2002年11月25日−11月26日
代表・世話人:中屋 豊(徳島大学医学部特殊栄養)
所内対応者:岡田泰伸
- (1)
- 蛋白相互作用によるイオンチャネル調節機構
古川哲史1,鄭 雅娟1,小倉武彦2,中谷晴昭2,稲垣暢也1
(1秋田大学医学部第1生理,2千葉大学大学院大学薬理学)
- (2)
- 新生仔ラット心室筋細胞CFTRチャネルの虚血障害防御への役割
浦本裕美,森島 繁,赤塚結子,A.K. Dutta,R.Z. Sabirov,岡田泰伸
(生理学研究所細胞器官研究系)
- (3)
- 心筋Itoを担うKv4 Kチャネルの不活性化およびKChIPとの機能連関に関わるC末端アミノ酸に関する解析
今泉祐治,波多野紀行,大矢 進,村木克彦
(名古屋市立大学大学院薬学研究科細胞分子薬効解析学分野)
- (4)
- KCNJ2-C末端の遺伝子異常によりKir2.1のdominant negative型抑制が認められたAndersen症候群の1例
保坂幸男,塙 春雄,鷲塚 隆,池主雅臣,古嶋博司,山浦正幸,
田辺靖貴,渡部 裕,小村 悟,杉浦広隆,廣野 崇,相澤義房
(新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器分野)
- (5)
- Kir2.1チャネル異常によるAndersen症候群〜日本人家系における臨床像の検討〜
小堀敦志1,藤原祐一郎3,牧山 武1,大野聖子1,竹中琴重1,
二宮智紀1,鷹野 誠2,中村好秀4,久保義弘3,堀江 稔1
(1京都大学大学院循環病態学講座,2生理学第二講座,
3東京医科歯科大学大学院生理学第二講座,
4和歌山赤十字医療センター第二小児科)
- (6)
- 不顕性心筋Naチャネル変異による二次性QT延長症候群の分子病態
蒔田直昌1,藍 智彦2,佐々木孝治1,横井久卓1,北畠 顕1,堀江 稔2
(1北海道大学循環病態内科学,2京都大学循環病態学)
- (7)
- HERGチャネル脱活性化速度の変化による薬物作用の修飾
櫛田俊一1,2,小倉武彦1,小室一成2,中谷晴昭1
(1千葉大学大学院医学研究院薬理学,2循環病態医科学)
- (8)
- HERGチャネルの活性化ゲートについて
石井邦明,永井美玲,遠藤政夫(山形大学医学部薬理学講座)
- (9)
- 第III群抗不整脈薬によるHERGチャネル結合の分子機序
神谷香一郎1,Mitchesion JS2,Culberson C2,Sanguinetti MC2
(1名古屋大学環境医学研究所液性調節分野,2ユタ大学生理学)
- (10)
- β2cサブユニットを用いて再構成されたL型Ca2+チャネルの単一チャネル動態
鎌田康宏,山田陽一,筒浦理正,関 純彦,當瀬規嗣
(札幌医科大学医学部第一生理)
- (11)
- 電位依存性カルシウムチャネルbeta3サブユニットの循環器系における重要性の検討 遺伝子改変マウスを用いて
村上 学1,山村寿男2,村木克彦2,今泉祐治2,
佐藤栄作1,尾野恭一1,柳澤輝行3,飯島俊彦1,
(1秋田大学医学部薬理学,
2名古屋市立大学大学院薬学研究科細胞分子薬効解析,
3東北大学大学院医学系研究科分子薬理)
- (12)
- 心室筋における過分極およびリゾリン脂質によるエチジウム流入を伴う内向き電流の誘発
宋 玉梅,大地陸男(順天堂大学医学部第二生理)
- (13)
- ホメオボックス型転写因子Csx/Nkx-2.5を発現させた心筋分化細胞における活動電位と膜電流の形成
内納智子1,賀来俊彦1,山下 昇1,梶岡俊一1,
門前幸志郎2,小室一成3,小野克重1
(1大分医科大学医学部循環病態制御講座,
2東京大学大学院医学系研究科器官病態内科学,
3千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学)
- (14)
- 心・血管系ATP感受性Kチャネルに対するKチャネル開口薬の作動分子機構
山田充彦,倉智嘉久(大阪大学大学院医学研究科情報薬理学講座)
- (15)
- Split SURの機能解析
鷹野 誠,倉富 忍(京都大学医学研究科細胞機能制御学)
- (16)
- ラット心筋細胞のATP感受性Kチャネルに及ぼすpropofolの影響-
Anesthesic preconditioningとの関連について
河野 崇1,堤 保夫1,大下修造1,高橋 章2,中屋 豊2
(1徳島大学医学部麻酔科,2特殊栄養)
- (17)
- 細胞膜PIP2による心筋緩徐活性型遅延整流性K+チャネルIKsの制御
松浦 博,丁 維光(滋賀医科大学生理学第二)
- (18)
- プロテオミクス研究からのチャネル蛋白安定化による心房細動のテーラーメード治療開発研究の試み:医工学連携プロジェクトを用いて
久留一郎,佐々木紀仁(鳥取大学循環器内科)
【参加者名】
蒔田直昌,横井久卓(北海道大院),富瀬規嗣,鎌田康宏(札幌医科大),村上学,尾野恭一,古川哲史(秋田大医),保坂幸男,鷲塚隆,小村悟(新潟大院),石井邦明,永井美玲(山形大医),櫛田俊一(千葉大院),萩原誠久(東京女子医科大),大地陸男,宋玉梅(順天堂大医),神谷香一郎(名古屋大環研),今泉祐治,波多野紀行,大矢進,村木克彦,坂本多穂,森村浩三(名古屋市大),松浦博,丁(林)維光(滋賀医科大),堀江稔(滋賀医科大),小堀敦志,鷹野誠,倉富忍(京都大院),山田充彦(大阪大院),久留一郎,佐々木紀仁(鳥取大医),小野克重,内納智子(大分医科大),中屋豊,高橋章,河野崇,前田恭子,粟田志香,中尾成恵(徳島大医),浦本裕美,森島繁,赤塚結子,A.K. Dutta,R.Z. Sabirov,岡田泰伸(生理研)
【概要】
分子生物学的手法の進歩によりイオンチャネルの分子構造とその機能相関が解明されつつある。細胞膜上に存在し,細胞へのイオンの透過を制御するイオンチャネルは,筋収縮,神経伝達物質の放出,インスリンの分泌など重要な生体反応の仕組みの一端を担っており,創薬の有望なターゲットとして注目されている。ポストゲノムシークエンスの時代の中心的テーマは,遺伝子,特に疾患関連遺伝子の探索による新しい創薬ターゲット,治療ターゲットになる遺伝子の解明である。しかし,最近になって,遺伝子から翻訳後の修飾の多様性と不均一性が複雑であるため,遺伝子解析だけではゲノム医療への応用に限界があることが知られるようになり,タンパク質/プロテオームの解明に基づいた「プロテオミクス」への取組みの重要性が認識され始めている。パッチクランプなどの電気生理学的手法による電流測定は微細な細胞機能の変化を定量的に検討できるため,これらの遺伝子の構造機能解析に適している。しかし,イオンチャネルの構造異常に基づく機能障害(疾患)の研究(プロテオミクス)さらには治療法の確立への新しい情報をうることについては,異なった分野の研究技法および知識が要求される。すなわち,電気生理学のみならず,分子生物学,細胞工学,遺伝子工学等の様々な専門分野の基礎研究者及び臨床研究者が互いに意見を交換し,協力して研究を押し進めていく必要がある。本研究会では,心血管領域の基礎及び臨床研究者が集い,様々の側面からイオンチャネルの機能と構造に関する最新の研究成果を発表して情報を交換する。本研究会はイオンチャネルの生理学および分子生物学的研究の間口を広げ,更にイオンチャネルに起因する心血管病態,治療を理解するための有意義な機会を提供する。
古川哲史1,鄭 雅娟1,小倉武彦2,中谷晴昭2,稲垣暢也1
(1秋田大学医学部第1生理,2千葉大学大学院大学薬理学)
タンパク間相互作用はポストゲノム研究において,機能未知の遺伝子の役割を結合する分子種から類推するという重要な役割を持つ。今回,酵母2ハイブリッド法により種々のイオンチャネルに結合するタンパクを同定し,その生理的・病態的役割を検討した。クロライドチャネルClC-2は複数の細胞周期・増殖関連分子と結合し,細胞周期M期特異的に発現することが判明した。これにはM期特異的サイクリン依存性キナーゼp34cdc2/cyclin BによるClC-2チャネルの直接的リン酸化,これを引き金とするユビキチン化が関与する。クロライドチャネルClC-3Bは上皮PDZ含有タンパクEBP50と結合し,CFTR存在下にprotein kinase A依存性に活性化され,上皮のクロライドイオンベクトル輸送に関与する可能性が示唆された。カリウムチャネルbサブユニットminKは筋原線維特異的タンパクT-capと結合し,T管とZ盤の分子リンカーであることが判明し,心筋細胞のmechano-electrical feedback機構に関与する可能性が示唆された。
浦本裕美,森島 繁,赤塚結子,A.K. Dutta,R.Z. Sabirov,岡田泰伸
(生理学研究所細胞器官研究系)
CFTRの機能は上皮細胞においてよく調べられているが,心室筋細胞に発現しているCFTRの機能についてはあまりよく分かっていない。今回,我々は培養ラット新生仔心室筋細胞において虚血モデル実験を行い,この点の検討を始めた。細胞を酸素・グルコース・アミノ酸除去という「虚血」条件に数時間置き,その後に酸素・グルコース・アミノ酸投与する「再灌流」条件に置いて4日目に,MTT測定によって細胞生存率を測定したところ,CFTRチャネルのブロッカーで同時処理した細胞でのみ著しい生存率の低下が認められた。また,「虚血」処理後にホールセル電流記録を行い,PKA活性化カクテルでCFTRを刺激したところ,虚血処理をしていない細胞に比べ大きな電流活性化が見られた。これらの結果,新生仔ラット心室筋細胞のCFTRチャネルは虚血障害に関係していることが示唆された。
今泉祐治,波多野紀行,大矢 進,村木克彦
(名古屋市立大学大学院薬学研究科細胞分子薬効解析学分野)
心臓の早期不活性化K+電流を担うチャネルである電位依存性K+チャネル,Kv4の活性化・不活性化の電位依存性の分子機構はKv1サブファミリーに比べ不明な点が多い。我々はこれまでに脳において細胞内C末端領域の配列が異なるKv4.3スプライスバリアントが少なくとも3種類存在することを明らかにしている。今回Kv4.3の活性化・不活性化制御の分子メカニズムにおける細胞内C末端領域の役割を詳細に検討した。またKv4サブファミリー特異的bサブユニットKChIP2Sを共発現させ,細胞内C末端領域とKChIP2Sとの相互作用も併せて検討した。
細胞内C末端領域欠損変異体を用いた実験結果より,細胞内C末端領域(421-429)は活性化・不活性化の電位依存性を高度に調節していることが明らかになった。さらに点変異体を用いた実験結果より,421-429番目のアミノ酸の中で電位依存性調節機構にとって重要な2個のアミノ酸を同定した。この2個のアミノ酸はKv4サブファミリーで保存されていることから,Kv4サブファミリー内で共通の電位依存性調節機構が存在すると考えられる。また,チャネル孔から離れた細胞内C末端領域(488-636)が,KChIP2Sとの機能連関に重要であることも初めて明らかにした。
保坂幸男,塙 春雄,鷲塚 隆,池主雅臣,古嶋博司,山浦正幸,
田辺靖貴,渡部 裕,小村 悟,杉浦広隆,廣野 崇,相澤義房
(新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器分野)
【背景】周期性四肢麻痺・心室性不整脈・形態異常を三徴とするアンデルセン症候群は遺伝性疾患であり,最近,内向き整流カリウムチャネルをコードするKCNJ2の遺伝子変異が報告された。
【方法と結果】我々はアンデルセン症候群の1症例にて臨床的・分子生物学的解析を試み,KCNJ2のC末端に新しい遺伝子変異(G215D)を認めた。心電図ではQT間隔の延長,突出したU波,頻発する心室性期外収縮を認め,心臓電気生理検査にて多形性心室頻拍が誘発された。COS7細胞を用いた全細胞パッチクランプ法にて変異型単独では電流発現を認めず,野生型との共発現ではDominant negative効果を認めた。野生型と変異型を蛍光蛋白(YFP,CFP)で標識した共焦点蛍光顕微鏡の解析では,野生型と変異型の細胞内輸送,局在に差を認めず,細胞膜領域に発現した。また,野生型と変異型を共発現した細胞膜領域でのfluorescence resonance energy transfer(FRET)の解析では,カリウムチャネルが野生型と変異型の複合体であることが示唆された。
【結語】変異型は細胞内輸送,局在で野生型と差を認めず,野生型と複合体を形成し,Dominant negative効果を発揮すると考えられた。本症例の遺伝子変異(G215D)はアンデルセン症候群の原因と考えられた
小堀敦志1,藤原祐一郎3,牧山 武1,大野聖子1,竹中琴重1,
二宮智紀1,鷹野 誠2,中村好秀4,久保義弘3,堀江 稔1
(1京都大学大学院循環病態学講座,2生理学第二講座,
3東京医科歯科大学大学院生理学第二講座,
4和歌山赤十字医療センター第二小児科)
【背景】Andersen症候群は,(1)周期性四肢麻痺,(2)特異な骨格異常,(3)QT延長と心室性不整脈を3主徴とし,Kir2.1をコードするKCNJ2が原因遺伝子として同定されている。
【方法】我々は連続する73症例のQT延長症候群患者に対し,KCNJ2遺伝子の検索を行い,その機能解析と臨床像の検討を行った。
【結果】3つのmutationを3家系5症例にて同定した。G144S(KCNJ2)チャネルは,無機能で強いDominant Negative Suppression(DNS)を示した。T192A(KCNJ2)チャネルは無機能・弱いDNS,P351S(KCNJ2)チャネルはほぼ正常機能であった。またG144S(KCNJ2)症例に並存していたA341V(KCNQ1)チャネルは,無機能でDNSは示さず,P351S(KCNJ2)症例に並存していたG643S(KCNQ1)は,弱い機能低下を示した。G144S家系は明確に3主徴がそろい,繰り返す失神と頻発するPVC・二方向性心室頻拍(VT)がみられた。T192A家系では失神は無いが,PVC頻発とVT・軽微な骨格異常・麻痺発作がみられた。P351S家系は骨格異常と麻痺発作が無く,QT延長・失神がみられた。
【結論】我々の症例では,KCNQ1遺伝子異常がKCNJ2によるAndersen症候群の心臓症状を増悪させたと考えられた。また異常KCNJ2チャネルの機能障害の程度は,Andersen症候群の臨床像によく相関していると思われた。
蒔田直昌1,藍 智彦2,佐々木孝治1,横井久卓1,北畠 顕1,堀江 稔2
(1北海道大学循環病態内科学,2京都大学循環病態学)
先天性QT延長症候群(LQTS)は心筋K+チャネルやNa+チャネルを責任遺伝子とする比較的希な遺伝性不整脈である。一方,二次性LQTSは薬物代謝異常・徐脈・低K血症など様々な外的誘因によって引き起こされることが多く,臨床的にも比較的頻度が高い。最近,薬剤誘発性二次性LQTSの一部にK+チャネルの遺伝子多型や不顕性変異が報告され,二次性LQTSの少なくとも一部には,心筋イオンチャネルの遺伝的分子基盤が存在すると考えられる。
我々は,シサプリドによってtorsade de pointesと著明なQT延長を呈した二次性LQTS症例の遺伝子解析を行い,心筋Na+チャネルSCN5AのC末端にミスセンス変異L1825Pを同定した。変異Na+チャネルcDNAを哺乳類培養細胞tsA201に発現させ,パッチクランプ法で全細胞Na+電流を記録した。L1825Pは持続性の遅延電流と電流減衰の遅延を示した。さらに,これらのLQT3に特異的な「gain-of-function」に加えて,L1825PはBrugada症候群に特徴的な「loss-of-function」も併せ持っていることが判明した。活性化・不活性化の膜電位依存性はそれぞれ脱分極側・再分極側に大きく偏移しており,不活性化からの回復が遅延していた。さらにL1825Pはclosed-state inactivationが大きく亢進していた。一方,IKrブロックを有するシサプリドはL1825Pに対する直接作用は影響は示さなかった。これらの結果から,L1825Pの持つ機能異常はいわゆる「再分極予備能」によって不顕性化していたが,シサプリドにIKrブロックよって再分極予備能が破綻し,QT延長と致死性不整脈が誘発されたと推測された。二次性LQTSの病態にはこのような不顕性チャネル変異が関与していると思われる。
櫛田俊一1,2,小倉武彦1,小室一成2,中谷晴昭1
(1千葉大学大学院医学研究院薬理学,2循環病態医科学)
【目的】HERGのS6C端に位置するアミノ酸残基の変異がチャネルのgating kineticsにいかなる影響を及ぼすか,また,III群抗不整脈薬の抑制効果がgating kineticsの変化により影響を受けるか否かを検討すること。
【方法】S6C端のアミノ酸残基(Q664~S668)をそれぞれアラニンに置換した変異株をXenopus oocytesに発現させてgating kineticsを解析した。Gating kineticsが変化した変異株の電流に対するnifekalantの抑制効果を,野生株(WT)の場合と比較した。
【結果】S6C端のいずれの変異株においても,gating kineticsに変化が生じた。Nifekalantの抑制効果は,WTに比べ脱活性化速度の遅いR665Aでは減少し,脱活性化速度の速いL666Aでは増強した。
【結論】S6C端のアミノ酸残基はチャネルのgating kineticsに深く関与していると考えられた。HERGチャネルに対するnifekalantの抑制効果は脱活性化速度の変化により影響を受けることが示唆された。
石井邦明,永井美玲,遠藤政夫(山形大学医学部薬理学講座)
HERGおよびその変異体を用いてメタンスルフォンアニリド(MS)化合物のチャネル孔内へのトラッピングを検討したところ,647番目のアミノ酸(S6に存在する)の点変異体において静止状態のチャネルからE-4031が解離していることを示唆する結果が得られた。同じMS化合物であってもdofetilideの場合は殆ど解離が認められなかった。また,野生型のHERGチャネルにおいては両薬物とも完全にチャネル孔内にトラップされていた。薬物が静止状態のチャネルから解離する原因として活性化ゲートに異常が起きている可能性を考えたが,steady-state activation curvesの結果からすると,その可能性は低そうであった。また別の可能性として,変異によってチャネル内に薬物を保持できるだけのスペースが無くなってしまっている可能性を考え,両薬物の分子サイズを求めた。僅かではあったがE-4031の方が大きく,そのことが両薬物の解離の違いを説明できるかも知れないと考えられた。また別の内容であるが,S6の点変異体で野生型とは全く正反対に過分極パルスによって開口するようなものが得られており,今後の検討によって電位センサーと活性化ゲートのカップリングに関する新たな知見が得られるものと考えている。
神谷香一郎1,Mitchesion JS2,Culberson C2,Sanguinetti MC2
(1名古屋大学環境医学研究所液性調節分野,2ユタ大学生理学)
薬物誘発性のQT延長症候群は,広汎な薬剤により心筋Kチャネルの中でもIKr(HERGチャネル)を選択的に抑制して引き起こされる。ところがその分子機序は不明であり,創薬の面から重大な社会問題になっている。我々は,第III群抗不整脈薬によるHERGチャネル抑制の分子機序を解明する目的で,HERGチャネルS6の20個のアミノ酸残基をalanine-scanning法で置換し,発現した電流に対する薬物の作用を観察した。さらにこの実験結果にもとづき薬物分子とHERGチャネルの結合に関する3次元モデルを構築してその分子機序を推定した。薬物として,methanesulfoanilide系第III群抗不整脈薬であるMK-499,dofetilide,E-4031,non-methanesulfoanilide系系第III群抗不整脈薬のnifekalant,強心薬(vesnarinone),抗不整脈薬bepridil,を用いた。その結果,薬物分子はこの空隙を裏打ちするαへリックス構造の空隙側の特定のアミノ酸残基(Tyr652,Phe656など)と結合すること,と薬物分子とアミノ酸残基の結合にはπ結合が関与すること,などを明らかにした。今後,このような構造-機能関連に関する分析を発展させることにより,薬物誘発性QT延長症候群の機序並びにそれを予防する特定の薬物分子構造が解明されると考える。
鎌田康宏,山田陽一,筒浦理正,関 純彦,當瀬規嗣(札幌医科大学医学部第一生理)
近年,L型Ca2+チャネルは分子構造の解明が進み,特にβサブユニットはCa2+チャネルの不活性化や発現の促進などに重要であると考えられている。これまでラット心筋のβサブユニットはβ2aサブユニットであると報告されていたが,機能・構造両面からの詳細な検討は行われていない。最近我々は新しいβサブユニットをクローニングし(β2cサブユニット),これがラットの心筋に発現し機能しているβサブユニットであると報告した。今回我々はβ2cサブユニットによって再構成されたチャネルのsingle-channel記録を行い,ラット心筋のL型Ca2+チャネルにおけるβ2cサブユニットの役割について検討しβ2aサブユニットと比較した。ラット心筋由来のα1cサブユニット,α2δサブユニットとともにラット脳由来のβ2aサブユニット,ラット心筋由来のβ2cサブユニットを一過性に発現させたCOS-7細胞のCa2+チャネルとラットの単離心筋のそれとを比較検討した。β2cサブユニットを含んだチャネルはβ2aサブユニットを含んだチャネルに比し,開口確率の高いトレースを観察する頻度が小さく,開状態で速い時定数を示し,これはnativeな単離心筋細胞で記録されたものと同等であった。
村上 学1,山村寿男2,村木克彦2,今泉祐治2,佐藤栄作1,尾野恭一1,柳澤輝行3,飯島俊彦1
(1秋田大学医学部薬理学,2名古屋市立大学大学院薬学研究科細胞分子薬効解析,
3東北大学大学院医学系研究科分子薬理)
電位依存性カルシウムチャネルbサブユニットはチャネルを通過する電流量や細胞膜表面のチャネル数を調節するなどの役割を担うと考えられている。我々はb3に注目し,同サブユニットが血管平滑筋,および心筋に発現が認められ,L型カルシウムチャネルを構成すると考えられることから,b3サブユニット欠損マウスを用いて,同遺伝子欠損による循環器系への影響を調べた。
b3サブユニット欠損マウスはウエスタン解析,ジヒドロピリジン結合実験,およびパッチクランプ法によるバリウム電流量の検討の結果より,血管平滑筋において有意にL型カルシウムチャネル数が低下していた。免疫染色ではチャネル分布(α1C)に異常は認められなかったが,細胞内カルシウムの測定実験において,ジルチアゼムに対する有意な反応性の低下を認めた。平常時血圧には異常がないものの,ジヒドロピリジンによる降圧作用の低下が認められた。さらに,高塩分食により血圧上昇および血圧上昇に伴うと考えられる血管壁の肥厚など病理学的変化が認められた。
宋 玉梅,大地陸男(順天堂大学医学部第二生理)
細胞膜は強い電気的パルスや界面活性剤で穿孔される。穿孔は除細動通電でもおこる。リゾホスファチジルコリン(LPC)は心臓で虚血時に生成され,不整脈や細胞障害をもたらす。ウサギ心室筋をホールセルクランプし,膜電流および膜透過性が低くDNAと結合して蛍光を増大するethidium bromide(EB)蛍光を測定した。維持電位を-20 mVに設定し,40sの過分極パルス(-80〜-180 mV)を2分間隔で与えると,およそ-140 mVで不規則な内向き電流(Ihi)が発生した。また,-80 mVのパルスを反復しつつLPC(10 mM)を適用すると,急速な上昇と緩やかな減衰を示す活動電位誘発可能なIhiが誘発された。いずれにおいても過分極中のIhi積分と核EB蛍光の増大は,時間的にも電位依存性においても平行的に増大した。以上の結果は,過分極およびLPCが膜穿孔を誘発し異常興奮およびCaの細胞内過負荷による細胞死をもたらすことを示唆する。ポリエチレングリコール(0.5% W/V)あるいはPoloxamer188(0.5 mM)をLPCと同時投与すると,核EB蛍光の増大のみが著しく低下した。これら親水性ポリマーは大きな穿孔を選択的に修復する可能性が示唆された。
内納智子1,賀来俊彦1,山下 昇1,梶岡俊一1,門前幸志郎2,小室一成3,小野克重1
(1大分医科大学医学部循環病態制御講座,2東京大学大学院医学系研究科
器官病態内科学,3千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学)
【目的】心筋の分化に伴う膜電流と活動電位の経時的変化における転写因子Csx/Nkx-2.5の制御機能について検討した。
【方法】P19CL6細胞にCsx/Nkx-2.5のcDNAをtransfectionして,安定したcell lineを得た(以下Csx細胞)。P19CL6細胞とCsx細胞を1%DMSO加培養液により心筋分化誘導し,1)心筋分化誘導前,2)誘導5日後,3)拍動開始初期,4)後期にパッチクランプ法を用いて膜電流と活動電位の測定を行った。
【結果】拍動速度はCL6細胞では分化に伴い増加したが,Csx細胞では逆に減少した。電流密度は両細胞ともINaに変化はなく,ICaは分化に伴い増加して,ICa,Lの割合が増加した。IK,termはCL6細胞では分化に伴い減少したが,Csx細胞では増加した。またItoは両細胞とも分化に従い減少していたが,CL6細胞で著明であった。
【結語】転写因子Csx/Nkx-2.5はイオンチャネルのうち特にK+チャネルの発現を制御することが示唆された。
山田充彦,倉智嘉久(大阪大学大学院医学研究科情報薬理学講座)
ATP感受性K+(KATP)チャネルは,ABC蛋白質SURとK+チャネルサブユニットKir6.2で構成される。SUR2Aと2Bは,それぞれ心筋・血管平滑筋型KATPチャネルに含まれ,C末42アミノ酸(C42)だけが異なる。我々は,C42が,SURのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)2とヌクレオチドの連関を制御すると報告してきた。ニコランジルは,SUR2B-Kir6.2チャネルをSUR2A-Kir6.2チャネルより約100倍高いポテンシーで活性化する。今回我々は,ニコランジルのこの弁別的効果におけるNBD1と2の関与を,各NBDに点変異(K707AとK1348A)を加え検討した。インサイドアウトパッチで,ADP(10mM)はニコランジル(1 mM)の効果を著明に増強した。ADPのこの効果は,SUR2A(K707A)-,SUR2A(K1348A)-,SUR2B(K707A)-Kir6.2チャネルで消失,SUR2B(K1348A)-Kir6.2チャネルで減弱した。ニコランジルは,ATP(1 mM)とADP(100mM)共存下にSUR2A-,SUR2A(K707A)-,SUR2A(K1348A)-Kir6.2チャネルを,それぞれEC50 0.1,>>10,~10 mMで,またATP(1 mM)存在下にSUR2B-,SUR2B(K707A)-,SUR2B(K1348A)-Kir6.2チャネルを,それぞれEC50 0.01,>>1,0.1 mMで活性化した。以上から,(1)ニコランジルの効果は,ヌクレオチドとNBDとの連関,特にNBD1との連関に依存し,(2)ヌクレオチド/NBD連関は,ニコランジルのSUR2A-Kir6.2チャネル活性化よりSUR2B-Kir6.2チャネル活性化に強く寄与すること,(3)その結果SUR2B-Kir6.2チャネルがSUR2A- Kir6.2チャネルよりニコランジル感受性が高いこと,(4)従ってC42はNBD1と2双方の機能を修飾し,ニコランジルの弁別的効果に関与することが分かった。
鷹野 誠,倉富 忍(京都大学医学研究科細胞機能制御学)
ATP感受性Kチャネル(KATP)はKir6.2とATP binding cassette superfamily(ABC蛋白)の一種,sulfonylurea receptor(SUR)から構成される。哺乳類の細胞に存在するSUR等のABC蛋白は二つのヌクレオチド結合ドメイン(NBF)を持つが,HisP等のバクテリアのABC蛋白は一つのNBFだけを持ちかつ二量体を形成するためhalf size ABC蛋白と呼ばれている。そこでSUR2AのNBF1の前後において停止コドンおよび開始コドンを挿入することにより二つに分割したSplit SUR分子を作成し,split SURがhalf size ABC蛋白と同様に機能するかを検討した。SUR2A-N640・C643,SUR2A-N940・C941はKir6.2と共発現させるとpinacidilによって活性化されるKATPチャネルとして機能した。しかしSUR2A-N970・C971は細胞膜への輸送障害が起こることが判明した。
河野 崇1,堤 保夫1,大下修造1,高橋 章2,中屋 豊2
(1徳島大学医学部麻酔科,2特殊栄養)
先行する短時間の心筋虚血,あるいは揮発性吸入麻酔薬の前投与が,続いて起こる長時間の心筋虚血に対して保護的に作用することが分かり,それぞれischemic preconditioning,anesthetic preconditioningと呼ばれている。これらの心筋保護効果の詳細な機序については解明されていない部分が多いが,ATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)が重要な役割を果たすと考えられている。
Propofolは麻酔深度の調節性に富む静脈麻酔薬で広く臨床使用されており,心臓外科領域での使用頻度も高い。本研究では,ラット遊離単一心室筋細胞の細胞膜およびミトコンドリアKATPチャネルに及ぼすPropofol(0.4-60.1mg/ml)の影響をパッチクランプ法および蛍光法を用いて検討した。
Wister(200-250g)の心臓をランゲンドルフ法により灌流し,酵素灌流法により遊離単一心筋細胞を取り出した。心筋虚血モデルとして,パッチクランプ法のcell-attached法では2,4-dinitrophenol(ミトコンドリアでのATP合成阻害薬)を含んだ溶液で,一方inside-out法ではATPを含まない溶液で細胞を還流することにより細胞膜KATPチャネルを活性化させた。cell-attached法,inside-out法ともに,Propofolは活性化した細胞膜KATPチャネルを濃度依存性に抑制した(EC50: 14.2mg/ml,11.4mg/ml)。また,PropofolはKATPチャネルのコンダクタンスに影響を与えず,その効果は可逆的であった。さらに,PropofolはミトコンドリアKATPチャネルの開口薬であるジアゾキシドにより誘導された内因性フラボプロテインの自家蛍光を可逆的かつ濃度依存性に抑制した(EC50:14.6mg/ml)。
松浦 博,丁 維光(滋賀医科大学生理学第二)
心筋細胞に広く分布する緩徐活性型遅延整流性K+チャネル(IKs)は活動電位の再分極過程を制御する重要な電流系であり,種々の神経伝達物質やホルモン,もしくは細胞内情報伝達機構の調節を受けている。今回我々は,細胞膜構成リン脂質であるホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)によるIKsの調節機構について,モルモット洞房結節細胞および心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法を適用して検討した。その結果,1)細胞膜PIP2含量を減少させるwortmannin(50mM)を投与すると,IKsは約2倍に増大した。2)細胞内に抗PIP2抗体を投与するとIKsは約1.9倍に増大した。3)細胞内にPIP(2100mM)を負荷するとIKsは著明に減少した。4)PIP2のもつ陰性荷電を中和することが知られているneomycin(50mM)やAl3+イオン(50mM)を細胞内に投与するとIKsの増大反応が誘発された。これらの実験から,細胞膜PIP2はIKsに対して抑制性作用をおよぼし,それにはPIP2のもつ陰性荷電が関わっていると考えられた。加えて,細胞外ATPはP2Y受容体-G蛋白(Gq)-ホスホリパーゼC(PLC)を活性化してIKsを増大させることが知られているが,細胞内にPIP2(100mM)を負荷した細胞においてはこのATPによる増大反応がほとんど消失した。よって,P2Y受容体刺激によるIKsの増大機構としてPLC活性化に伴う細胞膜PIP2の減少が関わっていると考えられた。
久留一郎,佐々木紀仁(鳥取大学循環器内科)
心房細動の難治化の原因に心房筋の電気的リモデリングにより抗不整脈薬の分子ターゲットであるチャネル数が減少することが指摘されている。我々は心房細動患者の心房筋のKv1.5チャネルは洞調律患者に比較して有意にユビキチン化されチャネル蛋白が不安定化しその発現が減少している事を見出した。この事実に基づいてチャネルの分解量を制御することで抗不整脈薬の分子ターゲットであるKv1.5チャネルを安定化する事で電気的リモデリングを克服できる可能性がある。Kv 1.5の半減期はpulse chase法で14.9時間と短時間で分解されるshort-lived蛋白であり,proteasome inhibitorであるMG132の前処置は半減期を1.7倍に有意に延長する。Kv1.5はコントロール状態でubiquitin化をされており,MG132の投与により著しくubiquitin化を受ける。lysosomal/endosomal inhibitorであるchloroquineの前処置ではKv1.5の半減期は変化しない。共焦点レーザー顕微鏡にてKv1.5の細胞内局在を検討するとKv1.5は小胞体,Golgi体およびmicrotubulesに局在するが,endosomeには局在しない。MG132の前処置群によりGolgi,小胞体,microtubulesに局在が増加する。さらにMG132の前処置は細胞膜でのIKur電流の増加をきたす。これらの事実よりKv1.5はubiquitin-proteasome系で速やかに分解される。Na+channel blockerはubiquitin-proteasome系を抑制し,中でもPilsicainideは有効血中濃度でubiquitin- proteasome系を抑制しKv1.5を安定化する事でIKur電流の増加をきたす。これらの結果は培養細胞のみならず心房筋を用いた研究で確認された。この結果を演繹すれば,proteasome阻害作用を有するpilsicainideが心房リモデリングにより減少した膜のKv1.5を増加させ,心房筋に特異的なIKurを増加させる。つまり心房リモデリングにおいてpilsicainideの前投与によりKv1.5を増加し薬剤の分子ターゲットを再生することでIkur blockerの効果を増強する新しい薬理学的治療法となる可能性を示す。現在工学部と連携してポイントフッ素化したpilsicainideを作成し20SプロテアソームとNa+channelを共通に阻害する反応基を同定しそれぞれの3次元構造よりプロテアソームの結合部位の同定を試みている。さらにHSP72やチャネル結合蛋白が分子シャペロンとしてチャネルの安定化に寄与する事を見出し,これらのツールを用いての薬理学的なチャネル安定化が心房細動の治療として期待できる事を示す。さらには心房細動患者ゲノムのチャネル蛋白の安定性に関連するSNPsを検討する事で疾患感受性遺伝子の探査も行っている。