生理学研究所年報 第29巻  
 超高圧電子顕微鏡共同利用実験報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

1. Electron tomography of Purkinje cell dendrite to understand organization of spines from dendrites in rodents

Jee-Woong Kim, Se Jeong Lee, Tatsuo Arii1, Keiji Imoto1, Im Joo Rhyu
(Department of Anatomy, College of Medicine, Korea University, Seoul, Korea, 1NIPS)

 The density of dendritic spine of Purkinje cell in cerebellum has been reported in many articles based on different experimental methods. The data based on serial TEM images reported the density of 70〜110 spines/10mm, whereas studies based on stereo-paired analysis of HVEM reports 20〜40 spines/10mm. The stereo-paired image covers 2 and a half dimension only and the stereo image are constructed virtually in the visual cortex. Recently, organization of the spines on the dendrites of Purkinje cell has been reported helical ordering pattern. We ran electron tomography to understand organization pattern and dendritic spine density at higher resolution with HVEM.

 The cerebellum of rats and mice were perfused for rapid Golgi preparation. The Golgi block was embedded in Epon-Araldite mixture and 100 micro meter section was observed under the light microscope. The well stained Purkinje cell dendritic tree was cut in to 4 mm section and was observed under the high voltage electron microscope. Straight forward dendrite was selected and tilting series of +/-60º was obtained. The virtual block was constructed from tilting series images with IMOD. The contour of the dendritic tree on the virtual slice was segmented manually. The spine emanating pattern of the mice Purkinje cell could be observed on the reconconstructed 3 dimensional image on the IMOD model view window. Further fine touch and analysis are under way.

 

2. 神経系培養細胞における細胞骨格や膜タンパク質などの3次元構造解析

遠藤泰久・吉村亮一・西田倫希・伏木大輔・久加亜由美(京都工芸繊維大学)
有井達夫(生理学研究所)

 神経回路の形成には,セマフォリンやネトリンなどのガイド分子が軸索先端の成長円錐を忌避や誘因反応によって誘導することが知られている。しかしながら,それらの軸索ガイド分子を受容する受容体の細胞レベルでの詳細な局在化機構や動態はほとんど明らかでない。本研究では軸索忌避因子であるセマフォリンの受容体であるニューロピリンの成長円錐における局在について,超高圧電子顕微鏡による3次元構造解析を試みた。

 ホルムバール支持膜を張った金メッシュを70%エタノールで滅菌後,コラーゲンコートを施し,神経系培養細胞NG108と接触忌避をおこす平滑筋培養細胞SM-3をDMEM培地で3日間混合培養した。4%パラフォルムアルデヒド固定後,抗ニューロピリン抗体によりABC-HRP法で免疫染色し,DAB,硫酸ニッケルアンモニウムで発色した。1%オスミウム酸で後固定し,エタノール系列で脱水し,二酸化炭素−臨界点乾燥を行った。試料をカーボン蒸着後,超高圧電子顕微鏡(H-1250M 加速電圧1000kV)により,同一視野を−60度から+60度まで2度刻みの傾斜連続写真を撮影し,IMODにより成長円錐におけるニューロピリン免疫反応部位の3次元画像解析を行った。

 その結果,軸索ガイド分子受容体であるニューロピリンは,成長円錐の細胞膜に一様に存在するのではなく,成長円錐の中央部に高密度に分布していることがわかった(図)。また成長円錐からは多数の糸状仮足が伸長しているが,その一部にも強い反応が認められた。固定後に界面活性剤(トライトンX-100)で処理し,抗体の細胞膜透過性を高めた試料では,ニューロピリンの免疫反応は,成長円錐の基底部近くの細胞質に多数の小胞に存在していて,それらは細胞骨格にそって見られた。

 これらの結果から,軸索ガイド分子受容体であるニューロピリンは神経突起の細胞質中では微小管などの細胞骨格にそって小胞として輸送され,成長円錐などの特定の部位の細胞膜に挿入されて,ガイド分子受容の機能をはたすと考えられる。

 

図

図.NG108細胞の成長円錐における軸索ガイド分子受容体ニューロピリンの3次元画像。

 

 

3. 電気シナプスを形成した網膜及び脳ニューロンの樹状突起の構造

日高聰(藤田保健衛生大学医学部生理学教室)

 ギャップ結合は,細胞間チャネルを形成し,ニューロンでは電気シナプスとして働く。サブユニット・コネキシンには,4つの膜貫通ドメインがあって,N末とC末は細胞内にあり,1つの細胞内ループと細胞間ドッキングに必要な細胞外ドメインが2つある。電気シナプスはコネキシン36(Cx36)から構成され,ニューロン群で同期した興奮を引き起こし(Hidaka等,2004),神経回路網の発生過程で出現し,ニューロンの機能分化の研究で注目されている。ニューロン間での電気シナプスの働きを解明するために,コネキシン36に対する特異的な抗体を作成することが必要である。コネキシン36の細胞内ループに対する抗体(Cx36細胞内抗体:Hidaka等,2004)に加えて,今回,藤田保健衛生大学総合医科学研究所免疫学研究室の黒澤と赤堀らが開発した方法を用いて,ギャップ結合の細胞外ドメインに対する抗体(Cx36細胞外抗体)の作成に成功した(Hidaka等,投稿準備中)。Cx36細胞外抗体を生きている細胞に投与反応した実験から,細胞間チャネルの形成や代謝の過程を解析した。

 ニューロン間での電気シナプスの形成を解明するために,ギャップ結合に対するCx36細胞内抗体とCx36細胞外抗体との免疫反応性を,超薄切片で同定すると共に,5mmの厚さの切片を1,000kVの加速電圧の超高圧電子顕微鏡下で解析した。細胞ペアの突起間にあるギャップ結合が両方の抗体によって染色された(図1と2)。超薄切片では,我々のCx36細胞内抗体(Hidaka等,2004)は,大きなギャップ結合の細胞膜直下の細胞内にある裏打ち構造を強く染色した(図2)。ギャップ結合によっては,一方の細胞内部分だけが染色された場合があった(hemichannel様の構造)。一方,5mmの厚さの切片を作成し,超高圧電子顕微鏡を用いて,ギャップ結合におけるCx36細胞外抗体の免疫反応性から,ギャップ結合の立体構造を解析した。細胞間の接触部位のclose membrane appositionの形態を呈する部位にCx36細胞外抗体の免疫反応性があることが分かった(図1,矢印)。これらの微細構造の免疫反応性と,ギャップ結合におけるCx36細胞内抗体とCx36細胞外抗体との免疫反応性の,共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いた解析結果とを検討した所,Cx36細胞外抗体による細胞間染色の厚さは,ギャップ結合形成の度合いを反映している事が示唆された。

文献

1) Hidaka, S. et al., (2004) Journal of Neuroscience, 24 (46): 10553-10567.
2) 日 高  聡 (2006)日本顕微鏡学会誌「顕微鏡」41 (2): 117-119.
3) Hidaka, S. (2008) Journal of Integrative Neuroscience, 7 (1): 29-48.

 

図

図1:

胞間の相互接触部位。厚さ5mm切片の1,000kV加速電圧の超高圧電子顕微鏡像。ギャップ結合コネキシン36の細胞外ドメインに対する抗体を用いて染色し,試料ステージの−16度傾斜を行うことによって,close membrane apposition形態の接触領域が見える(矢印)。

図2:

細胞間のギャップ結合の微細形態の,超薄切片での電子顕微鏡像。コネキシン36の細胞内ループに対する抗体を用いた染色によって,細胞膜直下の細胞内にある裏打ち構造が強く染色されている。

 

4.準薄切連続切片の超高圧電顕観察で明らかになった
イソアワモチ背眼にみられるレンズ細胞(感杆型光受容細胞)の
軸索様構造

片桐展子(弘前学院大学・看護学部)
片桐康雄(弘前学院大学・看護学部)
有井達夫(生理研超高圧電顕)

 イソアワモチ(軟体動物・腹足類)の背眼は,網膜に繊毛型光受容細胞がある。さらに,背眼の中央部に位置するレンズは1〜十数個の細胞から成り,レンズ細胞はレンズと感杆型光受容細胞の両機能をもつ。レンズの構成は個々のレンズで複雑に異なる。レンズ細胞の興奮伝達機構を解明するために,レンズ細胞に蛍光色素やHRPを注入後,固定するなど諸方法を試みた。しかし,どのような試料作成方法を用いても,レンズ細胞の特異な形態的特徴に因って,軸索を同定するには連続切片の観察が必要となり,準薄切連続切片をHVTEMで観察してきた。レンズ細胞の大きさは100µmを越え巨大であるが,軸索は1〜3µmと細い(ことが予想される)。隣接のレンズ細胞は互いに嵌合し,レンズ周囲には線維状の結合組織細胞や筋細胞が存在し,軸索か突起が識別できなかったのである。

 本研究では,幼動物の背眼に着目した。幼動物の背眼はやや未熟であるが,小形で,基本的な形態は成体のものと同じである。レンズは達磨形で背眼の中央に1個存在,その外側表面は滑らかな輪郭を示し,周囲を線維状の細胞が囲む。詳細な観察によって,細い軸索様突起がレンズ細胞の側面から直接出るのを認めた(図A〜D)。細い軸索状構造はレンズ細胞の外周に沿って上行する。背眼の形成は,表皮下に個々の未分化な細胞が集まって,その中にレンズ細胞が分化する。閉じた胞状の柄眼と異なり,背眼は開放的な構造である(片桐ら2003)。形成過程からも,レンズ細胞が皮下に散在する皮膚光覚細胞とその微細形態と光応答が類似することは興味深い。皮膚光覚細胞では,軸索は細胞の側面から出て上行し,他の皮膚光覚細胞の軸索と合流して神経束となる(Katagiri, et al. 1990)。背眼のレンズ細胞では,軸索の有無とその走行はこれまで捕らえられなかったが,本報告でレンズ細胞の軸索様構造を初めて提示できたと考える。

図1 図2A, B 図3A, B

図A〜D.

イソアワモチ幼動物の背眼内のレンズ細胞。Aではレンズ (L) の側面(▽)から,軸索様突起が上方にのびる。B,Cではレンズ細胞体と重なり連続性が不明確になり,Dではレンズ細胞体から離れる。
☆印はレンズを囲む線維性の結合組織細胞である。PL. 黒色メラニン顆粒を含む色素細胞層。

 

5.超高圧電子顕微鏡を用いた新たな試料観察法の開発

野田亨(藍野大学医療保健学部理学療法学科)

 超高圧電子顕微鏡は潜在的に細胞の中の細胞小器官の立体構造を直接観察することのできる顕微鏡であるが,観察上の最大の問題は観察しようとする対象にいかに高電子密度を選択的に与えうるかという点にある。通常の加速電圧を持つ電子顕微鏡による超薄切片の形態観察ではオスミウム,酢酸ウラニウム,鉛などの金属の修飾により超薄切片内にある生体膜や細胞基質が程良い電子密度を持つ明瞭な像を描出することに成功しているが,1000kV以上の超高圧の加速電圧下で特定の細胞小器官のみを立体的に捉える目的には適していない。これまで超高圧電顕下で細胞小器官の立体像観察に成功している例は主として光学顕微鏡用試料に対して用いられていた硝酸銀やオスミウムを用いた特殊染色や酵素組織化学で用いられていた鉛法の一部であった。従って,立体構造の情報の得られる細胞小器官は限られていた。近年,免疫組織化学の発達は目覚ましく,細胞を構成する無数の蛋白に対する抗体が生み出され,抗体を用いた標識法が確立した。光学顕微鏡で用いられていた酵素抗体法を電子顕微鏡観察用に応用すれば,原理的には各細胞小器官に分布する蛋白を高電子密度に標識することが可能となる。しかし,AdamsのDAB反応の変法を含め,これまでの方法では多くは細胞レベルの標識にとどまり,超高圧電顕下で個々の細胞小器官の明瞭な三次元像を得ることに成功していない。そこで我々は免疫組織化学,特に酵素抗体法を基本にし,その最終反応産物の高電子密度化を試みた。これまでゴルジ装置やミトコンドリアが高電子密度に染色されるZinc-Iodide Osmium (ZIO)染色法やFerro/Ferri-cyanide-Osmium染色法を酵素抗体法と組み合わせたが,DAB反応に続くOsmium black形成に更なる電子密度を与えることはできなかった。ただZIO染色ではラットへのZnSO4の過剰腹腔内投与を行うと,網膜視細胞,外節のZIO染色陽性の領域が拡大し,シナプス顆粒の染色性が向上した。このことはZIO染色においてZn自身が最終反応産物の形成,又は染色機構にも何らかの役割を担っているものと示唆された。現時点において酵素抗体法の最終反応産物の高電子密度化はまだ達成されていないが,まだいくつかの方法はまだ検討の余地を残している。

 

6. 嗅球ニューロン・グリアの三次元構造解析

樋田一徳(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)(現・川崎医科大学解剖学教室)
清蔭恵美 (Department of Anatomy & Neurobiology, University of Maryland)
有井 達夫(生理学研究所脳機能計測センター形態情報解析室)

 我々はこれまで,超高圧電子顕微鏡により嗅球のニューロンとグリアの三次元構造解析を行っている。本年度はラット嗅球の顆粒細胞層に存在するastrocyteについて三次元的な構造解析を行った。

 顆粒細胞層には,細胞成分として主に顆粒細胞が存在し,起源を同一とする複数の細胞が島状に配列しているのが特徴である。この島状に集合している顆粒細胞は,互いに接触し,時にギャップジャンクションを形成し,細胞間の直接的な情報交換が示唆されている。我々はこれまで,電顕超薄連続切片で嗅球を解析してきたが,より表層の僧帽細胞は直接的接触が認められるものの,顆粒細胞間には数〜十数nmの薄い膜状の構造が介在する観察所見を得ている。しかしこの膜構造の存在様式と意義は不明である。我々は超高圧電子顕微鏡用に作製したゴルジ染色及び各種抗体を用いた免疫染色標本の豊富な蓄積があり,詳細に解析し,顆粒細胞層の単一のastrocyteのゴルジ染色像を得た。

 観察の結果,細胞体近傍では径の大(免疫染色ではGFAP陽性部分)・小の突起,及び膜状の延長構造が隣接する顆粒細胞を取り囲んでいる。(生理研年報27; 186-187, 2006)単一のastrocyteのゴルジ染色像を光顕連続切片で切片越えに追跡すると,突起は更に細くなり,膜状構造が顆粒細胞を取り囲んだ蜂の巣状構造が認められる(図1)。更に2º あるいは5º 毎で連続傾斜像を±60º 撮影し,それを電子線トモグラフィー法で三次元再構築を行った結果,グリア膜は顆粒細胞体の大部分を覆っているが,一部直接的なコンタクトを示す所見が得られた(図2)。顆粒細胞を覆う膜は複数のグリアから由来する可能性もあり,また顆粒細胞の表層と深層ではastrocyteの形態も多様的である。このため,今後更に解析数を増やし,顆粒細胞層におけるニューロンとグリアの三次元構造とその関係について解析を続けたいと考えている。

図1

図1;

ゴルジ染色による超高圧電子顕微鏡ステレオ像(±8º )ゴルジ染色されたastrocyteの膜状構造が顆粒細胞を取り囲んでいる。Bar=10mm

図2

図2;

図1のastrocyteの連続傾斜像を超高圧電子顕微鏡にて5º 毎に撮影し,電子線トモグラフィー法により三次元再構築をおこない,15º 間隔で展開表示した。

 

7.ステロイドホルモンとその受容体による神経細胞および神経膠細胞の
三次元構造に関する超高圧電子顕微鏡

小澤一史(日本医科大学 大学院医学研究科 生体制御形態科学分野)

 私たちは特に副腎皮質ステロイドホルモンであるグルココルチコイドとその受容体による,神経細胞および神経膠細胞の機能形態変化調節について,これまでに様々な角度から研究を進めてきている。その一環として,循環コルチコステロイド状態の変動に伴って,神経細胞あるいは神経膠細胞の超微細形態の変化について,特に超高圧電子顕微鏡を用いて観察し,三次元構築の変化を観察してきている。神経細胞においては,グルココルチコイドと関連してストレス応答を考える上で重要な中枢神経系の部位である海馬領域,特にグルココルチコイド受容体が多数発現する錐体細胞層のCA1.CA2領域や歯状回の顆粒細胞における樹状突起の棘(spines)の形状,密度等に注目して観察を行っている,これらの神経細胞は,例えば副腎摘出術を行い,血中のコルチコステロイド濃度が減少すると,その影響を受け,棘の形状の縮小化,密度の減少などの形態変化を引き起こし,一方,コルチコステロイドの補充によって,この形態変化が正常状態に回復する様子も明らかになっている。一方,神経膠細胞では逆に,循環コルチコステロイド状態が減少すると細胞の肥大,突起とその細かな分岐の増大が顕著に認められ,コルチコステロイドの補充によってその肥大は収まり,正常状態に戻るといった形態変化を示すことが明らかになりつつある。つまり,コルチコステロイドの変動に伴う形態学的反応性は,神経細胞と神経膠細胞では逆の方向性を示す可能性を示唆するものである。

 神経細胞の棘は樹状突起において全方向性に存在し,多くの他の神経の軸索を受け,シナプス形成に関わることから,これらの棘の形状や密度の変化は,神経情報伝達効率の変化に関わる可能性を強く示唆するものである。こういった三次元的形状観察には,従来の二次元的超微細形態を観察する透過型電子顕微鏡に比べはるかにダイナックで多数の情報を超高圧電子顕微鏡観察が与えてくれ,大きな成果を与えてくれる可能性が高い。また,神経膠細胞も多方向性の複雑な突起を伸ばしており,これらの観察には超高圧電子顕微鏡による三次元的解析が大きな威力を発揮している。また,通常神経膠細胞,特に星状神経膠細胞の観察では免疫組織化学的にそのマーカーとなるGFAP (glial fibrillary acidic protein)を用いての観察が中心となるが,Golgi鍍銀染色による星状神経膠細胞の描出ではGFAP免疫染色にて描出される突起よりも詳細な分岐構造も観察でき,その三次元的広がりを観察することが出来る。これまでの観察によるコルチコステロイド環境の違いによる神経細胞と神経膠細胞の三次元的微細構造変化では,それぞれの細胞が何らかの相互作用を持ちながら対応している可能性も示唆されつつあり,現在,トモグラフィー観察による詳細な解析と動画的観察への応用も加えて,本研究の進展に努力している。

 

8.Three-dimensional analysis of ultra-structure of functionally identified neurons in the mouse olfactory bulb

Emi Kiyokage, Adam C. Puche, Michael T. Shipley (Department of Anatomy and Neurobiology,
University of Maryland School of Medicine, MD, USA)
Kazunori Toida (Department of Anatomy and Cell Biology, Institute of Health Biosciences,
The University of Tokushima)

 Olfactory bulb neuronal precursors are provided from subventricular zone continuously. After reaching the olfactory bulb, these cells migrate radially to various layers of the olfactory bulb. Recent our report showed that 45 % of migrating cells use the blood vessels as a scaffold and interact with perivascular astrocytes end feet in the granule cell layer. We have been investigating the neuronal organization of the olfactory bulb by both structural and physiological analyses. In addition, we have started analyzing three-dimensional ultrastructures of association of migrating cells with local blood vessels and perivascular astrocytes in the subependymal layer (SEL) by high-voltage electron microscopy (HVEM). The mice olfactory bulbs were processed for Golgi impregnation and embedded in Epon-Araldite resin. Epon-embedded blocks were cut at 100 mm thick with a sliding microtome, and resections 5 mm thick were cut with a ultramicrotome. The specimens were observed at 1000kV with H-1250M HVEM, and photographs were taken by tilting the specimen stage from -60º to +60º by 2º step for electron tomography analysis.

 We could observe three-dimensional structure of Golgi-stained processes of astrocyte and Golgi-unstained cells both surrounding blood vessels in the SEL by HVEM. From their location and shape, Golgi-unstained cells were considered to be migrating cells. HVEM confirmed structural closed relationship among astrocytes, blood vessels and migrating cells revealed by our previous EM examination. The blood vessels were surrounded by thin astrocyte sheet-like processes, and migratory cells were associated with the astrocyte end feet along blood vessels. As examined by conventional EM study, no migrating cells directly contacting endotherial cells have been observed. Further analyses by three-dimensional tomography have been carried out continuously to reveal more detailed finer structural relationship among astrocytes, migrationg cells, and blood vessels.

 

9.哺乳類神経前駆細胞からの神経細胞生成過程の観察

小曽戸陽一,末次妙子(理化学研究所・発生再生科学総合研究センター)
樋田一徳,清蔭恵美(徳島大学大学院・神経情報医学部門・情報統合医学講座・形態情報医学分野)
有井達夫(生理学研究所・脳機能計測センター・形態情報解析室)

 脊椎動物の中枢神経系神経細胞の前駆細胞である神経上皮細胞は,発生期脳の脳室帯のアピカル表層で細胞分裂を行う。脳発生の初期には,前駆細胞が増殖する対称的な分裂,後には神経細胞を生み出す非対称的分裂(一つの前駆(神経上皮)細胞から,前駆細胞および神経細胞が生成)が一定の割合で見受けられる。近年のタイムラプス顕微鏡観察により,細胞分裂期においては細胞体と基底(basal)膜のコンタクトは大変細長い形状(直径1mm以下,長さ100mm以上)となるものの,突起状の構造体(basal process)として保持されていることが示された。しかしながら,細胞分裂の際にbasal processがどのように娘細胞に引き継がれるかについては不明な点が多い。現在のところその極めて細長い構造から,細胞分裂の際には分裂することはなくどちらかの娘細胞に不均等に分配されるとの考えが通説である。Basal processの不均等な分配が娘細胞の運命決定(増殖的あるいは神経生成的)に働いているとの報告もなされていることから,細胞分裂時の分配様式を知ることは胎児脳における神経新生の仕組みを理解する上で重要であるといえる。

 我々は,神経上皮細胞のbasal processの形態学的情報を正確に得るためには電子顕微鏡観察が必要であると考え,生理学研究所の超高圧電子顕微鏡(H-1250M)によるbasal processの観察を行ってきた。我々はこれまでに,胎生期のマウス脳における神経上皮細胞のbasal processの微細構造を評価するための観察手法の確立を行い,ゴルジ染色法と超高圧電子顕微鏡を組み合わせることでbasal processを可視化する方法が適していることを見出し,この方法で多くのサンプルを観察した。この手法により,分裂期細胞体からapical-basal細胞極性軸に沿ったbasal processが,2本が平行,もしくは緩やかな螺旋状に基底膜側方向に向かい伸長している形態が見出された。このことは,細胞分裂期においてbasal processがその非常に細長い構造にもかかわらず,細胞体分裂より前の段階で分裂している可能性を示している。この観察結果は,我々が走査型電子顕微鏡で見出した basal processの形態と類似性が見られることから(図1),細胞分裂期の神経上皮細胞のbasal processは,少なくともある割合において分裂しているとの所見に至った。この結果は,胎生期の神経前駆細胞からの神経細胞新生メカニズムを知る上で,高い新規性を持つものである。

図1

図1 

発生中のマウス脳における細胞分裂期の神経上皮細胞の走査電子顕微鏡像(a,a’)および比較のための超高圧電子顕微鏡像(b,「生理学研究所年報28(2007)p.188-189」より抜粋)。a’は,aの白四角部分の拡大像。矢印は,対となる2本のbasal processが細胞体(*)から伸長していることを示している。Bar=1mm

 

10.3-dimensional analysis of mitochondrial formation effected Bax inhibitor-1 in human cell

Seok-Won Jeong, Jee-Young Kwon, Young R. Seo (Dep. Pharmacology, Institute for Basic Medical Science,
Medical Research Center, School of Medicine, Kyung Hee University)

 Due to a number of human health problems such as neurodegenerative disease and cancer, a few studies relating apoptosis signaling pathway recently has been concerned. One of many apoptosis related genes, Bax inhibitor-1 (Bi-1) protein has been known to have the ability to suppress Bax-induced apoptosis in mammal cells. Though the Bi-1 was reportedly suggested to play a role in endoplasmic reticulum (ER)-mediated stresses, the function and localization of the Bi-1 protein has not been elucidated. At our recent study, we have confirmed the localization of Bi-1 associated with ER membrane using conventional electron microscopy. Furthermore, we also found the localization of Bi-1 in mitochondria as a novel aspect of Bi-1 for the role in apoptosis process. In this study, potential roles of Bi-1 protein in mitochondria-dependent apoptosis has been investigated employing a high voltage electron microscopy (HVEM), which has been effectively applied to study the three-dimensional structure. We have attempted to make a 3D-reconstruction of mitochondrial formation in BI-1 normal and BI-1 defective HT1080 cells using IMOD software. Our result might suggest a new approach to understand of BI-1 function on mitochondria in human cell line.

 

11.Fine structure of the mastigont system in Trichomonas vaginalis

Kyung Eun Lee, Ji Young Mun, Se Jin Park, Sung Sik HAN (School of Life Sciences and Biotechnology, Korea University)

 The flagellated protozoan T. vaginalis has been widely studied due to its medical significance and unique structure. The cellular components of T. vaginalis form a complicated 3-dimensional structure. We reconstructed the 3-dimensional structure of T. vaginalis from serial sections in order to observe the spatial structure of the whole cell and electron tomography to examine the structures of the cellular organelles in detail. The 3D reconstructed structure showed the mastigont structure and parabasal filament in the T. vaginalis. From our 3D reconstruction of T. vaginalis, we found the presence of an additional striated fiber. Since the last thin filament, Pf3, was close to the adjacent filament and the two filaments appeared to be vertically parallel in the cross-view, it is likely that this filament seems the same filament as the adjacent filament shown in the 2D TEM image. T. vaginalis also has a Golgi complex supported by parabasal filament. We reconstructed Golgi complex to observe fine structure and found the fenestrate structure on Golgi complex.

 

12. 3-D Reconstruction of Plastid Crystalline Bodies during Development (II)

InSun Kim (Keimyung University)

 

 High voltage electron microscopy has been employed to obtain 3-D reconstruction data from foliage plastids of the Sedum rotundifolium. Formation of the plastid crystalline bodies has been investigated at the sub-cellular level of the two different cell types. The plastid crystalline bodies in mesophyll and epidermal cells both exhibited paralleled and paracrystalline lattice structures, but the arrangement of elements consisting of the body were different at the onset. In the mesophyll plastids, 3-4 aggregates of tubular elements initially formed a cluster having different periodicity distances between elements within each aggregate (Fig. 1). During plastid development, these elements rearranged into evenly-spaced, approximately 17-19 nm, tubular bodies and became a homogenous structure. In the epidermal plastids, however, the crystalline bodies were distinguished by membranous nature. The elements of growing crystalline bodies were derived from the thylakoidal membranes of various orientations that were adjacent to the bodies. The periodicity distances between membranous elements were rather irregular at the beginning, but reached to about 10-12 nm soon due to appression of the newly joined membranes that were just added to the growing bodies. Thus, the plastid crystalline bodies examined in the two cell types demonstrated quite different origin and formation during development.

 

Fig 1

Fig 1. Plastid crystalline body exhibiting at least three different element orientations.

 

13.ナノ粒子の点鼻および気管内投与による曝露経路の検索

坂井伸光,小寺恵介,内山巌雄
(京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻環境衛生学講座)
松井康人
(東京大学総合研究機構ナノマテリアセンター)
坂本浩隆,河田光博
(京都府立医科大学解剖学教室生体構造科学部門)

【背景】粒子状物質が体内に入る最大の入口は,口と鼻からの吸入によるものである。中でも,嗅覚神経を介する曝露系の検索は,主にOberdrsterらにより研究が進められてきた。Mnナノ粒子(直径30 nm,450 (mg/m3))を曝露したところ,対照群と比較すると,ラットの嗅球で,Mn濃度が約2.5倍に増加していることを報告している。右の鼻を覆って曝露したところ,右の嗅球では対照群と同じレベルであったが,左の嗅球では両鼻曝露時と同量の値の増加を確認した。

【方法】金コロイド投与による,嗅球糸球体における粒子の観察には,大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所の超高圧電子顕微鏡 (H-1250M) を用いた。マウス (BALB/c,male,10 weeks) に麻酔下で,左鼻に金コロイド溶液(粒径5 nm,SIGMA社)10 mLをマイクロピペットにて投与した。投与から24時間経過したマウスを灌流固定し,30分間の静置後に嗅球を摘出し,グルタルアルデヒドを含む固定液中浸漬固定した。嗅球を冠状面にて二分割し,オスミウム酸で固定した。これをエタノールにて脱水し,最終的にエポキシ樹脂に置換し,恒温器で2日間重合した。このブロックを,ウルトラミクロトームを用いて,厚さ500 nmの嗅球の超薄切片を,冠状面にて作成した。切片作成にはダイアモンドナイフを使用した。これを電顕用のグリッドに置き,デシケーター内で乾燥させ,最終試料とした。

【結果】嗅球の糸球体において,明確な金粒子の像は観察できなかった。しかしながら,嗅神経の観察や,肺胞付近における神経の観察をすることができた。後者における神経像を図1に示す。

 図中央の球状の肺胞上皮を取り囲むように,上部に2つ下部に2つの肺胞が確認できる。図右下の肺胞と,中央の大型の肺胞の間に,黒いライン状の神経線維が確認できた。今回の実験では,神経内の輸送による投射先での金の確認はできなかった。しかしながら,超高圧電子顕微鏡を用いることで,これまでにない深部まで走行する神経像を捉えることができた。次回の実験では,粒子の投与量や粒径などを変化させることで,金ナノ粒子の検出を目標とする。

 

図1

図1 超高圧電子顕微鏡による肺胞周辺の神経のステレオ像,左右±8°の角度をつけて観察

 

《超高圧電子顕微鏡共同利用実験での業績リスト》

発表論文

  1. Mun JY, Arii T, Hama K, Han SS (2007) Rhabdomere formation in late pupal stage of Drosophila melanogaster ; Observation using high-pressure freezing and freeze-substitution, and high-voltage electron microscopy. Korean J Electron Microsc 37, 35-42.
  2. Mun JY, Park SJ, Han SS (2007) Improved ultrastructural preservation of retinal cells in Drosophila melanogaster. Korean J Electron Microsc 37, 175-183.
  3. Nishida T, Arii T, Takaoka A, Yoshimura R, Endo Y (2007) Three-dimensional, computer-tomographic analysis of membrane proteins (TrkA, caveolin, clathrin) in PC12 cells. Acta Histochem. Cytochem. 40, 93-99.
  4. Nishida T, Nishikawa Y, Jinnai H, Arii T, Yoshimura R, Endo Y (2007) Ultrastructural localization of the neurotrophin receptor (TrkA) in cultured rat pheochromocytoma PC12 Cells: three-dimensional image analysis by high voltage electron microscopy. Biomed Res. 2007 Jun ;28 (3):161-7 17625349.
  5. Lee KJ, Jung JG, Arii T, Imoto K, Rhyu IJ (2007) Morphological changes in dendritic spines of Purkinje cells associated with motor learning. Neurobiol Learn Mem. 88, 445-450.

 

学会報告

  1. Mun JY, Lee TH, Kim JH, Koo HS, Han SS (2007.2) Cryo-Electron Tomography of mitochondria : Three-dimensional structure of Organization of Cristae and Membrane Contacts. 4th Asian Society for Mitochondrial Research and Medicine, ASMRM (Seoul, Korea).
  2. 日高 聰 (2007.3) 網膜アマクリン細胞間のギャップ結合の生理機能特性。第84回日本生理学会大会(大阪)
  3. 濱 清 (2007.3) グリア細胞,特に星状グリア細胞の3次元形態について。第112回解剖学会総会(大阪)
  4. 樋田一徳 (2007.3) 嗅球神経回路における遠心性調節機構の構造解析。第112回日本解剖学会総会(大阪)
  5. Kim IS (2007.7) 3-D reconstruction of two different types of plastid crystalline inclusions in Crassulacean acid metabolism performing plants. International Symp. for the Commemorative 50th Botanical Society of Korea (Muju, Korea).
  6. Mun JY, Lee TH, Kim JH, SJ Park SJ, Koo HS, Han SS (2007.8) Deletedincancer1(DICE1) controls cristae morphology:Electron tomographic and ultrastructural analysis of the mitochondria in C.elegans. Microscopy & Microanalysis 2007 meeting (Fort Lauderdale, USA).
  7. 日高 聰 (2007.9) Cellular components in electrical synapses between retinal amacrine cells contributing to lateral interactions. Neuro2007,第30回神経科学会(横浜)
  8. 日高 聰 (2007.10) 網膜ニューロン間電気シナプスのチャネル開口率の計測。第11回視覚科学フォーラム(岡崎)
  9. Lee KE, Kim JH, Jeong MK, Ryu JS, Han SS (2007. 10) Ultrastructures of Trichomonas vaginalis by electron tomography. 19th annual meeting of the Korean soc. molecular and cellular biology(Seoul, Korea).
  10. Mun JY, Lee TH, Kim JH, Jeong DH, Koo HS, Han SS (2007.10) A C.elegans homolog of the human mitofilin genes controls cristae morphology in muscle cell. 19th annual meeting of the korean society molecular and cellular biology (Seoul, Korea).
  11. Mun JY, Lee TH, Kim JH, Jeong DH, Koo HS, Han SS (2007.11) Three dimensional structure of mitochondria using cryo-fixation and electron tomography. Korean Microscopy conference (Daejeon, Korea).

 


このページの先頭へ年報目次へ戻る生理研ホームページへ
Copyright(C) 2008 National Institute for Physiological Sciences