生理学研究所年報 第30巻
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脳機能計測・支援センター

形態情報解析室

【概要】

 形態情報解析室は,形態に関連する超高圧電子顕微鏡室(別棟)と組織培養標本室(本棟2F)から構成される。

 超高圧電子顕微鏡室では,医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型;常用1,000kV)を,昭和57年3月に導入して同年11月よりこれを用いての共同利用実験が開始されている。平成20年度は共同利用実験計画が27年目に入った。本研究所の超高圧電顕の特徴を生かした応用研究の公募に対して全国から応募があり,平成20年度は最終的に13課題が採択され,実施された。このうち5件は,国外の研究者による研究あるいは国外の研究者が関係するものである。これらは,厚い生物試料の立体観察と三次元解析,薄い試料の高分解能観察等である。共同利用実験の成果は,超高圧電子顕微鏡共同利用実験報告の章に詳述されている。超高圧電子顕微鏡室では,上記の共同利用実験計画を援助するとともに,これらの課題を支える各種装置の維持管理及び開発,医学生物学用超高圧電子顕微鏡に関連する各種基礎データの集積および電子顕微鏡画像処理解析法の開発に取り組んでいる。電子線トモグラフィーによる手法には,コロラド大で開発されたIMODプログラムでの方法などを用いて解析を進めている。

 本年度の超高圧電顕の利用状況の内訳は,共同利用実験等131日,修理調整等60日である(技術課脳機能計測・支援センター形態情報解析室報告参照)。電顕フィルム等使用枚数は7,064枚,フィラメン点灯時間は409時間であった。平成20年度は,装置は72%の稼働率で利用され,試料位置で10-6Pa台の高い真空度のもとに,各部の劣化に伴う修理改造を伴いながらも高い解像度を保って安定に運転されている。

 組織培養標本室では,通常用およびP2用の培養細胞専用の培養機器と,各種の光学顕微鏡標本の作製および観察用機器の整備に勤めている。

 

小腸絨毛上皮下線維芽細胞におけるサブスタンスP受容体の局在

古家園子

 小腸絨毛上皮下線維芽細胞はアクチンに富んだ星状の細胞で細胞突起間がギャップ結合でつながった細胞網を形成している。上皮,毛細血管,神経,平滑筋や免疫細胞と隣接し,機械的刺激に応答してATPを放出し,絨毛上皮下において情報伝達とその制御を担っている。培養した上皮下線維芽細胞はATPやエンドセリンだけでなく,サブスタンスPにも反応して細胞内Ca2+濃度が上昇するが,生体内においてサブスタンスPに反応するのか,受容体 (NK1) が局在するかなど,明らかになっていなかった。光顕及び電顕免疫組織化学にて,NK1受容体は小腸絨毛の上皮下線維芽細胞に局在し,陰窩の上皮下線維芽細胞や大腸陰窩の上皮下線維芽細胞には局在しないこと,細胞突起にNK1受容体が多いことが明らかになった。

 

超高圧電子顕微鏡トモグラフィー2軸解析について

有井達夫,濱 清

 電子線トモグラフィー手法に関しては,現在は,米国コロラド大で開発されたIMODプログラムでの方法を用いて解析を進めている。ゴルジ染色したラット大脳におけるアストロサイトのデータ(J. Neurocytol. 33, 277-285 (2004);2軸傾斜した一連の傾斜像)をIMODプログラムにより,2軸トモグラフィー解析することができている。今後,解析精度との関連での研究成果が期待される。

 

生体機能情報解析室

【概要】

 随意運動や意志・判断などの高次機能を司る神経機構の研究が進められた。サルを検査対象として大脳皮質慢性埋込電極を利用し,大脳皮質フィールド電位の記録解析を行っている。

 

注意に関係する脳活動の研究

逵本 徹

 「注意」の神経機序を解明する目的で陽電子断層撮影法を用い,前頭前野・前帯状野・海馬の脳血流量が想定される意欲の変化と一致した変動を示すことを明らかにした。大脳辺縁系と前頭前野の「意欲」への関与を示唆する知見である。さらに一歩進めて,この脳領域でどのような神経活動が行われているのかを解明するために,運動課題を行うサルの大脳皮質フィールド電位を記録した。その結果,前帯状野32野と前頭前野9野のシータ波活動が「注意」や「意欲」などのexecutive attentionに相関していると解釈可能な知見を得た。両部位のシータ波は高いコヒーレンスを示し,これらの部位が機能的に一体となって活動していることを示唆する。この活動はヒトの脳波で観察されるFrontal midline theta rhythmsに相当すると考えられる。埋め込み電極による高い空間分解能を活かして,現在,32野と9野の間の情報の流れについて解析を行うとともに,さらに別の課題での記録を試みている。

 

多光子顕微鏡室

【概要】

 多光子顕微鏡室は旧脳機能計測センター・生体情報解析室から,ネットワーク管理室と分離し,専任の独立准教授1名(根本知己),技術職員1名(前橋寛)からなる部門として改組された。多種多様な由来を持つ光学顕微鏡関連機器を統一的に管理し効率的な運用を図る共に,研究所の内外への技術協力を行っている(技術相談,見学等20件以上)。

 多光子顕微鏡は,低侵襲性で生体および組織深部の微細構造および機能を観察する装置であり,近年国内外で急速に導入が進んでいるが,安定的な運用を行うためには高度技術が必要であるため,共同利用可能な研究機関は本室が国内唯一である。またこの学際的な新手法を普及させるため,研究所枠を越えた勉強会,セミナー等を定期的に実施した。根本准教授のグループでは (1) 非線形光学や光化学を活用した新しいバイオ分子イメージング手法の開発,(2) 小胞輸送,開口放出・分泌現象などの分子細胞生物学的基盤とその生理機能の研究を中心に研究を推進している。以下,主な研究項目について述べる。計画共同研究3件については別項に記載した。

in vivoイメージング手法の展開
 レーザー光学系の独自の改良により,生体脳において深さ約1mmの構造を1mm以下の解像度で観察できる性能を実現した。生体内神経細胞のCa2+動態イメージング技術の確立および長時間連続イメージングのための生体固定器具の開発を行うとともに,同一個体・同一微細構造の長期間繰り返し観察技術の確立を行った。

生体肝代謝活性のin vivo測定法の開発
 企業との共同研究により,新たに2光子in vivo FRAP法の開発に成功し,麻酔下のマウス生体肝細胞における代謝活性を非侵襲的に定量することを可能とした。

身体左右差獲得のCa2+イメージング
 バイオ分子センサープロジェクトにより,基礎生物学研究所野中茂紀准教授と実施した。哺乳動物の身体の左右非対称性はノード流の一方向性に由来するが,その細胞生理学的な分子機構は不明である。そこで,マウス初期胚のCa2+イメージングからその分子機構を検討し,非対称なCa2+振動の存在が明らかになった。

膵臓外分泌腺の開口放出における水チャネルの生理機能
 東京医科歯科大腎臓内科グループの作成したAQP12ノックアウトマウスを用いて,水チャネルの開口放出における生理的な役割についてCa2+依存性開口放出の可視化解析による検討を行った結果,急性膵炎発症の初期過程と強く関係することが明らかになった(科学研究費特定領域研究)。

マイクロチップレーザーによる多光子励起過程の検証
 機構内連携「レーザーバイオロジー」プロジェクトにより,分子科学研究所平等拓範准教授グループの開発した超小型高出力の近赤外ピコ秒パルスレーザーの生体イメージングへの応用を検証するため,蛍光タンパク質等の多光子励起過程による活性化を試みた。

ベクトルレーザービームによる超解像イメージング法の開発
 新しい光ベクトルレーザー光を用いて,古典的な光の回折限界を打ち破る蛍光ナノイメージング法の開発に着手した (JST, CREST)。

 その他,グルコース輸送体の小胞輸送による生理機能制御,ノックアウト動物によるSNARE分子複合体の機能,新規多光子顕微鏡システムの開発などについても着手した。

 



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