画像統計解析の概要
データ解析の点では、PET脳血流画像の集団解析における標準的な統計処理方法がほぼ確立され、3次元PETデータの個人解析、さらには機能的MRIへ拡張されつつある。その概要と、機能的MRIに特異的な問題を指摘する。
PET における統計解析は、当初課題遂行時の脳血流画像と、その対照状態のそれとの差分をとり、画素ごとにその差の t 検定をおこなうことからはじまった。その後、parametric approach, factorial approachを含む柔軟なモデル化を可能とするgeneral linear modelが取り入れられた。画素ごとの統計値計算は、必然的にparametric mapを形成することになる。これをstatistical parametric mapという。これには、(a)統計分散を減少させるための前準備、(b)統計値計算、(c)統計値の検定というプロセスが含まれる。
 

Realignment (位置ずれ補正)

脳 賦活検査では、画素ごとに脳血流の増分を統計検定する必要がある。その際、被験者の頭部の動きによる位置ずれは、統計雑音を著しく増加させる。これを抑制 するためには、頭部固定を十分に行うことが必要である。しかし、一般に長時間にわたる完全な固定は困難であり、画像後処理により、位置ずれ補正をすること が行われている。脳全体を剛体として、評価関数を最小とするような、回転と並行移動の6パラメーターを推定、画像のresamplingを行う (1-3)。PETでは、RI信号は脳実質に由来する一方、機能的MRIでは、脳脊髄液からも大きな信号が発生する。このため、位置ずれの影響は、PET の場合よりも大きい。さらに傾斜磁場内における位置により信号の強度が変化する問題もあり(4)位置ずれ補正の問題はPETの場合より複雑である。また、 課題遂行に一致するような頭部の動きがある場合に、課題遂行による脳血流の増加との区別が困難となることがある。
 

Anatomical Normalization(解剖学的正規化)

解剖学的正規化とは、個々人の機能画像を、標準的な鋳型(一般にはTailairach's atlas, 5) が用いられる)に線形的あるいは非線形的に写像することで、様々な方法が提案されている(1, 6-8)。元来は、低解像度のPET画像から解剖学的位置を客観的に推定するために開発された方法であるが(1)、複数の被験者データを同一空間に集約す ることにより、統計的S/Nを上げることが出来ること、様々な実験による結果を共通の座標に集約することが出来ることから頻用されている。機能的MRIで は、個人データの自由度が高いので、統計処理には必ずしも必要ではない。しかしながら、個人での所見を一般化するためには、有力な手段と考えられる。な お、機能的MRIでは、画像の局所的な歪みがPETあるいは解剖学的MRIに比べると大きいので、これを正規化することには困難がある。また脳底部の空気 ―組織境界ではsusceptibility artifactを生じ、そのために信号の消失をきたす。この場合には、信号の消失した部分に関しては、正規化は不可能である。
 

Spatial Smoothing

Spatial Smoothingとは1つのピクセルの値を、そのピクセルの付近に分布する値を近いところは大きく、遠いところは小さく重みをつけて平均する(加重平均)ことである。PETにおいては、spatial smoothingは分解能を犠牲にして雑音を減少させるのが主目的であった。機能的MRIにおいては、さらに統計値の検定(多重比較補正)において重要な役割をはたすTheory of Gaussian Field (後述) の仮定を満たすために行う。これは、機能的MRIにおいては、pixel sizeと空間分解能が一致することによるものである。具体的には2pixel分のspatial smoothingにより、Theory of Gaussian Fieldの仮定を満たすことができるとされている(9)。
 

統計値計算

脳 局所の脳血流が増加しているかを統計的に検定するためには、複数回の測定と統計モデルを基に、局所毎(各voxel毎)に統計値(例えば t 値あるいは正規化した z 値)を計算する必要がある。Generalized linear modelを用いると、condition effectの評価も、covariate(例えばtask performance や reaction time)に相関する血流変化も、同じregression analysisの枠組みで計算できるので便利である(10)。さらに課題遂行に無関係な信号の変動を統計的に評価し、これをcovariate of no interestとして統計的に除去することも可能である。この枠組みはPET、機能的MRIで共通に用いることができるが、temporal autocorrelationの補正が必要である。これは、MRとPETの、データサンプル間隔の違いに起因するものである。電気的神経活動により惹起 される脳血流変化の時定数は約5秒程度と推定されている(11)。PETではサンプル間隔が約10分であるから、時間的に隣り合うデータは独立と考えて良 い。一方MRによるデータサンプル間隔は、数秒程度であるので、隣り合うデータは独立ではなく、相関しているものと考えられる(temporal autocorrelation)。Temporal autocorrelationによるバイアスは、自由度の大きさにかかってくるが、temporal smoothingの大きさがわかっている場合には補正が可能である(12, 13)。
 

統計値検定

各 voxel毎に t 値を計算する際の帰無仮説はそのvoxelに特異的なものである。これを観察している脳全体にわたって検定する場合にはそのvoxelの数だけの帰無仮説 があることになる。これが多重比較問題といわれるものである。実際に必要なのは、観察されている領域全体にわたって、ある閾値以上の値をとる領域の出現確 率を知ることである。これは、Theory of Gaussian Fieldによって与えられる。即ち、"各voxelの統計値が正規分布をもち、お互いに空間的に関連している(spatial autocorrelation)とき、ある閾値を越える値により形成されるクラスターの数はポアソン分布に従う"(9, 14, 15)。脳全体を、Gaussian Fieldと仮定し、近接するvoxelの脳血流値の似通っている程度(これをspatial autocorrelationあるいはsmoothnessという)を実測して、Gaussian Field Theoryを適用することにより、観察している領域における多重比較における偽陽性率をコントロールすることが試みられている(10, 15)。
 

参考文献

  1. Friston KJ, Ashburner J, Frith CD, Heather JD, Frackowiak RSJ: Spatial registration and normalization of images. Hum Brain Mapp 1995; 2: 165-189.
  2. Minoshima S, Berger KL, Lee KS, Mintun MA: An automated method for rotational correction and centering of three-dimensional functional brain images. J Nucl Med 1992; 33: 1579-1585.
  3. Woods RP, Cherry SR, Mazziotta JC: Rapid automated algorithm for aligning and reslicing PET images. J Comput Assist Tomogr 1992 ;16: 620-633.
  4. Friston KJ, Williams S, Howard R, Frackowiak RS, Turner R: Movement-related effects in fMRI time-series. Magn Reson Med 1996; 35: 346-355.
  5. Talairach J, Tournoux P Co-planar stereotaxic atlas of the human brain. New York, Thieme 1988.
  6. Fox PT, Perlmutter JS, Raichle ME: A stereotactic method of anatomical localization of positron emission tomography. J Comut Assist Tomogr 1985; 9: 141-153,
  7. Minoshima S, Koeppe RA, Mintun MA, Berger KL, Taylor SF, Frey KA, Kuhl DE: Automated detection of the intercommissural line for stereotactic localization of functional brain images. J Nucl Med 1993; 34: 322-329.
  8. Minoshima S, Koeppe RA, Frey KA, Kuhl DE: Anatomic standardization: linear scaling and nonlinear warping of functional brain images. J Nucl Med 1994;35: 1528-1537.
  9. Friston KJ, Holmes A, Poline J-B, Price CJ, Frith CD: Detecting activations in PET and fMRI: levels of inference and power. Neuroimage 1996; 4: 223-235.
  10. Friston KJ, Holmes AP, Worsley KJ, Poline JB, Frith CD, Frackowiak RSJ: Statistical parametric maps in functional imaging: A general linear approach. Hum Brain Mapp 1995; 2:189-210.
  11. Bandettini PA, Wong EC, Hinks RS, Tikofsky RS, Hyde JS: Time course EPI of human brain function during task activation. Magn Reson Med 1992; 25: 390-397.
  12. Worsley KJ, Friston KJ: Analysis of fMRI time-series revisited-again. Neuroimage 1995; 2: 173-181.
  13. Seber GAF: Linear regression analysis. New York: Wiley,1977.
  14. Adler RJ: The geometry of random fields. New York: John Wiley & Sons, 1981; p133
  15. Friston KJ, Worsley KJ, Frackowiak RSJ, Mazziotta JC, Evans AC: Assessing the significance of focal activations using their spatial extent. Hum Brain Mapp 1994; 1:210-220.