEK1/MKK7両欠損細胞のアポトーシス誘導能についても検討したので併せて報告する。
(12)癌抑制遺伝子PTENの生体各種組織における機能解析鈴木 聡(秋田大学医学部生化学第二) 我々は癌抑制遺伝子PTENの機能をノックアウトマウスを作成することによって解析している。これまでPTENのノックアウトマウスを作成し報告したが,胎生早期に死亡することから,種々の臓器におけるPTENの機能解析は困難であった。そこでPTENfloxマウスを作成し,T細胞,神経細胞,B細胞特異的にPTENを欠損させた。今回は皮膚におけるPTENの機能を解析したので報告する。 皮膚特異的PTEN欠損マウスは,角質や上皮が増生し,皮膚の肥厚,硬化,毛髪の異常がみられた。また,皮膚の形態形成(第一毛髪周期)が加速していた。マウスは食道角質層が肥厚し,嚥下障害が原因となり栄養不良に陥り,90%が離乳前に死亡した。離乳後まで生存したマウスは長期生存するが,生後8.5ヶ月までに全例パピローマや扁平上皮癌の発症をみた。皮膚は紫外線や放射線によるアポトーシス抵抗性で,また増殖は亢進していた。生化学的にはAktやMAPKが活性化していた。
(13)ショウジョウバエを用いた細胞死の分子遺伝学三浦正幸(理化学研究所脳科学総合研究センター細胞修復機構) 神経細胞死実行機構を理解する目的で,細胞死カスケードを構成する遺伝子の遺伝学的スクリーニングを行っている。reaperはカスパーゼ依存的な細胞死を誘導するが,染色体欠失系統を用いたreaperによる細胞死経路のドミナントモディファイアースクリーニングによってJNK活性化に関与する分子DTRAF1とDASK1が同定された。reaperはDIAP1によるDTRAF1の分解を負に制御することによってDASK1/DJNK経路を活性化し細胞死誘導を行うことが明らかになった。 遺伝子異所発現による機能獲得型スクリーニングによって無脊椎動物で初めてのTNF superfamily ligandを同定し(Eigerと命名),さらにEigerに結合するTNF受容体superfamily分子も同定した(Wengenと命名)。複眼でのEiger過剰発現は,JNKに依存した,カスパーゼには依存しない新規の細胞死シグナル経路を活性化する事が明らかになった。
(14)Hypoxiaにより誘導されるcaspase非依存的細胞死の解析新沢康英,辻本賀英(阪大院医遺伝子学,CREST of JST) Caspase依存的に進行するアポトーシスに加え,caspase非依存的な細胞死経路の存在も報告されているが,そのメカニズムの詳細は不明である。我々はhypoxia/低グルコース処理により誘導されるcaspase非依存的細胞死に着目し,形態的特徴として現れる核のshrinkageを出発点としてそのメカニズムを解析しようと試みた。In vitroアッセイ系を用いて,この核のshrinkage誘導因子を精製し,phospholipase A2(PLA2)ファミリーの一員を同定した。細胞系において,hypoxia/低グルコース時にPLA2活性が核で上昇し,PLA2の阻害剤によって核のshrinkage,細胞死が抑制されたことから,hypoxia/低グルコースによって誘導されるcaspase非依存的な細胞死にPLA2活性が関与していることが示された。さらに,このcaspase非依存的細胞死ではcaspase非依存的なlaminB1の切断が見られ,現在,核のshrinkageとの関係を検討している。
(15)神経変性疾患における異常蛋白質の分解機構高橋良輔(理化学研究所脳科学総合研究センター運動系神経変性研究チーム) 常染色体劣性遺伝性若年性パーキンソン病(AR-PD)の責任遺伝子パーキンは分解される基質蛋白質を選択的に認識し,そのユビキチン化を促進するユビキチンリガーゼである。パーキンの基質としてG蛋白共役型のパエル受容体を同定した。パエル受容体は折れたたみが難しい蛋白質であり,小胞体での折れたたみに失敗した場合,小胞体関連分解(ERAD)によって分解される。パーキンが欠損すると分解されず小胞体に異常蓄積したパエル受容体は小胞体ストレスを引き起こす。パエル受容体は中枢神経では,オリゴデンドロサイトと黒質ドーパミンニューロンに発現し,他のニューロンでの発現は乏しかった。我々は以上の実験事実に基づき,折れたたみ不全パエル受容体の蓄積による小胞体ストレスがAR-PDの病因と考えている。いっぽう最近,分子シャペロンHsp70やHsp90の基質となる蛋白質の分解にCHIPというユビキチンリガーゼ活性を持つコシャペロンの関与を示唆する報告が相次いでいる。我々はCHIPとHsp70がパーキンに結合し,パーキンによるパエル受容体の分解を制御していることを見出した。CHIPはパーキンによるパエル受容体のユビキチン化を促進し,酵母で見出されているユビキチン化促進因子(E4)に似た作用を持つことがわかった。
(16)神経変性疾患の共通メディエイターとしてのVCPの分子解析垣塚 彰(京都大学生命科学研究科高次生体統御学分野) これまで,神経変性疾患は,疾患ごとに特有の障害部位とその結果として特有の症状(痴呆・運動失調・異常運動・筋力低下等)を示し,多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構に関わる概念・分子機構を導き出すことはできないと考えられてきた。しかし,近年,変性しつつある神経細胞内に異常蛋白の凝集物や形態的に類似する空胞(vacuole)がかなり普遍的に存在することが判明し,神経が変性・消失する過程には,似通った分子機構が存在するという考えが受け入れられるようになってきた。
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