ご挨拶

2005年5月     伊佐 正
認知行動発達研究部門は2003年4月より生理学研究所に発達生理学研究系が設置された際に既存の統合生理研究施設・高次脳機能研究プロジェクトが改組されてできた部門です。
実質的には私、伊佐が1996年1月に生理研に着任してスタートした研究室ですので、今年の初めに発足9年を迎えました。
当初より、眼球のサッケード運動系の制御と注意などの認知機能との関わりをニューロン・シナプスレベルから個体システムレベルまでつなげて理解するために、げっ歯類の上丘スライス標本を用いた研究、さらに覚醒サルのサッケード運動系、そしてマウスのサッケード運動系の研究を組み合わせる研究に着手し、世界中の他のどこの研究室にも見られないようなユニークな統合的脳研究を展開することができたと自負しています。そして研究者の入れ替わりとともに、テーマも少しずつ変遷を遂げ、現在、眼球サッケード運動系と認知機構の関係を追及する研究においては、これまで行ってきた上丘局所神経回路の解析とその修飾機構を中心とする路線に加えて、サルにおいて一次視覚野を破壊した「盲視(blindsight)」のモデルを用いて意識と注意を対象とする研究が展開されつつあります。また長年の研究仲間のスウェーデンのグループと開始したサルの皮質脊髄路と脊髄介在ニューロン系の関わりに関する研究は脊髄損傷後の手指の巧緻運動の機能代償機構を大脳皮質レベルも含む大規模神経ネットワークの再組織化・学習機構として大きく発展しつつあります。このように現在は眼球運動と手の運動の両方について、中枢神経系の損傷後の機能代償をシステム神経科学の問題として扱う課題が研究室の重要なテーマとなってきました。これらの課題については本年度の科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)にも採択され、今後の5年間、我々の中心的な課題となることでしょう。
私たちの研究室の研究戦略はあくまで神経回路の構造と機能を基盤として、その要素を細胞、シナプス、分子レベルまで掘り下げる還元的アプローチと、それらを行動、認知のレベルまでつなげる統合的アプローチを有機的に組み合わせて行っていくことです。このような研究戦略は21世紀の脳科学において主要な潮流となると思いますが、それを今から先取りして追究していきたいと考えています。このような我々のvividな研究活動により多くの方が参加してくださることを願っています。



 伊佐 正 教授 
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