第22回生理学技術研究会 研修講演2
平成12年2月25日(金) 11:00〜12:00

非侵襲的脳機能画像による高次脳機能へのアプローチ

定藤規弘 教授
(生理学研究所 心理生理学研究部門)

 神経活動の空間的分布とその連関状態をヒト脳で非侵襲的に観測することは、脳を理解するうえで不可欠である。ポジトロン断層画像,機能的磁気共鳴画像による、脳血流を用いた脳賦活検査では、局所脳血流の増加と神経活動によるエネルギー消費の増大が連関している、という事実に基づき、課題遂行時に脳血流の増大している領域の分布を全脳にわたり描出するという方法を用いる。近年、計測器の感度は向上し、脳血流変化の統計的評価法にも進歩がみられるが、脳賦活検査においては、適切な課題の作成が本質的に重要である。ある要素をとりあげ他の要素をコントロールした課題設計には、動物実験や人脳におけるlesion studyの知見を統合する必要がある。また、ある課題を遂行中に脳血流の上昇している領域が、その課題を遂行するのに本質的であるのか否かは、この検査のみからでは判断できない点も重要である。この点でも、他のアプローチとの総合が必須であり、そのような例が、視覚喪失による可塑性の研究で見られる。点字読に熟達した盲人を対象に、点字列の弁別課題を用いた脳賦活検査を行ったところ、一次視覚野を含む後頭葉が賦活された。また、一次運動感覚野から頭頂葉、後頭葉背側部にかけての賦活もみられた。盲人と晴眼者に対し、同一の非点字性触覚弁別課題を遂行させると、盲人では、一次視覚野を含む後頭葉腹側が賦活化される一方、二次体性感覚野は抑圧された。晴眼者では、後頭葉腹側が抑圧、二次体性感覚野が賦活化された。さらに、点字読を行っている盲人の後頭葉を、経頭蓋的磁気刺激装置を用いて連続的に電気刺激すると、他の領域を刺激した場合に比べ点字読の正確さが落ちた。これらのことから、長期の視覚入力遮断にもかかわらず、視覚野が機能性を保っており、触覚弁別処理が行われうることが示された。脳賦活検査は、実際のヒト脳の活動を直接に捉えるという利点を生かし、構造解析、損傷研究、シュミレーションといった、脳科学における他のアプローチによる知見を総合する"場"となることが期待される。

(連絡先) E-mail: sadato@nips.ac.jp, nsadato@fmsrsa.fukui-med.ac.jp

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