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4.バイオ分子センサー研究会22003年5月21日−5月22日
【参加者名】 【概要】
(1)腎マクラデンサ細胞のNaClセンサーATPチャネル岡田 泰伸1,SABIROV Ravshan1,林 誠治,森島 繁,LAPOINTE Jean-Yves,BELL Darwin 腎マクラデンサ(密集斑)細胞は,腎尿細管(太い上行脚:TAL)管腔液のNaCl濃度を検知して,本細胞と共に傍糸球体装置を構成するメサンギウム細胞を介して輸入細動脈平滑筋細胞や顆粒(レニン分泌)細胞にシグナルを伝達して,体液量や血圧の調節に関与するというユニークかつ重要な細胞である。そのNaClセンサー機序やシグナル伝達機序を明らかにするためにウサギ腎より密集斑を単離して解析した。その結果,マクラデンサ細胞膜に380pSの大型単一チャネルコンダクタンスを示すマキシアニオンチャネルの存在が同定され,NaCl濃度増によって活性化されること,ATP4-を透過させることなどが明らかとなった。そして実際にマクラデンサ細胞はNaCl増に応答してATPを放出することが示された。次に,糸球体とTALごと単離した標本においてTAL潅流液中のNaCl濃度を上昇させると,マクラデンサの基底側からATPが放出されることが示された。更にはメサンギウム細胞株にP2Y2型のATPレセプターの存在を確認し,この細胞をマクラデンサ基底側に密着させると,尿細管腔NaCl増に応答して本ATPレセプターが刺激されることが明らかとなった。これらの結果から,マクラデンサ細胞のNaClセンサーはATP透過性マキシアニオンチャネル(ATPチャネル)であり,メサンギウム細胞へのシグナル分子はそこから放出されるATPであることが結論された。
(2)アミノ酸センサーの探索金井好克(杏林大学医学部薬理学教室) 細胞は,アミノ酸の供給量に応じて,タンパク質合成を含めた細胞内代謝を調節し,栄養環境に適応する。この代謝調節において,細胞へのアミノ酸供給量をモニターする2種のアミノ酸センサーが酵母にはある。第一は,細胞膜アミノ酸センサーであり,アミノ酸トランスポーターと相同な構造を持つ12回膜貫通型タンパク質Ssy1が細胞内へシグナルを伝達するとされている。第二は,細胞内アミノ酸センサーであり,アミノ酸シグナリングの中心的位置を占めるTOR (target of Rapamycin) の上流因子として想定されている。 我々は,悪性腫瘍細胞への必須アミノ酸の供給を担当するトランスポーターLAT1を同定し,その抑制により細胞増殖抑制効果が得られることを明らかにした。LAT1抑制による細胞増殖抑制は,TORシグナル経路をOFFにすることから,細胞内センサーを介する応答であると考えられる。また,LAT1の結合タンパク質4F2hcは,膵臓ランゲルハンス島β- 細胞に強制発現させるとランゲルハンス島を肥大させ,培養細胞に導入するとTOR経路とともにPI3 Kinase経路を活性化することが明らかになった。細胞内センサーは,その分子実体は明らかではないが,これがロイシンに選択性を示すことから,アミノ酸応答性を示すHEK293細胞の細胞可溶化画分のロイシン結合タンパク質として細胞内センサーを探索する方向性で研究を開始している。
(3)機械受容チャネルTRPV4の構造と機能鈴木誠(自治医大,薬理学分子薬理学部門) TRPV4はswell-activated channelとして報告されている,機械受容性であるCa透過性チャネルである。この機械受容性について,3つの角度から発表する。(1) CHO細胞に遺伝子を発現した結果は,Multi-sensitive channelで,inflation, low pH, citrateで特異的に反応した。HEK細胞で発現させると,swell-activatedは著明になる。(2) ノックアウトマウスを作成すると,閾値の高い圧反応は低下する。つまり,尻尾の圧域値が上昇し,これには,Aβ,γ線維に関わっていた。圧受容といわれるC線維は検出できなかった。皮下の受容器,自由終末の問題と考えられる。腹腔内の酢酸投与は陽性,熱回避は陰性の結果である。(3) 圧感受に関して細胞依存性の反応は修飾蛋白の存在を示唆する。TRPV4C末端のTwo-hybrid解析から,酵素CaプロテアーゼとMAPなどが得られた。MAPはactinとも結合するといわれ,この蛋白と共発現することで,TRPV4の膜への移行とactinとの連絡があることがわかった。
(4)大脳皮質ニューロンの容積センサーCl-チャネル井上 華,岡田 泰伸 (生理学研究所・細胞器官研究系・機能協関部門) 容積感受性Clチャネルは細胞膨張によって活性化され,容積調節,特に調節性容積減少(regulatory volume decrease: RVD) に重要な役割を果たしている。神経細胞における細胞膨張は,虚血や過興奮時などの病態下のみならず,生理的な神経伝達の際にも観察されており,このチャネルの生理学的・病態生理学的役割の重要性が推定される。今回私たちは容積感受性Clチャネル電流が大脳皮質ニューロンにも存在することをはじめて見出した。即ち,大脳皮質ニューロンにおいて低浸透圧性細胞膨張によって活性化されるCl電流は,これまで他の細胞で報告されている容積感受性Clチャネルに類似する性質を示し,外向き整流性,強脱分極下での時間依存的不活性化,低フィールド的なアニオン選択性,ClチャネルブロッカーNPPB,DIDS,phloretinへの感受性,中間型の単一チャネルコンダクタンス等を示した。また,このClチャネルはニューロンにおいても他の細胞と同様にRVDに関与していることが明らかになった。更には,神経細胞の膨張が観察される事例としてよく知られる過興奮性の刺激によっても,varicosity formation(dendriteの局所的な膨張)の出現に伴って活性化されるという所見が得られた。このように本チャネルは細胞全体および局所の容積変化を検知して活性化することが明らかになった。
(5)心筋ストレッチセンサーの分子メカニズム古川哲史(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体情報薬理分野) 心筋細胞には精巧なストレッチセンサー機構が備わっており,その破綻は心不全・心肥大・心筋症などの循環病態をもたらす。ストレッチセンサーの一つにmechano- electrical feedbackがあり,心筋細胞に張力がかかると再分極が促進され,過度のカルシウム流入および筋収縮から保護する。心筋再分極に重要な遅延整流カリウムチャネルの活性化の遅い成分(IKsチャネル)がストレッチ・細胞内カルシウムにより活性化されることが知られているが,その分子メカニズムは不明である。最近我々はminKに結合するタンパクとしてT - cap (telethonin) を同定した。T - capは,Z盤特異的タンパクtitin,MLPと結合する。すなわち,分子複合体minK-T-cap-titn / MLPはT管膜とZ盤をつなぐmolecular linkerとして働き,T-cap,titin,MLP遺伝子の変異は特発性心筋症の原因となる。KvLQT1・minKにはカルシウム結合部位は存在しないが,T - capが心筋特異的カルシウム結合タンパク(CaBP) に結合することも判明した。以上から,minK-T-cap-titn / MLPおよびminK-T-cap-CaBPはIKsチャネルのストレッチ・カルシウムセンサーの有力な候補と考えられ,mechano-electrilal feedbackの分子基盤として機能する可能性が示唆される。
(6)血管内皮細胞における機械受容と細胞反応 辰巳仁史1,2,早川公英4,河上敬介3,清島大資3,曽我部正博1,4 培養血管内皮細胞での機械刺激による細胞Ca2+動員の分子機構やCa2+の空間動態はほとんど明らかにされていない。そこで我々は,ヒト臍帯静脈由来の培養内皮細胞の上面に細胞外マトリックス(フィブロネクチン)をコートしたガラスビーズを接着させて,そのビーズを移動することにより細胞に局所的機械刺激を与え,引き続いて生じるCa2+動員の空間動態をCa2+指示薬であるFluo - 3の蛍光を用いて解析した。共焦点レーザー顕微鏡を用いてミリ秒オーダーの高時間分解でCa2+動態を測定することができた。Ca2+濃度は,局所的機械刺激の直後に,まずビーズの接着している細胞上面と,基質と細胞が接着している細胞底面で上昇し,やや遅れて細胞中央部で上昇することがわかった。このCa2+動員はSAチャネルの阻害剤であるガドリニウムによって阻害された。また,ビーズの接着面と細胞底面の間を連結するストレスファイバーが観察され,このアクチンを脱重合させると,機械刺激に対するCa2+動員が強く抑制された。全反射型近接場照明を用いて,細胞底面でのカルシウム動員を詳しく観察したところ,Ca2+上昇は底面の接着斑近傍から生じることがわかった。以上の結果から,機械刺激はアクチン線維を通して細胞底面の接着斑に伝わり,そこに分布するCa2+透過性のSAチャネルを活性化して,局所的なCa2+動員を引き起こしたと思われる。
(7)Cell acidosis環境における膜電位依存性プロトンチャネルの応答様式 久野みゆき1,森畑宏一2,森啓之1,酒井啓1,川脇順子3 膜電位依存性H+チャネルは,非常に高いH+選択性を特徴とし,開口するとcell acidosisを迅速に解除する。チャネル活性は細胞内外のH+濃度の変化に即応して変動し,基本的にはH+濃度差をキャンセルするように働くが,同時に電位の影響を強く受ける。生体内では,pHを狭い範囲内で維持するために,多様なpH調節機構が存在する。cell acidosisはH+チャネル活性化を引き起こす第一要因であるが,cell acidosis環境で実際にH+チャネル活性がどのように制御されているかはよくわかっていない。H+チャネルは,それ自体でpHセンサーとして働き,逆転電位を指標に記録中の細胞のpH変動をリアルタイムで検出することが可能である。実験的によく用いられる負荷NH4Clの除去は急速なcell acidosisを引き起こし,同時にH+チャネルを活性化した。チャネル活性増強の時間経過はacidosisの過程によく相関した。一方,細胞外からHClを負荷した場合はcell acidosisがゆっくり進行する。この過程ではH+チャネル電流はむしろ減少していた。これらのH+チャネル応答の主因は細胞内外のpH勾配の変動にあったが,乳酸アシドーシス,ホルボールエステル,低浸透圧刺激によって生じるcell acidosisでは,H+チャネル活性の増強にpH以外の要因が大きく関与していた。
(8)プロトン依存性電位作動性チャネルPCL 森泰生,山田和徳,西田基宏,吉田卓史,沼賀拓郎,森恵美子 常染色体優性遺伝型多発性嚢胞腎の原因遺伝子として,PKD1とPKD2が同定され,PKD関連遺伝子として,PKDL,PKD2L2,PKDREJ,PKD1L1がクローニングされている。PKDLの遺伝子産物であるPolycystin-L (PCL) とPKD2の遺伝子産物であるPolycystin-2 (PC2) は互いによく似た構造をしており,ともにS4領域に電位センサーと考えられるドメインを持つ。我々はPCLをHEK293細胞に発現させ,パッチクランプのwhole-cell modeを用い,PCLのチャンネル機能について解析した。PCLはカルシウム透過型の非選択的陽イオンチャンネルであるが,細胞外のカルシウムによって抑制されることが明らかとなった。また電位依存性を示し,脱分極によって大きな電流が生じた。S4領域が電位センサーとして機能していることが明らかとなった。またPCLはアシドーシスによって活性化されることが判明した。さらに,電位センサーの変異体では,pH依存性も減弱または消失が認められ,PCLにおいてはS4領域の電位センサーはpHセンサーとしても機能している可能性が示唆された。これらの結果よりPCLは細胞内でのカルシウムシグナルへの関与,興奮性細胞での再分極の促進,尿細管での酸塩基平衡または他のイオン輸送の調節に関与している可能性が考えられる。
(9)温度センサーとしてのTRPチャネル 冨樫和也,沼崎満子,森山朋子,東智広,村山奈美枝,富永知子,富永真琴 近年,末梢感覚神経に特異的に発現する温度受容体TRPチャネルがクローニングされている。 TRPV1は,6回の膜貫通型のCa2+透過性の高い非選択性陽イオンチャネルであり,カプサイシンの他に生体において痛みを惹起する酸(プロトン),熱(43度以上)によっても活性化される。弱い酸性化はTRPV1の活性化温度閾値を体温以下に低下させる。また,炎症関連メデイエイターのATPやbradykininはそれぞれのGq蛋白質共役型受容体に作用してPKCによってTRPV1をリン酸化して,その活性化温度閾値を体温以下に低下させる。体温がTRPV1の活性化刺激となって痛みをひき起こすことになり,これは新しい急性炎症性疼痛発生メカニズムとして注目されている。 低浸透圧によって活性化されると報告されたTRPV4が,35度くらいの暖かい熱刺激によっても活性化される新たな温度受容体であることが明らかとなり,皮膚の角質細胞や視床下部神経細胞に発現することが分かった。 TRPV1,TRPV4の他に,TRPV2 (VRL-1),TRPV3,TRPM8 (CMR1),TRPA1 (ANKTM1) が温度受容体として機能することが明らかとなっており,それぞれ52度以上,30-35度以上,28度以下,17度以下で活性化される。
(10)線虫C. elegansにおける感覚ニューロン機能の多様性森 郁恵(名古屋大学大学院理学研究科) 我々は,以前に温度受容を担う主要な温度受容ニューロンAFDを同定したが,同時にAFDとは独立の温度感覚ニューロンの存在を予想していた。我々が最近単離したttx-6 (nj8) 変異体は,飼育温度に関わらず,常に温度勾配上で低温に移動する好冷性異常を示す。nj8の原因遺伝子をクローニングした結果,既に同定されていたeat-16遺伝子と同一であり,RGS (Regulators of G protein Signaling) ホモログをコードしていた。RGSは,GαのGTPase活性を上昇させて活性型Gαから不活性型Gαへの移行を促進するため,Gαの負の制御因子として機能する。最近,温度走性神経回路上のAFD,AIY,あるいはAIZニューロンでEAT-16を発現させても,eat-16変異体の温度走性異常は回復せず,嗅覚ニューロンとして機能することが知られていたAWCでEAT-16を発現させると,eat-16変異体の温度走性異常が回復するという非常に興味深い結果を得た。すなわち,従来嗅覚ニューロンとして詳細に解析が行われてきたAWCニューロンに温度受容機能が備わっていることを初めて明らかにした。
(11)細胞内信号伝達を担うへム関連タンパク質齋藤正男(東北大学多元物質科学研究所) ヘムタンパク質はバクテリアから高等動物にいたるまでのさまざまな生物に存在して,小分子の輸送,電子伝達,酸化還元,などの生命活動にとって必要不可欠な役割を担っている。1990年代に入り一酸化窒素合成酵素 (NOS) と可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC) がヘムタンパク質であることが確立し,細胞内信号伝達においても,へムタンパク質が,重要な役割を果たしていることが明らかになった。その後新種センサー型ヘムタンパク質が相次いで発見され,信号伝達に関与するヘム関連タンパク質は最近の生物無機化学,金属タンパク質研究分野で大きな注目を集めている。 センサー型ヘムタンパク質では,ヘムはセンサーとして機能しており,タンパク質の機能中心・活性中心ではないという点がHb,Mb,P-450等の周知のへムタンパク質とは基本的な点での大きな相違である。信号分子としては,ガス状2原子分子(O2, CO, & NO) がよく知られているが,へムそのものを信号として用いるヘムセンサータンパク質も存在する。センサー型タンパク質はcyclase,kinase,phosphodiesterase等の活性が信号分子によって制御される酵素として機能するものと,核酸との相互作用が信号分子によって制御される転写因子とに分類される。今回はセンサー型ヘムタンパク質研究の現状,問題点,将来への展望について,我々の研究成果を交えて報告する。
(12)タンパク質グルタチオン化:酸化ストレスのセンシング機構内田浩二(名古屋大学大学院生命農学研究科) 細胞内は,グルタチオンなどの様々な還元物質により還元的状態が保たれている。しかしながら,酸化ストレスにより局所的な酸化状態が生じた場合,タンパク質中のシステイン残基はスルフェン酸に酸化され,さらに酸化が進行した場合,スルフィン酸やスルフォン酸などの不可逆的な最終酸化物が生成され,タンパク質は変性に至る。しかし,初期生成物であるスルフェン酸に対してはグルタチオンが作用することが知られ,グルタチオン化タンパク質が生成する(“タンパク質S - チオール化反応”)。このようなシステイン残基の可逆的な修飾はセリンやスレオニン,チロシン残基のリン酸化・脱リン酸化に相当し,また酸化ストレスを感知し,酸化ストレスに対する応答手段を惹起するセンシング機構と考えられる。これまでの研究から,このようなS- チオール化反応は細胞内のシグナル伝達に関与しており,細胞の増殖,分化,アポトーシス,ネクローシス,細胞間情報などを制御することが明らかとなっている。タンパク質のグルタチオン化はタンパク質SH基を保護する役割を担う。また,酸化ストレス応答を惹起する初期段階の酸化反応として,標的タンパク質の解析研究が期待されている。本研究会では,モノクローナル抗体を用いたグルタチオン化タンパク質検出法の開発と,ビオチン化プローブを用いたグルタチオン化の標的タンパク質の検索に関する研究の一端を紹介する。
(13)共鳴ラマン分光法によるガスセンサー蛋白の
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