生理学研究所年報 第26巻 | |
研究活動報告 | |
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統合生理研究系感覚運動調節研究部門【概要】 2004年度は6名の大学院生(総合研究大学院大学3名,他大学大学院からの国内留学3名)と1名の博士研究員(和坂利昭君)が新たに仲間に加わった。医学(神経内科,精神科,小児科など),歯学,工学,心理学,言語学,スポーツ科学など多様な分野の研究者が,体性感覚,痛覚,視覚,聴覚,高次脳機能(言語等)など広範囲の領域を研究しているのが本研究室の特長であり,各研究者が自分の一番やりたいテーマを研究している。こういう場合,ややもすると研究室内がバラバラになってしまう可能性もあるが,皆互いに協力し合い情報を提供しあっており,教室の研究は各々順調に行われている。脳波と脳磁図を用いた研究が本研究室のメインテーマだが,最近はそれに加えて機能的磁気共鳴画像(fMRI)及び経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた研究も行い成果をあげている。 計画班員を務めていた特定領域「先端脳」(テーマ:痛覚認知研究)が2004年度に終了した。しかし,2004年度から新たに,日本宇宙フォーラムから3年間の研究費をいただくことになり(テーマ:様々な環境における脳活動の研究),また科学技術振興機構の「社会技術研究:脳科学と教育」に採択され(テーマ;顔認知機構),研究代表者として3年間勤めることになった。環境省,厚生労働省の班研究も続けて行っており,研究員一同,より一層の努力を続けて質の高い研究を目指していきたいと思っている。
侵害刺激に伴う皮質活動の睡眠中の変化王暁宏,乾幸二,秋云海,柿木隆介 痛みは侵害刺激により誘発される不快な感覚的,情動的体験であり,侵害受容系の活性化の結果生じる。本研究では覚醒時と睡眠時で皮質反応を比較することにより,認知に関わる成分を同定することを試みた。 10名の健康成人男性を対象に実験を行った。左手背への表皮内電気刺激に対する皮質反応を脳磁計を用いて記録し,コントロールとした。刺激の数をカウントさせる注意条件下と睡眠条件下で記録を同様に行い,比較した。 コントロール条件では第一次および第二次体性感覚野,島,内側部側頭葉および前部帯状回に活動が認められた。注意条件下では全ての活動が有意に増強し,睡眠中には有意に減弱した。この結果はこれらの活動が全て認知に関わることを示す。サルを用いた研究では視床VPM核の侵害受容細胞が注意により活動を増強させること,視床VPL核の侵害受容細胞が覚醒レベルに影響を受けることが示されており,我々が観察した変化が,視床レベルで生じた可能性を示唆する。 (Wang et al., Neuroscience 2004)
ヒト第一次体性感覚野での顔の再現Nguyrn BT,Tran TD,乾幸二,宝珠山稔,柿木隆介 顔面皮膚の第一次体性感覚野(SI)での再現を脳磁図を用いて検討した。左顔面皮膚領域の6カ所,下唇および第一指をair puffを用いて機械的に刺激し,誘発脳磁場を記録した。初期成分について単一信号源推定法による活動源位置推定を行い,SI内での部位について比較を行った。 第一指のSI内再現部位は最も内側,上方に,下唇は最も外側,下方にあり,顔面皮膚領域はその中間に位置した。従って,一般に知られる体部位再現を確認する結果である。6カ所の顔面領域を三叉神経支配により3群に分けて比較したが,SIでの双極子位置に有意な差はなく一定した配列は見いだせなかった。しかし顔面領域を外側と内側に分けた場合,SI内では外側顔面が内側に,内側顔面は外側の位置していた。この結果は,顔面皮膚の分節レベルに従う規則的配列がSI内に存在することを示唆する。 (Nguyen et al., Neurosci Res 2004)
事象関連電位を用いた二点識別認知過程の研究田村洋平,宝珠山稔,乾幸二,中田大貴,和坂俊昭,尾島司郎,井上聖啓,柿木隆介 皮質での二点識別処理過程を,事象関連電位を用いて検討した。左手背外側部に6個の銀ボール電極を配置し,その中の二つを対にして二点の同時刺激を行った。5種類の刺激があり,電極間の距離はそれぞれ1.0,1.5,1.5,2.0,2.0mmである。5種類の刺激はランダムに呈示した。実験条件は二点識別タスク(TPD)とかウントタスク(SC)の二種類であり,TPDでは刺激毎にそれが一点であったか二点であったかを述べさせた。SCでは刺激回数を数えるように指示した。 SCと比較し,TPDでは有意に刺激後140ミリ秒の陰性電位(N140)が増強した。さらに,300および500ミリ秒で頂点となる二つの陽性成分(LPC-1とLPS-2)がTPD条件でのみ記録された。LPC-2は被験者の判定の安定度と相関した。いずれの成分も一点か二点かの判断には影響されなかった。N140は注意効果を反映したものと考えられた。後期陽性成分はそれぞれ,P3aとP3bに相当すると考えられた。 (Tamura et al., Clin Neurophysiol 2004)
経皮的磁気刺激によるA-delta線維関連疼痛増強田村洋平,宝珠山稔,乾幸二,中田大貴,秋云海,宇川義一,井上聖啓,柿木隆介 運動野への連続的経皮的磁気刺激(rTMS)が急性,慢性疼痛に影響を及ぼすことが知られている。本研究ではレーザー刺激(A-delta線維関連)による誘発電位に対するrTMSの効果を検討した。 刺激には右手背へのYAGレーザー刺激を用い,Czより誘発電位(N2-P2)を記録した。N2-P2の振幅をrTMS前,直後,10,20,30分後で記録した。rTMSは1Hzで10分間行った。対照として,磁気刺激は行わず同じ時間経過で誘発電位を記録する条件(コントロール)と磁気刺激の代わりに同部位を電気刺激する条件(sham)を設定し,rTMSそのものの効果を検討した。結果は,主観的な痛みの程度とN2-P2振幅の両者がrTMSにより増強することを示した。さらに,振幅と痛みの程度は相関していた。N2-P2の潜時に変化はなかった。この結果よりA-delta 線維関連の侵害受容においても運動野への磁気刺激と痛覚受容が関連することが示唆された。 (Tamura et al., Neurology 2004)
ヒト体性感覚野における階層的処理乾幸二,王暁宏,田村洋平,金桶吉起,柿木隆介 触覚刺激に伴う皮質活動の時間経過を脳磁図を用いて詳細に検討した。サルを用いた単一細胞記録の研究や各皮質部位間の連絡を検討した解剖学的研究は情報の階層的処理を示唆しているが,各皮質部位の活動タイミングはほとんど知られていない。左手背皮膚表面への電気刺激により,刺激反対側半球の3b野,4野,1野,5野および第二次体性感覚野(SII)領域に活動が認められた。それぞれの立ち上がり潜時は,14.4,14.5,18.0,22.4,21.7ミリ秒であった。これらの活動の有意な潜時差は,中心後回を後方へ向かう階層的情報処理を示唆する(3b野-1野-5野)。また,この経路とは別に,第一次体性感覚野-SII間の連続的処理経路の存在も示唆する。 (Inui et al., Clin Neurophysiol 2004)
C線維刺激に伴う皮質磁場反応に対するdistractionの効果秋云海,乾幸二,王暁宏,Nguyen BT,Tran TD,柿木隆介 C線維関連の疼痛(second pain)に対するdistractionの効果を検討した。13名の被験者左手背に炭酸ガスレーザーによるC受容器刺激を行い,誘発脳磁場を記録した(コントロール)。Distraction条件では被験者に暗算課題を課した。 刺激によりおよそ刺激後700-1000ミリ秒に安定した磁場活動が誘発され,責任活動部位として第一次(SI)および第二次(SII)体性感覚野,帯状回および内側部側頭葉が同定された。全ての皮質部位の活動強度はdistraction条件で減弱した。特にSIIと帯状回で減弱が著しかった。この結果より,これらの皮質部位がC線維関連疼痛の受容に関わること,とりわけSII領域と帯状回の活動が認知に関わることを示す。 (Qiu et al., Clin Neurophysiol 2004)
体性感覚刺激による事象関連電位に対するGo/NoGo課題の効果中田大貴,乾幸二,西平賀昭,八田有洋,坂本将基,木田哲夫,和坂俊昭,柿木隆介 Go/NoGo課題による事象関連電位は通常聴覚や視覚刺激を用いて記録されており体性感覚を用いた報告はない。本研究では簡便な触覚刺激を用いて明瞭なnogo関連電位を記録できた。 リング電極による電気刺激を第二指と第五指に与えた。前者をgo刺激,後者をnogo刺激とする課題を行わせ,その際の電位変化を頭皮上に配置した電極より記録した。何もタスクのない条件(コントロール),go刺激の数を数える条件(カウント)およびgo刺激の際に右手を握る条件(運動)の3条件を比較した。N140が全ての条件で,P300がカウントと運動条件で記録された。nogo刺激による140-200ミリ秒の陰性電位とN140の電位はgo刺激に伴うそれらの電位よりも有意により陰性であり,運動条件でのnogo刺激のP300は有意にgo刺激のそれよりも振幅が大きかった。これらの結果は聴覚や視覚を用いた研究結果と一致し,nogo関連の皮質活動が使用する感覚系を問わず類似することを示唆する。 (Nakata et al., Clin Neurophysiol 2004)
侵害刺激による皮質活動は運動によって修飾される中田大貴,乾幸二,和坂俊昭,田村洋平,秋云海,王暁宏,Nguyen BT,柿木隆介 体性感覚誘発脳電位あるいは脳磁場に対する運動の影響はよく研究されているが,痛覚に関してほとんど知られていない。本研究では侵害刺激による皮質活動に対する運動の効果を検討した。 YAGレーザー刺激を左手背に与え誘発磁場反応を記録し,刺激対側SIおよび両側SIIの活動を同定した。以下の4条件での比較を行った。コントロール条件(刺激に注意するのみ),同側能動条件(左第二,三指の運動を自分のペースで行う),対側能動条件(対側の運動を同様に行う),および同側受動条件(実験者が指の運動を行う)の4条件である。1) 同側能動条件では刺激対側のSIとSIIの反応が有意に抑制された。2) 対側能動では刺激対側SIIが抑制された。3) 同側受動ではSIが抑制された。SIへの抑制はレーザー刺激による信号と運動による(感覚)信号がSIレベルで干渉しあった結果と考えられる。SIIへの影響は,運動の遂行に関わる脳活動からの影響と考えられる。(Nakata et al., Pain 2004)
ランダムドット仮現運動知覚の時間構造久保田哲夫,金桶吉起 仮現運動は,例えば二つの異なる場所にある光が交互に点滅することで知覚される。実際の刺激には運動はないのにどういう神経機構が働いて滑らかな運動を知覚するのであろうか?また単なる光の点滅の知覚とどのように区別されて知覚されるのであろうか?我々はランダムドットパターンを刺激に使い,MEG反応の時間構造を運動知覚するときと点滅知覚するときとで比較,検討した。この刺激では,パターンのずれの大きさが小さいと運動を,大きいと点滅を知覚する。すなわち,物理的(輝度,空間周波数,コントラスト,密度など)にはまったく刺激は同一にもかかわらず,異なる知覚が起こる。よって,MEG反応が知覚に伴って変化するとすれば,それはそれぞれの知覚の神経活動の違いを反映している。運動知覚に伴うMEG反応は,110, 140, 210ms をピークに,点滅知覚に伴う反応より有意に振幅が大きかった。反応の信号源はヒトMT/V5付近に推定された。これらの結果は,点滅と運動の知覚の神経機構はそれぞれ早期から競合しつつ局所的な運動検出結果をもとに最終的な知覚に至ることを示唆している。(Kubota T., et al. Neurosci. Res, 48, 111-118, 2004)
視覚逆行性マスキング現象の脳活動:
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