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生体調節研究系

感覚運動調節研究部門

【概要】

 2003年4月に生理学研究所の研究系の大幅な改組があり,2002年度までは統合生理研究施設に属していた私達の研究室は,2003年度から生体調節研究系に属することになった。しかし,研究の内容には大きな変更は無く,これまでと同様に「脳波(EEG),脳磁図(MEG),機能的磁気共鳴画像(fMRI)などの非侵襲的機能検査法を用いた人間の脳機能の解明」を行っている。
 2002年夏に導入された新しい全頭型脳磁計は順調に稼動しており,2003年度には2編の英文原著論文を発表し,さらに数編の論文が印刷中である。
 2003年は20編の英文原著論文,2編の英文総説,7編の邦文論文を発表し,大変実りの多い年となった。研究員も20名を超え,大いに活気ずいている。研究内容は,各種(視覚,聴覚,体性感覚,痛覚など)刺激による誘発脳波,脳磁図が中心であるが,徐々に背景脳波,脳磁図の解析やfMRIを用いた研究も増加している。また国内外の施設との共同研究も盛んに行っており,特にカナダ,トロントのRotman研究所のPantev教授の研究室との聴覚に関する共同研究により既に数編の英文原著論文を発表している。

 

ヒトの視覚性運動知覚の脳磁図による生理学的研究

金桶吉起,祖父江文子,久保田哲夫

 2003年には以下の3項目につき一定の成果を挙げ発表することができた。1)ランダムドットによる仮現運動知覚の神経活動の時間経過を,ドットの点滅のみ知覚する刺激条件の反応と比較,検討した。その結果,運動知覚の段階的処理過程と,運動知覚と点滅知覚の神経機構の過程が同時平行して進められていることを示唆する結果を得た。2)運動知覚は,明るさ情報に基づく第1次とそれ以外の情報に基づく第2次運動知覚機構があるといわれている。それらは互いに独立した神経機構をもっていると考えられているが,一方その処理過程の早い時期から相互に影響しあっていると考えられている。我々は,ランダムドットの乱雑運動により,第一次と第2次運動を作成し,それぞれの脳磁図反応を比較,検討した。その結果,第2次運動知覚に関わるヒトMTからの反応は非常に遅く,しかしそのごく初期から第1次運動知覚の神経機構と相互に連絡があるという明瞭な事実をつかんだ。

 

侵害性信号の皮質処理

乾幸二,王暁宏,秋云海,Tran TD,柿木隆介

 皮膚に与えられた侵害性情報が大脳皮質のどの部位でどのようなタイミングで処理されるかを脳磁図を用いて検討した。刺激には表皮内電気刺激法(ES)を用いた。最初の活動は刺激と反対側の第一次体性感覚野(SI)にあり,刺激後約90ミリ秒で生じた。続いて両側の前—中部島,第二次体性感覚野(SII),前部帯状回および内側部側頭葉(MT) に活動が認められた。SIIがSIからの密な投射を受けることから,SIとSIIの連続的的活動が考えられた。島の活動の立ち上がりはSIIと比べてやや(7ミリ秒)早く,視床からの直接の連絡により活動したものと考えられた。MTとACCは島の活動頂点付近でその活動を開始し,これらの部位間の連続的活動を示唆するものと考えられた。従って,侵害性情報は外側部視床−SI−SIIの経路と内側部視床−島−辺縁系の経路で独立して処理されると考えられた。これらは,いわゆる痛覚処理の外側系および内側系に相当すると思われる。
 (Inui et al., Neuroscience 2003; Eur J Neurosci 2003)

 

侵害性刺激に伴う皮質活動の睡眠による影響

王暁宏,乾幸二,秋云海,宝珠山稔,柿木隆介

 痛覚認知は注意や覚醒度に大きく影響を受けるが,そのメカニズムはほとんど明らかにされていない。本研究では注意課題を課した際と睡眠中の皮質活動の変化を脳磁図と脳波を用いて検討した。上記論文に従ってまず安静覚醒時の各皮質活動を同定し,それぞれの注意・睡眠による影響を検討した。第一次(SI),第二次(SII) 体性感覚野,島,帯状回(ACC),内側部側頭葉(MT) 全ての活動が注意課題時に増強し,睡眠中顕著に減弱した。このことから,1) 全ての活動が痛覚認知に関わっている,2)睡眠中の影響は視床もしくは視床から初めの皮質活動への連絡等のかなり早い段階で生じたものである,と考えられた。動物を用いた研究では,脊髄(延髄)や視床の侵害性細胞の活動が,睡眠−覚醒により変化することが報告されており,今回の所見と一致する。
 (Wang et al., Cogn Brain Res 2003; Neurosci Res 2003)

 

マイクロニューログラプィーを用いたレーザー刺激による
C受容器選択的刺激の証明

秋云海,王暁宏,乾幸二,柿木隆介

 当教室では特殊な空間フィルターを用いてレーザー光線を皮膚に照射することにより(極小野低出力刺激),C受容器を選択的に刺激することに成功し,研究をすすめている。本研究ではこの方法の信頼性を,micro- neurographyを用いて検討した。膝窩部で腓骨神経より記録を行った。単一線維を同定した後,その受容野に電気刺激を行い,伝導速度(CV)を計算した。CあるいはA-delta線維と判定された線維について,レーザー照射への応答を調べた。5つのC線維が同定され(CV, 1.1 m/s),全てが我々のレーザー刺激法により活動した。一方A-delta線維は(2ユニット,CV, 14.1 m/s),我々のレーザー刺激法では活動しなかった。このことより,我々の開発した空間フィルターを用いた極小野低出力刺激法は,C受容器を選択的に興奮させることが確認された。
 (Qiu et al., Neurosci Lett, 2003)

 

二点識別の中枢機構

田村洋平,宝珠山稔,乾幸二,柿木隆介

 二点識別(TPD) は,感覚識別の一種であり,臨床場面においても検査として用いられるが,患者の反応が安定せず,同一刺激を用いても1点か2点かの判断が刺激毎に異なる,ということがしばしば経験される。通常行われる検査では刺激そのものを同一にすることは困難であるため,本研究では電気刺激法を用いて,反応の不安定性に末梢ではなく中枢機序が関与する可能性を検討した。左手背に六つのボール電極を等間隔で配置し,その中の二つをランダムに刺激した。被験者は刺激毎に1点か2点かを答えた。正答率は電極間の距離が長くなるほど上昇したが,先行する刺激にも有意な影響を受けた。即ち,電極間の距離が前回のそれよりも長い場合により多く2点と判断された。この結果より,TPDは末梢要因のみならず,中枢の先行提示距離との比較過程によっても影響を受けることが明らかにされた。
 (Tamura et al., Neurosci Lett, 2003)

 

Gating of somatosensory evoked magnetic fields during the preparatory period of self-initiated finger movement

和坂俊昭,中田大貴,柿木隆介
宝珠山稔(名古屋大学)

 本研究は,随意運動の準備期における一次体性感覚野の時系列的変動を検討した。被験者には右正中神経にランダムに提示される電気刺激を無視しながら7〜10秒間隔で自己のペースで右第二指の伸展動作を行うよう指示した。随意運動の準備期は,筋放電前4000msまで計6区間を設定した。全被験者についてN20m,P30m,P60mが確認され,これらの成分のECDは中心溝後壁付近に同定された。随意運動の準備期に変動がみられるのはP30mのみであり,この成分のECD momentを安静条件と比較すると,随意運動の500ms前から減少していた。また筋放電前3000〜4000msの区間におけるP30mと比較すると,筋放電前1500ms前から減少していた。随意運動の準備期には筋放電がみられないことから,P30mの減少は随意運動の準備に関与する運動関連領域からの遠心性投射が主要な要因であることが示唆された。

 

随意運動に伴う痛覚関連体性感覚誘発脳磁図の変動

中田大貴,乾幸二,和坂俊昭,田村洋平,Tran TD
秋云海,王曉宏,Nguyen BT,柿木隆介

 痛覚の程度は動作によって軽減する。例えば,手をぶつけた時に我々は手を振ることによって痛みを軽減させる。本研究では,動作による痛み軽減メカニズムの一端を明らかにすべく,MEGを用いて実験を行なった。刺激はレーザー刺激を用いて左手に与え,Control条件,左手指の能動動作,右手指の能動動作,左手指の受動動作の4条件を行なった。同時に主観的な痛み尺度を表すvisual analogue scale (VAS)も記録した。結果として,Control条件と比較し,左手指の能動動作によって,刺激対側半球SI(一次体性感覚野)とSII(二次体性感覚野)の活動が減少した。右手指の能動動作では,刺激対側半球SIIの活動が減少した。左手指の受動動作では,刺激対側半球SIの活動が減少した。VASは左手指,右手指の能動動作によって減少した。これらの結果から,動作によってSI,SIIにおける脳活動の変化が起こったことが示された。VASの変動は対側SIIの変動と類似しており,痛覚認知における同部の重要性が示唆された。
 (Pain, 107: 91-98)

 

体性感覚刺激Go/Nogo課題時に誘発された事象関連電位

中田大貴,乾幸二,和坂俊昭,柿木隆介
木田哲夫(筑波大学人間総合科学研究科)
坂本将基(東京学芸大学連合大学院)

 Nogo電位はGo/Nogo課題を行なった際,Nogo試行に特異的に誘発され,反応抑制に関係した電位であるとされている。これまで視覚刺激を中心とした研究がなされてきたが,この電位が真に反応抑制を反映しているのであれば,刺激のモダリティーには依存しないであろうと考えられる。そこで本研究では,体性感覚刺激を用いたGo/Nogo課題を行なった。実験条件は安静条件,計数条件,動作条件を行なった。計数条件ではGo刺激の数を数え,動作条件ではGo刺激時に右手のグリップ動作を行なった。刺激は左手の第二指をGo刺激,第五指をNogo刺激とし,呈示確率を50%:50%にした。結果,計数・動作条件でのN140振幅は,Nogo刺激時にGo刺激時よりも有意に増大した。これらの増大は前頭を中心とした記録部位で認められた。体性感覚刺激Go/Nogo課題時においても,Nogo試行時に特異的な電位が誘発されたことが示唆された。(Clinical Neurophysiol, 115: 361-368)

 

音声刺激が情報処理されるとき視覚情報が聴覚野の活動に及ぼす影響:脳磁図による検討

三木研作,渡辺昌子,柿木隆介

 私達はヒトの顔認知機構について脳磁図を用いた研究を進めてきた。これまでに「顔の部分の動き」を見るときの脳活動を報告してきたが,2003年は視覚入力と聴覚入力が同時に起きる場合の影響について研究を始めた。今回「口の動きを見ると同時に音声を聴取した」場合と「顔を見ているが口は動かず音声のみを聴取した」場合の聴覚野の活動を検討した。視覚刺激として仮現運動現象を利用した「口の動き」刺激を用い聴覚刺激には「あ」という母音を用いた。どちらの条件とも潜時約90ミリ秒に明瞭な誘発成分(M100)が認められ,その活動源はヘシェル回(ヒトの聴覚野)に位置推定された。両条件間で誘発脳活動の大きさ,活動源の位置に有意な違いはなかった。聴覚情報処理の初期段階では「口の動き」のような視覚刺激による動きの知覚に影響されずに情報が処理されていることが示唆された。
 (Miki et al., Neurosci. Lett. 2004)

 

脳磁図と脳波を用いた母国語および外国語の脳内処理の研究

尾島司郎(生理学研究所,エセックス大学),中田大貴,柿木隆介

 言葉の完全な獲得が幼少期を過ぎると不可能になるという「臨界期仮説」は,思春期後の第二言語の獲得が,思春期前の母語の獲得と質的に異なると予測する。本研究では,この仮説を事象関連脳電位(ERP)を用いて検討した。
 思春期頃に英語の習得を開始し,中級または上級の習熟度を示す日本人の2グループ,および英語母語話者が,英語の文を黙読したときの脳電位を計測した。その結果,日本人でも英語母語話者に見られる特徴的な脳反応(N400,LAN)が惹起でき,習熟度が中級から上級に上がるに連れて,より母語話者に脳反応が近づいていくことが示された。観察された発達パターンは,先行研究で報告されている子供の母語獲得のそれと酷似している。
 これらの結果は,思春期後の第二言語獲得が思春期前の母語獲得と質的に異なるという,臨界期仮説の予測に相容れない。

 

 

生体システム研究部門

【概要】

 平成15年度は,南部 篤が赴任して2年目にあたり,研究体制の整備に主力を置いた。4月に畑中伸彦が助手に着任し,橘 吉寿が非常勤研究員として新たに研究チームに参加した。高須千慈子技官の退職に伴い,伊藤昭光技官が高次液性調節研究部門から加わった。その後,11月に橘 吉寿非常勤研究員が助手に着任し,また平成16年1月に,森 大志助手が山口大学農学部助教授に昇任,転出した。このように平成15年度は,人的にも大きな転換期を迎え,あらたな研究体制で臨むこととなった。一方,実験室の立ち上げ,研究環境整備も平成14年度に引き続き行い,基本的な研究体制は整ったと言える。また,喜多 均教授(米国テネシー大学)も昨年度と同様に平成15年1月から3ヶ月ほど滞在し,共同研究を行った。このような研究体制のもと,当研究部門は,大脳皮質・大脳基底核・小脳・脳幹などを中心に,手指を精緻に動かすような随意性の高い運動から,歩行や咀嚼のように半ば自動化されたものまで,幅広い運動の脳内機構について,包括的に明らかにするというテーマで研究を行っている。

 

脳深部刺激療法の作用機序に関する研究

南部 篤,橘 吉寿
高田昌彦(東京都神経科学総合研究所)
喜多 均(テネシー大学医学部)

 近年,薬剤でコントロールが困難な重症パーキンソン病に対して,視床下核に慢性的に刺激電極を埋め込み高頻度電気刺激を加えるという,視床下核—脳深部刺激療法(STN-DBS)が有効であることがわかってきたが,その作用機序については不明である。本研究においては,パーキンソン病モデルサルの淡蒼球内節(GPi)から単一ニューロン活動を記録することにより,STN-DBSの作用機序を検討した。STNの単発刺激では,GPiニューロンは,抑制+興奮のパターンで応答した。刺激頻度を上げても,このようなパターンは基本的には変わらなかった。次に,運動野単発刺激によるGPiニューロンの反応に対するSTN-DBSの影響を調べた。パーキンソン病の際,運動野刺激によってGPiで誘発される興奮が増強している。これにSTN-DBSを重畳すると,皮質由来の興奮は観察されなくなった。以上の結果から,STN-DBSは皮質からGPiに至る異常伝達をSTNで阻止することにより,治療効果を示すと考えられる。

 

糖代謝PETによる二足歩行運動に関与する脳部位の同定

森 大志
中陦克己(近畿大学医学部)
塚田秀夫(浜松ホトニクス(株))
森 茂美(生理研名誉教授)

 サル直立二足歩行モデルは長期の運動学習により,様々な外的環境下で適切に空間的,時間的歩行パラメータを選択して安定した二足歩行運動を実行する。本研究では各種歩行課題の実行に関与する脳領域の同定を陽電子断層法(PET) により行なった。歩行課題は障害物を設置したトレッドミルベルト面,上りおよび下り傾斜トレッドミルベルト面上での二足歩行とした.運動課題の実行に際しての神経活動の増強は糖代謝の亢進を指標([18F]-FDG-PET) とした。対照課題(座位姿勢)に対し前者では一次運動野,補足運動野(SMA),運動前野,小脳の他,両側の視床にも優位な神経活動の亢進が観察された。さらに通常の水平トレッドミルベルト上二足歩行課題と比較すると,SMAと視床に強い神経活動がみられた。この結果はより複雑な歩行課題に対してサル歩行モデルは高次脳内の様々な要素的神経制御機構を動員してこれを解決していることが示唆された。後者の歩行課題では,運動野以外に頭頂葉・側頭葉にも神経活動の亢進がみられており,現在詳細に解析中である。

 

大脳皮質運動野の直立二足歩行運動に関わる機能的意義の同定

森 大志,南部 篤
中陦克己,稲瀬正彦(近畿大学医学部)
森 茂美(生理研名誉教授)

 脳糖代謝PETによる研究から,サル歩行モデルは,一次運動野(M1),補足運動野(SMA),背側運動前野(PMd)での神経活動を増強させて水平トレッドミルベルト上二足歩行課題を解決することが明らかとなった。本研究ではこれらの領域が直立二足歩行運動の実行に際し,どのような機能的意義を有するかを同定することを試みた。実験に先立ち,トレッドミルベルト上での二足歩行運動能力を獲得した成サルの大脳皮質運動野を皮質内微小電気刺激法でマッピングした。機能的意義の同定はムシモル(GABAAagonist) の局所注入により歩行運動機能を一時的に脱落させて行った。M1への注入では局所的関節運動障害が,SMAへの注入では全身性の姿勢障害が誘発された。一方,PMdへの注入では運動の発動が障害された。これらの結果から直立二足歩行運動は大脳皮質運動野各領域の異なる機能を統合した運動であることが示唆された。

 

上肢到達運動課題実行中の線条体ニューロンの活動様式を解明する

畑中伸彦,橘 吉寿,南部 篤

 大脳基底核は大脳皮質とループ回路をなし,運動の遂行,企図,運動のイメージ,習慣形成などに関わるとされている。大脳皮質から大脳基底核への主な投射先である線条体には90-95%を占める投射ニューロンの他に,コリン作動性のtonically active neuron,nitric oxide synthase陽性GABA作動性ニューロン,parvalbumin陽性GABA作動性ニューロンなどのインターニューロンが知られている。これらのインターニューロンの活動は線条体の投射ニューロンに影響を与えており,基底核の機能に重要な役割を担っていると考えられているが詳細は不明である。このようなことを調べるため,サルの線条体から記録を行うことを計画し,本年度は,サルに上肢の到達運動課題のトレーニングを行った。

 

顎運動に関わる多シナプス性神経回路の同定

畑中伸彦,橘 吉寿,南部 篤
宮地重弘,高田昌彦(東京都神経科学総合研究所)

 さまざまな動物で大脳皮質一次運動野顎領域を皮質内微小刺激すると,開口運動が優位に生じ閉口運動は殆ど観察されない。このことは,一次運動野において開口筋と閉口筋を再現する領域が均等に再現されていないことを示唆している。そうだとすれば,大脳皮質からの情報によって,脳のどの領域で開口運動と閉口運動に変換されるのだろうか。狂犬病ウイルスが,神経細胞に逆行性に経シナプス的に感染する性質を利用することにより,ラットの開口筋,あるいは閉口筋に狂犬病ウイルス注入し,その神経経路を同定した。その結果,大脳皮質には開口筋,閉口筋をそれぞれ特異的に再現している領域は見出されなかった。また,大脳皮質−大脳基底核−脳幹へ間接的に投射する系においても開口筋,閉口筋それぞれへ投射するニューロンの分布にも大きな違いは認められなかった。以上のことから開口筋,閉口筋をコントロールする情報は脳幹で生成されることが予想される。今後は開口筋または閉口筋に投射する脳幹のインターニューロンがどのような特性の細胞なのか,免疫組織的に調べる予定である

 

パーキンソン病における淡蒼球代謝調節型グルタミン酸受容体の動作様式

橘 吉寿,南部 篤
金田勝幸,高田昌彦(東京都神経科学総合研究所)

 代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluRs)はmGluR1−8の8種類のサブタイプに分かれ,脳内に広く分布している。淡蒼球においてGroup I mGluRs(mGluR1&mGluR5)が数多く発現し,パーキンソン病では,とくにmGluR1の発現が減少していることが明らかとなっている。本研究では,正常サルおよびMPTP誘発パーキンソン病モデルサルを用い,記録している淡蒼球ニューロンにmGluR1拮抗薬,Group I mGluRs作動薬と拮抗薬を局所的に作用させることで,mGluR1の動作様式を解析した。その結果,mGluR1を介したグルタミン酸性入力は淡蒼球ニューロンの自発発射増加に作用し,パーキンソン病モデルではその効果が減弱した。パーキンソン病においては,視床下核からのグルタミン酸性入力増大による淡蒼球ニューロンの過興奮を,mGluR1の発現を減少させることで補償しうる可能性が本研究により示された。


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