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15.第3回脳磁場ニューロイメージング2002年12月11日−12月12日
【参加者名】 【概要】 研究発表は「体性感覚,視覚,聴覚,味覚,臨床応用,高次機能,信号処理」のセッションに分け,計29演題の発表が行なわれた。体性感覚では注意による早期MEG反応の減衰が35 ms成分に見られるとの報告があり,IPSPとの関連などの討論がなされた。弦楽器奏者の左手指の体性感覚誘発MEGと脳の可塑的な変化に関する先行研究があり,これに対する追試実験の報告がなされた。手指への電気刺激による反応は先行研究と異なり,双極子モーメントと手指間の信号源距離には器楽訓練による有意な増加が見られなかった。しかし,300-900Hzの高周波振動性反応には変化があり,抑制性介在ニューロンの関与が指摘された。 味覚関連MEG反応では,多数の被験者にわたる測定を総合した結果が報告された。それによると最短潜時成分の双極子位置には左右脳半球差があり,男性において左半球の活動が右より後方に位置するが女性では非対称性は見られないとのことであった。 信号処理関係の発表では独立成分分析を使って信号成分を雑音から弁別する試みが紹介され,非加算誘発MEGが抽出できるとの報告が興味を集めた。音楽関連の計測では2件の発表があった。小児(7から14歳)の絶対音感保持者のAEF計測を行ないN100m成分の出現を論じたもので多数(10人以上)の小児被験者を測定した始めての例と思われる。また,音楽専門家が無調音列を聴取しつつ楽譜との照合を行なう実験では,左脳半球の種々の領野に活動が認められるという報告であった。 その他にも多くの興味ある研究発表があったが,紙面の関係で割愛する。第1,第2回研究会と同様に講演時だけではなく休憩時にも活発な討論があり,貴重な情報交換の場となっていた。この方面の研究の推進に資するところ大なるものがあると感じた次第である。
(1)体性感覚情報処理におよぼす注意の影響遠藤博史(産業技術総合研究所脳神経情報研究部門) 刺激に注意を向ける場合,手の位置や見え方と言ったトップダウン的な要素が注意の効果に影響をおよぼす。そこでこのような効果が体性感覚情報処理の脳活動にどのような変化をもたらすかを見ることによって,トップダウン的な情報が体性感覚情報処理のどの段階で付加されるかの検討を行った。左右両人さし指へランダムな刺激を与え,被験者はtarget刺激が来る一方の指に注意を向け,注意していない刺激に対する反応の変化を計測した。注意は80ms以降の活動に影響をおよぼしたが,手の位置や見え方と言ったトップダウン的な要素は,活動強度に変化をもたらさなかった。また刺激後35msの成分は,注意側の刺激に対してその活動強度が有意に減少した。以上のことから,注意の効果には2段階あり,まずは体性感覚そのものに対する注意(二次体性感覚野以降の処理に影響)であり,次は刺激の弁別にかかわるような,高次の処理に関した注意であると考えられた。
(2)鍼,指圧,打撃による脳のMEG信号とdipoleの脳内ダイナミックス川端啓介1,中岡高博1,M.R.Khan1,谷塚 昇1,内野勝郎2,村田和優3,外池光雄4 表題の3種類の刺激を鍼灸点の主として合谷について行い脳磁気計で測定し,その結果からdipole座標などの時間的ダイナミクスを解析した。(実験方法)刺激方法は指圧と打撃については,直径4m/mの仁丹球を鍼灸点に貼り付け,その上を強く押さえるか木槌で叩く。いずれの場合も仁丹球は深く沈み込む。鍼の場合は通常使われるステンレス鍼を先端を残して短く切り細い木柱にさしこみ,この先端を5m/m程度刺入し上端を水平方向に振る刺激を行った。トリガーの0点としては以上3種類の刺激とも光ファイバーより射出される光を遮断するパルスの発生時とした。MEGは産技総研関西センターの122チャンネル全頭型(グラヂオメーター)を使用した。(実験結果)以上の3種の深部刺激反応の特徴としては,(1)MGE信号は非常に多くのチャンネルに現れる,(2)1秒程度にも及ぶレスポンス遅れがある,のが特徴で従来報告されてきた体性感覚の場合と非常に異なる。打撃の場合の実験結果は昨年の第2回研究会で発表したが指圧,打撃の両者とも大きな信号が現れる。50回程度積算した信号を解析したdipoleの座標の時間変化ダイナミクスを発表する。鍼については,意外にも積算によって打撃や指圧の場合のような大きな信号は現れなかったが,鍼刺激の特徴としては,刺激により側頭優勢な強いアルファ波が全頭的に広がることであることを見出した。(アルファ波はトリガー信号にたいして位相的にランダムであるから積算信号では相殺される。)アルファ波は普通脳が非常にcalmな状態で出現するとされているが,脳が鍼刺激により感度を落としている状態とも考えられ,鍼麻酔とも関連するところがあるのではないか?鍼の場合は積算信号のほかに,RawDataよりある時間域の信号を切り出して数個の周波数帯に分けてdipoleの座標解析を行った。また,このうちの,アルファ波周波数帯でのこの様な座標解析は,古くからある問題,脳波とは何なのかについても重要な知見を与えるものであろう。
(3)弦楽器奏者の体性感覚誘発脳磁界皮質初期成分の計測鈴木篤志1,木村友昭2,田野崎真人3,井口義信3,関原謙介4,橋本 勲5 弦楽器奏者の指に対する体性感覚野からの反応を計測した。8人の弦楽器奏者について両手の母指(D1)示指(D2)小指(D5)と,12人の比較対照者(コントロール)の左手に電気刺激を与え,3-300Hzと300-900HzのバンドパスフィルタでN20mと高周波振動(HFOs)を分離し解析を行った。N20mのピークでダイポール推定を行った結果,弦楽器奏者とコントロールの左手のD1-D5,D2-D5の皮質上における距離や,D1,D2,D5に対するダイポールの強度に差はなく,弦楽器奏者の左手のD1とD5の反応強度が増すとする先行研究結果(Elbert et al.,1995)と矛盾した結果が得られた。他方,HFOsのピーク数が弦楽器奏者の左手のD1とD5で統計的に有意に増大することを見出した。これらの結果は,弦楽器奏者の体性感覚皮質の訓練による再構築は皮質領域を拡大することではなく,抑制介在ニューロンの活動を高めると解釈することで説明できる。
(4)擬似自己運動感覚に関連した脳磁界の計測中川誠司,渡邊 洋,山口雅彦,西池季隆1,外池光雄 視覚入力によって誘発される擬似自己運動感覚(vection)に関連した脳磁界の計測を行った.以下の4条件の視覚刺激を被験者に呈示した。(a)画面中心点に向かって直線加速運動するドット群,(b)画面上の無作為な点に向かって直線加速運動するドット群,(c)画面中心点を軸として反時計回りに回転運動するドット群,(d)画面上の無作為な点を軸として反時計回りに回転運動するドット群。刺激条件(a)に対して自らの身体が後退運動する感覚(backward linear vection),および(b)に対して自らの身体が時計回りに回転運動する感覚(counterclockwise circular vection)が知覚された被験者の脳磁界計測を行い,それぞれのvectionに関わる脳内活動を検討した。
(5)第2次運動知覚機構の生理学的検討祖父江文子,金桶吉起,柿木隆介(生理学研究所,名古屋大学医学部小児科) ヒトは明るさで定義される物体の運動(第一次)のみならず,模様などの違いで定義される物体の運動(第二次)も知覚することができる。我々は,ランダムドット運動の速度の違いにより定義された物体の第二次運動に誘発される脳磁場反応と機能的磁気共鳴画像を測定し,比較検討した。サイン波刺激の第一次運動は脳磁場反応が誘発されたが,第二次運動の反応は測定できなかった。仮現運動刺激において,第一次,第二次運動に対する両反応とも距離により反応潜時と振幅は有意に変化し,第一次運動に対する反応は有意に潜時が短く振幅は大きかった。第一次と第二次の情報を同時に持つ運動刺激に対する反応は,それぞれの反応の中間に分布した。機能的磁気共鳴画像では,どの刺激においてもヒトMT+を中心に活動が見られ,有意な部位差はなかった。これらは両者を検出する神経機構がある程度独立しているが,その初期に情報交換が行なわれることを示している。
(6)二味溶液の呈示条件における味覚情報処理機構の検討森川聖美1,山本千珠子2,中川誠司3,山口雅彦2,外池光雄2,山本 隆2 ある刺激を規則正しく与えた場合とランダムに与えた場合で,刺激の呈示条件のよって生体反応に相違が認められるかどうかは興味深い研究課題である。本研究では,二つの味覚刺激(Citric Acid 50 mM,Sucrose 500 mM)を交互に与えた場合(交互課題)とランダムに与えた場合(ランダム課題)について検討した。生体反応として,まず指の光センサー開閉方式により,味刺激に対する反応時間を調べたところ,味溶液の種類に関係なく交互課題に比べランダム課題のほうが,反応時間が長くなる傾向が見られた。(5名中3名)これは味覚の認知過程,または味を認知してから実際に反応するまでの脳内情報処理過程において,呈示条件による違いが生じているからだと考えられる。そこで,交互課題とランダム課題において,中枢における味覚情報処理様式に違いが見られるかどうかを脳磁界計測装置を用いて解析,検討を行った。
(7)食品の色彩別脳磁場応答繁冨梨絵1,長尾絵美子1,佐藤千絵1,吉本知津1,奥田弘枝1,橋詰顕2, 【目的】過去のアンケート結果から食品の色彩と五味については暖色系に甘味・酸味を感じ,寒色系には塩味を感じることがわかった。そこで着色された試料提示後の脳活動について,研究を行った。
(8)味覚誘発脳磁場の周波数解析吉本知津1,長尾絵美子1,佐藤千絵1,繁冨梨絵1,奥田弘枝1,橋詰顕2, 【目的】味覚誘発脳磁場応答が,味覚の種類により差があるかどうかを研究する。
(9)第一次味覚野の左右半球における非対称性小早川達1,斉藤幸子1,後藤なおみ1,小川 尚2 4段階の食塩の濃度段階(30mM, 100mM, 300mM, 1M)を男性4人,女性4人の被験者に対して,提示を行い最初の潜時の活動の計測を行った。1回の実験では40回の味刺激提示を行った。味覚刺激の提示時間は400ms,刺激間間隔は30秒であり,その間は脱イオン水の提示を行っている。最短潜時の活動についてダイポール推定を行ったところ,濃度段階に応じて活動強度の有意な変化(p=0.000053)がみられた。活動部位について標準脳の座標系に変換後,濃度による部位の差の検定を行ったが有意差は見られなかった。濃度段階とは関係なく,標準脳座標系におけるy座標(前後方向)の値が左半球において有意(p=0.00014)に小さかった。これは味覚第一次野が左半球では右半球と比較して後方へ移動していることを意味する。また被験者を男性,女性の二群に分けた場合,男性においては有意(p=0.00023)に左半球において味覚第一次野が後方に位置しているのに対し,女性ではこのような左右差は有意に見られなかった(p=0.25)。
(10)平面型グラジオメータで検出された磁界の等高線表示竹内文也,栗城眞也(北海道大学電子科学研究所) 脳磁界信号源の推定結果を評価する場合に磁界分布を利用することが多い。しかし,平面型グラジオメータで検出した磁界を等高線表示させるためには信号源推定などの処理が必要となる。ここでは平面型グラジオメータで計測した磁界を,シンプルな電流分布モデル用いて等高線表示可能な磁界値に変換する方法を提案する。
(11)脳磁図周波数トポグラフィー橋詰 顕,栗栖 薫,有田和徳,杉山一彦,江口国輝,花谷亮典 【目的】脳波でなされている周波数解析を脳磁図でも応用できるようにする。 【方法】平面型グラジオメータは直下に電流源が存在するときに最大信号となる特徴がある。この検出コイルを脳波の双極誘導に類似したものと考え,センサー平面(x-y)に対しての傾斜磁場BxとByをフーリエ変換しパワー値の合計を計算し,平面上または脳表上に投影し,センサー間を補間した。 【結果】周波数トポグラフィーを作成することで周波数分布がひとめで分かるようになった。健常者では閉眼時のá波が後頭葉を中心に広がる傾向があること,てんかん患者では推定された等価電流双極子の位置とa波の分布域が一致する傾向が見られた。 【考察】我々が開発した脳磁図周波数トポグラフィーでは1)電流源の深さを表現できない,2)磁気雑音に弱い,という欠点がある。得られた周波数帯域の分布の意義は不明であるが,アイドリング状態の基盤となるネットワークの広がりに何らかの関係があるものと思われる。 【結語】脳磁図周波数トポグラフィーは等価電流双極子推定法では解明し得なかった脳機能の解明に役立つ可能性があると思われた。
(12)非加算誘発脳磁図の試み川勝真喜,内川義則,小谷 誠(東京電機大学) 生体からの磁気信号は環境磁気ノイズに比べ,非常に小さい。代表的なノイズは電源周波数のノイズ,背景脳波,センサ固有のノイズ,回路のノイズなどである。これらのノイズは生体磁気計測をする上で厄介な存在であり,良い生体磁気計測を行うためにはノイズの軽減は不可欠である。最近注目をされている独立成分分析(ICA:Independent component analysis)は時空間データから統計的に独立な成分に分離する手法であり,脳磁図にも応用が期待されている。我々はこの方法を用いて脳磁図データからノイズ成分と信号成分に分けることを試みた。その結果,計測データから非加算の聴覚誘発脳磁界を抽出することに成功した。抽出された非加算の誘発成分からは,N100m潜時の時間的ゆらぎがあると考えられる結果が得られた。
(13)正中神経繰り返し刺激のMEGと測定変量間の伝達関数の同定加藤健治1,岸田邦治1,深井英和1,篠崎和弘2,鵜飼 聡2,山本雅清2 MEGデータ解析の研究において,特定の活動部位の位置を推定する従来の方法の1つとして加算平均法があり,脳の各部位が他の部位に対してどのような影響を与えているかなど,高次脳における機能関連の解明がされている。しかしMEGデータにはあらゆる周波数の動的情報が入り交ざっている。そこで,5Hzの正中神経繰り返し刺激のMEGデータに時間構造に基づいた独立成分解析を用いて5Hzの周波数に対応する独立成分を選択した。
(14)刺激間隔における1/fnゆらぎのGO/NO-GO反応によるベータ帯域非同期化原田暢善1,中川誠司1,岩木 直1,Tom Holroyd2,山口雅彦1,外池光雄1,守谷哲郎1 聴覚刺激間隔を,1/f0ゆらぎ,1/f1ゆらぎ,1/f2ゆらぎ,1/f∞ゆらぎ(一定間隔)で変動させたとき,聴覚刺激により引き起こされる,GO/NO-GO反応に対する刺激間隔の影響について検討を行った。1/fnゆらぎのべき乗nの値の増加ともに,MMFの二乗平均値(RMS値)(F(3/24)=10.94: p=0.0001),さらにNO-GO反応における左後頭チャンネル75/76のベータ波帯域の非同期の時間(F(3/24)=6.43: p=0.0024)が有意に増加することが観測された。メモリートレースの形成が,ベータ波帯域の非同期の時間に反映することが明らかになった。さらに後頭チャンネルのベータ波帯域の非同期化の性質を検討するため,タッピング指の右から左への変更の影響を検討した。右から左へ変更により,非同期化時間がNO-GO反応において,左後頭チャンネル75/76で減少,右後頭チャンネル105/106で増加傾向を示した。一方,GO反応においては,明瞭な変化は見られなかった。以上から,NO-GO反応において,ベータ波帯域の非同期化時間が運動指の影響をうけることが明らかになった。
(15)視覚・聴覚の同時刺激による聴覚N1m潜時の変化足立信夫,小野弓絵,小林宏史,石山敦士,葛西直子 脳は感覚器から得られる複数の情報を同時に処理する場合が多く,中でも視覚と聴覚からの情報を同時に受け,処理する場合が多い。視覚と聴覚の同時刺激が脳内の情報処理や伝達経路に与える影響をMEG実験により調べた。視覚または聴覚刺激を個別に与えた場合,聴覚反応のピーク潜時が視覚反応に比べて長い場合,視覚と聴覚刺激を同時に与えると,聴覚反応のピーク潜時は短縮されることが分かった。このとき,4信号源の活動位置を推定した結果,反応部位は個別刺激したときの反応位置から変化しないことがわかった。また,聴覚刺激開始時間を視覚刺激開始時間に対して徐々に遅くし,ピーク潜時短縮の現れ方を調べた。その結果,遅延時間が30ms程度までは短縮がおきることが分かった。
(16)逆方向マスキングを引き起こす聴覚刺激に対するN1m反応渡邉啓太,川勝真喜,内川義則,小谷 誠(東京電機大学) 音響心理学上の聴覚逆方向マスキング現象とは,音の振幅や呈示時間の異なる二つの音が時間的に連続して存在しているときに,先行する小さな音の処理を後続する大きな音の処理が妨害する現象である。この現象は最初に小さな音が実在しているにもかかわらず,聞こえにくくなってしまうという点で非常に興味深い。今回我々は,この逆方向マスキング現象を反映するような刺激音を用いて聴覚誘発脳磁界計測を行った。この結果,被験者には聞こえていないはずの先行する非常に小さな音の処理が,後続する大きな音の処理を妨害しているかのような反応波形が計測され,音響心理学上の聴覚逆方向マスキング現象とは矛盾する結果が得られた。
(17)周波数変化に対する聴覚誘発脳磁界反応神本さゆり1,今田俊明2,4,関原謙介3,川勝真喜4,小谷 誠4 純音の周波数変化に対する聴覚誘発脳磁界反応の特性を調べた。立上がり下がり10ms,持続時間600ms,周波数が呈示開始後300〜310msの間に線形に変化する刺激音(A:1000=>750Hz,B:1000=>1250Hz)を用いた。刺激音Aを4〜6回(ランダム),続いてBを4〜6回繰返すA-B系列を繰返し被験者の左耳に与えた(刺激間間隔350-450msランダム)。刺激耳反対側の右側頭上における,一つのA-B系列内の第1,2,3,最終回目の刺激音A,Bの刺激開始に対するN1m,及び刺激開始後300msで始まる周波数変化に対するN1mのピーク振幅・潜時を計測し比較した。周波数変化N1mピーク振幅は,同一周波数変化の繰返・オにより減少する。A(周波数下降)とB(上昇)に対するピーク振幅に有意差は見られなかった。周波数変化N1mピーク振幅は,刺激開始N1mピーク振幅に比べて有意に大きかった。
(18)小児絶対音感保持者のN100m広瀬宏之,久保田雅也,木村育美,湯本真人,榊原洋一 小児の絶対音感(AP)保持者12名および非保持者12名のlabeling(音名を当てる)時の聴覚誘発脳磁場を測定した。(1)APの保持に関わらず年齢が上がるにつれてN100mの検出率が増加した。年齢依存性の聴覚系の発達と関係した結果といえる。(2)AP非保持者のみ課題が難しくなるにつれてN100mの検出率が増加した。AP非保持者では課題が難しくなるにつれて聴覚刺激に対して喚起される注意がより大きくなり,N100mの検出率が増大したものと考えられた。一方,AP保持者では課題に関わらず一定の注意が喚起されているため,難易度によらずN100mが一定に出現したと考えられた。(3)AP保持者の方がN100mの出現率が高い傾向があったが,AP保持の有無とN100mの出現率の間には統計的な有意差はなかった。(4)小児被検者では全員にはN100mは計測されなかった。機器の大きさが小児頭蓋に合致しないこと,小児中枢神経では聴覚系が発達過程にあること,刺激呈示間隔が約1秒と短かったこと等の理由が考えられた。
(19)楽譜・楽音照合課題施行時の音楽家の脳磁場活動湯本真人1,松田眞樹2,宇野 彰3,伊藤憲治4,金子 裕5,加我君孝6 音楽家が楽譜を見ながらその演奏を聴き,楽譜・楽音の音高照合を課したときの脳活動を明らかにすることを目的とし,音楽家6名を対象として本研究を行った。眼前のスクリーンに楽譜を提示した上で,ほぼ楽譜通りの演奏を両耳に提示し,演奏が楽譜どおりであるかどうかに注意しながら視聴することを課題とした。刺激には記憶や情動の影響を避けるため,未知の単旋律の無調音列を用い,提示された全1140音中,150音は音高が楽譜と長2度上・下に異なっていた。Neuromag社製全頭型204チャネル脳磁計を用い,提示音と楽譜との一致,不一致別に誘発磁場を加算平均記録した。解析は1-20Hzの低周波帯,25-45Hzの帯ごとにバンドパスフィルタ処理し,均一導電率球内電流双極子モデル,BEMモデルによるMCE法により行った。両帯域の脳活動の様相は異なっており,ともに音楽情報処理における半球間機能分化を示唆する所見を示した。
(20)Mirror Neuron Systems(MNS)は顎関節症(Temporomandibular Disorders;TMD)と関連するか?澁川義幸1,2,新谷益朗2,熊井敏文3,加藤元一朗2,4,鈴木隆1,2, MNSは,運動行動の遂行時と,実験者が行った同様な運動行動の観察時の両者に対して活動を示し,運動行動の遂行と観察のマッチングシステムを構成する。一方,TMDは,顎関節・咀嚼系筋群の疼痛を主症状とする原因不明の咀嚼系障害であり,近年になって神経機能失調との関連が示唆されている。今回,他者の顎運動(開口運動)を観察することが,ヒトMNSを構成する運動関連皮質領域を活性化するか否かを,正常成人および顎関節症患者から脳磁場計測を用いて検索した。正常被験者(5名)では,開口運動の観察後,視覚領野(潜時:135 ms)と一次運動野顎顔面領域(M1mx)(潜時:280 ms)が活性化した。顎関節症患者(3名)では,視覚領野の活性化は見られたが,M1mxの活性化は消失していた。この事は,顎運動に関連するMNSの機能失調とTMDが連関している事を示唆している。これらの詳細について報告する。
(21)大脳基底核運動路のネットワーク解析:加齢およびパーキンソン病(PD)における変化岡山 晶,谷脇考恭,後藤純信,吉良潤一,飛松省三 【目的】健常若年者で複雑手指運動課題のfMRIを行い,基底核回路内の機能連関が自己ペース(SP)と外的ペース(EP)で異なることを昨年度報告した。今回は健常老年者,PD患者を加えて比較検討した。 【方法】対象は健常老年者11名(53-72歳)とYahr 2-3度のPD患者10名(53-74歳)。左手指の複雑連続運動を各ペース5段階ずつの速度(0.5-4Hz)で行い,ブロックデザインでfMRIを記録した。SPM99を用いて信号変化率,部位同士の相互相関を算出し,ネットワーク解析を行った。 【結果】SPでは両群で被殻-視床の連関はあったが,回路全体の連関も変化した。さらにPDでは補足運動野-被殻の連関が著明に低下していた。EPの運動前野-1次感覚運動野の連関は若年者と変化なかった。 【結論】加齢やPDによる変化はSP特異的であり,PDでより基底核回路の活動低下が示唆された。
(22)三叉神経支配領域CO2レーザー刺激による痛覚誘発脳磁場に対するNMDA受容体抑制薬の効果1松浦信幸,2澁川義幸,1一戸達也,2鈴木 隆,1金子 譲 三叉神経支配領域皮膚(右側オトガイ部皮膚)に対する痛覚刺激による痛覚誘発脳磁場(Trigeminal-PEFs)を記録し,塩酸ケタミンの効果を調べた。CO2レーザー刺激によるTrigeminal-PEFsは,潜時100, 200, 300msにピーク振幅を持っていた。潜時100msにおける等価電流双極子(ECDs)は対側二次体性感覚野に局在した。その電流源強度とTrigeminal-PEFsの振幅はCO2レーザー刺激強度に依存した。鎮痛量の塩酸ケタミン静脈内投与は,疼痛を消失させTrigeminal-PEFsをreversibleに抑制した。
(23)MEGによるてんかん発作波の解析宇留野勝久,渡辺裕貴(国立療養所静岡神経医療センター) てんかん医療においてEEG/MEGの目的は発作焦点或いは発作起始部位の同定/推定であるが,現在MEGについては発作間欠期のてんかん波(主に棘波)の焦点をダイポール推定によって求めるのが主流である。一方,MEG検査中に発作が観察・記録される事があり,各センサー間の発作波起始の潜時が視察的に明らかな場合は別として,発作波を見ても起始部位が明瞭でない場合が多い。このような例でEEGより位置情報が保存されていると思われるMEGで発作起始部位を推定できるのか,FFT,相関次元,自己相関などいくつかの方法を試してみた。
(24)MEGによるスパイクマッピングと頭蓋内脳波所見の比較金子 裕,仲間秀幸,新村 核,久保田有一,大槻泰介,岡崎光俊,有馬邦正 MEGによるスパイクマッピングを検査し,頭蓋内電極を広範に留置した薬剤抵抗性の新皮質てんかん9例(男性2例,女性7例;9-37歳,平均19.9歳)。留置した電極数は40-126極(平均82.2極)。発作時硬膜下電極脳波から,発作起始部・早期伝播部を同定。発作間歇期棘波が出現する領域についても求めた。これらをMEGが求めた発作間歇期スパイクマッピングの結果と比較し,MEGの診断を一致,重複,近傍,遠隔の4段階で評価した。発作起始部に関する診断については,一致2例,重複1例,近傍6例であった。早期伝播部に関する診断については,一致4例,重複5例であった。発作間歇期棘波域に関する診断については,一致5例,重複3例,近傍1例であった。MEGによるスパイクマッピングは頭蓋内電極によって同定された発作間歇期棘波域・早期伝播部とも良く一致するが,発作起始部については正確に診断できないことが多い。
(25)統合失調症における対刺激パラダイムによる聴覚性MEG応答の検討加藤 隆1,加藤元一郎2,梅田 聡3,村松太郎2,秋根良英2,新谷益朗4 【目的】paired tone音刺激に対する聴覚性MEG応答では,統合失調症例での第一刺激に対する低周波領域(1-20Hz)での反応の振幅の減少が報告されている。今回,対音刺激パラダイムを用い,健常例5例と統合失調症6例(うち非定型抗精神病薬服用中3例)において周波数別のMEG応答を検討した。 【方法】1000Hz paired tone(Inter Pair=500ms)に対するAEFを健常群・非定型抗精神病薬服用中の統合失調症群・未服薬統合失調症群の三群に分け,周波数領域ごとに比較検討した。Filterはそれぞれ1-24Hz(LF),14-43Hz(HF)とした。 【結果】健常群・未服薬統合失調症群では周波数領域ごとの振幅に有意な差を認めなかったが,非定型抗精神病薬服用中の統合失調症群ではLFにおける刺激第一音に対する振幅の増加が認められた。
(26)Stroop課題による精神分裂病研究
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