2015年度から2022年度まで

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社会能力の発達過程のモデル化を目指した2個体同時計測

2014 年までの研究を基盤に、社会能力の発達過程のモデル化を目指して「自他相同性に始まり向社会行動に至る社会能力の発達は、相互主体性を介した共有による学習過程である」との仮説を証明することを目的として、研究を進めた。小池耕彦助教を中心として、2個体間の社会的相互行動の神経基盤を、2 個体脳の相互作用により形成される1つのネットワークモデルとして定量化することにより、電気現象と脳血流現象で捉えた脳活動と行動の対比づけを進めた。具体的には、機能的MRI を用いて、発達過程で出現する社会能力の要素過程としての(1)自己主体性と社会的随伴性、(2)見つめ合いと共同注意、(3)皮肉、(4)ユーモアの授受、(5)共感の神経基盤を明らかにするとともに、(6)学習過程において重要な内発的動機づけの神経基盤を解析した。さらに(7)社会的相互作用が内発的報酬であることを実験的に示し、(8)well-being に重要とされる自己肯定感の神経基盤を描出、そして(9)主観的な「幸せ」の神経基盤を明らかにした。

 

7TMRIの導入と運用

さらに社会的相互行動を担う個体内ネットワークの解剖学的、機能的基盤の詳細をヒトで明らかにすること、更には非ヒト霊長類を直接比較することを目的として、超高磁場(7T)MRI を導入した。2014 年4月に、米国NIH で超高磁場MRI の研究を長らく行ってきた福永雅喜博士を部門の准教授に迎えて、7TMR の設置調整を進めて2015 年度より運用を開始した。社会脳の神経基盤の詳細を明らかにするために、7TMRI を用いたヒト-非ヒト霊長類の種間比較を行うための技術要件を検討した。まずmultiband法を導入・最適化し、1.2x1.2x1.2 mm の空間分解能を持つ全脳スキャンを2 秒程度の時間分解能にて収集することが可能とした。ついで画像収集後の解析に、米国ワシントン大・ミネソタ大が推進するHuman Connectome Project で公開されている解析パイプラインを研究室内のクラスタシステム導入し、7TMRI による高分解能計測への最適化を実施した。さらに皮質内深度(レイヤー)別脳活動計測のためにサブミリメーターの分解能を持つfMRI 計測法確立を進めた。

 

Imaging geneticsへの展開

社会能力発現の脳神経基盤については、その破綻の理解から進める戦略も重要であり、近年精神疾患をターゲットとして、そのゲノム情報と中間表現型との関係を解析する研究が、大規模データを用いて進められている。当部門においても、福永准教授が中心となって、精神疾患に関する多施設大規模データ解析を進めた。その結果、統合失調症では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健常者より大きく、淡蒼球体積については、統合失調症において左側優位の非対称性が存在することを見出した。
 

機能的MRIと深層学習の融合

脳機能理解へ向けた有力な戦略としてコンピュータアルゴリズムによる機能再構成がある。2016年4月に近添淳一准教授を生体機能情報解析室(室長・定藤兼任)に迎え、密接な連携・協力の下で深層学習と機能的MRIを融合させることにより、社会行動の決定要因として重要な個人の嗜好を模倣する人工知能の作成に取り組んだ。なお、近添准教授は、2021 年4月に株式会社アラヤ脳事業研究開発室チームリーダーに転出した。