生理学研究所年報 第26巻
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動物実験センター

【概要】

 平成16年度より岡崎国立共同研究機構は独立行政法人自然科学研究機構となり動物実験センターは岡崎3機関共通施設として再出発した。厚労省所管の労働安全衛生に関わる各種の規制が適用されることになり,設備機器の保守点検にあたる施設職員は取扱責任者,作業者はそれぞれ相応の資格が必要となった。このため施設の技術職員は各種の講習会,研修会などを受講して資格を取得するなど新体制に備えた。

 動物実験センターにおいてはラット,マウスの処分に用いられていたエーテルの取り扱いをどうするかが大きな問題となったが安全を優先するため全面的に炭酸ガス麻酔に切り替えることとした。また小型圧力容器,EOGガスなど施設が保有する機器設備,薬物などの取り扱いについても改めて点検し適正化をはかった。

<実験動物の輸入,飼育規制>
 「感染症予防法に基づく輸入届け出制度」が平成17年9月より厚生労働省から,また「生物多様性の確保にかんするカルタへナ条約」に基づく措置としてニホンザル以外のマカクザル等の特定外来生物の飼育規制が同11月より環境省からそれぞれ施行されることが示された。「輸入届け出制度」は感染症の疑いのある動物の輸入を規制することを目的として導入が検討されている制度であるが,医学生物学研究に用いられる実験動物のラット,マウスにまで適用されることになればその影響は極めて大きく,その取り扱いがどうなるか気がかりなところである。特定外来生物の飼育規制に関しては飼育施設としての許認可手続きを行うべく準備を進めているところである。カルタへナ条約議定書に関連しては,従来「組み換えDNA実験指針」として示されていた事項が法令として運用されることになり,関係者の間で遺伝子改変動物の授受における手続きの不備が指摘されるという事例が問題となった。遺伝子改変動物の授受に際しては相手方へ当該動物に関する情報を告知することが義務づけられているが,現在通知方法が個々バラバラに行われているためわかりにくく,早急に統一的な様式の整備が求められている。研究者にとって時に複雑で面倒な各種の法令ではあるが,透明性を保ちながら快適な研究環境を維持するためには迅速で的確な情報の提供も動物実験センターに期待される役割の一つであり現在組み換えDNA実験安全委員会と連携しつつ必要な事務手続きの整備作業を行っているところである。

<飼育室,実験室の整備>
 統合バイオサイエンスセンター棟へ移転予定の全部門引っ越しが完了し,山手地区動物センター棟はいよいよフル稼働状態を迎えた。山手地区動物センター棟がフル稼働になったことに伴い,動物飼育にかかる業務量も著しく増大した。このため委託作業員の配置転換を図ったほか新たに作業員2名を増員した。この措置により受精卵移植や胚凍結作業の一部を外注できるようになったほかセンター職員の業務の軽減もはかることが出来,実務の面ではなんとか業務を処理できる体制となったが,山手地区動物センターの管理運営体制は十分とはいえない。山手地区動物センター棟は原則的にSPF動物のみを飼育するバリアー施設であり,微生物モニタリングや動物の飼育管理など様々な面で利用者の協力が不可欠である。ユーザーの理解と協力を得て幸いにもこれまでのところ感染事故は皆無であるが,国内のブリーダーにおいては平成15年度,16年度とたてつづけにP. Pneumotropica 汚染騒ぎが起きている。施設に直接の影響はなかったもののこのような事故はいつ起きるか予測できないもので,事故の予防や適切な対応のためには経験のある実験動物の専門家を核とした恒常的な微生物学的な監視体制の構築と配置が望まれる。

 一方,明大寺地区動物センターにおいては,山手地区動物センター棟と機能的に整合性のある運用のためにラット,マウス飼育室のSPF化が現実的な課題となっており,陸生動物室本館地下1階を中心としたSPF化のための施設改修計画を策定して概算要求をおこなっている。稼働中の他の飼育室の機能を損なうことなく改修を行うため,改修方法,改修対象となる飼育設備等について検討している。

 このほか,平成16年度は明大寺地区動物センター棟にユーザーから要望のあった新館4回のP2実験室をP2a実験対応可能にしたほか,新たにトランスジェニックラット飼育室2室を用意した。山手地区および明大寺地区の水生動物室においては室温と照明が調節できる恒温室をそれぞれ1室増設した。また,本館洗浄室の洗濯機を別室に移してクリーンエリアを確保し洗浄済み飼育機器の再汚染防止をはかった。

<主なトラブル>
 大事には至らなかったが山手地区において凍結防止装置の作動によって空調用ダンパーが閉鎖するトラブルがあった。空調ダンパーの閉鎖は風量バランスの異常からバリアーの破綻につながる恐れのあることから何らかの対策をとる必要がある。

 明大寺地区においては空調用ヒートポンプの冷媒中に水が入ることによる不調が続き,抜本的な対策が見いだせず対応に苦慮している。応急的に水抜きにより対応しているが将来に不安を残している。このほか水生動物室の揚水ポンプの劣化,検疫中のサルの死亡事故などがあったが大事に至るものはなかった。

<今後の課題>
 統合バイオサイエンスセンターがフル稼働になったことにより,山手地区動物センター棟における飼育室の稼働率が上昇し業務量も増えている。センターでは職員の配置換えを行って対応しているが,異動や退職する職員が相次いだ上,微生物学的コントロールの必要な山手地区とコンベンショナル動物が中心の明大寺地区の業務を同一人が並行して行うことは管理上からも問題があり,まさに綱渡りのように危なっかしい状態が続いている。専任教員を含む組織体制の見直しと構築が望まれる。

 


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