成果概要
① 発達過程で出現する社会能力の要素過程としての (1) 自己認知(2) 生物学的動きに対する偏好(同種偏好)(3) 相互模倣 、(4) 嘘(5) 皮肉(6) 道徳(7) 共感(8) 向社会行動 の神経基盤 を、機能的MRIにより明らかにするとともに、② 複数個体での視線・行動計測法と2個体間fMRI同時計測の開発 を進めた。

① (1) 「自己への関心」と「自己評価」は右側前頭領域において独立な神経基盤をもつこと、自己顔認知に伴う自己意識情動に島が関与すること、自閉症患者でその反応の低下することが判明した。
(2) 生物学的動きの認知(生物感)は比較的に初期視覚処理を担う領域で表象されることが判明した。
(3)  相互模倣時の「自己の動作と他者の動作の同一性の認識」に関わる神経活動が、人間の身体部分に特異的に反応する視覚領野であるExtrastriate body area(EBA)で見られ、その強度が自閉症患者では減弱していること、さらにEBAは左下前頭前野と共に自他区別に関連する機能的階層ネットワークを形成していることが明らかとなった。
(4, 6) 嘘判断は道徳判断(規範性)の神経基盤と、意図性の神経基盤により表象されており、左側頭頭頂結合はその両者に関係していることが示された。
(5) 自閉症患者で障害のある皮肉理解の神経基盤は、心の理論の神経基盤の一部が関与すること、比喩の神経基盤とは異なることが明らかとなった。
(7) 認知的共感が、側頭頭頂接合部から内側前頭前野へむけた結合増強作用で表象されることが判明した。
(8) 向社会行動が社会報酬を最大にするような行動として選択される場合に、金銭報酬と社会的報酬が線条体において「脳内の共通の通貨」として処理されていること、さらに社会的報酬の評価には、線条体を含む報酬系と心の理論の神経基盤の相互作用が関与していることが明らかとなった。さらに、向社会行動はそれに伴う肯定的感情(温情効果)に依っても生起すること、温情効果が報酬系の一部である線条体の活動で表象され、その程度は共感と正相関することを明らかにした。
②アイコンタクトによる他者との同調性を定量計測する手法を開発し、そのパラメータが自閉症傾向と相関することを示した(特許申請手続き中)。2台のMRIを用いて、2個人間の相互作用中の神経活動を同時に計測するシステムを開発して、共同注意とアイコンタクト時の神経活動を計測したところ、アイコンタクト中の"脳活動共鳴"が右下前頭回において見られ、この領域が2者間の内部モデル(記憶)形成に関与していること、意図の共有に関与していること、自閉症患者においてはこの共鳴が消失することを示した。