2003年12月11日−12月12日
代表・世話人:柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
所内対応者:柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
- (1)
- 帯域ノイズの帯域幅を変化させた時の脳磁界反応
添田喜治,中川誠司,外池光雄,守谷哲郎(産業技術総合研究所ライフエレクトロニクス研究ラボ)
- (2)
- 聴覚逆方向マスキングを引き起こすペア音刺激に対する脳磁界反応
阿部雅也,子安利征,川勝真喜,田中慶太,小谷誠(東京電機大学工学部電子工学科)
- (3)
- 聴覚におけるLateral inhibitionとhabituationの比較
岡本秀彦1,2,軍司敦子1,柿木隆介1,久保武2,Christo Pantev3
(1岡崎国立共同研究機構生理学研究所,
2大阪大学大学院耳鼻咽喉科学,
3 Director of the Institute for Biomagnetism und Biosignalanalysis Munster University Hospital)
- (4)
- 読譜は音楽家の聴覚野応答を低下させる
湯本真人,伊藤憲治,狩野章太郎,加我君孝(東京大学医学部)
宇野彰,金子裕(国立精神神経センター)
松田眞樹(東京芸術大学)
- (5)
- 第2言語音素の脳内知覚
船津誠也(県立広島女子大学)
今泉敏(広島県立保健福祉大学)
橋詰顕,栗栖薫(広島大学医学部)
- (6)
- 高頻度反復刺激によるtransient型とsustained型脳磁場反応の解析
前川俊彦,後藤純信,谷脇考恭,飛松省三(九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理)
- (7)
- 小児の視線認知における脳磁場初期反応に関する解析
木村育美,久保田雅也,広瀬宏之,榊原洋一(東京大学医学部附属病院小児科)
湯本真人(東京大学医学部附属病院検査部)
- (8)
- 単語判別課題を用いた視覚逆方向マスキング刺激に対する脳磁界応答
子安利征,川勝真喜,田中慶太,小谷誠(東京電機大学大学院工学研究科電子工学専攻)
- (9)
- 開口合成法を用いたMEGによる言語関連領野の時空間・周波数解析
平田雅之1,2,加藤天美1,井原綾2,3,齊藤洋一1,谷口理章1,二宮宏智1,依藤史郎2,吉峰俊樹1
(1大阪大学大学院医学系研究科神経機能制御外科学講座,
2大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学講座,
3岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
- (10)
- 聴覚性P300に関連した律動的脳磁場活動のSAM法による解析
石井良平,鵜飼聡,山本雅清,川口俊介,小川朝生,武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
篠崎和弘(和歌山県立医科大学神経精神科学教室)
軍司敦子(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
Wilkin Chau (The Rotman Research Institute, Baycrest Centre for Geriatric Care, University of Toronto)
Christo Pantev (Institute of Biomagnetism and Biosignal Analysis, University of Munster)
- (11)
- MEG計測を用いた口蓋粘膜電気刺激による大脳皮質味覚野の応答
別所央城1,3,4,武田栄三1,3,田崎雅和2,3,矢島安朝1,3,野間弘康1,3,小早川達4,斉藤幸子4,
(1東京歯科大学口腔外科学第一講座,
2東京歯科大学生理学講座,
3東京歯科大学口腔科学研究センター,
4産業技術総合研究所脳神経情報研究部門)
- (12)
- 嗅覚刺激のリアルタイム計測による嗅覚事象関連電位及び脳磁場の同時計測
小早川達,戸田英樹,後藤なおみ,斉藤幸子(独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門)
- (13)
- 内側型側頭葉てんかんの障害側を脳図磁の電流双極子分布により予測する
芳村勝城(国立療養所静岡神経医療センター)
- (14)
- 発作間歇期棘波直前のγ帯域の活動の変化
金子裕(国立精神・神経センター武蔵病院脳神経外科)
岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院精神科)
久保田有一(せんぽ東京高輪病院脳神経外科)
湯本真人(東京大学医学部附属病院臨床検査部)
- (15)
- 傾斜磁場トポグラフィーの動画化
橋詰顕(広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻)
- (16)
- 電流源の広さとdipole推定法の適否について
渡辺裕貴,芳村勝城,宇留野勝久(国立療養所静岡神経医療センター)
- (17)
- 正中神経繰り返し刺激における測定変量間の伝達関数の同定
加藤健治,岸田邦治,深井英和(岐阜大学工学部応用情報学科)
篠崎和弘(和歌山県立医科大学精神医学教室)
鵜飼聡,石井良平,山本雅清,川口俊介(大阪大学大学院医学研究科神経機能医学講座)
- (18)
- アルファ波Current-Dipoleのダイナミックスの脳磁図上での直接観察
川端啓介(大阪府立大学)
内野勝郎(平成医療学園専門学校)
村田和優(藍野学園短大)
外池光雄(産業技術総合研究所ライフエレクトロニクスセンター)
- (19)
- MEG電源の階層変分ベイズ推定
佐藤雅昭1,2,吉岡琢1,梶原茂樹3,外山敬介3,郷田直一1,銅谷賢治1,2,川人光男1
(1ATR脳情報研究所,
2科学技術振興事業団CREST,
3(株)島津製作所基盤技術研究所)
- (20)
- 聴覚刺激における伝達関数の同定とその磁界の向きとの関連性について
大井康弘,岸田邦治(岐阜大学工学部応用情報学科)
外池光雄,岩木直(産業技術総合研究所)
- (21)
- 随意運動に伴う痛覚関連体性感覚誘発脳磁図の変動
中田大貴,乾幸二,柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
- (22)
- 自発運動準備期における体性感覚誘発脳磁場の変動
和坂俊昭(筑波大学体育科学研究科)
宝珠山稔,中田大貴,柿木隆介(生理学研究所生体調節研究系感覚運動調節研究部門)
- (23)
- 命令嚥下におけるヒト脳賦活領域
長崎信一,山科敦,末井良和,谷本啓二(広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態情報医科学講座)
橋詰顕,栗栖薫(広島大学大学院医歯薬学総合研究科先進医療開発科学講座)
柴芳樹(広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探求医科学講座)
藤原百合(広島大学医学部歯学部附属病院言語治療室)
- (24)
- 脳梗塞患者におけるMCE法を用いた運動関連脳磁場の解析
木野元裕一,小谷賢太郎,堀井健(関西大学工学部システムマネジメント工学科)
江坂茂朗(関西大学大学院工学研究科)
山田誠,出口潤,宮武伸一,黒岩敏彦(大阪医科大学脳神経外科)
外池光雄(産業技術総合研究所関西センター)
- (25)
- 後頭脳磁図反応と頭頂運動関連脳磁図反応のGO/NOGO反応における
1/fnゆらぎのべき乗nの影響の検討
原田暢善,中川誠司,岩木直,山口雅彦,外池光雄,守谷哲郎
(産業技術総合研究所関西研究センターライフエレクトロニクス研究ラボ)
Tom Holroyd(通信総合研究所関西先端研究センター柳田結集型特別グループ)
【参加者名】
青山 敦(慶應大大院・理工),赤塚康介(鹿児島大大院・教育),足立信夫(松下電器産業(株)),阿部雅也(東京電機大・工),阿部十也(京都大大院・医),荒木康智(慶應大・医),石井良平(大阪大大院・医),植木美乃(京都大・医),江坂茂朗(関西大大院・工),大井康弘(岐阜大・工),大崎康宏(大阪大大院・医),大塩立華(名古屋大大院・医),岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院),岡崎由香(九州工業大),荻野祐一(群馬大附属病院),小野弓絵(早稲田大大院・理工),小野田恵子(日本大・医),加藤健治(岐阜大・工),金子 裕(国立精神・神経センター武蔵病院),川勝真喜(東京電機大・情報環境),川口俊介(大阪大大院・医),川嶋真司(石川県産業創出支援機構),川田昌武(徳島大・工),川端啓介(大阪府立大),岸田邦治(岐阜大・工),木野元裕一(関西大・工),木村育美(東京大医学部附属病院),久留水彩(東京医科歯科大大院・医歯学総合),久保田有一(せんぽ東京高輪病院),栗田澄江(群馬大大院・医),栗山紘明(早稲田大大院・理工),黒川智美(九州大・医),高田橋篤史(藤元早鈴病院),小谷賢太郎(関西大・工),後藤純信(九州大大院・医),小早川達(産業技術総合研究所),小林晴子(大阪大大院・医),小林義昌(東京歯科大大院・歯),小見山彩子(日大駿河台病院),子安利征(東京電機大大院・工),坂本貴和子(東京歯科大・臨床検査学),崎原ことえ(大阪大大院・医),佐藤雅昭(ATR脳情報研究所),志々田一宏(広島大大院・医歯薬学総合),設楽直也(群馬大大院・医),柴 芳樹(広島大大院・医歯薬学総合),島浩史(金沢大大院・脳機能制御学),添田喜治(産業技術総合研究所),高田あゆみ(エレクタ(株)),高田慎也(鹿児島大大院・教育),武井雄一(群馬大・脳神経行動学),竹内文也(北海道大・電子科学研究所),竹形理佳(産業技術総合研究所),竹林成典(名古屋大・医),田代研之(九州大・医),田中絵実(奈良女子大大院・人間文化),田中博昭(横河電機(株)),谷本啓二(広島大大院・医歯薬学総合),田野辺幸英(東京電機大・工),寺田さとみ(東京大大院・医),外池光雄(産業技術総合研究所),飛松省三(九州大大院・医),富澤将司(東京医科歯科大・脊椎脊髄神経外科学),中川誠司(産業技術総合研究所),長崎信一(広島大大院・医歯薬学総合),中島大輔(九州大大院・医),長峯 隆(京都大・医),橋詰 顕(広島大大院・医歯薬学総合),原田暢善(産業技術総合研究所),東 祐二(藤元早鈴病院),平田雅之(大阪大大院・医),藤田美都紀(東京大大院・工),船津誠也(広島女子大),別所央城(東京歯科大大院),星野大介(早稲田大大院・理工),本多結城子(愛知淑徳大・コミュニケーション),本間俊道(早稲田大・理工),前川敏彦(九州大大院・医),政家一誠(東京大大院・工),松林 潤(京都大・医),丸山敦夫(鹿児島大・教育),水落智美(東京大大院・医),宮城島孝昭(群馬大・脳神経外科),山川恵子(東京大大院・医),山崎貴男(九州大大院・医),山田孝子(国立療養所中部病院),山田誠(大阪医大・脳外科),湯本真人(東京大医学部附属病院),横田公一(CBC(株)),吉井貴光(東京大大院・工),吉岡 琢(ATR脳情報研究所・計算神経生物学),芳村勝城(国立療養所静岡神経医療センター),渡辺裕貴(国立療養所静岡神経医療センター),渡邊 裕(東京歯科大・オーラルメディシン),郷田直一(生理研),関 和彦(生理研),田邊 宏樹(生理研)
【概要】
脳磁図に関する研究会は1997年に開始後,既に7回目を数えるようになった。その間は,世話人,テーマ,特別講演などを毎回変えて趣向をこらしてきた。他の研究会とは異なり,同じメンバーが毎年発表するのではなく演題公募形式にしているため,比較的若い研究者の発表が多いのが大きな特徴である。本年も外部よりの参加者は90名以上であり,研究所内部の参加者も含めれば100名をはるかに越える会であり,おそらく生理研研究会の中では最大規模のものと思われる。
本年度は特別講演は無く,25の一般演題が発表された。口演のみに限定しており,1演題あたり20ないしは30分の持ち時間があるため,じっくりと発表し十分に議論する,という研究会発足時からの方針どおりの実りのある中身の濃い研究会となった。演題は,聴覚に関するものが7題と最も多く,しかもいわゆる高次脳機能に関連する興味深い演題が多く,最近の研究の動向が良く示されている。逆に視覚に関連する演題は2題と少なく,聴覚は脳波あるいは脳磁図,視覚は機能的磁気共鳴画像(fMRI) という傾向は今後しばらくは継続するかもしれない。他には,味覚,嗅覚,体性感覚,痛覚に関連する演題が各1題ずつあり,こういう比較的マイナーではあるが興味深い領域の研究が継続して行なわれている事は喜ばしい事である。同時期に他の施設で言語に関する研究会が開催されていたため,言語に関連する演題が1題だけであったのはやや寂しい事であった。他には臨床応用が3題,信号源推定,逆問題に関する演題が5題,運動に関する演題が2題あり,参加者は2日間の間に現在行なわれている脳磁図研究のほとんどの領域を勉強できた事になり,特に若手研究者には良い刺激になったと思われ,今後の研究の発展に何らかの参考になれば開催の意義は十分に果たせたことになると思っている。
添田喜治,中川誠司,外池光雄,守谷哲郎(産業技術総合研究所ライフエレクトロニクス研究ラボ)
音の高さ(ピッチ)は,音声認識や音楽の知覚において重要な要素である。本研究ではピッチの強さに注目し,帯域ノイズの帯域幅を変化させた時の脳磁界計測を行った。実験に用いた帯域ノイズは。中心周波数を500,1000, 2000Hz,帯域幅を0,40,80,160,320,640Hzで変化させた。中心周波数が同じであれば,同じピッチが知覚され,帯域幅が狭いほど明確なピッチが知覚される。各中心周波数において,純音を基準刺激,帯域ノイズを比較刺激として一対提示し,脳磁界計測を行った。刺激の継続時間は0.5s,刺激間間隔は2.0sであった。解析の結果,帯域幅が広くなるほどN1m振幅は小さくなる傾向が見られた。この傾向は左半球でより顕著に見られた。N1m潜時,信号源推定により求めたダイポールの位置に関しては,帯域幅の変化に対応する反応は見られなかった。
阿部雅也,子安利征,川勝真喜,田中慶太,小谷誠(東京電機大学工学部電子工学科)
先行する小さな音(信号音)に対して,数十ms後に大きな音(マスク音)が存在する場合,小さな音が聞こえにくくなる。これを聴覚逆方向マスキング現象と言う。今回,我々は信号音とマスク音の間隔を20msとし,信号音の振幅を変化させたペア音に対する刺激後100ms付近のピーク振幅(N1m) の変化を調べた。
実験には8種類の信号音と1種類のマスク音からなるペア音を用いた。信号音の振幅はマスク音の振幅100%に対し0,0.1,0.5,1,5,10,50,100%の8種類とした。
得られた脳磁界反応は,いずれのペア音に対しても1つのN1mを示した。N1mは,信号音の大きさが1%未満までの範囲では,信号音の振幅が小さくなるほど大きくなる傾向が見られた。この範囲ではマスク音の処理に対する反応が支配的と考えられる。また10%より大きな範囲では,信号音の大きさが大きくなるとN1mが大きくなる傾向が見られた。
岡本秀彦1,2,軍司敦子1,柿木隆介1,久保武2,Christo Pantev3
(1岡崎国立共同研究機構生理学研究所,
2大阪大学大学院耳鼻咽喉科学,
3 Director of the Institute for Biomagnetism und Biosignalanalysis Munster University Hospital)
Lateral inhibitionとはある受容野が刺激を受けることにより,その受容野周囲の神経活動を抑制することである。この働きにより境界域のコントラストが増し分解能を高めている。たとえば皮膚における触覚の二点弁別や視覚系におけるMach Bandの知覚(輝度の変化率が違う境界部位に線が見える現象)等がある。ヒト聴覚系における側抑制に関する研究は限られているが,やはり他の受容器と同様に音の周波数分解能の向上にこの側抑制が役立っているものと思われる。
その他の抑制系としてhabituationがある。側抑制とは異なりhabituationでは同じ受容野が連続して刺激を受けることによりその刺激された受容野の反応が抑制される。
今回の実験ではヒト聴覚系におけるこの2つの異なる抑制系(側抑制,habituation)の働きをForward Masking Paradigmを用いて比較,検討する。
湯本真人,伊藤憲治,狩野章太郎,加我君孝(東京大学医学部)
宇野彰,金子裕(国立精神神経センター)
松田眞樹(東京芸術大学)
音の正確な予期の聴覚応答への修飾を調べることを目的とした。音楽家および非音楽家各8名を対象とし,1オクターブ以内の12音の楽音をランダムに毎秒1音の速度で両耳に提示した。1回目は楽譜を提示せず,楽譜と同輝度のスクリーンを見ながら音を聴き,2回目は同スクリーンに楽譜を提示し,低頻度で混入させた楽譜とは音高のことなる音に注意しながら音を聴く課題を課した。両条件では異なるランダム系列を用いた。記録には204チャネル全頭型脳磁計を用い,1回目と2回目の一致条件におけるM100成分をANOVAにより2群間,左右半球間で比較した。M100振幅の1回目に対する2回目の低下は,非音楽家に対し音楽家で有意に顕著であった。音楽家では非音楽家に比べ,視覚提示される楽譜から聴覚提示される音が正確に予期できるためM100振幅が顕著に低下するものと考えられるが,その機序は自己の発声に対する聴覚応答の低下と似ている。
船津誠也(県立広島女子大学)
今泉敏(広島県立保健福祉大学)
橋詰顕,栗栖薫(広島大学医学部)
脳内で第2言語音素を如何に知覚するかを明らかにするために,複数の話者が発話した音素を刺激として用い,MMFを測定した。日本人が英語音素/la/ と/ra/ を識別する場合について調べた。3人のアメリカ人男性話者が発話した英語音素/la/ と/ra/ および3人の日本人話者が発話した日本語音素/a/ と/i/ を刺激としてオドボール課題を行い,MMFを測定した。MMFより等価電流双極子モーメントを求めたところ,英語知覚では右半球のモーメントが左半球より大きく,日本語知覚ではその逆であった。得られた双極子モーメントに対し,2元配置分散分析(言語vs半球)を行ったところ,有意な交互作用が認められた(p < 0.01)。日本語知覚では左半球優位,英語知覚では右半球優位の傾向がみられた。これらの結果から,母語音素知覚と第2言語音素知覚は,異なる半球で主に行なわれている可能性が示唆された。
前川俊彦,後藤純信,谷脇考恭,飛松省三(九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理)
Gutschalkらは聴覚において500Hzのトーンバースト(TB) 音を一定の刺激頻度で1秒与え1秒休止するとtransient (TR) 型とsustained (SU) 型反応をMEGで測定できると報告した(Neuroimage, 2002) 。この刺激法はTR型反応の主成分の潜時と振幅(時間情報)とsustained (SU) 型反応の位相と振幅(周波数情報)を定量分析できる。今回我々は,健常人5名を対象として,視覚(白/黒格子縞反転刺激,格子サイズ50’,半側視野刺激, 刺激頻度を変化)と聴覚(TB音,刺激強度45dBSL,刺激頻度40Hz,片耳刺激,基本周波数を変化)で刺激持続時間1秒,刺激間隔1.5秒の高頻度反復刺激を行い,TR型とSU型の磁場反応を測定し,臨床応用時の至適条件設定のための予備実験を行った。その結果,視覚では刺激頻度4Hz,聴覚は基本周波数1000Hzで安定した反応が記録できた。
木村育美,久保田雅也,広瀬宏之,榊原洋一(東京大学医学部附属病院小児科)
湯本真人(東京大学医学部附属病院検査部)
小児において,受動的な視線認知の初期の後側頭部脳磁場反応に関する検討を試みた。8y〜13yの健常小児15名,健常成人6名を対象に課題1:視線が正面,左向き2通りの正面顔と花(target) の写真,および課題2:顔写真をモザイク図形に変換したもの2通りと建物(target) の写真を呈示刺激として脳磁場計測(Neuromag204) を施行した。全ての被験者または保護者に予め十分な説明のち書面での同意をえた。課題1:小児では明瞭なP1m反応(潜時120ms〜150ms)がえられ,該当Dipoleは下側頭溝領域に位置,さらに右側でのみ,正面向き視線に比べ左向き視線の顔に対するP1m反応増大を認めた。成人ではP1mは相対的に小さくN170m Dipoleが紡錘状回または下〜上側頭溝領域に存在した。課題2での反応は一定しなかった。小児のP1mには特異的な作業成分が含まれている可能性がある。
子安利征,川勝真喜,田中慶太,小谷誠(東京電機大学大学院工学研究科電子工学専攻)
視覚情報処理において,時間的に先行する情報が後から入ってくる情報によって認知を阻害される現象があり,視覚逆方向マスキング現象と言う。本研究では,刺激として漢字2文字の単語もしくは非単語を約30ms提示後にマスク画像としてチェッカーボードパターン,もしくはハングル文字の2種を先行の漢字2文字と重なる位置に約500ms提示する視覚刺激を用いた。最初に提示された漢字2文字が単語であったか,非単語であったかを判断するタスクを課し,誘発脳磁界応答の計測を行った。
タスクの正答率は,マスクパターンとしてハングル文字を提示した場合の方がチェッカーボードパターンを提示した場合よりも低く,認知阻害の度合いに差異が見られた。この2種類の刺激に対する脳磁界応答を比較した結果,左側頭部潜時300ms近辺等の応答に差異が見られた。
平田雅之1,2,加藤天美1,井原綾2,3,齊藤洋一1,谷口理章1,二宮宏智1,依藤史郎2,吉峰俊樹1
(1大阪大学大学院医学系研究科神経機能制御外科学講座,
2大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学講座,
3岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
SAM解析は,時間分解能が高いというMEGの特性を生かしたまま,開口合成フィルターの導入により高い空間分解能が実現され,複数領野の並列的活動を描出可能である。また加算平均処理を行わないため,長潜時・高周波帯域成分が失われない。さらに周波数帯域別の解析により脳律動の変化を捉えられる。したがって複数領野が長潜時まで活動すると考えられる言語活動において,その脳律動変化の時間的推移を大脳皮質全域にわたり解析できる。
健常者に対する3文字平仮名単語視覚提示の黙読課題では,後頭葉,頭頂側頭葉,前頭葉の同時複数領野における脳律動変化が明らかにされ,逐次処理とともに並列処理の存在が示唆された。同一課題を脳外科患者に対して施行したところ,中下前頭回におけるβからγ帯域の脱同期の側方性が言語優位半球のよい指標となることが明らかになった。
局所脳律動変化に注目することにより,fMRIやPETでは従来困難であった新たな脳機能のメカニズム解明が期待される。また臨床的には言語優位半球同定,機能局在をはじめ,高次脳機能の非侵襲的検査に活用できると期待される。
石井良平,鵜飼聡,山本雅清,川口俊介,小川朝生,武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
篠崎和弘(和歌山県立医科大学神経精神科学教室)
軍司敦子(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
Wilkin Chau (The Rotman Research Institute, Baycrest Centre for Geriatric Care, University of Toronto)
Christo Pantev (Institute of Biomagnetism and Biosignal Analysis, University of Munster)
統合失調症の脳内神経ネットワークの異常を明らかにするための準備段階として,正常被験者15人分の聴覚性P300の脳磁場をSAM法で解析し,SPM99とPermutation法を用いて標準脳上での集団統計を行い,P300に関連した律動的脳磁場活動の発生源の領域的な可視化を試みたので報告する。被験者は健常若年者15名(男性5名,女性10名,25-54歳,平均年齢34歳,1名を除き右利き)で,151ch全頭型脳磁計を用いて,聴覚オドボール課題遂行時の脳磁場を 記録し,θ(4-8Hz) ,α (8-15Hz) ,β (15-30Hz) ,γ (30-60Hz) 帯域に分けて,各40試行を解析した。さらに各被験者の脳形態上で局在化されたSAM法の解析結果を,SPM99を用いて標準脳に変換し,Permutation法を用いて脳画像のボクセル単位での統計検定を行った。その結果,θ,α帯域の同期活動が左背外側前頭前野と右内側前頭前野の両側前頭葉の広い領域にみられた。これはBasarらが提唱する機能的α波活動を捉えたものと考えられる。また,α,β,γ帯域の脱同期活動が中心溝をまたいで左感覚運動野にみられたが,これは,右手指によるボタン押しに伴って抑制されたμリズムとその関連成分であると考えられる。
別所央城1,3,4,武田栄三1,3,田崎雅和2,3,矢島安朝1,3,野間弘康1,3,小早川達4,斉藤幸子4
(1東京歯科大学口腔外科学第一講座,
2東京歯科大学生理学講座,
3東京歯科大学口腔科学研究センター,
4産業技術総合研究所脳神経情報研究部門)
口腔内に義歯を装着すると,“味が変わった”と訴える患者が多く,その原因は明確にされていない。またこれらを客観的に評価する方法もない。そこで我々は,口蓋部の触刺激が大脳皮質味覚野の応答に関係しているのではないかと仮定し,大脳皮質における口蓋粘膜の体性感覚再現部位を検討した。体性感覚誘発磁場(SEF) の計測は204 - チャンネル全頭型MEGを使用し,5人の健康成人を被験者として,1対の電極を埋め込んだ樹脂製シーネで口蓋粘膜に電気刺激を行った。その結果,ピーク潜時が,約60ms (1M) ,150ms (2M) に認められた。さらに,刺激対側では前頭弁蓋部と島皮質,同側では1次体性感覚野の深部および頭頂弁蓋部にダイポールが推定された。応答部位が一次味覚野近傍にも認められ,口蓋部の触刺激が味覚に関与しているのではないかと推定される。今後被験者を増やし,さらに検討したい。
小早川達,戸田英樹,後藤なおみ,斉藤幸子(独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門)
1993年にEvansらは信頼性のある化学受容感覚の誘発応答を獲得するために,いくつかの実験における基準の提唱を行った。その中に「ニオイ刺激を無臭空気の定常流の中に挿入すること」「ニオイ刺激の立ち上がりは最大濃度70%までが50ミリ秒以内であること」がある。本報告の中では,これらの基準を満たす刺激装置の性能の計測法の提案もなされている。しかし嗅覚刺激をリアルタイムの計測を可能にするものではなかった。そこで我々は流速変化,圧力変化を伴わない嗅覚刺激のモニタを行うために,超音波を用い0.5ミリ秒の時間分解能を持つ高速気体濃度計の開発を行った。この濃度計を用いて,実際の嗅覚刺激のモニタを被験者の鼻腔の直前で行いながら,ヒトの嗅覚事象関連電位及び脳磁場の同時計測を行った。本センサ出力を基準にして嗅覚事象関連電位,脳磁場応答の加算平均を行った場合,それぞれの成分の潜時が従来の報告よりも短いことが分かった。
芳村勝城(国立療養所静岡神経医療センター)
内側型側頭葉てんかんの障害側と脳磁図の電流双極子分布の関係を調べる目的で,一側の海馬萎縮が認められた症例または後に一側海馬を切除された症例について電流双極子分布の特徴を調べた。電流双極子が片側にのみ推定された50例中,電流双極子の推定部位が海馬の高さに限局するもの(H) は24例で,そのうち病側に推定された例は20例,対側に推定された例は3例であった。海馬の他に弁蓋部にも推定されるもの(H+V) は26例で,全例が病側に推定された。電流双極子が両側に推定された8例中,両側共Hは1例であった。病側がH+Vで対側がHは6例で,その逆は認められなかった。両側共H+Vは1例で,明らかに病側の方が弁蓋部付近に広範に電流双極子が分布していた。このことから弁蓋部付近に電流双極子が推定された症例は同側が障害側である可能性が高いことが示唆された。
金子裕(国立精神・神経センター武蔵病院脳神経外科)
岡崎光俊(国立精神・神経センター武蔵病院精神科)
久保田有一(せんぽ東京高輪病院脳神経外科)
湯本真人(東京大学医学部附属病院臨床検査部)
発作間歇期棘波の直前に広い領域の神経が同期して興奮するために何らかの準備がなされていると考え,それをγ帯域の活動の変化として捉えられないか検討を行った。MEG波形・等磁界線図からほぼ同一の部位から発作間歇期棘波を頻発していると考えられた3例を対象とした。MEGで自発脳磁界を測定し,帯域フィルターで処理した基礎活動を棘波の立ち上がりをトリガーとして加算平均した。棘波の立ち上がり-150msec〜-50msecにわずかなγ帯域の減衰を認めた。この減衰は棘波の振幅が強く観察されたセンサーに認められる傾向があった。発作間歇期棘波の直前にγ帯域の活動の変化があり,それをMEGで捉えることができることが示された。
橋詰顕(広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻)
従来行われてきた等価電流双極子のMRI画像への重畳のみでは,磁気的てんかん活動の広がりや,経時的な変化を捉えることは困難である。そこで磁気的てんかん活動の視認性を高めるため傾斜磁場トポグラフィーを作成し,動画化を行うこととした。装置はNeuromag社製脳磁計Neuromag Systemを用い,てんかん患者の自発脳磁場活動を計測した。傾斜磁場トポグラフィーを作成し,脳表に投射し,動画を作成した。傾斜磁場トポグラフィーの動画化により,直感的に磁気的てんかん活動の広がりや経時的変化が捉えられるようになった。動画化された傾斜磁場トポグラフィーは等価電流双極子推定法とは異なる視点で磁気的てんかん活動を捉える方法ではあるが,どの程度,実際のてんかん活動と関連があるか,症例を積み重ね,検討する必要があると思われる。
渡辺裕貴,芳村勝城,宇留野勝久(国立療養所静岡神経医療センター)
single dipole推定は,有限の広さをもつ電流源を一点と仮定して電流源を推定するのであるから,理論的な難点を内蔵していることは周知の事実である。それにもかかわらず臨床的にはそれなりに正しくてんかん焦点を推定することが多いことから,そのまま臨床検査として使用されている。一方,初めから電流源に広がりを仮定するノルム推定などの電流源推定法は,広い電流源には有用であるが,逆に点状の電流源に対しては実際よりも広い広がりをもった推定値を与える欠点があるように思える。そこで,臨床的に種々の広さのてんかん焦点をもつ患者のdipole推定結果の実例を提示し,それらの結果が得られる理由を考察しながら,実際の診療場面で症例ごとにsingle dipole推定と面状の電流源推定のどちらを使用していくかの方法論について考えてみたい。
加藤健治,岸田邦治,深井英和(岐阜大学工学部応用情報学科)
篠崎和弘(和歌山県立医科大学精神医学教室)
鵜飼聡,石井良平,山本雅清,川口俊介
(大阪大学大学院医学研究科神経機能医学講座)
MEGデータ解析の研究において,特定の活動部位の位置を推定する従来の方法の1つとして加算平均法があり,脳の各部位が他の部位に対してどのような影響を与えているかなど,高次脳における機能関連の解明がされている。しかし,MEGデータにはあらゆる周波数の動的情報が入り交ざっているため,適切に必要な情報を取り出して解析する必要がある。
前回,独立成分解析とフィードバックシステム論的手法を組み合わせて用いることで,左右脳間の測定変量間の伝達関数を同定することを紹介した。今回は,この伝達関数について,より確かな動特性を掴むための2つの方法(データのスケーリング,データ数の変動)を示す。
川端啓介(大阪府立大学)
内野勝郎(平成医療学園専門学校)
村田和優(藍野学園短大)
外池光雄(産業技術総合研究所ライフエレクトロニクスセンター)
通常アルファ波は安静閉眼のとき後頭部に生ずるとされている。しかし,この電流ダイポールの脳磁図はすでに非常に複雑であって解析を難しくしている原因になっている。我々はアルファ波が鍼を打ってのち,開眼のとき,側頭に現れることがあることを見出した。
よくみるとこの側頭信号は術前にも頻度は少ないが現れているのである。この信号の大切なところはアルファ波の電流ダイポールのダイナミックスを実に鮮やかに脳磁図上に直接示すことである。側頭でのアルファ波のダイナミックス,側頭と後頭のアルファ信号が脳磁図上でこのように異なる原因,このモデルで後頭でのアルファ波のMEG信号がよく解釈できることを述べる。
佐藤雅昭1,2,吉岡琢1,梶原茂樹3,外山敬介3,郷田直一1,銅谷賢治1,2,川人光男1
(1ATR脳情報研究所,
2科学技術振興事業団CREST,
3(株)島津製作所基盤技術研究所)
MEG観測データから脳内電流源を推定するための新しい階層ベイズ推定法を提案する。本手法は階層事前分布を導入することにより,電流の分散も未知パラメータとして推定を行い電流推定精度を向上させる。この際,fMRI情報は電流分散に対する事前情報として階層事前分布に導入することが出来る。また電流分布が空間的に連続な分布をしているという連続条件も階層事前分布に入れることが出来る。以上のような階層事前分布と観測データに対して変分ベイズ法を適用し,脳内電流源に対する事後分布を計算する。
さらに本手法の有効性を,実際の視覚刺激反応に近い人工データを用いて確かめた。
大井康弘,岸田邦治(岐阜大学工学部応用情報学科)
外池光雄,岩木直(産業技術総合研究所)
聴覚刺激によって脳に引き起こされる,計測時系列を説明するような特定の活動ダイナミクスをMEGデータから推定したい。そこで,フィードバックシステム論的手法を用いて計測チャネル間での伝達関数を同定した。
ところで,MEGデータの計測において,刺激によって脳に誘起される神経電流の向きはx,y軸方向の平面微分型コイルの向きと同じだとは限らないので,同定手法が有効に機能できない可能性がある。
平面微分型の測定器の向きと刺激によって脳に誘起される神経電流の向きには関連があるべきである。そこで,計測点で二次元ベクトルとなる計測データを直下の脳内神経電流を特徴的に表すようなスカラ量にする必要があるので,各次元のベクトルの主成分に沿った時系列に変換することにした。
この方法により,フィードバックシステム論的手法で同定された伝達関数を使って推定される予測値は軸変換前のものに比べてかなり一致するようになった。
中田大貴,乾幸二,柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
主観的な痛みの程度は,動作によって軽減することがある。例えば,手をぶつけた時に我々は無意識的に手を振ることによって痛みを軽減させる。本研究では,動作による痛み軽減のメカニズムの一端を明らかにすべく,MEGを用いて実験を行った。刺激はYAGレーザー刺激を用いて左手の甲に与え,Control条件,左手指の能動動作,右手指の能動動作,左手指の受動動作の計4条件を行った。同時に主観的な痛み尺度を表すvisual analogue scale (VAS) も記録した。結果として,Control条件と比較し,左手指の能動動作によって,刺激対側半球のSI(一次体性感覚野)とSII(二次体性感覚野)の活動が減少した。右手指の能動動作では,刺激対側半球のSIIの活動が減少した。左手指の受動動作では,刺激対側半球のSIの活動が減少した。VASは左手指,右手指の能動動作によって減少した。これらの結果から,動作によってSIならびにSIIにおける脳活動の変化が起こったことが示された。VASの変化は対側SIIの変化と類似しており,痛覚認知における同部の重要性が示唆された。
和坂俊昭(筑波大学体育科学研究科)
宝珠山稔,中田大貴,柿木隆介(生理学研究所生体調節研究系感覚運動調節研究部門)
体性感覚誘発電位(SEPs) あるいは体性感覚誘発脳磁場(SEFs) の振幅は,随意運動の影響を受けて減少する(gating)。このgatingは,随意運動の準備期においてもみられるが,準備期のどの段階からみられるのかについては明らかにされていない。本研究では,被験者が自己ペースで随意運動を開始する自発運動を用いて,その準備期に誘発したSEFsから体性感覚系の変動を検討した。右手第二指の伸展動作に先行して,正中神経刺激で誘発されたSEFsのP30mのdipole momentは,安静条件と比較して随意運動の500msから減少していた。随意運動の準備期には筋放電がみられないことから,SEFsの変動は,随意運動の準備に関与する運動関連領域からの遠心性抑制(centrifugal gating) の影響を受けていることが示唆される。
長崎信一,山科敦,末井良和,谷本啓二(広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態情報医科学講座)
橋詰顕,栗栖薫(広島大学大学院医歯薬学総合研究科先進医療開発科学講座)
柴芳樹(広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探求医科学講座)
藤原百合(広島大学医学部歯学部附属病院言語治療室)
目的:命令嚥下におけるヒト脳賦活領域を明らかにすること。
対象:嚥下障害の既往ならびにその症状を持たない,右利きの男性成人7人(25〜40歳)。
方法:1mlの蒸留水を口腔に保持し,視覚提示により嚥下を40回から50回行った。Neuromag社製脳磁計204chを用いて,各嚥下における表面筋電図とMEGのデータを同時収集した(sampling rate:600, 615Hz) 。取得したデータの内,嚥下開始前後で類似した頤下表面筋電図波形を示すサンプルを収集し,その立ち上がり時を基にして加算(選択数32〜35回)した。加算したMEGデータから左右大脳半球別々に単一ダイポール推定(GOF70%以上)を行い,MRI脳画像に重ねた。
結果:命令嚥下におけるヒト脳賦活領域は左側運動野に限局してダイポールを認めた。
木野元裕一,小谷賢太郎,堀井健(関西大学工学部システムマネジメント工学科)
江坂茂朗(関西大学大学院工学研究科)
山田誠,出口潤,宮武伸一,黒岩敏彦(大阪医科大学脳神経外科)
脳梗塞患者における脳機能の回復メカニズムについて,PETやf-MRIを用いた先行研究が行われており,障害部位周辺の賦活や活動強度の上昇,障害部位に代わって対側にある健常な部位の賦活が見られたという報告がされている。しかし,未だそのメカニズムは明らかでない。そこで,麻痺を認める虚血性脳血管障害患者7例を対象とした脳磁界計測を試みた。実験タスクとして拇指のボタン押し運動を用い,データ解析には従来のシングルダイポール法に加え,複数の脳内活動源を推定できるMCE (Minimum Current Estimate) 法を用いた。その結果,補足運動野や動作肢と同側の運動野において活動源が推定された。また,解析方法の差による活動源の推定結果の差は認められなかった。両者を併用することで,脳梗塞回復期における特異的な脳活動の解剖学的な変化を捉え,機能予後との関連性を検討することが可能になると示唆される。
原田暢善,中川誠司,岩木直,山口雅彦,外池光雄,守谷哲郎
(産業技術総合研究所関西研究センターライフエレクトロニクス研究ラボ)
Tom Holroyd(通信総合研究所関西先端研究センター柳田結集型特別グループ)
聴覚刺激間隔における1/fnのゆらぎのべき乗nのGO/ NOGO反応に対する影響を検討した。聴覚刺激は,GOキュー(1000Hz: 80%) ,NOGOキュー(2000Hz: 20%) を用いた。これまでの研究で,べき乗nの増加に伴い,(1) ミスマッチフィールドの2乗平均値が増加すること,(2) NOGO反応の際,左後頭のチャンネルのベーター波の非同期化時間増加すること,(3) GO反応の際,左後頭のチャンネルの運動に同期した成分を含む波形の振幅が増大することを報告してきた。
今回,左後頭のチャンネルの運動に同期した成分と頭頂運動関連脳磁図反応のゆらぎのべき乗nに対する変化について報告する。