総
「脊髄 ー躯を流れる琵琶湖疎水の如し」
場所は京都東山。
比叡山から伏見稲荷山にわたる山々は「東山三十六峰」と知られ、その形状があたかも釈迦が横たわっているように見えることから「東山の涅槃像」と呼ばれ、古より人々の信仰を集めて来た。
南禅寺から大文字山、ちょうど涅槃像の臍あたりへと足を踏み入れると、平安より変わらぬ凛とした濃青の空気が躯の穴という穴から滲み入ってきて、およそ現代に生きているという記憶を掻き消そうとしてくる。
ふと足下に目を遣ると、一筋の水脈がひっそりと流れている。もともと独自の水瓶をもたぬ京都市街地へ琵琶湖から上水を引く為に造られた琵琶湖疎水である。この水脈は、北へ南へとめまぐるしく進路を変え、また時に幾重にも分枝しながら、しかし着実に末梢の家々へと水を運び込んでいる。
そう、それはまるで、すべての中枢神経系の活動が脊髄を通り末梢の肢体を制御しているかの如き羯磨曼荼羅、、、