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12.シナプス伝達の細胞分子調節機構

2003年9月19日−9月20日
代表・世話人:八尾 寛(東北大学生命科学研究科)
所内対応者:伊佐 正(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)

(1)
“Ca2+ wavelet”:Ca2+誘起性Ca2+遊離機構を介するCa2+波の最小単位の可能性
秋田 天平,久場 健司(名古屋学芸大学管理栄養学部管理栄養学科解剖生理学研究室)
(2)
海馬苔状線維シナプスにおける神経終末内カルシウムストアの機能
神谷 温之(神戸大・院医・細胞・神経生理)
(3)
アデノシンA1受容体を介するシナプス前抑制のメカニズムと生後発達変化
木村 昌弘,斎藤 直人,高橋 智幸(東京大学大学院医学系研究科神経生理)
(4)
Drosophila Synaptotagmin I: a Ca2+sensor for synchronized release
and a negative regulator of spontaneous vesicle fusion
Tomonori Okamoto,Kazuhiro Suzuki,Yoshiaki Kidokoro (Gunma University School of Medicine)
(5)
2光子励起グルタミン酸法によるシナプス動態の解析
河西 春郎(生理学研究所・生体膜部門)
(6)
シナプス小胞サイクリングに関わるミオシン
持田 澄子(東京医科大学)
(7)
膜融合関連タンパク質トモシンによる神経突起発芽・伸長の制御
匂坂 敏朗,高井 義美(大阪大学大学院医学系研究科生体制御医学)
(8)
ラット内側前庭神経核ニューロンの神経伝達物質の同定
齋藤 康彦,高澤 知規,都筑 馨介,小澤 瀞司 (群馬大学大学院,神経生理)
(9)
マウス網膜外網状層のグルタミン酸トランスポーターによるシナプス伝達調節
長谷川 淳 (東京大学・大学院人文社会系研究科)
(10)
PSDの分子構築とその動態の定量的解析
岡部 繁男 (東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
(11)
B Katzの足跡とシナプス研究の未来
高橋 智幸(東京大学大学院医学系研究科神経生理)
(12)
SDS-FRL法による歯状回LTP誘導に伴うAMPA型グルタミン酸受容体動態の解析
深澤 有吾,重本 隆一(生理学研究脳形態解析)
(13)
大脳皮質視覚野ニューロンの高頻度発火により誘発される抑制性伝達の長期抑圧発現機構
黒谷 亨 (名古屋大学・環境医学研究所)
(14)
インテグリンによる小脳抑制性シナプス可塑性の調節
川口 真也,平野 丈夫(京都大学大学院理学研究科)
(15)
グルタミン酸受容体delta2サブユニット欠損マウスプルキンエ細胞における抑制性シナプス伝達増強の飽和
大槻 元,平野 丈夫(京都大学大学院理学研究科)
(16)
代謝型グルタミン酸受容体による神経可塑性修飾の分子機構 −メタ可塑性を中心に−
渡部 文子,真鍋 俊也 (東京大学医科学研究所)
(17)
ニコチンによる線条体ドーパミン/DARPP-32情報伝達系の調節
西 昭徳,浜田 美保,東 英穂(久留米大学医学部生理学第一)
(18)
単一海馬苔状線維終末におけるCa2+チャネルサブタイプ発現の多様性
−同一軸策上終末のCa2+チャンネルサブタイプ発現−
宮崎 憲一,真鍋 友則,石塚 徹,八尾 寛(東北大学大学院生命科学研究科)
(19)
空間学習成立マウス海馬における苔状線維の新しい投射の解析
和地 恵,奈良 諭,石塚 徹,八尾 寛(東北大学大学院生命科学研究科)
(20)
Hyperpolarization-activated cation current and its modification of dendritic spike initiation
in projection neurons of the rat superficial superior colliculus
遠藤 利朗1,納富 拓也2,重本 隆一2,伊佐 正1(生理研 1認知行動発達,2脳形態解析)

【参加者名】
小澤 瀞司,城所 良明,齋藤 康彦,新国 摂(群馬大・医),平野 丈夫,大槻 元,髭 俊秀,鶴野 瞬,川口 真也,矢和多 智,吉田 盛史,津村 健策,関 優子(京都大・理),八尾 寛,宮崎 憲一,和地 恵,真鍋 友則,奈良 諭(東北大・生命科学),持田 澄子(東京医科大),岡部 繁男,栗生 俊彦(東京医歯大),小松由紀夫),黒谷 亨,高田 直樹(名古屋大学・環境医学),立花 政夫,長谷川 淳(東京大院・人文),高橋 智幸,山下 貴之,中村 行宏,石川 太郎,金子 雅博,木村 昌弘,水谷 治央,齋藤 直人,谷 真紀(東京大院・医),西 昭徳(久留米大・医),高井 義美,匂坂 敏朗(大阪大院・医),成田 和彦(川崎医科大),久場 健司,久場 雅子,秋田 天平,須崎 尚(名古屋学芸大),神谷 温之(神戸大院・医),真鍋 俊也,渡部 文子(東京大学医科研),森元 宏樹(大阪市立大・医),馬場 威(大阪大・分子生理),清水 秀忠(基生研),柳川右千夫,井本 敬二,河西 春郎,山肩 葉子,籾山 俊彦,畠山 裕康,本蔵 直樹,沼田 朋大,萩原 明,児玉 貴史,岸本 拓哉,窪田 芳之,篠原 良章,根本 知己,重本 隆一,伊佐 正,関 和彦,遠藤 利朗,吉田 正俊,西村 幸男,坂谷 智也,渡邊 雅之(生理研)

【概要】
生理研研究会「シナプス伝達の細胞分子調節機構」は平成15年9月19-20日の2日間おこなわれ,分子からネットワークに至る幅広いレベルで活発な議論がおこなわれた。セッション「カルシウムと開口放出制御」においては,Ca2+誘起性Ca2+遊離機構(CICR) やCa2+チャネルを介する伝達物質放出制御やCa2+センサー分子の構造機能連関について議論された。セッション「メンブレンダイナミクス」においては,開口放出を制御する分子機構について議論された。また,シナプス活動に伴う樹状突起の形態ダイナミクスの研究が紹介された。セッション「伝達物質とその受容体」においては,伝達物質の同定とトランスポーターによる制御,ならびに受容体局在制御の分子機構について議論された。セッション「シナプス可塑性」においては,長期増強(LTP) ,長期抑圧(LTD) についての新しい知見が次々と報告された。セッション「シナプスネットワークとその可塑性」においては,これまでに議論されてきたシナプスやニューロンの機能をになう分子機構が,ネットワークとしての脳の機能にどのように反映されるのかについての新しい試みが報告された。また,高橋智幸氏による講演「B Katzの足跡とシナプス研究の未来」は,研究の進め方ということについての示唆に富んでおり,シニアの研究者に自省を促すとともに,若手の研究者に強いインパクトを与えたと思われる。シナプス研究の50年を総括するにふさわしい研究会であった。

 

(1)“Ca2+Wavelet”:Ca2+誘起性Ca2+遊離機構を介する
Ca2+波の最小単位の可能性

 秋田天平,久場健司(名古屋学芸大学管理栄養学部管理栄養学科解剖生理学研究室)

 今回我々は細胞膜でのCa2+流入量に応じてCa2+誘起性Ca2+遊離(CICR) による細胞内Ca2+放出量が連続的に変化しうることを説明する機序として,新たなCICRの最小単位の可能性について検討したので報告する。我々の対象である培養ウシガエル腰部交感神経節細胞では,細胞膜直下2-5mm以内の細胞質領域で引き起こされる細胞内Ca2+濃度上昇([Ca2+]i) のほぼ全てがCICRを介するCa2+波によるものであるが,w-conotoxin GVIA (1 mM) 投与中のCa2+電流の段階的な減少に伴うCICRの変化から,CICRによる領域全体のCa2+放出の総流束(flux) は細胞膜N-type Ca2+チャネルの開口数に比例することが判明した。一方,細胞膜脱分極の程度を段階的に高くすることによりCa2+電流の駆動力を減少させた場合では,単位Ca2+チャネルを通るCa2+流入量の減少に対し,CICRの流束はS字状に減衰した。以上のことは領域内のCICRが最小CICR単位の重ねあわせからなり,各々の最小単位は単位Ca2+チャネルの開口に伴う開口部近傍の高[Ca2+]i領域(Ca2+domains) を通じて活性化されることを示唆する。しかし,このようなCa2+流入に応じた領域内のCICR総流束の変化にもかかわらず,Ca2+チャネルの開口に引き続いて起こるCa2+波については,その領域内伝播の距離に変化が認められなかった。このことは[Ca2+]i上昇の蛍光信号を空間領域でスペクトル分析することにより確定できた。以上のことは最小CICR単位そのものがCa2+波であることを示唆し,そのような単位Ca2+波はCICRを担うライアノジン受容体が,それ自身に隣接する同受容体の活性化により形成される限局した高[Ca2+]i 領域を通じてのみ活性化される場合に初めて可能となる。この細胞に

 おける小胞体の網状構造を考慮すれば,単位Ca2+波とは網状構造の一部を伝わる高[Ca2+]i領域の「束」と考えられる。我々はそのような単位Ca2+波を" Ca2+wavelet"と名づけた。

 連絡先:tenpak@nuas.ac.jp

 

(2)海馬苔状線維シナプスにおける神経終末内カルシウムストアの機能

 神谷温之(神戸大学大学院医学系研究科細胞・神経生理学分野)

 シナプス前終末におけるカルシウム動態の制御因子として,近年,細胞内カルシウムストアの機能が注目を集めている。このうち,シナプス前終末に多く存在するミトコンドリアが大容量性のカルシウム緩衝系としても機能し,入力線維の長時間の繰り返し刺激により生じるテタヌス後増強(post-tetanic potentiation: PTP) と呼ばれる短期可塑性に寄与することが,ザリガニ神経筋接合部などで示されている。これに加えて,最近になって(1) カエル神経筋接合部,(2) ラット海馬CA3 野連合性シナプス,(3) ラット小脳抑制性シナプス,などの系でシナプス前終末における小胞体ストアの機能に関する報告が相次いでなされた。(1) (2) ではカルシウム誘発性カルシウム放出(calcium-induced calcium release: CICR) の機構により短期シナプス可塑性の増幅作用を示し,(3) では自発的カルシウム放出(カルシウムスパーク)を介して多素量の同期的放出による自発性シナプス応答('maximinis') を引き起こすことが報告されている。マウス海馬では,小胞体ストアからのカルシウム放出を担うリアノジン受容体のmRNAがCA3野錐体細胞および歯状回顆粒細胞に強く発現する。1型(RyR1:骨格筋型),2型(RyR2:心筋型),3型(RyR3) のリアノジン受容体のうち,苔状線維の起始細胞である歯状回顆粒細胞ではRyR2のmRNA発現が最も強く,RyR1がこれに続き,RyR3の発現は少ない。また,CA3野透明層には放射性標識したリアノジンに対する特異的結合部位が存在し,苔状線維を切断し変性させるとこれが消失することから,苔状線維シナプス前部にリアノジン受容体が存在する可能性が示唆される。この苔状線維シナプス前部におけるリアノジン受容体の機能を明らかにするために,マウス海馬スライス標本を用いて検討を行った。リアノジン受容体からのカルシウム放出を促すカフェインを投与すると,苔状線維シナプス伝達は著明に増大した。このとき,二発刺激促通は減少し,また,苔状線維終末に由来する微小EPSCの頻度が増加したことから,カフェインの作用はシナプス前終末からの伝達物質放出の促進によると考えられた。また,軸索標識法で苔状線維シナプス前部に選択的に蛍光カルシウム指示薬を負荷した標本において,カフェイン投与により終末内カルシウムレベルの増加を確認した。以上の結果は,苔状線維終末に機能的なリアノジン受容体が存在する可能性を示唆する。今後は,このシナプス前カルシウムストアがCICRの機構を介して苔状線維シナプスにおけるシナプス前性の長期増強・長期抑圧の誘発に寄与する可能性について検討を進めていきたい。

 

(3)アデノシンA1受容体を介するシナプス前抑制のメカニズムと
生後発達変化

 木村昌弘,斎藤直人,高橋智幸(東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻・神経生理学教室)

 アデノシンは神経活動や虚血に伴って細胞から放出されるATPの速やかな分解によって生成され,中枢神経系の恒常性に寄与することが知られている。生後5-7日のラット脳幹スライスMNTBニューロンからthe calyx of Heldシナプスの興奮性シナプス後電流(EPSC) をホールセル記録してアデノシンによるシナプス修飾作用を検討した。アデノシン(100mM) は自発性微小EPSC (mEPSC) の振幅を変化させず,刺激誘発性EPSCの振幅を抑制することから,作用点は神経終末端と同定された。A1受容体阻害薬CPT (0.5mM) は20秒間隔で誘発したEPSCの振幅には作用しなかったが,10Hz連続刺激中のシナプス抑制に対して部分的に拮抗した。神経活動によって放出されたATPがアデノシンに変換されて,A1受容体を活性化し,伝達物質の放出を抑制すると推論される。次にthe calyx of Heldシナプス前末端から電位依存性Ca2+電流(Ipca) およびK+電流をホールセル記録してアデノシンの作用を検討した。アデノシンはIpcaを可逆的に抑制したが,K+電流には作用しなかった。シナプス前末端と後細胞から同時記録を行い,Na+チャネル,K+チャネルをブロックした後にIpca(1msの脱分極パルスで誘発)によってEPSCを誘発し,アデノシンの作用を細胞外Ca2+/ Mg2+濃度比の減少作用と比較したところ,両者の入力(Ipca) 出力(EPSC) 関係はほぼ完全に一致した。アデノシンによるEPSCの抑制は専らシナプス前末端のCa2+電流の抑制によるものと判断される。N型Ca2+チャネル阻害薬w-conotoxinは生後5-7日のEPSCを部分的にブロックしたが,アデノシンによるEPSC抑制作用には影響を与えなかった。生後5-7日のラットにおいてアデノシンによるEPSCの抑制効果は顕著であったが生後発達と共に減少して生後14日には約1/3となった。これと平行して,western blottingで定量したMNTB領域のA1受容体タンパク質の減少が認められた。また,同様に免疫組織化学によってcalyx終末端に検出されるA1受容体の蛍光強度も生後発達と共に減弱した。未成熟動物においてthe calyx of Heldシナプス前末端のA1受容体は複数種のCa2+チャネルを非特異的に抑制することによって伝達物質の放出を制御すると結論される。未成熟動物の多くのシナプスでは伝達物質放出確率が高く,シナプス抑制が強いが,この傾向は生後発達と共に減少することが知られている(e.g. Iwasaki & Takahashi, 2001, J Physiol 534, 861) 。内在性アデノシンは未成熟動物の伝達物質放出確率を下げることによって伝達物質の枯渇を防ぐ役割を有すると推論される。

 

(4)Drosophila Synaptotagmin I: a Ca2+ sensor for synchronized release and a negative regulator of spontaneous vesicle fusion

 Tomonori Okamoto, Kazuhiro Suzuki and Yoshiaki Kidokoro* (Gunma University School of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi 371-8511 Japan)

 Synaptotagmin I (Syt I) is widely considered to be a major Ca2+ sensor for fast transmitter release and has two putative Ca2+ binding domains, C2A and C2B. To elucidate its roles in synaptic transmission in situ, we studied synaptic currents at the neuromuscular junction (NMJ) of Drosophila embryos that have mutations in syt I. Synaptic currents were induced by nerve-stimulation in external solutions containing various concentrations of Ca2+or by high K+ solutions. In a null allele, syt IAD4, synchronized synaptic currents were rarely evoked but not abolished. Its quantal content increased with [Ca2+] with a slope of 0.7 in double logarithmic plot, in contrast to 2.7 in control. The slope of 0.9 in an allele that lacks entire C2B, syt IAD1, was not different than in syt IAD4, whereas in another allele, syt IAD3, with one amino-acid substitution in C2B, it was 1.6. In normal saline, the miniature synaptic current (mini) frequency in syt IAD4 was not different than in other syt I alleles or in controls. Considering much smaller hypertonicity and Ca2+-ionophore responses in syt IAD4, this finding suggests that the release probability of docked/primed vesicles for spontaneous release is higher in the absence of Syt I. In high K+saline, the dependency of mini frequency on [Ca2+] in syt IAD4 was less than that in controls, while that in syt IAD3 was even lower than in syt IAD4. We conclude that Drosophila Syt I is a Ca2+ sensor for synchronized release but inhibits spontaneous quantal release.

 

(5)2光子励起グルタミン酸法によるシナプス動態の解析

 河西春郎,松崎政紀,野口潤,安松信明(生理学研究所)

 2光子励起法をケイジドグルタミン酸に応用することにより,大脳皮質錐体細胞の単一の興奮性シナプスの形態,機能,可塑性について系統的に調べる作業を行っている。今回は,形態可塑性と機能可塑性の関係,NMDA 受容体の分布の測定法などについて最近の知見を紹介したい。

 

(6)シナプス小胞サイクリングに関わるミオシン

 持田 澄子(東京医科大学・生理学第一講座)

 シナプス前終末に神経信号である活動電位が到達すると,シナプス小胞内に充填されていた神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出され,シナプス後細胞に化学的に信号が伝えられる。シナプス小胞開口放出後,シナプス前終末内に再取り込み(エンドサイトーシス)された小胞には伝達物質が再充填されて,備蓄プールに蓄えられ,開口放出部位(アクテイブゾーン)に運ばれる。このように,シナプス小胞は神経終末内でリサイクリングされており,神経終末に多数発現している蛋白質のいくつかが複合体を形成してそれぞれのシナプス小胞ステージを決定し,各ステージへのシナプス小胞の移送にはモター蛋白が働いていると考えられる。モター蛋白のひとつであるミオシンのうち,IIとVに分類されるミオシンが神経に多く発現しており,アクチン線維との相互作用によって,ミオシンIIは神経細胞や神経突起の動きを担い,ミオシンVは小胞輸送に関わっていることがこれまでに示唆されている。我々は培養ラット上頸交感神経節細胞間に形成されるコリン作動性シナプスを用いて,ミオシンIIがシナプス前終末において伝達物質放出に関わっている分子であることを確認している。

 ミオシンIIはIIAとIIB,ミオシンVはVa,VbとVc のアイソフォームが存在する。シナプス前終末での伝達物質放出におけるこれらのミオシンアイソフォームの機能的役割を明らかにするために,培養ラット上頸交感神経節細胞間シナプスを用いて解析を試みたところ,下記の事柄が確認された。

 1) ミオシンの免疫蛍光染色は,ミオシンIIBとVaは上頸交感神経節細胞の細胞体と神経突起に発現するが,シナプス前終末にはミオシンIIBのみが発現し,IIA,Vbは上頸交感神経節細胞にはまったく発現しないことを示唆する。

 2) 蛍光蛋白(Green Fluorescence Protein: GFP) を導入したミオシンcDNAの発現は,シナプス前終末にはミオシンIIBのみが発現し,Vaは発現しないことを支持する。

 3) ミオシンVa欠損ラットの交感神経節細胞間シナプスの電子顕微鏡像は,シナプス形態が正常であることを示唆する。また,ミオシンVa欠損ラット上頸交感神経節細胞シナプスの電気生理学的機能解析は,シナプス形成,シナプス小胞開口放出,シナプス伝達の強度と短期可塑性に異常は認められず,ミオシンVaが発現しなくてもシナプス伝達は正常に機能することを示唆する。

 4) ミオシンIIBの重鎖フラグメントを培養上頸交感神経節細胞シナプス前終末に導入して,ミオシンIIB重鎖とそのフラグメントを重合させることによってミオシンIIB機能を阻害すると,神経伝達物質放出量が減少する。神経伝達物質放出量の減少は,リン酸化されていないミオシンIIBの重鎖フラグメントのシナプス終末導入によってのみ認められ,リン酸化フラグメントやIIAフラグメントでは神経伝達物質放出量が不変であったことから,シナプス前終末内での脱リン酸化されたミオシンIIB重鎖フラグメントの重合がミオシンIIB機能発現に重要であると考えられる。

 5) 脱リン酸化ミオシンIIB重鎖フラグメントは,高張液(0.5M蔗糖)投与によって測定されるシナプス小胞開口放出部位の貯蔵プ−ル(readily releasable pool) の大きさを変えないが,頻回神経刺激によってシナプス小胞がリサイクリングされている状況ではこの貯蔵プ−ルがフラグメントによって枯渇されてくる。

 6) 脱リン酸化ミオシンIIB重鎖フラグメントは,PPD (Paired-pulse depression) にまったく影響しないことから,100ミリ秒以内の速いシナプス小胞リサイクリングには作用しない。また,従来から知られている遅いシナプス小胞リサイクリング(古典的リサイクリング)過程の小胞プールを神経刺激によって枯渇させると,シナプス小胞備蓄プール(reserved pool) のへの小胞移送は脱リン酸化ミオシンIIB重鎖フラグメントによって影響されないが,シナプス小胞開口放出部位貯蔵プ−ルへの小胞移送が遅くなる。最近では,シナプス前終末におけるシナプス小胞リサイクリングは,神経の興奮に応じてkiss-and-run,速いリサイクリング,古典的リサイクリングの3通りの過程が起こると考えられている。これらの小胞リサイクリング過程のうち,ミオシンIIBがシナプス小胞備蓄プールから小胞開口放出部位へのシナプス小胞輸送を担っているが,ミオシンIIA,Va,Vbはシナプス小胞輸送には関わらないことが伺える。

 1. Mochida S, Kobayashi H, Matsuda Y, Yuda Y, Muramoto K, Nonomura Y (1994) Myosin II is involved in transmitter release at synapses formed between rat sympathetic neurons in culture. Neuron13:1131-1142.

 

(7)膜融合関連蛋白質トモシンによる神経突起発芽・伸長の制御

 匂坂敏朗,田中晋太朗,馬場威,泉鉉吉,安見正人,高井義美
(阪大院・医・分子生理化学)

 Tomosyn, a membrane fusion related protein, regulates neurite outgrowth
 Toshiaki Sakisaka, Shintaro Tanaka, Takeshi Baba, Genkichi Izumi, Masato
 Yasumi, Yoshimi Takai
 (Osaka Univ., Med. Sch., Dept. of Mol. Biol. and Biochem.)

 神経細胞における軸索や樹状突起といった神経突起の伸長は,小胞輸送により膜成分が突起の先導端へ運ばれ,そこで小胞と膜が融合することにより起こる。膜融合には,普遍的な膜融合装置であるSNARE 系蛋白質が関与している。標的SNARE 蛋白質(t-SNARE) であるシンタキシン,SNAP25 は細胞形質膜上に広く存在することが知られている。そのため,膜融合が先導端以外の場所で非特異的に起こる可能性があり,t-SNAREの活性を負に制御する分子メカニズムが必要であると考えられる。私共は,シンタキシンに結合するSNARE 系の活性制御蛋白質として,トモシンを見出している。今回,私共は,神経突起の伸長におけるトモシンの役割について解析した。初代培養海馬神経細胞と神経芽細胞腫由来のNG108 細胞に,トモシンを過剰発現させると神経突起の伸長を抑制した。NG108細胞において,VSV-Gを用いたトランスポートアッセイにより,トモシンが膜蛋白質のエキソサイトーシスを抑制することによって,突起伸長が抑制されていることが明かとなった。また,トモシンはt-SNAREと複合体を形成し,膜融合に必須な7S SNARE 複合体の形成を抑制していた。さらにトモシンは,膜融合が活発に起こっている成長円錐の後基部に局在していた。以上の結果から,成長円錐の後基部において,トモシンが膜融合に必須な7S SNARE複合体の形成を抑制し,細胞形質膜上に境界を作り,非特異的な膜融合を抑制することにより,神経突起の伸長を制御していると考えられた。

 

(8)ラット内側前庭神経核ニューロンの神経伝達物質の同定

 齋藤康彦,高澤知規,都筑馨介,小澤瀞司
(群馬大学大学院・医学系研究科・神経生理)

 前庭神経核は,視線の方向や姿勢,体の平衡の制御,調節を司る中枢である。前庭神経核ニューロンの活動は動物の行動と密接に関連することから,前庭神経核ニューロンの機能的特徴を明らかにすることは前庭機能を理解する上で重要であると考えられている。近年,前庭神経核のin vitroスライス標本を用いた研究方法が確立され,内側前庭神経核において内在的な膜特性の異なるニューロン群が存在することが明らかになった。主なニューロンとして,単一のスパイク後過分極(AHP) が見られ活動電位の生成が時間的に遅れるType Aニューロン,時間的に速いAHPと遅いAHPの2つのAHP (double AHP) がみられるType B ニューロン,その中間的なType Cニューロンの3種類に分類されている。しかし,これらのニューロン群が前庭神経核内でどのような役割を持っているのかについては,十分な議論がされていない。その理由として,分類されたニューロン群のうちどれが興奮性ニューロンでどれが抑制性ニューロンなのかが明らかになっていない点が挙げられる。そこで本研究では,内側前庭神経核ニューロンの内在的な膜特性とそのニューロンがもつ神経伝達物質との関係を明らかにすることを目的とした。生後約3週齢のラットから前庭神経核スライス標本を作製し,ホールセルパッチクランプ法により内側前庭神経核ニューロンの内在的な膜特性(AHP,発火パターン,過分極応答)を調べ,そのニューロンから細胞質を取り出し,RT-PCR法により神経伝達物質関連マーカーの探索を行なうことで,そのニューロンがGABA作動性,グルタミン作動性,コリン作動性,グリシン作動性ニューロンのうちどれであるのかを判別した。ホールセル記録の結果,内側前庭神経核ニューロンは上記の3種類以外にも様々な膜特性をもつニューロンが存在することが明らかになった。GABA作動性ニューロンは様々な膜特性を示したが,特に,活動電位の生成が時間的に遅れるタイプの発火パターンは他のニューロンではほとんど見られなかったことから,GABA作動性ニューロンの特徴であると考えられる。一方,グルタミン作動性ニューロンのほとんどは,スパイク間隔がほぼ一定の発火パターンを示し,double AHPとH電流による内向き整流性を示すニューロンであった。以上の結果から,内側前庭神経核において,GABA作動性ニューロンは様々な反応特性を示すheterogeneousなニューロン群であり,グルタミン作動性ニューロンは線形な反応特性を示す限られたニューロン群であることが考えられる。

 

(9)マウス網膜外網状層のグルタミン酸トランスポーターによる
シナプス伝達調節

 長谷川淳,立花政夫
 (東京大学・大学院人文社会系研究科・心理学研究室)

 視細胞は光を受容すると過分極し,グルタミン酸の放出量を減少させる。ON型双極細胞の樹状突起には代謝型グルタミン酸受容体(mGluR6) があり,グルタミン酸の濃度が低いときに陽イオンチャネルが開き,脱分極する。したがって,光刺激によってON型双極細胞が遅滞なく脱分極するためには,シナプス間隙のグルタミン酸濃度が急速に減少しなければならない。このようなシナプスにおいては,グルタミン酸トランスポーターによるシナプス間隙からのグルタミン酸の除去が重要な役割を担っていると考えられる。

 本実験ではマウス網膜からスライス標本を作製し,桿体入力型(ON型)双極細胞に穿孔パッチ記録法を適用した。標本全体を持続的に光照射することで視細胞からの自発的なグルタミン酸放出を減少させておき,視細胞層を局所的に電気刺激したときに生じる双極細胞のシナプス後電流を記録した。双極細胞への抑制性シナプス入力は薬理学的に阻害しておいた。

 双極細胞の膜電位を約-60mVに保持した状態では,定常的に内向き電流が観察された。視細胞層にごく短い(0.2ms) 定電流パルスを与えると,一過性にこの内向き電流が減少するかたちで,外向き電流が発生した。mGluR6のアゴニストであるL-AP4を灌流投与すると,定常的な内向き電流が減少すると共に,電気刺激に対する応答も消失した。このことから,電気刺激によって生じた外向き電流は,視細胞から一過性に放出されたグルタミン酸が双極細胞のmGluR6を活性化して陽イオンチャネルの開確率を減少させた結果生じたものであることが確認された。そこで,電気刺激の強度を変化させ,視細胞からのグルタミン酸放出量を操作した。刺激の強度を大きくするにつれて,双極細胞で発生する外向き電流の振幅は増大したが,その持続時間はほぼ一定であった。一方,グルタミン酸トランスポーターの阻害剤であるTBOAを灌流投与すると,刺激の強度を大きくするにつれて外向き電流の振幅が増大するのみならず,持続時間が顕著に延長した。

 視細胞は光に対して緩電位応答をすることによって,グルタミン酸の放出量をアナログ的に変化させ,受け取る光の強度情報と時間情報とを符号化していると考えられる。しかしながらグルタミン酸トランスポーターを阻害した条件においては,視細胞からのグルタミン酸の放出量が多くなるにつれ,双極細胞の応答は振幅のみならず持続時間まで増大してしまうことがわかった。これでは,光の強度情報が双極細胞に伝えられる際に,時間情報にまで影響を与えてしまうことになる。本研究から,グルタミン酸トランスポーターはこれを防ぐため,視細胞が放出したグルタミン酸を積極的に回収し,双極細胞の応答の持続時間を一定にそろえる働きをしていることが強く示唆された。

* 照会先:  長谷川淳jun@l.u-tokyo.ac.jp
 立花政夫ltmasao@l.u-tokyo.ac.jp

 

(10)PSDの分子構築とその動態の定量的解析

 岡部繁男(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)

 シナプス後肥厚部(PSD) に存在する蛋白質群は興奮性シナプスの後部においてグルタミン酸受容体の局在や機能調節に重要な役割を果たしている。PSD 分子のシナプス後部への集積と動態の分子機構を解析する為に,GFPの蛍光量を基にした定量的な解析を試みている。

 PSD-95,PSD-Zip45 (Homer 1c),GKAP,cortactin binding proteinの4種類のGFP融合PSD蛋白質に対して長時間のタイムラプス観察を行った結果,これらの蛋白質の個々のシナプス後部への集積・分散のタイムコースはそれぞれ異なっていた。PSD-95分子は最もゆっくりとした動態を示し,PSD-Zip45の動態が最も急速であった。更に蛍光消退法(FRAP) を用いる事で,このような動態の差異の基礎に,定常状態でのPSDへの分子の組み込み速度の違いがある事が明かになった。NR1 knockout mouse でのPSD-95の動態解析から,PSD-95の動態は,NMDA 受容体の有無で大きく変化しないと考えられる。同様に,mGluR5 knockout mouseにおけるPSD-Zip45の動態解析から,この両者の相互作用もPSDの動態制御には強く関与していないと考えられた。以前我々はcortactin binding proteinのPSDヘの集積にはPSD-Zip45との相互作用が重要であるという結果を得ている。これに対してPSD-95 の集積を薬理学的に阻害してもGKAP,cortactin binding protein,PSD-Zip45の局在には大きな影響は無かった。樹状突起スパインはアクチン線維が豊富な構造であり,アクチン細胞骨格との相互作用もPSD分子の集積に関与していると考えられる。薬理学的にアクチン線維を脱重合させ,PSD分子の集積量の変化を定量した。4種類のPSD蛋白質のアクチン脱重合に対する反応はそれぞれ異なり,PSD-95は最もアクチン脱重合に対して抵抗性であった。また,GKAP, cortactin binding proteinのFRAP で観察された数分のhalf lifeを持つ成分はアクチン依存的な集積機構によるものと考えられた。

 以上のデータからPSD構造の中には(A) PSD-95を中心とした複合体(B) cortactin binding proteinとPSD-Zip45 を中心とした複合体(C) アクチン線維依存的な複合体の三つのドメインが少なくとも存在すると考えられる。AおよびBのドメインはそれぞれNMDA受容体,mGluR5 受容体に依存せずに形成され,Cのドメインは数分で構成蛋白質が置き換わるダイナミックな構造である。

 

(12)SDS-FRL法による歯状回LTP 誘導に伴うAMPA型
グルタミン酸受容体動態の解析

 深澤有吾(生理学研究所・脳形態解析部門)

 近年のゲノム解析により生体の持つタンパク質のほぼ全てが同定されたが,各分子の局在は現在用いられている解剖学的方法の技術的制約のため,不明な点が多く残されている。脳における情報伝達は,神経細胞膜上に存在する伝達物質受容体やチャネル,トランスポーターなどの分子によって担われ制御されており,これら分子の神経細胞膜上の分布や動態を知ることは,神経機能を支える分子機構の理解に必須と考えられる。そこで我々の部門では,凍結割断レプリカ免疫標識法(SDS-FRL 法)を応用することで同定された神経細胞における膜上機能分子の2次元的局在を電子顕微鏡レベルで解析する技術を確立し,この方法による小脳内のシナプス(平行線維.プルキンエ細胞,及び,登上繊維.プルキンエ細胞)におけるグルタミン酸受容体の局在解析を行った。その結果,これらシナプスのグルタミン酸受容体の分布様式に違いがあることを定量的に明らかにし,本方法がシナプス膜上機能分子の定量的解析に適していることを示した(馬杉ら,2003日本神経科学大会)。

 本発表では,シナプス機能の変化に伴うグルタミン酸受容体動態を明らかにすることを目的に,SDS-FRL法を用いて歯状回LTP誘導に伴うAMPA型グルタミン酸受容体の局在変化を解析した結果について以下の項目に沿って報告する。

 1) SDS-FRL法の原理と神経科学に応用するために改良した点

 2) プルキンエ細胞と海馬神経細胞の細胞膜上のグルタミン酸受容体分布の違い

 3) 歯状回LTP誘導に伴うグルタミン酸受容体の局在変化

 発表データは,方法の確立中と言うことも有り,予備的な結果を多く含みますが,皆様の忌憚無いご意見を頂き今後の参考にしたいと考えています。

 

(13)大脳皮質視覚野ニューロンの高頻度発火により誘発される
抑制性伝達の長期抑圧発現機構

 黒谷亨,小松由紀夫(名古屋大学環境医学研究所視覚神経科学)

 我々は,視覚野の抑制性シナプス伝達が可塑性現象に果たす役割を調べてきた。その一環として視覚野5層のニューロンを通電により高頻度発火させると,その細胞に生じるIPSPに長期抑圧(LTD) が誘発されることを,我々は見いだした。

 このLTDには,1) シナプス後細胞の高頻度発火により生ずる,2) 誘発には少なくともL 型電位依存性Ca チャネルの活性化による細胞内Ca 濃度の上昇が必要である,3) シナプス後細胞でのGABAコンダクタンスの減少を伴う,などの特徴がある。今回,その発現メカニズムをIR-DIC観察下でスライスパッチを行うことにより,詳細に検討したので報告する。

 実験には生後20から30日齢のSDラットの視覚野から切り出した,厚さ300μmの前額断スライス標本を用いた。興奮性伝達をDNQX及びAPVで抑制した後,4層刺激により誘発されるIPSCを,5層の錐体細胞からwhole cell記録した。高頻度発火によるLTDを再現するために,-70mVに膜電位固定した状態から,20msec,70mVの脱分極パルスを20Hzで5秒間与え,これを10秒ごとに30回繰り返すと,IPSCの振幅は脱分極刺激前の75%までに減弱した。LTD誘発前後でのIPSCの逆転電位は変化せず,GABAコンダクタンスが減少した。また,パッチ電極を介して細胞内にBAPTAを負荷すると,LTD誘発は阻害された。さらに,nifedipineを細胞外液に投与してもLTD誘発は阻害された。これらは,上述のIPSPのLTDの特徴によく一致する。

 このLTDにはさらに,1) 細胞体部に電気泳動的に与えたGABAに対する応答にも,脱分極パルス後にLTDが生じる,2) LTD誘発前後で,IPSCのpaired-pulse ratioは変化しない,3) LTDのmagnitudeに対し,LTD誘発前後のIPSCの変動係数の2乗の逆数比をプロットすると,多くが傾き1の直線の周囲に集まる,などの特徴が見られた。これらの結果は,シナプス前部あるいは後部で,LTD誘発に伴い,機能的シナプスのサイレント化が生じていると仮定すると,矛盾なく説明できる。

 この可能性について検討したところ,以下の結果を得た。1) 抑制性介在細胞と思われる非錐体細胞,及び錐体細胞からdouble whole cell記録を行い,介在ニューロンの通電発火により,錐体細胞に生じるunitary IPSCを記録した。錐体細胞に脱分極パルスを与えたところ,ユニタリIPSCのfailure rateが増加した。2) テトロドトキシン存在下で錐体細胞から記録を行い,細胞体部へGABAを電気泳動的に,0.5Mのsucrose溶液をpressure ejectionにより投与し,GABA応答にLTDが生じたときに,sucroseにより誘発されるminiature IPSCの振幅を計測したところ,その振幅ヒストグラムは変化しなかった。これらの結果とGABA応答にもLTDが生じることを考え合わせ,シナプス後部でサイレント化が生じている可能性について,さらに検討した。

 GABAA受容体の細胞内への内在化には,clathlin依存性のエンドサイトーシスの関与が報告されているので,パッチピペットを介して種々の阻害剤を錐体細胞に負荷し,その効果を調べた。

 1) dynaminとamphiphysinの結合を阻害するペプチドを負荷すると,LTD誘発は阻害されたが,スクランブルしたペプチドには,その効果がなかった。また,GDP-βSの負荷によっても,LTD誘発は阻害された。2) PKCの阻害剤であるPKC fragment[19-31],セリン−スレオニンキナーゼの阻害剤staurosporineを負荷すると,LTD誘発は阻害された。

 以上の結果から,脱分極パルスにより誘発されるIPSC のLTDには,クラスリン依存性のGABAA受容体の内在化が関与していると考えられる。またこのLTDは,シナプス後部における機能的シナプスのサイレント化により発現することも示唆される。

 

(14)インテグリンによる小脳抑制性シナプス可塑性の調節

 川口真也,平野丈夫(京都大学大学院理学研究科・生物物理)

 小脳皮質の抑制性介在ニューロン(星状・籠状細胞)とプルキンエ細胞間のGABA性シナプスにおいて,プルキンエ細胞の強い脱分極によりGABAA受容体を介する応答が長時間増強されることが知られている。私たちは以前,プルキンエ細胞の脱分極時にシナプス前細胞が活性化すると,プルキンエ細胞のGABAB受容体活性化を介して脱分極依存性増強の誘導が抑制されることを見出した。本研究会では,GABAB受容体による増強誘導の抑制が細胞接着分子であるインテグリンの機能亢進を介して長時間持続することを報告する。

 培養プルキンエ細胞を,GABAB受容体作用薬であるbaclofen (50 mM) を含む高濃度K(50 mM) 溶液により刺激し,脱分極とGABAB受容体活性化を起こさせると,その条件刺激後96時間以上にわたって脱分極依存性増強が起こらなくなった。このシナプス可塑性の長期間にわたる抑制は,条件刺激時のmRNA合成阻害やMAPK カスケード阻害により消失したことから,脱分極とGABAB受容体活性化により,おそらくMAPKカスケードを介して何らかのmRNAが合成され,その結果数日間増強が起こらなくなったと考えられる。

 このシナプス可塑性発現の長期にわたる抑制に接着分子が関与している可能性を検討したところ,脱分極とGABAB受容体活性化の条件刺激を行うと,インテグリンa3サブユニットタンパク質の量がプルキンエ細胞で増加することが分かった。そして,増強誘導の長期にわたる抑制効果は,インテグリンとリガンドとの結合を阻害するペプチドやSrcファミリーのタンパク質チロシンキナーゼの阻害剤により消失した。これらの結果は,脱分極とGABAB受容体活性化によりインテグリン/Srcカスケードが亢進され,それが増強誘導を長時間にわたり抑制することを示唆する。実際,インテグリンの活性化やc-Srcタンパク質のプルキンエ細胞への導入により増強の誘導は阻害されることから,インテグリン/Srcカスケードが増強誘導を負に調節していると考えられる。

 以上の結果から,プルキンエ細胞で脱分極とGABAB受容体活性化が同時に起こると,細胞接着分子であるインテグリンを介するシグナル伝達系が長期にわたり亢進し,その結果GABAA受容体の増強が抑えられ,抑制性シナプス伝達が可塑的な状態から安定化されると考えられる。

 連絡先:kawaguchi@nb.biophys.kyoto-u.ac.jp

 

(15)グルタミン受容体d2 サブユニット欠損マウスのプルキンエ細胞における抑制性シナプス伝達増強の飽和

 大槻元,川口真也,平野丈夫(京都大学大学院理学研究科・生物物理)

 小脳は運動制御に関わり,そこでのシナプス可塑性は運動学習の基盤と考えられている。小脳皮質神経回路内で唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞は,興奮性と抑制性のシナプス入力を受け,両者を時間-空間的に加算して活動電位発火パターンを決めている。プルキンエ細胞に対する興奮性シナプスでの可塑性としてシナプス伝達の長期に渡る減弱現象である長期抑圧が知られており,また抑制性シナプスでの可塑性としてシナプス伝達の長期に渡る増大現象である脱分極依存性増強が知られている。

 δ2は,アミノ酸配列の相同性からイオン透過型グルタミン酸受容体のサブユニットに分類され,中枢神経系の中で小脳プルキンエ細胞特異的に発現し,興奮性シナプス伝達の長期抑圧誘導に不可欠であることが知られているが,δ2サブユニットが細胞内で働くメカニズムはまだ不明である。私たちの研究室では,このδ2サブユニットを欠損した遺伝子欠損マウス(以下,δ2欠損マウス)の解析を行ってきている。これまでの研究により,δ2欠損マウスでは,重度の運動失調がみられ,また10Hzのリズムを持つ不随意運動が生じていることがわかった。δ2 欠損マウス生体内のプルキンエ細胞の活動電位を記録すると,10Hz周期を示す異常な発火パターンが観察され,この10Hzの特徴的な発火パターンには登上線維入力が寄与していることを示唆する結果も得られている。一方,δ2 欠損マウスの小脳スライス切片上のプルキンエ細胞は,野生型のプルキンエ細胞より全般的に自発発火の頻度が低かった。そこで,その原因を追求する一連の実験を行った。まず膜電位感受性色素を用いた興奮伝播解析から,小脳プルキンエ細胞に対する抑制性入力がδ2欠損マウスでは野生型よりも強いことがわかった。次に,ホールセルパッチクランプ法によりプルキンエ細胞から抑制性シナプス後電流(以下,IPSC)を記録したところ,δ2欠損マウスの方が野生型よりもIPSCが大きいことがわかった。さらに,スライス切片にGABA阻害剤を投与すると,δ2欠損マウスで野生型よりも自発発火頻度の上昇が大きかった。このように,δ2欠損マウスのプルキンエ細胞では抑制性シナプス入力が強くなっていることが明らかになった。小脳プルキンエ細胞でIPSCを増大させる機構として,抑制性シナプス伝達の脱分極依存性増強が考えられる。そこで野生型及びδ2欠損マウスで脱分極依存性増強を調べたところ,δ2欠損マウスから取り出した小脳切片では脱分極依存性増強が起こらないことがわかった。これらの実験結果から,δ2欠損マウス生体内の小脳プルキンエ細胞では脱分極依存性増強が起こってしまっていて,そのためにプルキンエ細胞への抑制性シナプス入力が強くなっていたと考えられる。

 

(16)代謝型グルタミン酸受容体による神経可塑性修飾の分子機構
−メタ可塑性を中心に−

 渡部文子(東京大学・医科学研究所・神経ネットワーク分野)

 記憶・学習に深く関与する海馬では,イオン透過型と代謝型という複数種のグルタミン酸受容体を介してシナプス伝達が行われる。イオン透過型の一つであるNMDA 受容体は,シナプス前細胞と後細胞の活動のcoincidence detector として,シナプス可塑性や学習行動に重要な役割を担う分子であると考えられている一方,代謝型グルタミン酸受容体(mGluR) の役割には未だ不明な点が多い。

 これまで我々は,NMDA受容体複合体に含まれる足場タンパクであるPSD-95変異マウスや,PSD-95結合タンパクでありMAPキナーゼ系の負の調節因子であるSynGAP変異マウスなどの遺伝子改変マウスを用いて,長期増強(LTP) や長期抑圧(LTD) といったシナプス可塑性の変化,種々のパターン刺激によるLTPの誘導閾値の変化,ならびに記憶・学習行動の変化などを調べてきた。また,老齢マウスにおいて,アセチルコリンやノルアドレナリンなどによるLTP誘導閾値の修飾作用が大きくシフトしていることを示してきた。これらの結果から,LTPの大きさそのものよりもむしろLTPの誘導閾値の調節が記憶・学習行動と特に良く相関していることが示唆された。そこで今回の発表ではこれら一連の研究を簡単に紹介すると共に,LTP誘導閾値の活動依存的調節,すなわちメタ可塑性の分子機序解明の第一歩として,代謝型グルタミン酸受容体によるLTP誘導閾値調節機構について最近の知見を紹介したい。

 

(17)ニコチンによる線条体ドーパミン/DARPP-32 情報伝達系の調節

 西昭徳,浜田美保,東英穂(久留米大学医学部生理学第一講座)

 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) は中枢神経系では主として神経終末に発現し,神経伝達物質の放出を調節することが知られている。線条体ではドーパミン作動性神経終末にはa4b2* nAChRが,グルタミン酸作動性神経終末にはa7 nAChRが発現しており,それぞれドーパミン,グルタミン酸の放出を促進している。nAChRを介するドーパミン放出はパーキンソン病の病態と密接に関わっており,喫煙者ではパーキンソン病の発症率が低く,ニコチンはパーキンソン病に対して治療効果を示すことが知られている。また,統合失調症や注意欠陥多動障害ではニコチンにより認知障害が改善することも報告されている。しかし,nAChRを介した作用が行動障害,認知障害を改善する分子機構,ニコチン依存症を来す分子機構は未だ明かではない。

 線条体ニューロン(medium spiny neuron) には,ドーパミンにより制御されるリン酸化蛋白DARPP-32 (dopamine- and cAMP-regulated phosphoprotein, Mr 32 kDa) が選択的に発現している。DARPP-32は,Thr34残基がPKA によりリン酸化されるとPP-1抑制蛋白として作用し,PP-1基質のリン酸化レベルを調節することで線条体神経機能を調節している。多くの神経伝達物質の作用はDARPP-32リン酸化を介して統合されるため,DARPP-32は線条体での情報統合機構解析モデルとして優れている。本研究では,ニコチンによるDARPP-32のThr34残基リン酸化調節をマウス線条体スライスを用いて検討した。

 ニコチン(100 mM) はDARPP-32 Thr34 残基リン酸化を一過性に促進した。ニコチン(100 mM) によるリン酸化上昇は,ドーパミンD1拮抗薬SCH23390,DHbE(a4b2* nAChR 拮抗薬),a-bungarotoxin(a7 nAChR 拮抗薬)およびNMDA/AMPA受容体拮抗薬により抑制された。一方,ニコチン(1 mM) はDARPP-32 Thr34 残基リン酸化レベルを低下させた。ニコチン(1 mM) によるリン酸化低下はドーパミンD2拮抗薬racloprideおよびDHbEにより抑制されたが,a-bungarotoxin,NMDA/AMPA受容体拮抗薬では抑制されなかった。

 以上より,ニコチン(100 mM) はa4b2* nAChRとa7 nAChRを活性化し,a7 nAChR刺激により放出されたグルタミン酸がドーパミン神経終末でNMDA/AMPA受容体を活性化し,a4b2* nAChR と相乗的にドーパミン放出を促進すると考えられた。その結果,ドーパミンD1 signalingを増強する事が示唆された。一方,ニコチン(1 mM) はa4b2* nAChRのみを活性化し,a4b2* nAChR刺激により放出されたドーパミンは選択的にドーパミンD2 signalingを増強する事が示唆された。

 

(18)単一海馬苔状線維終末におけるCa2+チャネルサブタイプ発現の
多様性 −同一軸索上終末のCa2+チャンネルサブタイプ発現−

 宮崎憲一,真鍋友則,古関 誠,石塚 徹,八尾 寛

 (東北大学大学院生命科学研究科脳機能解析学分野)

 海馬苔状線維シナプス前終末には多彩なCa2+チャンネルサブタイプが発現している。われわれは,海馬CA3領域透明層において,苔状線維終末に少なくとも4種類のCa2+チャンネルサブタイプ,N-,P/Q-,L-,R-typeが分布していることを報告した。しかし,シナプス前終末個々においてCa2+チャンネルサブタイプがどのように発現しているかについては調べられていない。また,CA3錐体細胞樹状突起基部に形成される大型のシナプスとGABA性介在ニューロンに形成される小型のシナプスが機能的に異なっている可能性がある。本研究会においては,CA3錐体細胞を標的とする大型のシナプス前終末に注目し,単一海馬苔状線維シナプス前終末においてCa2+チャネルサブタイプがどのように発現しているかを検討した。

 マウス海馬スライスを作成し,歯状回顆粒細胞層に蛍光デキストラン色素を投与し,順行性に苔状線維を標識した。細胞外Ca2+をSr2+に置換し,シナプス前終末におけるSr2+流入を光学的に測定した。共焦点顕微鏡下に,Ca2+非感受性のAlexa546-dextran蛍光で大型のシナプス前終末を形態的に同定し,Ca2+感受性のOregon Green 488-BAPTA1-dextran蛍光でSr2+濃度変化を測定した。

 単一の苔状線維シナプス前終末においては,4種類のCa2+チャンネルサブタイプがさまざまなパターンで発現しており,個々のシナプス前終末はCa2+チャンネルサブタイプの発現率においてヘテロであることを見出した。さらに,同一軸索の二つの終末を比較したところ,Ca2+チャネルサブタイプの発現比率においてへテロであることが示唆された(図A, B)。

 一般にCa2チャネルサブタイプは異なる修飾を受けていると考えられる。したがって,個々のシナプス前終末がCa2+チャネルサブタイプの発現比率においてヘテロであるということから,伝達物質放出が多様に調節されていることが示唆される。このような多様性が苔状線維シナプスネットワークの柔軟性を生み出していると考えられる。

図A 同一軸索の二つの終末のフレームスキャン画像 図B シナプス前終末のN-typeカルシウムチャンネルの発現比率
Alexa546-dextranで染色し,共焦点レーザー顕微鏡で撮影したフレームスキャン画像。矢印は光学測定を行ったシナプス前終末 図A内のシナプス前終末にCgTxGVIA(10μM)を加えた後の蛍光強度の減衰率。蛍光強度はOregon Green 488- BAPTA1-dextranの蛍光変化量を測定した。

 連絡先:miyazaki@mail.cc.tohoku.ac.jp

 

(19)空間学習成立マウス海馬における苔状線維の新しい投射の解析

 和地 恵・奈良 諭・石塚 徹・八尾 寛
 (東北大学大学院 生命科学研究科 脳機能解析分野)

 【背景および目的】

 海馬ではシナプスの発芽や退縮といった変化が活発に起きており,この変化が学習・記憶のメカニズムの一端を担っていると考えられる。ここで,新しく形成されたシナプスとすでに成熟して固定化されたシナプスは機能的に異なっている可能性がある。例えば,成熟し固定化されたシナプスは情報をより迅速に伝えることに特化した性質を持ち,逆に新しいシナプスはより探索的な性質を持っているのではないだろうか。そこで,海馬顆粒細胞とCA3錐体細胞に形成される苔状線維シナプスをモデルにこれを検証する。モリス水迷路学習トレーニングにより空間学習の成立したマウスの海馬においては,異所性の苔状線維投射が認められている。この新たに見られる投射が海馬のどの部位で起こるのか,またこの投射はシナプスとしての構造や機能を所有しているのか,どこの細胞由来であるのか,さらにはシナプスとしての機能を有するのであれば成熟したシナプスとの機能的な差異はあるのかを検証する。

 【結果および考察】

 モリス水迷路学習による苔状線維の異所性投射

 生後3週齢のC57BL/6マウスにモリス水迷路学習を課し,学習が成立したマウスの海馬スライスを作製した。苔状線維およびその終末には,他の部位と比較して多くの亜鉛が存在しているので,亜鉛染色法を用いて苔状線維を可視化できる。具体的には,亜鉛染色法の1つであるTimm染色で苔状線維を,Nissl染色で歯状回顆粒細胞,錐体細胞を染色し,未学習マウスと学習成立マウスの苔状線維の投射を比較した。成体の苔状線維終末はCA3 領域においては,おもにstratum lucidumに分布している。しかし,モリス水迷路学習成立後のマウスでは,全体的に苔状線維が太くなっているとともにstratum oriens側への異所性投射が存在していることが確認された。

 新しい苔状線維投射部位の特定

 空間学習成立後の苔状線維の異所性投射が海馬のsepto-temporal axisの全領域で起こるのかを検討する目的で,septalからtemporalの海馬スライスを順次作製して,学習成立マウスと対照マウスの苔状線維の投射を比較した。苔状線維の投射を数値化し比較する方法としてCA3領域を図のように3つの亜領域a(学習成立後のマウスでは苔状線維の新しい投射が伸びる部位),b(学習成立後のマウスでは苔状線維の投射が見られ線維が太くなる部位),c(両者で変化が見られない部位)に3等分した。海馬のseptal側400-800μmおいて,その面積比a/cおよびb/cに有意差が認められたのに対し,temporal側では学習成立群と対照群に差がみとめられなかった。

 異所性投射をする歯状回顆粒細胞の形態の解析

 学習成立後のマウス海馬に見られる新しい苔状線維の異所性投射をしている歯状回顆粒細胞の形態的特徴を検討した。海馬スライスを,亜鉛感受性蛍光色素の一種TSQで生体染色し,stratum oriensに投射する苔状線維末端を同定した。ここに蛍光デキストランを投与し,逆行性に歯状回顆粒細胞を標識した。oriensに異所性投射した顆粒細胞は,歯状回の全領域に分布した。また,その樹状突起主幹の数も幅広い分布を示した。

 連絡先:wachicat@mail.cc.tohoku.ac.jp(和地 恵)

 

(20)Hyperpolarization-activated cation current and its modification of dendritic spike initiation in projection neurons of the rat superficial superior colliculus

 遠藤利朗,納富拓也,重本隆一,伊佐 正
 (生理研 1認知行動発達,脳形態解析)

 上丘の浅層は,視覚定位行動や空間視に関わるとされる,いわゆる膝状体外視覚系の中枢である。上丘浅層には形態的,電気的性質の異なる様々なニューロンが存在している。その中で,主要な出力ニューロンであるWide field vertical (WFV) neuronと呼ばれるニューロンには,樹状突起が浅層の視覚地図上の非常に広い範囲にわたって広がっており,hyperpolarization-activated cation nonselective (HCN) current (Ih) を顕著に示すという際立った特徴が知られている。

 今回我々は,Ihの活性化キネティクスの解析と免疫組織化学的染色を行い,WFV neuronにおいてはHCN channelのサブタイプのうちHCN1が主要な成分を構成し,主として樹状突起に発現していることを示唆する結果を得た。一方で,WFV neuronは入力線維の電気刺激に応答して,細胞体の膜電位に関係なく活動電位を生成することから,活動電位は電気緊張的に細胞体から遠い部位,すなわち樹状突起において開始されることが示唆された。Ihを抑制することによって,入力線維の電気刺激に対して発火する確率の減少,発火までの潜時の延長,発火の閾膜電位の上昇が認められた。このことから,WFV neuronの樹状突起に発現しているHCN1は,樹状突起における活動電位の生成あるいは細胞体への伝導に重要な役割を果たしていることが示唆された。

 樹状突起において活動電位が生成され,かつHCN channelが発現していることにより,WFV neuronはそれぞれの樹状突起の遠位部分への視覚入力に対して短潜時で確実に応答することができると考えられる。このような特性は,WFV neuronが受容野の中を動く視覚刺激に対して応答しやすいという性質に寄与していると考えられる。

 


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