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3.心血管イオンチャネルの病態に関する新たな展開
‐ゲノミクスからプロテオミクスへ‐

2003年11月25日−11月26日
代表: 神谷 香一郎(名古屋大学環境医学研究所))
世話人: 岡田 泰伸(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)

(1)
バニロイド受容体型カチオンチャネル:心血管組織における伸展受容器としての可能性
村木克彦,伊藤智洋,大矢 進,今泉祐治(名古屋市立大学大学院細胞分子薬効解析学)
岩田裕子,片野坂友紀,重川宗一(国立循環器病センター・分子生理)
(2)
循環器における電位依存性カルシウムチャネルβサブユニットの機能解析
(トランスジェニックマウスを用いて)
村上 学,徐 峰,佐藤栄作,尾野恭一,飯島俊彦(秋田大学医学部機能制御医学講座)
(3)
心筋膜穿孔のLa3およびPEGによる閉鎖
大地陸男,宋 玉梅(順天堂大学医学部第二生理学教室)
(4)
過分極誘発陽イオンチャネルの発現制御機構と病態生理学的意義
桑原宏一郎,鷹野 誠,倉富 忍,堀江 稔,斉藤能彦
(京都大学大学院細胞機能制御学)
(5)
Kir2.1の研究から得られた心筋IK1の外向き電流のメカニズムに関する新知見:
2つのモードのポリアミンブロックによる制御
石原圭子,頴原嗣尚(佐賀医科大学生理学講座)
(6)
G蛋白制御カリウムチャネルの機能制御とシミュレーション
倉智嘉久,鈴木慎悟,石井 優(大阪大学大学院情報薬理学講座)
(7)
Na-Ca交換輸送体のmRNA安定化に対するRhoの関与
木村純子,前田佐知子,松岡 功(福島県立医科大学医学部薬理学教室)
(8)
V. Vulnificusが産生する毒素のCFTR活性化機構
高橋 章,庄野加余子,角村寧子,山本千代,中尾成恵
田上奈緒美,中屋 豊(徳島大学医学部特殊栄養学講座)
柏本孝茂(北里大学獣医学部公衆衛生)
(9)
P19CL6分化心筋細胞のイオンチャネル発現の細胞内シグナル制御
鄭明奇,内納智子,賀来俊彦,小野克重(大分大学医学部循環病態制御講座)
門前幸志郎(東京大学大学院循環器内科)
小室一成(千葉大学大学院循環病態医科学)
(10)
骨格筋芽細胞と筋線維の電気生理学的特性
清水敦哉,佐合美紀,丹羽良子,盧 智波,本荘晴朗,神谷香一郎
(名古屋大学環境医学研究所液性調節分野)
堀場 充,李 鐘国,安井 健二,児玉 逸雄
(名古屋大学環境医学研究所循環器分野)
(11)
甲状腺ホルモンによるラット心房のイオンチャネルの修飾
渡部 裕,馬 梅蕾,鷲塚 隆,杉浦広隆,小村 悟,池主雅臣,渡辺賢一,相澤義房
(新潟大学大学院循環器学分野)
(12)
β受容体第2細胞外ループに対する自己抗体によって生じた肥大型心筋症ウサギでの心臓電気生理
三好俊一郎(慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科,
慶應義塾大学医学部生理学教室,慶應義塾大学医学部心臓先進医療学講座)
福田有希子,谷本耕司郎,谷本陽子,岩田道圭,吉川勉,三田村秀雄,小川 聡
(慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科,慶應義塾大学医学部心臓先進医療学講座)
金子章道(慶應義塾大学医学部生理学教室)
(13)
メキシレチン感受性とイオン選択性の変化を伴う特発性心室細動変異Naチャネル
佐々木孝治,蒔田直昌,横井久卓(北海道大学大学院循環病態内科学))
木村彰方,平岡昌和(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
角南明彦(グラクソスミスクラインつくば研究所))
(14)
新生仔ラット心筋細胞の虚血性ATP放出とATP透過性マキシアニオンチャネル活性化
A.K. Dutta, R.Z. Sabirov,浦本裕美,岡田泰伸
(岡崎国立共同研究機構生理学研究所機能協関研究部門))
(15)
ヒト培養平滑筋細胞に発現する電位依存性Na+チャネル(SCN9A) について
中島敏明,城 太祐,飯田陽子,岩沢邦明,永井良三
(東京大学医学部循環器内科)
(16)
プラトー相初期の電流変化と活動電位持続時間: computer simulationによる検討
平野裕司,平岡昌和(東京医科歯科大学難治疾患研究所成人疾患研究部門(循環器病))
(17)
ラット心筋細胞の成長に伴う一過性カリウム電流増加とKChIP2の役割
小林武志(札幌医科大学医学部生理学第一講座,札幌医科大学医学部外科学第二講座)
山田陽一,長島雅人,関 純彦,筒浦理正,深尾充宏,當瀬規嗣
(札幌医科大学医学部生理学第一講座)
安倍十三夫(札幌医科大学医学部外科学第二講座)
伊藤克礼,濱田洋文(札幌医科大学医学部分子医学研究部門)
(18)
IKrに対する抗体が原因と考えられる後天性QT延長症候群
原岡佳代,片山祐介,谷 義則,中村一文,倉智嘉久,大江 透
(岡山大学大学院循環器内科学)
(19)
リゾリン脂質による心筋IKsチャネルの調節
丁 維光,豊田 太,松浦 博(滋賀医科大学生理学第二講座))
(20)
朝鮮人参の心筋IKsチャネル調節機構
古川哲史,白 長喜,増宮晴子(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理分野)))

【参加者名】
村木克彦(名市大・大院),今泉祐治(名市大・大院),村上 学(秋田大・医),尾野恭一(秋田大・医),大地陸男(順天大・医),辻川比呂斗(順天大・医),鷹野 誠(京大・大院),石原圭子(佐賀医大・生理),頴原嗣尚(佐賀医大・生理),倉智嘉久(阪大・大院),木村純子(福島県立医大・医),高橋 章(徳島大・医),庄野加余子(徳島大・医),小野克重(大分大・医),鄭 明奇(大分大・医),清水敦哉(名大・環研),本荘晴朗(名大・環研),神谷香一郎(名大・環研),安井健二(名大・環研),堀場 充(名大・環研),渡部 裕(新潟大・大院),鷲塚 隆(新潟大・大院),三好俊一郎(慶應大・医),佐々木孝治(北大・大院),蒔田直昌(北大・大院),岡田泰伸(生理研),中島敏明(東大・医),平野裕司(東京医歯大・難治疾患),小林武志(札幌医大・医),原岡佳代(岡山大・大院),谷 義則(岡山大・大院),大江 透(岡山大・大院),丁 維光(滋賀医大・生理),豊田 太(滋賀医大・生理),松浦 博(滋賀医大・生理),古川哲史(東京医歯大・難治疾患)

【概要】
 心血管系におけるイオンチャネルは,心筋の興奮の発生や伝導,収縮や弛緩の調節,細胞内外のイオンの輸送,ペプチドの産生や分泌などの生理機能を果たしている。このイオンチャネルに起因する心血管疾患は,最近の10年で遺伝子解析からチャネル蛋白の機能発現に至るまでその病態が具体的に明らかにされだした。イオンチャネルの構造やその発現様式に異常に由来する疾患は「イオンチャネル病」という概念で認識され,例えば家族性QT延長症候群やBrugada症候群はK+チャネルやNa+チャネルの構造変異による機能欠損あるいは機能異常亢進に基づく心筋興奮性の異常に由来することが判明した。一方,心不全心肥大や心筋梗塞に伴ってイオンチャネルの機能は変調してリモデリングを生じ,再分極電流の総和の相対的減少が不整脈を誘発しやすい基質になっていることも明らかにった。近年では研究手法が飛躍的に進歩し,ゲノム情報の表現型である蛋白質(プロテオーム)を解析することでゲノム情報の機能面を解析し,蛋白質相互の相互作用を解析してその機能さらに細胞の機能情報ネットワークを明らかにしようとする方向がある。本研究会は,このような状況を鑑み,心臓血管系のイオンチャネルの分子構造と生理機能に関して,分子生物学,遺伝子工学,電気生理学等の手法を用いた最近の研究成果の発表と情報を交換し,イオンチャネルの構造異常と制御機構の破綻に起因する循環器病の解明と新しい治療法の確立をめざすものである。

 

(1)バニロイド受容体型カチオンチャネル:
心血管組織における伸展受容器としての可能性

村木克彦1),岩田裕子2),片野坂友紀2),伊藤智洋1),大矢 進1)
重川宗一2),今泉祐治1)
1名古屋市立大学大学院薬学研究科))
2国立循環器病センター・分子生理))

 血管平滑筋における自発性の筋緊張は血管圧を制御する重要な因子である。本研究ではこの筋緊張におけるバニロイド受容体型カチオンチャネル(TRPV) の関与について検討した*。

 低浸透圧刺激(HS) によりマウス大動脈平滑筋細胞を膨化させたところ,内向き電流(INSC) の活性化および細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i) の上昇が観察され,両反応ともTRPVの阻害薬であるルテニウムレッドにより抑制された。RT-PCR法によりTRPVの遺伝子発現を確認したところ,マウスの血管平滑筋には主に2型(TRPV2) 及び4型TRPVが発現していた。さらにTRPV2特異的抗体を作成し,TRPV2のタンパク発現について検討したところ,平滑筋特異的アクチン陽性細胞にTRPV2タンパクが発現していた。またTRPV2特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドをマウスの血管平滑筋細胞に導入し,TRPV2タンパクをノックダウンさせたところ,HS誘発のINSC及び[Ca2+]i上昇は有意に抑制された。

 血管平滑筋において,TRPV2は筋緊張を制御する伸展受容に関与する可能性が高いと考えられる。
*Cir. Res. 93:829-838, 2003

 

(2)循環器における電位依存性カルシウムチャネル
βサブユニットの機能解析
(トランスジェニックマウスを用いて)

 電位依存性カルシウムチャネルは,心筋収縮など,興奮性細胞におけるシグナル伝達のために重要な役割を有する。我々はカルシウムチャネルの副サブユニットであるβサブユニットに焦点を当て,その生理学的重要性を遺伝子変異マウスを用いて解析している。

 RT-PCRによる発現解析では心筋におけるα1Cとβ2,3の発現を確認した.洞房結節における2,3,4のβ,およびα1Cとα1Dの発現を確認した。

 β3遺伝子変異マウスは,直接血圧測定において有意に高い平均血圧を示した。さらに頸動脈洞圧迫に対する圧反射の低下が認められた。β4変異マウスは小脳失調症状を示し,生後数週間で死亡することが確認された。β2変異マウスは有意な血圧低下を示し,心筋膜標本における総DHP結合能が低下していた。

 心臓における複数のβサブユニットが発現していること,各βサブユニット遺伝子変異により,さまざまな表現型が認められたことにより,それぞれ固有の役割を担っていることが示唆された。

 

(3)心筋膜穿孔のLa3およびPEGによる閉鎖

大地陸男,宋玉 梅(順天堂大学医学部第二生理学教室)

 脂質二重層は大電場や膜傷害性物質によって穿孔する。過分極およびlysophosphatidyl-choline (LPC) によるウサギ心室筋細胞の膜穿孔は,不規則な内向き電流Ihiおよび,核および細胞内質のethidium (EB) 蛍光増大で同定しうる。本研究ではPolyethylene glychol (PEG) およびLa3+の膜穿孔部閉鎖作用を検討した。La3+はIhiを濃度依存性に減少したが,EB蛍光減少は僅かであった。PEG4000(2および5%W/V)はIhiに影響することなく,過分極パルスまたはLPC (10mM) で誘発されるEB蛍光増大を著明に抑制した。さらに-160mV,40sのパルスを反復して,パルス毎のIhi 積分値とEB蛍光増大を求めてPEGの作用を検討した。5%PEG4000は直ちにEB蛍光増大を抑制した。分子量400,4000,20,000の効果を比較検討した。すべてEB蛍光増大を有意に抑制したが,PEG4000の効果が最大であった。PEGは膜損傷部を覆い,比較的大きな分子の通過に対して閉鎖効果をもたらすと考えられた。

 

(4)過分極誘発陽イオンチャネルの発現制御機構と病態生理学的意義

桑原宏一郎,鷹野 誠,倉富 忍,堀江 稔,斉藤能彦
(京都大学大学院細胞機能制御学)

 心不全は高血圧・虚血性心疾患等の様々な原因で生じ,その死因の約半数をしめる不整脈死・突然死の機構には不明な点が多い。一般に不全心においては心房利尿ペプチド(ANP) に代表される胎児型心筋遺伝子の再発現が亢進する。不全心筋においては,胎児型イオンチャネルのうち,過分極誘発陽イオンチャネル(HCN2およびHCN4) と,T型Caチャネル(CACNA1H) の発現が上昇することが知られている。我々は,HCN2,HCN4,CACNA1H遺伝子の発現がNRSFという抑制性転写因子によって制御されており,NRSFの機能を失活させた優性抑制変異体を心筋特異的に過剰発現させた遺伝子改変マウス(dn NRSF) では,拡張型心筋症を起こすと共に不整脈により突然死することを報告した(Kuwahara,K., Saito,Y., Takano,M. et al. EMBO J. in press) 。このdn NRSFマウスの単離心室筋の静止膜電位は-77.8±3.0 mVと,野生型BL6マウス(-82.7±2.7 mV) よりも有意に浅い。また活動電位持続時間(APD90) も野生型マウスの120.8±7.1 msecに対して148.5±14.9 msecと有意に延長していた。さらにdn NRSF Tgマウス心室筋細胞はカテコラミン刺激により異常自動能を示すことが多く,細胞内Caオーバーロードが生じていることが判明した。

 

(5)Kir2.1の研究から得られた心筋IK1の外向き電流のメカニズムに関する
新知見:2つのモードのポリアミンブロックによる制御

石原圭子,頴原嗣尚(佐賀医科大学生理学講座)

 心室筋細胞の静止電位付近で大きく流れるIK1の外向き電流振幅は主に細胞内ポリアミンによる電位依存性ブロックにより制御されると考えられている。我々は全細胞記録でIK1と極めて似た性質を示すKir2.1チャネルを293T細胞に発現させ,inside-outパッチ膜から記録される巨視的電流に対するポリアミンブロックを調べた。5-10μMスペルミンあるいは10-100μMスペルミジン存在下の外向き電流のI-V関係はIK1の外向き電流のI-V関係と似ていたが,それ以下の濃度ではプラトーあるいは二峰性を示した。弦コンダクタンス(G) と電圧の関係を解析すると,ボルツマン式によってフィットされない“過剰”コンダクタンスが正電位側に存在し,5-10μMスペルミン/10-100μMスペルミジン存在下に流れる外向き電流はこの過剰コンダクタンスによるものであった。これらのG-V関係は,Kir2.1チャネルのポリアミンブロックに親和性が異なる二つのモードがあると仮定したモデルによってよく説明された。高親和性モードでブロックされる割合はスペルミン存在下で0.9,スペルミジン存在下で0.75,共存下ではこの中間値であった。ポリアミンはチャネルと細胞内領域において結合することによって,ポリアミン感受性の異なる2つのチャネル状態の平衡を調節する働きも持つと考えられた。本研究結果よりIK1外向き電流の大部分は主に低親和性モードでブロックされるチャネルを流れることが示唆された。

 

(6)G蛋白制御カリウムチャネルの機能制御とシミュレーション

倉智嘉久,鈴木慎悟,石井 優(大阪大学大学院情報薬理学講座)

 G蛋白質サイクル調節(Regulators of G protein signalling; RGS) 蛋白質は三量体G蛋白質のαサブユニット上のGTPをGDPに加水分解する反応を促進する作用をもつ。我々はRGS蛋白質が非活性化状態ではホスホリン脂質の一種である,ホスファチディルイノシトール3リン酸(PIP3) が結合することにより抑制されており,カルモデュリン(CaM) がカルシウム刺激依存性にPIP3による抑制を脱抑制する調節機構があることを明らかにした。またこれが心房筋に存在するG蛋白質制御カリウムチャネル(G protein-gated K+channel: KG) 電流に見られるrelaxationと呼ばれるある特徴的な電位依存性特性の背景となっているものであることを解明した。さらにRGS蛋白質はホスホリン脂質のうちPIP3と特異的に結合し,CaMが競合的にRGS蛋白質に結合することにより,PIP3とRGS蛋白質の結合を解離することが分かった。これらPIP3およびCaMとの結合はいずれもRGSドメイン上の塩基性アミノ酸残基クラスター上で行われ,これはほとんどすべてのRGS蛋白質で保存されていることから,この調節機構は普遍的なものであることが示唆された。このように生細胞ではG蛋白質サイクルがRGS蛋白質により動的に調節されており,G蛋白質制御カリウムチャネルの様々なカイネティクスを詳細に検討することにより,G蛋白質サイクルの生理的な数理モデルを構築することに現在成功しつつある。

 

(7)Na+/Ca2+交換輸送体のmRNA安定化に対するRhoの関与

木村純子,前田佐知子,松岡 功
(福島県立医科大学医学部薬理学教室)

 心筋のNa+/ Ca2+交換体(NCX) 発現は病態により変化するが機序は不明である。高脂血症薬フルバスタチン(Flv) はHMG-CoA還元酵素を阻害し,コレステロール合成を抑制するが,低分子量GTP結合蛋白活性化も抑制する。低分子量G蛋白は,様々な蛋白合成に関与している。そこで我々はNCX1発現に低分子量G蛋白が関与するかFlvを用いて調べた。ラット心筋由来H9c2細胞を用い,RT-PCR法でNCX1とGAPDHのmRNA発現量を調べた。FlvはNCX1 mRNAを濃度および時間依存的に低下させた。HMG-CoA還元酵素で生成されるメバロン酸(MA)  をFlvと同時に加えると,NCX発現抑制は解除された。MA代謝物のゲラニルゲラニルピロリン酸,またはファルネシルピロリン酸を加えると,FlvによるNCXmRNA減少は回復した。この結果は,NCX1mRNA発現に低分子量GTP蛋白Rho,Rac,Ras等の関与を示唆する。Rhoを特異的に阻害するボツリヌス毒素C3を発現させた細胞ではNCX mRNA発現が対照細胞に比べ有意に減少した。また,mRNA合成阻害薬5,6-dichlorobenzimidazole存在下で,FlvはNCX mRNA減少を促進した。即ち,RhoはNCX mRNAの安定化に関与していることが示唆された。

 

(8)V. Vulnificusが産生する毒素のCFTR活性化機構

高橋 章1),庄野加余子1),角村寧子1),山本千代1),中尾成恵1)
田上奈緒美1),柏本孝茂2),中屋 豊1)
1徳島大学医学部特殊栄養学講座)
2北里大学獣医学部公衆衛生)

 Vibrio vulnificusは,汽水域から海水域に生息する低度好塩性のグラム陰性桿菌であり,人食いバクテリアとして恐れられている。本菌の主要な病原因子として金属プロテアーゼと細胞溶解毒(Vvha) が知られている。溶血毒の作用は,ラット大動脈の収縮を引き起こすという報告と下痢誘導に関与しているとの報告があるが,その機構は解明されていない。本研究では,細胞溶解毒が上皮細胞のイオン輸送に与える影響を中心に解析した。

 まず,Vibrio vulnificusのVvha遺伝子をノックアウトした菌(ΔVvha) を作成した。臨床分離株のwild type Vibrio vulnificuは上皮細胞のCl-分泌を促進したが,ΔVvhaは促進しなかった。さらにVvhaを精製し,上皮細胞のイオン輸送に与える影響を測定した。するとVvha がcystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) を活性化することをみいだした。VvhaによるCFTRの活性化はsutaurosporinやRp-cAMPsの前投与により阻害されることよりKinas依存性であると考えられたが,Vvhaは細胞内cAMPや細胞内cGMP濃度を変化させなかった。さらにVvhaによるCFTR活性化機構について議論する。

 

(9)P19CL6分化心筋細胞のイオンチャネル発現の細胞内シグナル制御

鄭 明奇1),内納智子1),門前幸志郎2),小室一成3),賀来俊彦1),小野克重1)
1大分大学医学部循環病態制御講座)
2東京大学大学院循環器内科)
3千葉大学大学院循環病態医科学)

 マウスEC細胞由来P19CL6細胞はdimethyl sulfoxideの刺激によって心筋細胞分化誘導を受ける。P19CL6細胞由来の分化心筋細胞における膜電流形成に関わる細胞内シグナル,とりわけMAPキナーゼを介するイオンチャネル発現の制御様式の解明を行う。P19CL6細胞は分化誘導後に過分極誘発内向き電流(Ih) と2種類のCaチャネル電流(ICa.L, ICa.T) を発現し自動拍動性を示した。分化誘導後に出現する自動拍動とペースメーカイオンチャネルはp38-MAPキナーゼの阻害によって発現が抑制され,細胞膜電位も未分化P19CL6細胞と同程度であった。一方,古典的(ERK1,2) MAPキナーゼ及びERK5の活性抑制下の分化心筋は自動拍動性を示し,3種のペースメーカイオンチャネルの発現も対照と同程度に観察された。心筋細胞の分化過程におけるペースメーカイオンチャネルの発現に非古典的MAPキナーゼ(p38-MAPK) を介するシグナル経路が関わることが示唆された。

 

(10)骨格筋芽細胞と筋線維の電気生理学的特性

清水敦哉1),佐合美紀1),丹羽良子1),盧 智波1),本荘晴朗1),堀場 充2)
李 鐘国2),安井健二2),児玉逸雄2),神谷香一郎1)
1名古屋大学環境医学研究所液性調節分野)
2名古屋大学環境医学研究所循環器分野)

 背景:骨格筋芽細胞を用いた心筋への細胞移植療法は既にヒトへの臨床検討が実施され,心機能改善に関する有用性と高頻度に致死性不整脈を合併することが明らかとされている。今回我々は移植後の催不整脈性に関する機序を明らかとするために,培養経過中の骨格筋芽細胞の電気生理学的特性の変化を検討した。

 方法:マウス大腿より骨格筋芽細胞を酵素学的に単離・培養した。培養9日目に骨格筋芽細胞の培養液を変更することにより,筋線維へと分化誘導した。パッチクランプ法を用いて膜電位,膜電流を記録した。

 結果:1) 分化誘導前骨格筋芽細胞:静止膜電位は過分極の状態にあった(-102±5mV, n=6) が活動電位は発生しなかった。9日目以後の細胞は以下の3群に分類された。2) 分化誘導型骨格筋芽細胞:活動電位は発生しないが,静止膜電位は上昇した(-49±2mV, n=5) 。3) 自発興奮型筋管細胞:活動電位(巾20ms)が発生し静止膜電位は-49mVであった(49±2 mV (n=5) ) 。4) 自発興奮型筋管細胞:最大拡張期膜電位は-35mV (-35±2 mV (n=4) ) であった。活動電位持続時間は20m秒であった。なお,INa, ICas, IK1, Ito, IKurの5種類のチャネルが筋芽細胞3) ,4) に発現していた。

 結語:1) 骨格筋芽細胞の分化に伴い,自動能を呈する細胞が出現した。この自動能が不整脈の出現に寄与している可能性が示唆された。2) この自動能が不整脈に直接関与するか否かを検討するために,現在我々はIn Vivoモデルを用いて検討中である。

 

(11)甲状腺ホルモンによるラット心房のイオンチャネルの修飾

渡部 裕,馬 梅蕾,鷲塚 隆,杉浦広隆,小村 悟,池主雅臣,渡辺賢一,相澤義房
(新潟大学大学院循環器学分野)

 甲状腺機能亢進症例において心房細動をしばしば合併するが,その機序に関する電気生理学的な検討は十分でない。

 【方法】ラットに甲状腺ホルモン(T3) を7日間投与し,両心房筋におけるKv1.5,Kv4.2,KvLQT1,erg,minK及びL型カルシウムチャネル(α1c) のmRNAレベルをRNase protection assay法により対照群と比較した。また両群において心房の活動電位,一過性外向きK+電流(Ito) ,ultra-rapid K+電流(Ikur) 及びL型カルシウム電流(ICal) を全細胞型パッチクランプ法にて測定した。

 【結果】T3は心拍数を対照群に比し42%増加させた。T3投与によりKv1.5は対照群に比し有意に増加し,KvLQT1とα1cは減少した。Kv4.2,ergとminKは不変であった。活動電位持続時間はT3投与にて30%短縮した。T3はIKurを対照群に比し有意に増大させたがItoを変化させなかった。T3はICalを減少させると共にイソプロテレノールに対する反応も低下させた。

 【結果】T3はラット心房筋にKv1.5とIKurを増加させ,α1cとICalを減少させた。この変化が甲状腺機能亢進症患者における心房細動の合併に関与している可能性が示唆された。

 

(12)β受容体第2細胞外ループに対する自己抗体によって生じた肥大型心筋症ウサギでの心臓電気生理

三好俊一郎1) ,2) ,3),福田有希子1),谷本耕司郎1),谷本陽子1),岩田道圭1)
吉川勉1),三田村秀雄1) ,3),金子章道2),小川聡1)
1慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科1
2慶應義塾大学医学部生理学教室2
3慶應義塾大学医学部心臓先進医療学講座3

 心筋症の約8割の患者から何らかの自己抗体が検出される。その中でも比較的高い頻度で,β受容体刺激作用のあるβ受容体第2細胞外ループに対する自己抗体が検出される。当該施設での拡張型心筋症患者の約半数に同自己抗体が検出され,多変量解析を用いた検討でそれらの患者では有意に心室頻拍と突然死が多いことが明らかとなり,何らかの心臓電気生理学的な異常を生じるものと予想された。またこの自己抗体をウサギに産生させると肥大型心筋症を呈することから,この自己抗体自体が心筋症の発症過程に重要な働きをしている可能性が考えられた。今回我々はこの肥大型心筋症ウサギモデルを用いて心臓電気生理学的な異常を,心電図,微小電極法による活動電位記録,パッチクランプ法及びFluo-3を用いた細胞内Caイオン濃度測定にて明らかにした。

 

(13)メキシレチン感受性とイオン選択性の変化を伴う特発性心室細動変異Naチャネル

佐々木孝治1),蒔田直昌1),角南明彦3),横井久卓1),木村彰方2),平岡昌和2)
1北海道大学大学院循環病態内科学)
2東京医科歯科大学難治疾患研究所)
3グラクソスミスクラインつくば研究所)

 【目的】Brugada症候群の起因遺伝子の一つである変異NaチャネルS1710Lは,Naチャネル拮抗薬の動態に重要な役割を果たす輪状に配列する選択性フィルター残基のひとつに隣接しているため,変異によるチャネル構造の変化が薬剤感受性を直接変化させている可能性がある。S1710Lに対するNaチャネル阻害薬の薬理学的特性を検討した。【方法】tsA201培養細胞に正常(WT) またはS1710Lチャネルを発現させ,パッチクランプ法で全細胞Na電流を記録した。【結果】S1710LはWTにくらべてメキシレチン(50μM) のトニックブロックがやや亢進し,頻度依存性ブロックは逆に減弱した。薬剤非存在下ではS1710Lの不活性化からの回復はWTより遅かったが,メキシレチンによるブロックからの回復は逆にS1710Lが促進しており,選択性フィルターを介したメキシレチンの解離亢進が示唆された。膜不透過性リドカイン誘導体QX314を細胞内に投与したところ,S1710LのQX314解離が有意に促進していた(時定数:WT= 1017 s, S1710L= 209 s)。さらにS1710LはK透過性が有意に亢進することから(pK/pNa: WT= 0.09, S1710L= 0.16) ,イオン通過孔に面していることも判明した。【結語】Brugada症候群に共通する「Naチャネルの機能低下」という機能異常を持ちながら,S1710L患者のSTがNaチャネル阻害薬で上昇しなかった機序は,選択性フィルター近傍の構造的変化によって薬剤のトラップが不十分になり,イオン通過孔を解した薬剤の解離が促進するためであると考えられた。

 

(14)新生仔ラット心筋細胞の虚血性ATP放出とATP透過性マキシアニオンチャネル活性化

A.K. Dutta,R.Z. Sabirov,浦本裕美,岡田泰伸
(岡崎国立共同研究機構生理学研究所機能協関研究部門)

 虚血・低酸素条件下では心臓の間質のATPレベルが上昇することが古くから知られているが,そのメカニズムは不明であった。初代培養した新生仔ラット心室筋細胞を低浸透圧,低酸素又は化学的虚血条件下におくと,いずれの場合も細胞外にATPが放出されることが判明した。このATP放出はバイオセンサー法によって単一心筋細胞表面でも検出された。また,これらの条件下では約390 pSの単一チャネルコンダクタンスのマキシアニオンチャネルが活性化され,このチャネルはアニオン型ATPに対しても透過性を示すことが明らかとなった。更には,このマキシアニオンチャネルの薬理学的性質は,ATP放出のそれと同一であることが明らかになった。これらの結果から,新生仔心筋細胞は虚血・低酸素に対してATP放出で応答し,その放出路にマキシアニオンチャネルが関与していることが結論された。

 

(15)ヒト培養平滑筋(冠動脈,肺動脈,気管支平滑筋)細胞に発現する電位依存性Na+チャネル(SCN9A)について

中島敏明,城太 祐,飯田陽子,岩沢邦明,永井良三
(東京大学循環器内科)

【目的】電位依存性Na+チャネル(INa) は,平滑筋では一部のphasicな平滑筋に発現しているのみで,冠動脈などのtonicな平滑筋には通常はみられない。今回,我々は,ヒト冠動脈,肺動脈,気管支平滑筋の培養細胞に出現するINaの電気生理学的および分子生物学的特徴につき検討した。

【方法】Patch電極を用いたwhole-cell clamp法による電気生理学的検討およびRT-PCR (SCN1A-11A) , real-time PCR, 免疫染色によるチャネル蛋白,mRNAの発現を検討した。【結果】いずれの細胞においても,INaが見られた。TTXは,用量依存的に抑制し,その50%抑制濃度は約7nMであり,veratridine, chloramine Tは,その不活性化を遅延した。この不活性化曲線のVhは,約-40mVであり,心筋に発現するINaより脱分極側にあった(膜電位は,いずれも-40〜-50mV) 。RT-PCRでは,いずれの細胞においてもSCN9Aの発現を認め,免疫染色にて,その発現が確認された。Retinoid acid処理は,INaの発現の減少とα-actinの発現の増強を認めた。ヒトから得られた正常組織の平滑筋組織の免疫組織化学的検討では,INaの発現は見られなかった。

【結語】冠動脈などのヒト培養平滑筋細胞に発現するINaは,TTX感受性で,SCN9Aから構成されていると考えられた。この発現には,細胞の脱分化などが関与している可能性が示唆された。

 

(16)プラトー相初期の電流変化と活動電位持続時間: computer simulationによる検討

平野裕司,平岡昌和
(東京医科歯科大学難治疾患研究所成人疾患研究部門(循環器病))

 心筋の活動電位持続時間(APD) はプラトー相におけるK電流などの外向き電流とCa電流などの内向き電流のバランスによって決定される。一般に外向き電流はAPD短縮,内向き電流はAPD延長に寄与するが,活動電位初期に電流を変化させるとその効果は必ずしもこの原則に従わない(Wehrens et al. 2000) 。我々は種々の心室筋活動電位モデルを用い,プラトー相初期の電流変化がAPDに及ぼす効果を検討した。古典的なBeeler-Reuterのモデルにおいて活動電位初期50msecに内向き(脱分極)電流を与えるとAPDは短縮,外向き電流では延長した。この変化は主に膜電位依存性活性化によるIKの相違に基づいていた。Luo-Rudyモデルでも電流注入による"逆方向"へのAPDの変化が認められた。これにはIKsの活性化の違いのみならず,プラトー初期においてCaの流入量とCa transientが大きく変化し,これがICa,L, INa-Ca, IKsなどの電流を様々に修飾していた。我々のCa依存性不活性化の新しい定式化を導入したモデル(Biophys.J.2003) ではAPDの変化はより強く認められた。心筋における細胞内Caのdynamicsの変化とこれによる電流系の修飾は心臓の電気活動に大きな影響を与え得るが,その詳細にはなお未知な点が多く,さらに様々な実験やモデリングの試みが必要である。

 

(17)ラット心筋細胞の成長に伴う
一過性カリウム電流増加とKChIP2の役割

小林武志1) ,2),山田陽一1),長島雅人1),関 純彦1),筒浦理正1)
深尾充宏1),伊藤克礼3),濱田洋文3),安倍十三夫2),當瀬規嗣1)
1札幌医科大学医学部生理学第一講座)
2札幌医科大学医学部外科学第二講座
3札幌医科大学医学部分子医学研究部門

 胎生期から出生後のIto,fの変化がKv4.2ではなくKChIP2の変化に依存しているのではないかと考え,出生前後(胎生12日目〜出生後10日目)におけるラット心室筋細胞のKv4.2とKChIP2のmRNAの発現量の変化を定量PCRにて測定した。胎生期から新生児期を通じてKv4.2は殆ど変化しなかったのに対し,KChIP2は著明に増大していた。そこでKv4.2は発現しているがIto,fはほとんど観察されない胎生12日目の心室筋細胞にKChIP2のみをアデノウイルスベクターを用いて導入・発現させたところ大きな一過性外向き電流が観察された。電流特性の解析よりこの電流はIto.fであると同定した。また蛍光抗体法による解析から,KChIP2を導入した細胞では導入していない細胞と比べKv4.2の蛋白質が細胞膜領域に多く存在していることが確認された。これらの知見から,出生前後の成長に伴うIto.fの増加はKChIP2の発現増加に依存していると思われた。

 ラット・マウスなどの小動物の心筋細胞では成長に伴う活動電位持続時間の短縮が観察され,その主な原因として,Itoの増大が示唆されている。そこで,KChIP2を導入し,Ito (Ito.f) のみを増大させた胎児心筋での活動電位持続時間を検討したところ,有意な変化は観察されなかった。その為,成長に伴う活動電位持続時間の短縮に関してはIto以外の要素についても検討する必要があると思われた。

 

(18)IKrに対する抗体が原因と考えられる後天性QT延長症候群

原岡佳代,片山祐介,谷 義則,中村一文,倉智嘉久,大江 透
(岡山大学大学院循環器内科学)

 QT延長症候群(LQTS)は,心電図上著明なQT時間の延長およびTorsades de Pointes (TdP) が起こり,失神発作や心臓突然死となる致死的疾患である。遺伝的背景を認める先天性のものと,薬剤,電解質異常などの二次的要因によりQT時間が延長する後天性に分類できる。今回我々は後天性QT延長症候群の原因が,IKrに対する抗体であると考えられた症例を経験したので報告する。

 症例は42歳女性。後天性LQTSと考えられ原因検索をするも既存の原因は認められなかった。また家族歴もなく,以前の心電図も正常であり,先天性は否定的であった。後天性の新しい原因検索を施行したところ,IgG高値と抗SSA / Ro抗体陽性認められた。これらがQT延長の原因であると仮説を立てた。

 HEK293細胞にHERGをトランスフェクションさせたものを用いて,HERG電流を計測した。この患者の血清とIgGで培養した細胞はHERG電流の減少が認められた。免疫染色で見るとこの患者のIgGはHERGチャネルを発現している細胞に結合し,それを減少させていた。

 この患者のIgGはHERGチャネルに対する自己抗体を含み,それにより心筋のIKrが減少したと考えられました。これはLQTSの新しい原因であると考えられました。引き続き,どのくらいの頻度であるか検索することが必要である。

 

(19)リゾリン脂質による心筋IKsチャネルの調節

渡辺 大(京都大学大学院医学研究科生体情報科学)

 虚血心筋で上昇するリゾホスファチジルコリン(LPC) は細胞外のK+蓄積や活動電位の短縮を引き起こし,これらの作用は虚血時にみられる不整脈の発生に寄与していると考えられている。しかし,LPCの心筋K+チャネルに対する効果は十分には明らかにされていない。今回我々は,LPCの緩徐活性型遅延整流性K+チャネル(IKs) におよぼす効果についてモルモット単離心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法を適用して検討した。その結果, 1) 細胞外LPCはIKsを濃度依存性に(K1/2 = 1.19 mM) 増大させ,その最大反応(増加率,2.03 ± 0.12倍)は5 mMで得られた。2) LPCによるIKsの増大作用はGDP βS負荷,もしくは百日咳毒素(PTX) 処理により有意に抑制された。3) LPCによる増大作用はcompound 48 / 80 によっても抑制された。これらの実験結果は,細胞外LPCがPTX感受性G蛋白-ホスホリパーゼC (PLC) と連関した細胞膜受容体刺激を介してIKsを増大させたことを示唆する。さらに,LPCによる IKsの増大反応は細胞内にPIP2 (100 mM) を負荷すると有意に減少し,また,bisindolylmaleimide Iによっても部分的に抑制された。よって,細胞外LPCによるIKsの増大作用にはPLCの活性化に伴う細胞膜PIP2含量の減少ならびにPKCの活性化が関わっていると考えられた。また,このLPCの作用は虚血心筋でみられる細胞外のK+蓄積や活動電位の短縮に寄与していると思われた。

 

(20)朝鮮人参の心筋IKsチャネル調節機構

渡辺 大(京都大学大学院医学研究科生体情報科学)
古川哲史,白 長喜,増宮晴子
(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理分野)

【背景・目的】朝鮮人参Panaxginsengは心血管保護作用を有しており,我々は緩徐活性化遅延整流カリウム電流(IKs) 活性化が重要となることを明らかにした。今回はPanaxginsengのIKs増強作用のメカニズムを検討した。

【方法】モルモット単離心室筋細胞から,パッチクランプ全細胞電流記録法を用いてIKsを記録した。

【結果】(1) Panaxginsengのステロイド様成分ginsenoside ReがIKsを濃度依存的に増強し,そのIC50は1.3±0.1 mMと臨床使用濃度範囲にあった。(2) IKs増強は一酸化窒素(NO) ドナーにより再現され,NO合成酵素阻害薬やNOスカベンジャーにより抑制された。(3) IKs増強はguanylate cyclase阻害薬では抑制されず,thiolアルキル化剤で抑制された。Ginsenoside ReによるIKs増強は還元剤dithiothreitolによりもとに戻った。

【まとめ】PanaxginsengのIKs増強作用は,そのステロイド様成分ginsenoside Reが臨床使用濃度範囲でもたらす。これはNOによるチャネル蛋白の直接のニトロ化による。

 


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