第22回生理学技術研究会 研修講演1
平成12年2月25日(金) 9:40〜10:30

多数ニューロン活動の同時記録法:その現状と展望

櫻井芳雄 教授
(京都大学 大学院文学研究科 心理学研究室)

 脳は膨大な数のニューロン(神経細胞)が集まった超複雑な回路網である。その回路網の活動が情報を表現し処理していくことで,脳はすばらしい情報処理を実現し,さらには心というこれまた超複雑な機能を生み出している。しかしながら従来の神経生理学では,回路網を構成している個々のニューロンの活動,すなわちシングルユニットの解析が主であった。その結果,様々な情報処理に関係する特異的なニューロンの分布は,脳の多くの部位において検討されてきたが,真に情報を表現し処理しているはずの回路網そのものの活動については,ほとんど不明であった。そこで,ニューロン回路網の活動を直接測定し調べようという気運が,ここ10年ほどの間に急速に高まってきている。  そのような回路網全体の直接測定のためには,どうしても新しい技術が必要となる。たしかに新しい技術の開発は,心身ともタフな人々により,光学的測定法などを中心として少しずつ進みつつあるが,決して容易ではない。そこで,従来のニューロン活動記録の技術を改善し応用することにより,回路網の部分的な活動を検出し,つまりある程度の状況証拠を検出することで,その背景にある回路網全体の活動とその変化(ダイナミクス)について明らかにしようとする方法が,多数ニューロン活動の同時記録である。ニューロン活動の多点同時記録(multichannel neuronal recording),マルチニューロン活動の記録(multineuronal recording),あるいはマルチユニットの記録(multiunit recording)などとも呼ばれる。  個々のニューロン活動を,多数しかも同時に測定するためには,少なくとも3つの基本的技術が必要とされる。すなわち,専用電極の作製,電極の配列と操作,データの収集,である。今回はこれら実験技術の現状を,それぞれの長所と短所を取り混ぜて概説する。また,今後の展望と可能性についても考察を試みる。

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