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12.大脳皮質の神経回路2002年12月3日-12月4日
【参加者名】 【概要】 実際には以下の6人の講演者の方々にお願いして,講演による話題提供と議論を行いました。木村氏,安島氏,吉村氏の3演題では,主に皮質スライスを用いて細胞内記録・ホールセル記録・電位感受性色素を用いた記録などの電気生理学的な方面から話しをしていただきました。青柳氏の講演ではモデルニューロンを数値シミュレーションで解析する方法を,山下氏,小島氏の2講演では大脳皮質ニューロン結合の形態学的な解析を話していただきました。主に30代から40代前半の講演者に現在進行形の話題を提供していただいて,参加者の多くが大脳皮質の神経回路について様々な議論を交わすことが出来ました。議論は白熱して予定時間をかなりオーバーしてしまいましたが,学会などでは出来ないレベルの密度の高い討議が出来たものと感じています。また,システム的神経科学をボトムアップの方向で研究するという意味で志を同じくする研究者が集まって議論を交わすことにより,新たな着想を得る,客観的な批判にさらされるなど大脳皮質研究の発展に役立つ様々な効果があったと考えています。
(1)視床-皮質投射と皮質内回路:アセチルコリンによる制御等木村文隆(大阪大学大学院医学系研究科神経統合機能分野) 大脳皮質は前脳基底部よりACh含有性線維の投射を受けるが,AChが皮質内神経回路をどのように制御しているかの詳細については未だに不明な点が多い。我々はこれまでに,皮質細胞間シナプスがムスカリニック受容体(mACh-R)を介して抑制を受けることを示してきた。今回は視床皮質投射に対するニコチニック受容体(nACh-R)の作用を検討している。マウスのバレル皮質より,視床皮質標本を作製し,視床電気刺激に対する皮質での反応を記録した。nACh-R作動薬であるnicotineは,4層より記録される単シナプス性のEPSCに対し,シナプス前性の促通作用を示した。視床―皮質シナプス伝達がnicotineにより増強されるとすると,それが皮質内興奮伝播にどのような影響を持つか,特にバレル構造との関連において解析することはAChの作用を,皮質構造,神経回路との関連において把握するために重要と考えられる。そこで,同一の標本を用いて光学的計測法によりnicotine投与の効果を検討した。その結果,nicotineは4層における興奮を増強するだけでなく,浅層,深層においても興奮伝播を強く増強していた。また,4層においては興奮増強に引き続き,バレル構造特異的に抑制効果も引き起こす結果を得た。このことは,nicotineが皮質内で何らかの抑制性の回路を駆動している可能性があるものとして現在検討中である。
(2)体性感覚野における機能的皮質内結合の非対称性安島綾子(理化学研究所脳科学総合研究センター視覚神経回路モデル研究チーム) 触覚認識のメカニズムを理解する事を目指し,個体レベルで,内因性シグナルによる光計測法を用いて頬髭刺激時の皮質活動をモニターし,[1]2本の隣り合った髭への刺激タイミングによって皮質活動の強さに違いのある事,[2][1]の皮質活動の強さ調節に皮質内抑制性神経回路が関わっている事,[3]同列内の2本の髭への刺激タイミングの違いによる皮質活動差は,列が異なる2本の髭では見られない事を明らかにした。以上3つの現象に関わる皮質内神経回路を詳細に調べるため,生きた状態でバレル構造が可視化できる2種類の脳スライス作成方法を確立した(バレル一列を含む脳スライスとバレル列に垂直な脳スライス)。この2種類の脳スライスを用い,2/3層の錐体細胞から隣接する2/3層刺激に伴ったシナプス電位を記録することによって,バレル列に沿った方向とバレル列に垂直な方向での皮質内水平結合の強さ・長さを比較した。興奮性及び遅い抑制性を介したシナプス結合はバレル列内に局在し,早い抑制を介した結合は列内・列間とも差が見られず等方的であった。記録した錐体細胞の樹状突起は,バレル列に沿って長く伸びている事を発見した。外界探索時に髭を前後に動かすwhisking行動の方向と同じ方向に髭列が伸びている事を考え合わせると,同列内の髭への刺激タイミングが外界触覚認識において重要であり,バレル列内の皮質内神経結合がより発達していると考えられる。
(3)抑制・興奮神経ネットワークにおける発火タイミングの理論的解析青柳富誌生(京都大学大学院情報学研究科) 近年,高次機能に神経細胞間の発火タイミングが重要な役割を果たしている可能性が実験・理論両面から示唆され,その検証を行う研究が活発に行われている。一方,大脳皮質の局所回路の構造や入出力,視床とのループ構造など,大脳皮質の理論モデルを構築する上で参考になる生理学的知見に関しても情報が整理されつつある。今回は,そのような背景の上で,神経ネットワークのモデルとそこから得られる理論的結果を同期現象を軸にレビューしたい。まずは解析手法として,複雑な神経細胞のダイナミクスから本質的に有効な自由度までダイナミクスを簡略化する理論的手法の心を簡単に紹介し,そこから得られた幾つかの結果を紹介する。例えば,AHPを引き起こすカレントは同期スパイクを安定化する傾向がある。また,ある条件下ではバースト発火の一周期あたりのスパイク数が変化するところで,同期・非同期の安定性のシャープな切り替わりが生じることも示される。この場合も同期・非同期の切り替わりの実現におけるバーストという発火様式の有用性が意外な形で見いだされる。最後の例としては,近年注目を集めている抑制性ニューロンとギャップ結合の役割に関して,多様なスパイクタイミングの学習可能性という観点から,なぜ興奮性ニューロンにはギャップ結合があまり見られないかという理由にも言及したい。
(4)視覚野におけるNMDA受容体依存性の興奮性および抑制性シナプス可塑性吉村由美子(名古屋大学環境医学研究所視覚神経科学) 視覚野の機能的な神経回路は発達期の視覚経験に依存して形成されるが,その基礎過程として神経活動に依存したシナプス伝達の可塑的変化が考えられる。これまでに視覚野興奮性シナプスのNMDA受容体依存性長期増強の誘発には,シナプス前線維の高頻度刺激か,その低頻度刺激とシナプス後細胞の脱分極を組み合わせるペアリング刺激が用いられてきた。我々はラット視覚野切片標本の2/3層錐体細胞からホールセル記録を行い,2つの条件刺激による可塑性について詳しく検討した。その結果,ペアリング刺激はEPSPの長期増強を誘発するのに対して,高頻度刺激はEPSPの長期増強ではなくIPSPの長期抑圧を誘発し,電場電位の長期増強を発生させた。両可塑的変化は,錐体細胞への興奮性入力が活動電位を引き起しやすくするという点では共通であるが,異なる特性を示した。興奮性シナプスの長期増強が発達期に限局して発生するのに対して,抑制性シナプスの長期抑圧は発達期と成熟期のどちらでも起きた。またNMDA受容体は発達に伴いそのサブユニット構成が変化することが知られているが,EPSPの長期増強には発達期に多いNR2BサブユニットがIPSPの長期抑圧にはNR2Aサブユニットが主に関与していた。以上により,興奮性のシナプスの長期増強は発達期の経験に依存した神経回路形成に関与し,抑制性シナプスの長期抑圧は成熟した視覚野においても見られる視覚機能の可塑性に関与することが示唆される。
(5)大脳皮質の線維連絡と抑制性神経細胞山下晶子(日本大学医学部解剖学) バイオサイチンを使いサル運動皮質の局所回路を形成する個々の神経線維を詳細に追跡した。カラムサイズに限局した広がりを持つ軸索や特定の層にのみ終末を持つ錐体細胞があり,終末分布が限定される特別な作用を持つ錐体細胞があると予想される。 げっ歯類大脳皮質では抑制性GABA神経細胞のマーカーであるカルビンジン(CD),カルレチニン(CR),パルブアルブミン(PV)は異なったタイプの細胞に存在する。サル大脳皮質でも3種とも細胞体ではGABAと共存する。CD細胞軸索は陰性樹状突起の線維束に近接し終末を形成し,CR細胞は陰性樹状突起遠位部に終末を持つ他,CR陽性樹状突起にも終末を持つ。PV陽性細胞は陰性樹状突起や陰性軸索,錐体細胞の細胞体に終末を持つ。サル大脳皮質でも3者は異なったタイプの抑制細胞に含まれ,皮質回路網でも異なった役割を担うものと考えられる。 マウス視覚野で領野間結合であるfeedback(FB)およびforward(FW)結合とGABA抑制細胞の関係とその発達を調べると,生後15日では両投射経路に差は見られないが,成熟期ではFWはGABA-PV細胞の細胞体や樹状突起近位にミトコンドリアを多く含む終末を持つのに対して,FBは樹状突起遠位部にミトコンドリアのほとんど含まない終末を持つ。この解剖学的な差がFWとFBの生理学的な差とも関係していると考えられる。
(6)聴覚皮質のミクロおよびマクロネットワーク小島久幸(理化学研究所脳科学総合研究センター脳皮質機能構造チーム) 聴覚皮質でspectrotemporalな活性パターンを推定するには,単一細胞およびその集団の結合またそれらの関連をみいだすことが重要と思われる。今回単一細胞また細胞集団レベルでこれらのことを調べてきたので報告する。 (1)ネコにおいて単一錐体細胞は水平軸索から数百μm置きに脳表に向かう終末側枝を形成した(平均2.6 /細胞)。また小細胞集団の投射をtracerによって標識すると等周波数帯にそって数ヶのpatchが認められた(平均4.6/injection)。平均値の比較から単一細胞はpatchの全てではなく,一部にのみ投射していると推測。 (2)周波数軸に沿い隣接する一次聴覚野(AI)ドメインに異なるトレーサーを注入して,領域内,外への重複(収斂)投射を調べたところ,注入部位の分離距離特異的な重複パターンが認められた。 (3)音強度検出に関与すると考えられる発火パターンを一部の細胞は示す。 音強度があがるにつれ初めは発火が増加し,その後減少するnonmonotonicな細胞が知られている。この発火パターンの形成機構についてin vivo細胞内記録法で調べた結果,2層と3層で違いがあることが判明。 (4)最近サルでwhat and where pathwayが聴覚系にも見い出され,2次領域であるbelt野が分岐点と考えられている。両経路の相互関連を3次領域であるparabelt野への投射から検討し,重複投射があることから2経路が関連することが判明。
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