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1. 感杆型光受容細胞内の光小胞の超高圧電顕観察片桐 展子(東京女子医科大学・総合研究所・研究部) 軟体動物・腹足類に属するイソアワモチ類は柄眼,背眼,眼外光受容である皮膚光覚細胞,中枢神経系にある光感受性神経節細胞からなる特異な多重光受容系をもつ。主要な眼の柄眼では網膜は典型的な感杆型光受容細胞であり,微絨毛と光小胞(photic vesicle) が特徴である。感杆型光受容細胞の微絨毛にはロドプシン,細胞質にはレチノクロムが局在する(Katagiri et al. 2002) 。片桐らは (1984) 外套に多数分布する皮膚光覚細胞が微絨毛と光小胞を有する感杆型光受容細胞であることを明らかにした。 光小胞は径80nmのclear vesiclesで小胞体の特殊形の一つである。腹足類の感杆型光受容細胞に特異的な小器官であり,細胞質に多量に含まれ,感光性色素蛋白質レチノクロムの局在部位として知られる。イカやタコなど軟体動物には特異なロドプシン−レチノクロム系がある。感杆型光受容細胞の微絨毛に視物質ロドプシンが局在,暗期に退色したロドプシンの再生に際して,レチノクロムは発色団11-cisの供給源となる。光小胞は小胞体やゴルジ層板と同様に加温オスミウム染色で黒染する。その染色性を利用して,準薄切切片を超高圧電顕で観察し,ステレオ撮影して光小胞と小胞体やゴルジ層板との関連を調べた。 【材料と方法】イソアワモチ類の幼動物(体長10mm以下)を2%オスミウム水溶液で40℃,48時間加温処理,脱水過程で酢酸ウラン染色した。エポン樹脂に包埋し0.3μm厚さの連続切片を作成,酢酸ウランと鉛染色をした。皮膚光覚細胞を低倍1,500〜5,000倍で,小器官を15,000〜30,000倍で生理研の超高圧電顕によりステレオ撮影(±8°,±10°,±16°,±24°) し,写真上で立体視観察した。 【結果と考察】幼動物の外套の皮下組織には皮膚光覚細胞が存在した。発達途上にある未熟な細胞と成体と同様の微細構造を示す細胞が認められた。光小胞はいずれの細胞内にも存在,加温オスミウム染色で黒染,その分布などはステレオ観察できた。しかし,0.3μm厚さの切片においては,微小な球体である光小胞はコントラストが低いため(図1),強く黒染される小胞体やゴルジ層板とのコントラストの差が著しく,連続性は明確にできなかった。やや薄い切片で適当な部位の詳細な観察によって,光小胞と小器官との関連を明らかにできると思われる。
2. 星状グリア細胞突起のCT解析濱 清 我々は高い電子線透過能と,5μmを越える生物試料でも4 - 5 nmの解像力が期待できる1,000kV超高圧電子顕微鏡の特性を利用して,主としてGolgi染色を行ったラットCNS における星状グリア細胞突起の3次元立体計測を行っている。 星状グリア細胞の突起を3μmの切片について,- 60度から+60度まで2度間隔で連続傾斜撮影を行いトモグラフイー解析を行なっている(図1は得られた結果の一部を20°置きに傾斜してVoxel gradient表示してものである)。 グリア細胞の周辺における表面積と体積比の結果は, S / V= 26.2±5.0 [μm-1] となることを報告しているが,これは例えば計測したエポン切片の体積13×13×3μm3−507 μm3の中で,体積が19 μm3,表面積が400μm2と求めた結果から求めた値である。トモグラフイー解析を用いれば,計測する直方体の体積の中でのグリア細胞の占めている体積と表面積について光学顕微鏡をはるかに上回るレベルで計測できる。さらに体積と表面積には,計測する部分に依存するかたちで形状に依存する情報が含まれており,グリア細胞の周辺部では S / Vの値は,[μm-1]の単位で表示したときに,平均的には体積に依存しない一定の値をとり,薄片状の構造を類推できる点に意味がある。
4. ギャップ結合連結した網膜及び脳ニューロンの樹状突起の構造日高 聰(藤田保健衛生大学医学部生理学教室) Many neuronal networks in the mammalian central nervous system provide direct cell-to-cell communication, conduction of ionic currents and passage of small organic signaling molecules, through electrical synapses. The vast majority of these synapses are gap junctions, specialized intercellular contactswithaggregates of transmembrane channels composed of a family of protein subunits termed connexins. Study of electrical synapses needs comprehensive evidence showing functional significance by simultaneous dual patch-clamp recordings between neighboring cells of certain neuronal type and structural identification of gap junctions between the examined cells. Such studies are considered to be less copious and in fact might be relatively rare. In retinal ganglion cells, the occurrence of electrical synapses between neighboring cells has been proposed by electrophysiological recordings of distributed spikes. For a specific mammalian cell type, a-type ganglion cells (α-GCs), synchronous spike activity has been described in the cell population. In the present study, electrical synapses between α-GCs were detected usingcombined techniques of dual recordings, high-voltage electron microscopy and connexin immunocytochemistry in rat retina. After intracellular injection of Neurobiotin into α-GCs of inner (ON-center) and outer (OFF-center) ramifying types, measurement of tracer coupling resulted in preferentially homologous occurrence among cells of the same morphological type. In high-voltage electron microscopic analysis of 5-μm-thick sections, direct dendrodendritic gap junctions (average size 0.86 μm long) were present in contact sites between tracer-coupled α-GCs. In simultaneous dual recordings from pairs of neighboring α-GCs, bidirectional electrical synapses and precise temporal synchronization of spike activity were detected in pairs with cells of the same morphological type. To address whether physiologically identified electrical synapses constitute gap junctional connectivity between cell pairs, connexin36 immunoreactivity was undertaken in Lucifer yellow-labeled cell pairs after patch-clamp recordings. Confocal laser-scanning imaging demonstrated that connexin36 is located at dendritic crossings between electrically coupled cells. These results give conclusive evidence for electrical synapses via dendrodendritic gap junctions in α-GCs of the same physiological type. 文献 Hidaka, S,Akahori, Y, & Kurosawa, Y (2004)Dendrodendritic electrical synapses between mammalian retinal ganglion cells. Journal of Neuroscience, Vol 24 (No 47) : pp 9718 - 9732.
5. ガス中蒸発法によって作成した有機化合物微粒子の結晶構造解析仙石昌也(愛知医科大学) 昨年度に続き,ガス中蒸発法で作成した芳香族のコロネン(C24H12) 微粒子を試料として用いた。これまでの超高圧電子顕微鏡の高分解能観察により,針状結晶の長軸に対して平行な面(200) 面に対応する面間隔0.75nmの1次元の回折パターンの格子縞を確認した1)。そこで今年度は2次元の格子像について調べた。図1はコロネン微粒子のHVEM像である。左下は円で囲んだ部分の電子線回折パターンである。結晶は板状で,長軸に対して垂直な面に対応する最も長い面間隔は約0.47nmであった。これ以外にも電子線回折法に関しては,回折図形は異なるものの2次元のパターンを持つ微粒子が観察された。これらのパターンを持つ微粒子の高分解能像をイメージングプレートで記録し,撮影した画像を拡大して確認し,さらに高速フーリエ変換を用いて格子面に対応するスポットを調べたが,結局明瞭な2次元の格子縞は観察できなかった。 微粒子はメッシュの支持膜上にランダムに付着したものを観察しているため,支持膜上での安定性が悪く,電子線照射により結晶の傾斜が変化することも多い。長軸に垂直な方向は,面間隔も短く特に影響を受けやすいと考えられる。これまでの観察データを基に,支持膜上での試料の状態,電子線による回折強度などをもう一度検討する必要があると思われる。 参考文献 1. 仙石昌也,有井達夫:岡崎国立共同研究機構 生理学研究所年報 2002年度pp 154
6. 消化管壁内PACAP含有およびVIP含有Type Iニューロン細胞体樹状突起の三次元解析 消化管壁内神経叢内には多くのニューロンが含まれておりその数は脊髄に含まれるニューロン数に相当します。これらの壁内ニューロンは現在,多数のサブタイプに分類されています。PACAPとVIPは相同性の高い神経ペプチドで,共に平滑筋に対し,弛緩作用を示し,これらの神経ペプチドを含有するニューロンは筋層間神経叢内において抑制性運動ニューロンと考えられています。これらのニューロンは一本の長い軸索様突起と細胞体周囲の複数の短い樹状突起様突起を持つDogielのType Iと言われる形態を示すのが特徴的です。既に私共の報告でこれらの樹状突起様突起には多数のシナプス入力が確かめられておりましたが,微細な三次元構築に関する解析はありませんでした。今回,我々は免疫染色(ABC法とニッケル・コバルト増感法)を施したこれらの神経ペプチド含有ニューロンをプラスチック包埋し,3 - 5ミクロン切片を作製して超高圧電子顕微鏡にて観察しました。ニューロンの細胞体周囲に微細で短い突起を立体的に観察することができたと同時に一本の長い軸索様突起の基部にも多数の微細な短い突起を観察することができた(図1)。今後,標識細胞のコントラストをより高くし,樹状突起の形態的な異同,分類,ならびに軸索突起基部に存在する小突起の解析を計画しております。
7. 損傷脊髄への未分化神経細胞移植の試み野田 亨(藍野大学医療保健学部理学療法学科) 生体の神経組織には種々のグリア細胞や神経細胞に分化しうる未分化な細胞が存在することが知られている。我々はこうした細胞を現在,治療困難とされる脊髄損傷の治療に応用するためにラットで作製した脊髄損傷モデルに移植した。移植する神経組織の細胞はGFPで標識されたものを使用し,その移植細胞の脊髄における分布を抗GFP抗体を用いた酵素抗体法で検索した。移植細胞の損傷脊髄組織における分布と宿主側の細胞との形態的関係を明らかにするために試料の厚切り切片を超高圧電顕で観察した。 GFPトランスジェニックラットから海馬組織,あるいは骨髄細胞を採取し,一旦,培養系で未分化な神経細胞を含むneurosphereを形成させ,そのneurosphereを通常のラットで作製した脊損モデルに移植する。移植後,一定時間を経過した後にラットを固定後,脊髄を取り出し,クリオスタット切片を作製する。この切片に含まれるGFP陽性細胞を蛍光顕微鏡で確認した後,同切片を抗GFP抗体を用いた酵素抗体法で高電子密度に標識し,型のごとく,樹脂包埋し電顕試料とした。この試料から作製した厚切り切片を超高圧電顕で観察した。 移植細胞は移植後,5日から21日までにわたって脊髄表面に観察され,そのGFP陽性細胞が占める領域は徐々に増加していった。脊髄の横断および縦断切片からはこの移植細胞が前正中裂や後正中溝などに分布する血管を通じて脊髄の深部にまで侵入していた。電子顕微鏡を用いて微細構造を観察すると,DABで標識された移植細胞内には中間径フィラメントが豊富に観察され,星状膠細胞の特徴を有する細胞が多数認められた。また脊髄損傷を与えたラットでは脊髄損傷部の深部にまで移植細胞が侵入しているものが観察された。 こうした電子顕微鏡用の試料の1mm厚切片を1000 kVの加速電圧を持つ超高圧電子顕微鏡で観察すると,脊髄内に侵入している移植細胞の広い範囲への分布,侵入している細胞の連続性,および移植細胞の立体像などが比較的容易に把握され,超薄切片では捉え難い所見が得られた。 こうした実験から未分化神経細胞移植による脊髄損傷への治療の可能性を探ることが可能であると考えられた。
8. ステロイドホルモン及びその受容体における神経細胞の
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Sham (control) のCA1細胞樹状突起 |
ADX群のCA1細胞樹状突起ステレオ像 |
遠藤泰久(京都工芸繊維大学)
神経成長因子(NGF) は神経細胞における突起伸長,シナプス形成,生存維持などに関与する分化促進因子であり,その作用は細胞膜に存在する受容体TrkAと高親和的に結合することによって発現する。最近,受容体TrkAがカベオラと呼ばれる細胞膜陥入部位に局在することを示唆する結果が未分化の神経系培養細胞を使った研究から報告されたが,微細構造については不明な点があった。微細構造のレベルでの受容体TrkAの局在を明確にするため,神経系培養細胞PC12細胞を用い,免疫細胞化学的に超高圧電子顕微鏡により3次元的立体構造の検討を行った。
ホルムバール支持膜を張った金メッシュを70%エタノールで滅菌後,コラーゲンコートを施し,PC12細胞をDMEM培地にNGF(最終濃度50ng/ml)を添加し4日間培養した。パラフォルムアルデヒドで固定後,抗TrkA抗体を用い免疫染色を行い,アビジンビオチン−HRP法によりジアミノベンジン−硫酸ニッケルで発色し,エタノール脱水後,臨界点乾燥した。超高圧電子顕微鏡(H-1250M 加速電圧1,000kV)により,試料の同一視野を-60度から+60度まで2度刻みの傾斜連続写真を撮影し,コンピュータにより三次元画像解析を行った。
PC12細胞の細胞膜上のTrkA免疫反応は,斑点状の集合体として観察された。それらの大きさには変異があり,約100nmの円形の構造がクラスター状に集合しているように見えた。立体再構築を行うと,免疫反応部位には細胞膜が陥入した構造があり,その陥入部位の直径は様々であった。この膜陥入部位は,超薄切片法による免疫電顕観察結果と総合すると,カベオラではなくクラスリンによる膜陥入であると考えられる。以上より,神経系培養細胞PC12において神経栄養因子受容体TrkAは細胞膜上においてはカベオラではなくクラスリンによって構成される膜陥入部位に局在していることが示された。少なくともPC12細胞ではカベオリンタンパクは明瞭なカベオラ構造の構成に関与していないと考えられる。ウェスタンブロットによるタンパク量変化と免疫電顕観察結果から総合的に判断すると,TrkAが神経栄養因子と結合しリン酸化して細胞内部に取り込まれる時に,カベオリンタンパクが何らかの関与をする可能性が示唆された。今後,細胞膜の情報伝達機能に関与すると想定されるラフト領域との関連を検討する必要があろう。また,より精密な構造解析が可能な画像をえるため,発色法をさらに改良する必要があろう。
樋田一徳(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部形態情報医学分野)
嗅覚の一次中枢・嗅球の糸球体は特定の匂いに特異的に反応し,嗅覚情報処理に寄与している。糸球体は末梢からの入力である嗅受容細胞から中枢への出力の投射ニューロンへシナプス結合する場であるが,両者の間には種々の局所ニューロンが介在し糸球体機能を調節していると考えられている。我々はこの局所介在ニューロンのシナプス結合を解析してきたが,複雑な樹状突起上のシナプス結合の分布を知るには,糸球体内の三次元構造を明らかにする必要がある。厚い試料を高解像度で立体解析が可能な超高圧電子顕微鏡は,ラット嗅球糸球体層介在ニューロンの樹状突起の三次元構造解析を行なう本研究に極めて有用である。今年度は,これまでシナプス結合を同定したCalbindin (CB),Tyrosine Hydroxylase (TH),Calretinin (CR) の各免疫陽性ニューロンについて,形態計測とステレオ撮影により,突起の糸球体内分布,径,密度,分枝形態を比較検討した。
THニューロンは,細胞体からの樹状突起の追跡は限定され,糸球体内に広く突起が分布し突起が占める密度は大きい。1〜2μm径の比較的太い突起と,0.1〜0.5μm径の細い突起の2種類が認められ,これらは共に枝分かれは少なく,比較的直線的に走行し,糸球体を横断している像も観察される。
CBニューロンは,径2〜3μmの細胞体近位の樹状突起が2次,3次的に枝分かれし,0.5μm以下の細い突起に到るまで追跡が可能である。いずれも直線的な走行はなく,全体的に蜂巣状構造を呈している。
CRニューロンは,CBニューロン同様に,糸球体内で突起が非直線的に限局的に分布しているが,径はより細く1μm以下のものが多い。またCBニューロンに比べ突起の数が多く,複数の細い突起が並走している像が確認された。
相互にシナプス結合する嗅受容細胞と投射ニューロンは,処理する匂い情報に基づいて糸球体内において小区画的に存在する可能性が示されている。これらの小区画に対し,局所介在ニューロンは異なる位置関係にあることが超高圧電子顕微鏡によって示唆され,同定されたシナプス結合の種類からも糸球体機能に対して異なる関与が推測される。
様々な径と分枝構造を示す各種ニューロンの突起について,今後各種マーカーを用いた多重染色や3Dトモグラフィー等を用いた詳細な定性・定量解析を行なう計画である。
InSun Kim(Keimyung University)
Sung-Sik Han (Korea University)
Image processing by UHVEM and electron tomography has offered major contributions to research areas of both cellular and subcellular levels. Furthermore, such advancements have enabled improved analysis of 3-dimensional cellular structures.
The late pupal stage of Drosophila melanogasteroccurs immediately before the completion of retinal development, during which the rhabdomere rapidly forms. In this period, the photoreceptor cells were fixed and dehydrated using a high-pressure freezer (HPF) /freeze-substitution (FS) technique, which is the most effective in preserving the cell structures, and observed using high-voltage electron microscopy (HVEM) at 1000 KV.
The results suggest that there are at least three types of vesicles related to rhabdomere formation in photoreceptor cells. In addition, it was found that these vesicles initiate the formation of the rhabdomeres during the pupal stage. The rhabdomere is classified structurally into three types of formation patterns using tilt images (fig 1), and stereo-tiling image (fig 2). Initially, hexagonal arrays of rhabdomere existed in different angles. In addition, small pieces of rhabdomeres can be observed in the cytoplasm of the photoreceptor cells, which are visible during the process of rhabdomere formation. In addition, multiple layers of rhabdomere strings were observed. It was also observed that rhabdomeres were mainly formed through vesicles, and that parts of the rhabdomere formed first and then gathered and formed rhabdomeres in the late pupal stage.
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Fig 1. |
In order to create a tilting movie, a total of 60 images were taken by tilting a thick-sectioned ribbon by 2°. Images presented in this figure were 6°apart. |
Fig 2. |
Stereo-pair is presented. When observed with a stereo-viewer, rhabdomere formation does not occur at only one place in the cytoplasm of the photoreceptor cells. Membrane particles, which are believed to be membrane proteins, are clearly identified in the membrane of membrane-bounded vesicles, and their vesicles are fused into rhabdomeres being formed. |
発表論文
学会発表
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