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13.機能的MRI研究会

2002年11月28日−11月29日
代表・世話人:定藤規弘
所内対応者:定藤規弘

(1)
The real-time analysis of fMRI data: algorithm and system development
E. Bagarinao,中井敏晴(産総研)
(2)
fMRI Studies of Human Brain Functions at Columnar Resolution
Kang Cheng, Allen R. Waggoner,Keiji Tanaka(理研)
(3)
MRI撮像音強度の変化に伴う聴覚野の賦活
岡田知久(生理研)
(4)
EPI時系列信号における低周波ドリフトの要因について
島田育廣,藤本一郎,正木信夫(ATR脳活動イメージングセンター)
(5)
fMRI/EEG同時計測とBe-fMRI(Brain event-related fMRI)
宮内哲,三崎将也,伊丸岡俊秀,田中靖人(通総研)
(6)
fMRIとNIR同時計測
柏倉健一,佐藤哲大,米倉義晴(福井医大)
(7)
テンソル画像
佐藤哲大,柏倉健一,米倉義晴(福井医大)
(8)
認知記憶課題における前頭葉活動
宮下保司,桔梗英幸,小西清貴(東大)
(9)
A Comparison of the Temporal Characteristics of the BOLD Responses in V1, MT, and the Primary Motor Cortex(M1)to a Variety of Stimuli
R. Allen Waggoner, Kang Cheng, Keiji Tanaka(理研)
(10)
子供と老人のfMRI
泰羅雅登(日本大学)
(11)
activation studyにおける個人差についての検討
岩田一樹1,杉浦元亮1,渡邉丈夫1,2,Jorge Riera1,三浦直樹1,
秋月祐子1,2,3,佐々祐子1,4,渡部芳彦5,生田奈穂1,4,
岡本英行1,2,前田泰弘5,松江克彦5,川島隆太1
1東北大未来科学技術共同研究センター,2東北大加齢研,
3東北大院医,4東北大院国際文化,5東北福祉大)
(12)
機能的MRIをもちいた新生児脳代謝活動変化の画像化
定藤規弘(生理研)

【参加者名】
小川誠二(小川脳機能研究所),岩田一樹,渡邉丈夫,秋月祐子(東北大),泰羅雅登(日本大),田中啓治,KangCheng(程康),R Allen Waggoner,Pei Sun,上野賢一,伝優子,Justin Gardner,堀江亮太,Chou I-han(理研),中井敏晴,Bagarinao Epifanio Jr.,松尾香弥子,斎藤もよこ(産総研),正木信夫,島田育廣,藤本一郎(ATR),宮内哲(通総研),宮下保司(東大),米倉義晴,柏倉健一(福井医大),佐藤哲大(奈良先端大),定藤規弘,本田学,岡田智久,齋藤大輔,荒牧勇,田中悟志,原田宗子,吉村久美子(生理研・心理生理),廣江総雄(生理研・統合生理),小松英彦(生理研・高次神経性調節),秋 伝海(生理研・統合生理),小川正,田辺祐梨,鯉田孝和(生理研・高次神経性調節),久保田哲夫(生理研・統合生理),伊藤南(生理研・高次神経性調節)

【概要】
 機能的磁気共鳴画像法(以下fMRI)は近年著しく普及し,ヒトを含む霊長類の脳機能を非侵襲的に探る上で卓越した可能性をもつことが明らかとなってきた。その一方で適切な撮像方法や統計的解析法といった技術面のみならず,記録される信号変化のもつ生理学的意味(即ち局所脳血流あるいは電気的活動との関係など)を理解する上でも検討すべき課題が山積している。本研究会では,fMRIに関する技術的ならびに生理学的な諸課題について活発な議論をおこなうとともに,情報交換の場を提供することを目的とする。具体的には,現在,fMRI研究を盛んに実施している研究施設や装置開発など関連領域の研究者並びに技術者から,fMRIの記録・解析における技術的側面,ならびにBOLD効果などの生理学的側面に関連する研究成果を募集し,発表ならびに討議を2日間にわたり活発に行った。こうした活動を通して,fMRIを神経科学の確固たる道具として使用できるようになることが期待される。

 

(1)The real-time analysis of fMRI data: algorithm and system development

E. Bagarinao and T. Nakai(Life Electronics Laboratory
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)

 The real-time analysis of functional magnetic resonance imaging(fMRI)data advances the efficacy of fMRI as a flexible tool for neurological investigations for both basic research purposes and clinical applications. MRI systems with real-time statistical analysis capabilities have been used to provide immediate confirmation of activation, to assess subject performance and data quality, and to locate regions of interest, among others. In this work, we developed a system for the real-time analysis of functional magnetic resonance imaging(fMRI)time series. The system is composed of an MR scanner for data acquisition and paradigm control, a computational server consisting of a cluster of readily available personal computers(PC cluster)for real-time fMRI data analysis, and a storage device for storing data. The highly parallel, voxel-wise processing of fMRI data motivated the use of PC clusters for parallel computation. Advantages of using a PC cluster include a significant increase in computational speed as well as the provision of the much needed storage requirement for processing fMRI data by pooling the resources, such as physical memory, of the different PCs in the cluster. To support real-time statistical analysis, we developed an algorithm to estimate the coefficients of general linear models(GLM)in real-time. Results of the real-time analysis of fMRI data of a normal subject performing a simple finger-tapping task demonstrate the capabilities of the described system. For a basic analysis without image preprocessing such as realignment, smoothing, or normalization, the time required to estimate the coefficients of a GLM with 15 terms, compute the t-statistics, and update the statistical map for each volume acquisition is about 0.175 s for a 64 x 64 x 30 image data and 0.27 s for a 128 x 128 x 30 image data, which is much less than the TR which was set to 5 s.

 

(2)fMRI Studies of Human Brain Functions at Columnar Resolution

Kang Cheng, Allen R. Waggoner, Keiji Tanaka
(Laboratory for Cognitive Brain Mapping, RIKEN Brain Science Institute)

 In this presentation, we demonstrate that with optimal imaging parameters and proper experimental procedures, functional architectures such as ocular dominance columns in human primary visual cortex can be mapped with high-field fMRI. Possible sources contributing to the functional BOLD contrast at columnar resolution and limiting factors in conducting such experiments are discussed from both anatomical and imaging perspectives.

 

(3)MRI撮像音強度の変化に伴う聴覚野の賦活

岡田知久,本田 学,定藤規弘
(生理学研究所心理生理学研究部門)

 機能的MRIは言語課題を含めた多くの実験において用いられるが,大きな撮像音は聴覚刺激呈示の妨げになる。その主要発生源となる傾斜磁場を一時的に止めることで相対的静音時間を設け,聴覚刺激呈示を容易にする撮像方法について基礎的な検討を行った。

 実験1では健聴成人14人を対象に,13-17秒毎に1秒間傾斜磁場を止めた(OFF)ところ,両側聴覚野にOFFに同期した広範な賦活を認めた。うち11人を対象に実験2を行った。12-15秒ごとに5秒間傾斜磁場を止めて,引き続き聴覚野で起こった血流変化を実験1でのOFFに対する応答曲線を用いて解析した。5秒間のOFF期間に伴う血流変化は,ON-OFFとOFF-ONの2つの変化時点に同期した応答曲線の線形和によりその90%以上が説明された。すなわち一次聴覚野は新たな刺激入力が生じた場合のみでなく,それが減少した場合にも,定常状態よりも大きな賦活を示すことが判明した。

 

(4)EPI時系列信号における低周波ドリフトの要因について

島田育廣,藤本一郎,正木信夫
(ATR脳活動イメージングセンター)

 長時間のfMRI実験でしばしば見られるEPI時系列信号の低周波ドリフトは,脳活動に起因するものではないと考えられる。分析時にフィルタによる除去処理等を施すが,かえって有害な場合もある。このドリフトの要因を検討した。

 (1)ファントムで長時間EPIセッションを連続して行なうと,信号変動及び画像シフトは2回目のスキャンで減少した。(2)装置をウォームアップ後の連続セッションでは,信号変動・画像シフトともに改善された。(3)装置のウォームアップなしで脂肪抑制パルスのFAを小さくしてファントムをスキャンすると信号変動は減少したものの,画像シフト量は2回目で減少する。(4)(3)と同様の条件で生体のスキャンを行うと,(3)同様に信号変動は減少したが,画像シフトの傾向は2回目に減少した。

 以上から,低周波信号変動は傾斜磁場の特性変動による中心周波数変動に起因しており,脂肪抑制が不完全になるためと考えられる。

 

(5)fMRI/EEG同時計測とBe-fMRI(Brain event-related fMRI)

宮内 哲,三崎将也,伊丸岡俊秀,田中靖人
(通信総合研究所関西先端研究センター)

 fMRIとEEGの同時計測はこれまでにも報告されているが,有効な応用事例は少ない。われわれは以下の二点を目的としてfMRIとEEGの同時計測システムを構築した。

 (1)fMRIの実験中は,被験者は仰臥位で全く動けないため,しばしば覚醒水準が低下する。覚醒水準の低下に伴い,反応時間等の行動指標や脳波パタンは顕著に変化するにもかかわらず,これまで覚醒水準の変動に伴う脳活動の変化に関する検討はほとんど行なわれていない。(2)さらに,従来の特定のタスクに対するfMRI信号値の変化を計測する代わりに,EEG上のphasic eventに伴うfMRI信号値の変化を計測する,Brain event-related fMRI(Be-fMRI)を新たに提唱する。

 今回は,fMRI/EEG同時計測システムの詳細と(2)のBe-fMRIの計測結果例を中心に報告する

 

(6)fMRIとNIR同時計測

柏倉健一,佐藤哲大,米倉義晴
(福井医科大学高エネルギー医学研究センター)

 近赤外計測装置(NIRS)及び機能的MRI(fMRI)で得られる情報の統合が可能かどうか検討する目的で同時計測を試みた。光トポグラフィー装置(日立メディコ)に延長ケーブルを接続し,3T MRI装置(GE横河メディカル)内で光刺激による脳賦活検査を行った。正確な位置の同定を行うため,光トポグラフィ装置の各プローブには直線マーカーを配置した。被験者は健常成人男女計12名である。矩形チェッカーボード刺激を用い4種類の網膜地図を作成し空間的比較を行った(n=7)。さらに,放射状チェッカーボードを用い刺激時間を2-20秒と変化させ,時間的比較を行った(n=5)。タイミングの正確性を計るためMRIと刺激提示ソフト及びNIRS装置間でゲーティングを行った。この結果,各信号(BOLD信号及びoxy-, deoxy-Hb)は空間的,時間的に良好な相関を示した。また,時間不変線形システムからの乖離も顕著であった。従って,両モダリティともほぼ同一の生理学的現象を観察していると考えられた。

 

(7)テンソル画像

佐藤哲大,柏倉健一,米倉義晴
(福井医科大学高エネルギー医学研究センター)

 MRIを用いた脳機能研究の発展にしたがって,脳内白質の構造解析は脳内の機能連関をはかる目的から今まで以上に重要となってきた。MRI装置や撮像技術の進歩にともなって,水分子の拡散様態を容易に画像化できるようになった。拡散様態をとらえた拡散強調画像は,水分子の拡散の程度を輝度によって表現することができ,拡散強調画像を複数枚用いることで,拡散テンソル画像の算出が可能となる。脳内白質は部位によって拡散の程度が大きく変化するという特徴を持ち,拡散の速さや方向は白質内に含まれる神経線維束の方向と,検出のための拡散強調磁場勾配の方向との相互作用による影響を受ける。この現象は拡散の不等方性と呼ばれ,拡散強調磁場勾配の方向に平行な白質内線維束では大きな拡散係数,垂直な線維束では小さな拡散係数が計測される。本研究では脳内白質神経線維束の結合度を,参照ボクセルと近接ボクセル間の方向に射影された拡散テンソル距離を利用して解析する手法を提案し,3T MRIを用い計測した実データへの適用結果を示す。この拡散テンソル距離は,各方向へのテンソル楕円体の中心から表面までの距離に基づく関数で定義され,この距離にしたがったラベルを用いて脳内白質のセグメンテーションを行なった。また本手法の応用として,スライス内の任意の点から特定線維束を反復して検索する手法とその結果についても述べる。この手法では脳内白質に存在する特定の線維束である,脳梁および内包のセグメンテーションが可能であった。提案手法は従来の固有第一ベクトルの曲率や円錐角を利用した手法と比較して,テンソルの形状特徴を反映した距離関数の利用によって近傍の探索時に自由度が高い特徴をもつ。本研究は脳内白質神経線維束の結合度を定量的に解析する研究の一環であり,脳機能との連関解明に寄与できるものである。

 

(8)認知記憶課題における前頭葉活動

宮下保司,桔梗英幸,小西清貴
(東京大学医学部生理学教室)

 MRI(fMRI)の発展によって,多くの記憶課題(特にエピソード記憶課題)において,広範な前頭葉部分の神経活動が報告されるようになった。しかし,こうした神経活動がどのような認知的情報処理をおこなう基礎となっているのかは必ずしも明らかではない。神経活動の局在性,異なる課題間の活動領域の重複,課題の神経心理学的背景等を考慮して,最近いくつかの機能画像計測を行った。技術的には,cognitive subtraction型でなく,可能な限りparametric modulation型のデザインを採用するように努めた。そのうち,健常被験者を対象として行った近時記憶(recency memory)課題,フィーリング・オブ・ノウイング(feeling-of-knowing)課題等の知見を中心に報告する。

 

(9)A Comparison of the Temporal Characteristics of the BOLD Responses in V1, MT, and the Primary Motor Cortex(M1)to a Variety of Stimuli

R. Allen Waggoner, Kang Cheng, Keiji Tanaka
Laboratory for Cognitive Brain Mapping, RIKEN Brain Science Institute

 In an effort to look beyond the basics of the BOLD response, and elucidate aspects which are specific to a given stimulus or to a given cortical area, we have compared BOLD responses in V1, MT, and M1 to a variety of stimuli. Stimuli that produce a strong response in either the visual cortex(a flickering checker board and moving dots)or the primary motor cortex(finger tapping)were used. The resulting time courses were compared, looking for common and unique features. The results in the visual areas show a two-stage rise for both stimuli, which is not seen in M1. Also, the flickering checker board caused the normal 0.1Hz vasomotionoscillations to become more pronounced during the sustained response in the visual areas, compared with the other stimuli both in the visual areas and M1.

 

(10)子供と老人のfMRI

泰羅雅登
(日本大学)

 機能的MRI(fMRI)はPETに比べて非侵襲性が高いため,これまでは調べることが難しかった,健常な子供や老人の脳活動をこれを用いて調べることが可能になった.これまでに6〜14歳の健常な子供を被検者として調べたところ,運動野や視覚野など,髄鞘化の発達が早くおこる領域では,fMRIを用いて脳の賦活を成人と同様に観察することができることがわかった。しかし,前頭連合野など,発達の遅い領域では,幼少児では脳の賦活がうまく描出できず,fMRI activationの原理であるBOLD効果が,髄鞘化が未発達な領域では観察できない可能性を示差する結果を得た。一方,老人のfMRIでは,前頭葉課題を行わせたときには,前頭葉の形態学的な萎縮が進んでいるにもかかわらず,健常な青年と変わらない活動が得られた。今回はこれらのケースについて考察する。

 

(11)activation studyにおける個人差についての検討

岩田一樹1,杉浦元亮1,渡邉丈夫1,2,Jorge Riera1,三浦直樹1,秋月祐子1,2,3
佐々祐子1,4,渡部芳彦5,生田奈穂1,4,岡本英行1,2,前田泰弘5,松江克彦5,川島隆太1
1東北大学未来科学技術共同研究センター,2東北大学加齢医学研究所,
3東北大学大学院医学研究科,4東北大学大学院国際文化研究科,
5東北福祉大学感性福祉研究所)

 fMRIを用いた脳の賦活研究においては実験条件・課題の違いとそれに伴うMR信号の変化との間の関連性が議論されるが,個人毎のMR信号の反応性の差違については十分考慮されてこなかった。そこで本研究では,健康成人49名を被験者として反応性の被験者間の個人差についての検討を行った。反応性の評価の為の標準課題として1.5Hzの頻度で反転する白黒チェッカーフラッグを提示し反転のペースに同期して右手掌を開閉させる視覚刺激・運動課題を課し,5秒毎にEPI撮像を行った。安静時をbase lineとした課題中の一次視覚野(V1)・一次運動野(M1)の賦活をt値で評価し,その被験者間の差違を検討した。その結果,V1のt値の範囲は5.8-22.6(12.9±4.0(mean±SD)),M1は3.8-24.4(15.7±5.0)と大きなばらつきが認められた。この結果から,賦活研究においては課題による賦活の差違のみならずMR信号の反応性の個人差が小さくないことに十分注意を向ける必要があると考えられる。

 

(12)機能的MRIをもちいた新生児脳代謝活動変化の画像化

定藤規弘1,山田弘樹2,米倉義晴
1生理学研究所,2福井医科大学放射線科,
福井医科大学高エネルギー医学研究センター)

 BOLD信号の変化は,脳血流の変化のみならず酸素代謝の変化をも反映し得ると考えられる。ヒト脳はその発生初期において形態機能代謝の各側面から急激な変化をしめすことから,神経活動に関連する代謝活動を指標に,発育過程を画像化することを試みた。機能的MRIをもちいた視覚刺激課題を施行したところ,胎生期間の補正をおこなった年齢で生後8週以前では,視覚刺激に対してBOLD信号の上昇を認め,これは成人におけるパターンと一致していた。一方,8週以降では逆にMR信号の減少が見られた。一次視覚野においては,生後2ヶ月からシナプス密度の急増が見られ,その後3歳まで緩やかなシナプス減少が観察された。MR信号減少の見られる時期はまたブドウ糖代謝の増加する時期とも一致している。ブドウ糖代謝はシナプス活性を反映していることを考慮すると,この時期のシナプス形成が急激に増加することと一致する。これらから,生後8週以降は,視覚刺激による過剰シナプス活動の増加が,酸素消費の増大ひいては局所還元型ヘモグロビン量を増加させてBOLD信号の減少に至るものと考えられた。機能的MRIは正常脳における発達過程を代謝の変化として画像化でき,髄鞘化とならんで発育過程のmilestoneとなりうることが示された。

 


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