生理学研究所年報 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

2.細胞死の誘導と制御・その分子機構と生理病理機能

2003年9月29日−9月30日
代表・世話人:後藤由季子(東京大学分子細胞生物学研究所・情報伝達研究分野)
所内対応者:岡田泰伸(生理学研究所・細胞器官研究系)

(1)
細胞死を制御するキナーゼの機能
後藤由季子(東京大学分子細胞生物学研究所・情報伝達研究分野)
(2)
ストレス応答としてのASK1経路
一條秀憲(東京大学大学院薬学系研究科・細胞情報学教室)
(3)
γ−セクレターゼの形成と機能
岩坪 威,富田泰輔(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室)
(4)
神経変性疾患におけるVCP蛋白質の役割
垣塚 彰(京都大学大学院生命科学研究科・高次生体統御学分野)
(5)
小胞体ストレス応答における相転移
森 和俊(京都大学大学院生命科学研究科・生体システム学分野)
(6)
Bcl-2の局在を決定するイムノフィリンFKBP38
中山敬一,白根道子(九州大学生体防御医学研究所・分子発現制御学分野)
(7)
Bcl-2によるミトコンドリアを介した細胞死制御
清水重臣,辻本賀英(大阪大学大学院医学系研究科・遺伝子学)
(8)
ミトコンドリアプロテアーゼ,Omi/HtrA2 による細胞死誘導
鈴木泰行,高橋良輔(理化学研究所脳科学総合研究センター運動系神経変性研究チーム))
(9)
動物の発生過程におけるDNAの分解
長田重一(大阪大学大学院生命機能研究科)
(10)
ストレス応答性MAPキナーゼの活性化機構とその役割
仁科博史,中川健太郎,西躰 元,根岸崇大,堅田利明(東京大学大学院薬学系研究科・生理化学教室))
(11)
ショウジョウバエを用いたプログラム細胞死の分子遺伝学
三浦正幸(東京大学大学院薬学系研究科・遺伝学教室)
(12)
ショウジョウバエをモデルとした非自律的細胞死の研究
安達 卓(神戸大学発達科学部・人間環境自然環境論講座)
(13)
NF-kBによりもたらされる生存シグナルの分子メカニズム
中野裕康(順天堂大学医学部・免疫学)
(14)
Cytosolic ATP dynamics during apoptotic cell death: a bioluminescence study
with intracellular luciferase
Ravshan Z. Sabirov, Maria V. Zamaraeva, Emi Maeno, Yuhko Ando-Akatsuka and Yasunobu Okada
(生理学研究所・細胞器官研究系)
(15)
免疫グロブリンアイソタイプ特異的なBリンパ球アポトーシス制御機構
鍔田武志,若林千里,安達貴弘(東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部)
(16)
細胞外からの細胞死誘導システムの分子機構と生理機能
米原 伸(京都大学大学院生命科学研究科)

【参加者名】
安達 卓,春本敏之(神戸大・発達科学部),一條秀憲,小室美子,高河原周一,山口 潔(東大大学院薬学系研究科),岩坪 威(東大大学院薬学系研究科),岡田泰伸,Ravshan Z. Sabirov(生理研・細胞器官研究系),垣塚 彰,前田良太,野口昌克,平野朋子(京大大学院生命科学研究科),高橋良輔,鈴木泰行(理化研・脳科学総合研究センター),辻本賀英,清水重臣(阪大大学院医学系研究科),鍔田武志,安達貴弘,片山有紀(東医歯大大学院疾患生命科学研),長田重一(阪大大学院生命機能研究科),中野裕康,笹月朋成(順大学医学部),中山敬一(九大生体防御医学研究所),仁科博史,中川健太郎,西躰 元,根岸崇大(東大大学院薬学系研究科),三浦正幸,松田七美,青沼宏佳,高橋 潤(東大大学院薬学系研究科),森 和俊,岡田徹也(京大大学院・生命科学研究科),米原 伸,掃部里央,米澤慎雄,矢島伸之,真名子 幸,中桐志保,大串雅俊(京大・ウィルス所),後藤由季子,鶴田文憲,小川原陽子,砂山 潤,大橋淳一郎,青木一郎(東大・分生研)

【概要】
本研究会は「細胞死の誘導と制御:その分子機構と生理病理機能」をテーマとし,幅広いアプローチから細胞死の機構と機能を明らかにする非常に濃密でレベルの高い研究会である。日本で細胞死研究をリードする研究者が一同に会する機会として過去数年に渡り年一回開催されており,研究者間の情報交換の場として,また共同研究の発展の場として非常に大きな役割を果たしている。本年も最先端の研究の発表と活発な議論が行われ,他に例を見ない有益な研究会となったと考えている。

 

(1)細胞死を制御するキナーゼの機能

後藤由季子(東京大学分子細胞生物学研究所・情報伝達研究分野)

 JNKはMAPキナーゼファミリーに属し,紫外線照射・ERストレスなどの刺激により活性化されアポトーシスを誘導する。これまでに,活性化したJNKはc-Junなどの転写因子のリン酸化を介した遺伝子発現の制御によってアポトーシスを制御していることが報告されている。一方で,JNKによるアポトーシス誘導には転写因子を介さない経路も存在するが,この場合の標的分子に関してはほとんどわかっていない。我々はJNKによるアポトーシス誘導機構を調べるために活性型JNKを細胞に発現させたところ,JNKがc-Jun・カスパーゼ非依存的にBaxのミトコンドリア移行およびアポトーシスを誘導することを見出した。最近,Baxは14-3-3に結合することによって細胞質に局在することが清水・辻本らによって提唱されていることから,JNKが14-3-3を標的にするか検討を行った。その結果,JNKは14-3-3を直接リン酸化すること,それによってBaxが14-3-3から遊離することが明らかとなった。以上のことは,JNKが14-3-3を標的にBaxのミトコンドリア移行を促進し,アポトーシスを誘導している可能性を示唆している。

 

(2)ストレス応答としてのASK1経路

一條秀憲(東京大学大学院薬学系研究科・細胞情報学教室)

 ASK1はJNKとp38MAPキナーゼの上流に存在するMAPKKKである。これらのMAPキナーゼ経路は,様々な環境ストレスに応答して細胞がアポトーシスや生存・分化をはじめとする多様な生物活性を発現するためのシグナル伝達系として重要な機能を果たしている。ASK1ノックアウトマウスの解析により,ASK1がTNFや酸化ストレスならびに小胞体ストレスによるアポトーシスに必須であることが明らかになり,またASK1がポリグルタミン病やアルツハイマー病において認められる神経細胞死のメディエーターとしてこれらの疾患に関わっていることが示唆されている。一方,ASK1は一部のToll-like Receptorの下流で主にp38の活性化を選択的に担うことによって自然免疫応答に必須の働きをすることが明らかになってきた。本シンポジウムでは,ASK1-MAPキナーゼ経路を介するアポトーシス制御ならびに炎症・免疫系制御の病態生理的役割について報告したい。

 

(3)γ−セクレターゼの形成と機能

岩坪 威,富田泰輔(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室)

 アルツハイマー病(AD) 脳で老人斑を形成するAβペプチドはアミロイド前駆体(APP) から切り出される。家族性ADの病因遺伝子産物プレセニリン(PS) はAβのC末端を切り出すgセクレターゼの触媒サブユニットを構成するが,PS単独では切断活性を持たず,PSに結合する複数のコファクター蛋白が必要と判明した。我々はPSと3種類のコファクター(NCT,APH-1,PEN-2) がγセクレターゼを形成する過程について調べた。まずRNA干渉法によりNCTあるいはAPH-1をノックダウンすると,γセクレターゼ作用をもつPSも同時に消失した。ところがPEN-2のノックダウンではPS,NCT,APH-1の3者が結合した不完全な複合体が蓄積した。逆にPSの存在下でNCTとAPH-1を過剰発現すると,同様に不完全な複合体ができた。ここにPEN-2を加えると,γセクレターゼ活性が生じた。これらの結果から(1) γセクレターゼの形成過程で,最初にAPH-1とNCTがPSに結合して中間体を形成し,最後にPEN-2が働いて活性が生じる。(2) γセクレターゼの基本骨格はPS,NCT,APH-1,PEN-2という4つの蛋白からなることが分かった。

 

(4)神経変性疾患におけるVCP蛋白質の役割

垣塚 彰(京都大学大学院生命科学研究科高次生体統御学分野)

 これまで,神経変性疾患は,疾患ごとに特有の障害部位とその結果として特有の症状(痴呆・運動失調・異常運動・筋力低下等)を示し,多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構に関わる概念・分子機構を導き出すことはできないと考えられてきた。しかし,近年,変性しつつある神経細胞内に異常蛋白の凝集物や形態的に類似する空胞(vacuole) がかなり普遍的に存在することが判明し,神経が変性・消失する過程には,似通った分子機構が存在するという考えが受け入れられるようになってきた。

 本発表では,これまで我々が行ってきた遺伝性神経変性疾患の発症メカニズム,すなわちハンチントン舞踏病・Machado-Joseph病等の原因となる伸長したCAGリピートが作り出すグルタミンリピートによって引き起こされる神経細胞の死・変性の分子解析を紹介し,VCPとよばれるAAA ATPaseが,神経変性疾患に共通する発症の鍵分子である可能性について議論し,新しい治療戦略を考察する。

 

(5)小胞体ストレス応答における相転移

森 和俊(京都大学大学院生命科学研究科生体システム学分野)

 分泌タンパク質や膜タンパク質の高次構造形成の場である小胞体に,異常タンパク質が蓄積することは重篤な影響を与えるため,真核細胞は小胞体ストレス応答と呼ばれる防御機構を活性化し,恒常性を維持しようとする。最近の急速な研究の進展によって,哺乳動物ではATF6経路,IRE1-XBP1経路,PERK-ATF4経路という3つの情報伝達機構が重要な役割を果たしていることが明らかになった。小胞体ストレスはATF6,IRE1,PERKという小胞体膜貫通型タンパク質によって感知され情報伝達されるが,それぞれの下流で働く転写因子の活性化機構が全く異なるために,感知の開始時間は同じであっても,下流の転写因子が活動を始める時間に差が生じる。興味深いことに,哺乳動物はこの時間差を利用して転写誘導,翻訳抑制,分解という3つのプロセスを仕分けていることが判明した。小胞体ストレス応答における時間依存的相転移について討論する。

 

(6)Bcl-2の局在を決定するイムノフィリンFKBP38

中山敬一,白根道子(九州大学生体防御医学研究所・分子発現制御学分野)

 脳虚血,脳挫傷,脊髄損傷といった神経損傷において損傷神経軸索再生の分子機構を解明することは重要な問題である。神経再生現象には二つの重要なメカニズム,すなわち細胞死からの防御と再生軸索の伸展が必須となる。われわれは脳に高発現しているアポトーシス抑制分子FKBP38が,Bcl-2をミトコンドリアに局在させる重要な因子であることを明らかにした。さらにFKBP38と相互作用するタンパク質を探索することによって,リン脂質結合ドメインを有する新規タンパク質Protrudinを発見した。Protrudinは神経突起に発現しており,細胞内小胞を微小管に沿って細胞表面に輸送し,膜脂質成分を突起先端に供給することによって神経突起を伸長させることを見いだした。神経の突起形成にProtrudinは必須である。また驚くべきことに,Protrudinは非神経細胞に過剰発現させても神経突起様の突起を形成することから,突起形成の中心的な分子であると考えられる。本発表では,神経細胞におけるFKBP38とProtrudinの生理機能について考察する。

 

(7)Bcl-2によるミトコンドリアを介した細胞死制御

清水重臣,辻本賀英(大阪大学大学院医学系研究科・遺伝子学)

 アポトーシスのシグナルは,アポトーシス刺激に特異的なシグナル伝達経路を通過した後,主にミトコンドリアに集約され,ミトコンドリア膜の透過性を亢進する。その結果,シトクロムcが細胞質に漏出し,Apaf-1, (d) ATPとの協同作用でカスペースの活性化を惹起しアポトーシスを引き起こす。

 我々は以前より,アポトーシス時の膜透過性亢進機構,ならびにBcl-2ファミリー蛋白質によるその調節機構を検討してきた。その結果,アポトーシス促進型のBax / Bakは膜透過性を亢進し,一方抑制型のBcl-2 / Bcl-xLは膜透過性を抑制していることを見いだした。また,膜透過性亢進の責任分子として,外膜に局在するチャネル蛋白質voltage-dependent anion channel (VDAC) を同定した。実際,VDACに対する中和抗体をミトコンドリアや細胞に投与すると,ミトコンドリア膜透過性が著明に抑制され,かつアポトーシスが緩和された。これらの事実はVDACがアポトーシス誘導に必須であることを示している。今回はVDAC機能を含めたBcl-2ファミリー蛋白質の新たな機能に関して報告する。また,最近我々は,X線誘導性アポトーシスにおけるミトコンドリア膜透過性亢進因子を同定したので,これを併せて報告する。

 

(8)ミトコンドリアプロテアーゼ,Omi/HtrA2 による細胞死誘導

鈴木泰行,高橋良輔(理化学研究所脳科学総合研究センター運動系神経変性研究チーム)

 IAP (Inhibitor of apoptosis protein) ファミリータンパク質は,アポトーシスの実行に中心的な役割を果たすカスパーゼ-3,-7,-9の内因性阻害因子である。IAPはカスパーゼに直接結合しその活性を阻害し,さらにユビキチンリガーゼ(E3) 活性により,カスパーゼをユビキチン-プロテアソーム依存的分解系に導く。一方,IAPの作用は複数のIAP阻害因子によって負に調節されている。我々は,ヒトIAPのひとつ,XIAPの結合タンパク質の解析によって,Smac/DIABLOに次ぐ第2のIAP阻害因子,Omi/HtrA2を同定した。HtrA2はミトコンドリア膜間腔に局在するセリンプロテアーゼで,アポトーシス刺激に応じてチトクロムcやSmac/DIABLOと共に細胞質に漏出する。我々はOmi/HtrA2が複数の異なった経路で細胞死誘導に働くこと,またOmiの基質として細胞死防御因子を見出したので,紹介したい。

 

(9)動物の発生過程におけるDNAの分解

長田重一(大阪大学大学院生命機能研究科)

 細胞死にとどまらず,様々な生理的なDNA分解について包括的な議論を行った。DNA分解酵素DnaseII-like acid Dnase (DnaseIIbeta) (DLAD) のノックアウトマウスを作製し,この酵素がレンズにおける脱核に重要な役割を果たすことを初めて明らかにし,これについて報告した。

 

(10)ストレス応答性MAPキナーゼの活性化機構とその役割

仁科博史,中川健太郎,西躰 元,根岸崇大,堅田利明
(東京大学大学院薬学系研究科・生理化学教室)

 我々は,SAPK./JNK系の生理的な役割を明らかにする目的で,2種類の活性化因子SEK1/MKK4やMKK7を欠損するマウスやES細胞を作出し,SEK1やMKK7欠損マウスは肝形成不全を伴う胎生致死となることを明らかにしてきた。本研究会では,1) TNFα受容体1型とSEK1との2重変異マウスの解析などから明らかとなったSEK1やMKK7を介するSAPK/JN活性化の肝芽細胞増殖制御への関与(Dev. Biol.250, 332-347, 2002) ,2) SEK1とMKK7による連続的なSAPK/JNKのリン酸化(J. Biol. Chem. 278, 16595-16601, 2003) とこれを可能とする分子機構,3) SAPK/JNKの活性化が完全に失われているES細胞や線維芽細胞が示す正常なストレス誘導性アポトーシスやIL-1誘導性IL-6遺伝子発現の異常を紹介し,SEK1やMKK7を介するSAPK/JNK活性化の生理的役割を考察する。

 

(12)ショウジョウバエをモデルとした非自律的細胞死の研究

安達 卓(神戸大学発達科学部 人間環境自然環境論講座)

 発生過程においては,増殖・分化・細胞死は相互に関係を持ちながら制御されると考えられる。本発表ではこれらの関係について,ショウジョウバエを利用した国内外の最近の研究成果から紹介する。

 正常な細胞集団の中に翻訳速度が低下した細胞(M/ +) が生まれると,その細胞は細胞外にある生存因子(TGF-βスーパーファミリーのDpp)の受容能が低下し,アポトーシスへと向かう。この際JNKが自律的に活性化されることが必要である。一方,Dppの作用をより直接的に低下させた場合(tkv/tkv) には,Dppがモルフォゲンとして働く性質から,細胞に異常な分化運命がもたらされ,それが周りの正常な細胞によって認識された結果,非自律的なJNKの活性化が起きてアポトーシスへ向かう。こうした細胞間相互作用を介した細胞死誘導は,モルフォゲン作用の異常時だけに限られず,がん細胞など様々な異常細胞の検出除去にも貢献すると考えられた。

 

(13)NF-κBによりもたらされる生存シグナルの分子メカニズム

中野裕康(順天堂大学医学部免疫学)

 これまでの研究によりNF-kBの活性化はJNKの活性化を抑制することが示されているがその詳細なメカニズムは明らかとなっていない。我々はTRAF2/TRAF5ダブルノックアウトマウス由来およびRelA (p65) ノックアウトマウス由来の胎児線維芽細胞(MEF) を用いた実験により,TNF刺激が活性酸素(ROS) の蓄積を誘導し,その蓄積されたROSが遷延化するMAPキナーゼの活性化および細胞死に関与していることを明らかにした。TNFにより誘導される細胞死は興味深いことにアポトーシスだけではなく,ネクローシスの形態も示しており,抗酸化剤であるBHA処理により,ネクローシスが著明に抑制されたことより,ROSは主にTNFによるネクローシス誘導に関与していることが明らかとなった。さらに野性型のMEFではTNF刺激によりROSの蓄積や遷延化するMAPKの活性化は誘導されなかったことより,NF-kBの新たな機能として,通常ではTNFにより誘導されるROSの蓄積を抑制し,ROSによりもたらされる遷延化するMAPKの活性化およびネクローシスを抑制していることが明らかとなった。

 

(14)Cytosolic ATP dynamics during apoptotic cell death: a bioluminescence study
with intracellular luciferase

avshan Z. Sabirov, Maria V. Zamaraeva, Emi Maeno, Yuhko Ando-Akatsuka and Yasunobu Okada
(生理学研究所・細胞器官研究系)

 Apoptosis is a distinct form of cell death which requires energy. We made real-time continuous measurements of the cytosolic ATP level during necrosis induced by hydrogen peroxide in HeLa cells and throughout the apoptotic process in intact HeLa, PC12 and U937 cells transfected with the firefly luciferase gene. Apoptotic stimuli mediated by mitochondria (staurosporin) , by death receptors (TNFα) and by DNA damage (etoposide) were all found to induce significant elevation of the cytosolic ATP level. The staurosporin-induced ATP response depended largely on glycolytic ATP production. The cytosolic ATP level was maintained at a higher level than in the control for up to 6 h during staurosporin-induced apoptosis. This time period included the execution stage of apoptosis during which activation of caspase-3and internucleosomal DNA fragmentation take place. Thereafter, a gradual decrease in the amount of cytosolic ATP to the zero level took place in association with concomitant loss of cell viability. When the staurosporin-induced ATP response was abolished, both caspase activation and DNA laddering were completely inhibited, even if the cytosolic ATP was kept at a normal level. Thus, it is concluded that cytosolic ATP within apoptotic cells is maintained at a higher level even on the cell's deathbed and that elevation of the cytosolic ATP level is requisite to the apoptotic cell death process.

 

(15)免疫グロブリンアイソタイプ特異的なBリンパ球アポトーシス制御機構

鍔田武志,若林千里,安達貴弘(東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部)

 Bリンパ球は抗原受容体(BCR) として膜型免疫グロブリン(Ig) を発現する。BCRの機能はこれまで主にBCRを抗Ig抗体で架橋することにより調べられてきた。今回,ナイーブB細胞(IgM,IgD陽性)を抗原または抗Ig抗体で刺激したところ,抗原刺激ではB細胞はアポトーシスをおこしたが,抗Ig抗体刺激ではB細胞は生存し,増殖した。抗Ig抗体刺激では抗原刺激とは異なり,抑制性BCR共受容体CD22およびCD72分子の活性化がおこらなかった。抗Ig抗体刺激とともにCD22やCD72への抗体を用いてこれらの分子を活性化するとアポトーシスが誘導された。したがって,CD22とCD72は抗原刺激の際のB細胞アポトーシスで重要な役割を果たす。さらに,IgG陽性細胞では,抗原刺激の際にCD22の活性化がおこらなかった。このためIgG陽性細胞はIgM陽性細胞にくらべ活性化しやすく,免疫応答の際の効率よいIgG産生の分子基盤を構成するものと考えられる。

 

(16)細胞外からの細胞死誘導システムの分子機構と生理機能

米原 伸(京都大学大学院生命科学研究科)

 Fas経路とWnt経路のクロストークが存在することを示し,そのメカニズムと意義について報告した。またTGFbetaによる細胞死のシグナル伝達機構についても報告を行った。

 


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