これまでの主な成果
 
1. 上丘局所神経回路(1)浅層―中間層間の結合関係の証明(Isa, Endo & Saito, J. Neurosci 1998)
Isa T, Endo T, Saito Y (1998) The visuo-motor pathway in the local circuit of the rat superior colliculus. Journal of Neuroscience 18: 8496-8504.
中脳上丘はサッケード運動など、外来の感覚刺激に対して視線を向ける「指向運動」を制御する脳幹の中枢である。以前より、上丘浅層には視神経及び一次視覚野から視覚入力が入り、反対側の視野の秩序だったマップが形成されている(Cynader and Berman 1972)。それに対して、中間・深層には電気刺激によって誘発される指向運動のベクトルに関してやはり秩序だった「運動マップ(motor map)」が形成されている(Robinson 1972, Schiller and Stryker 1972)。当初は両マップの空間表現は類似していることから、上丘においては浅層から中間・深層への信号伝達が存在していると考えられてきた(Sprague 1975)が、その後解剖学的な所見(Edwards, 1980)やサルでの神経活動記録(Mays and Sparks 1980)から長年にわたり、上丘浅層から中間・深層への信号伝達経路の存在については否定的な見解が中心的であった。
本研究では、ラットの上丘スライス標本において浅層、視神経層、中間層のニューロンからホールセル記録を行い、視神経および浅層の電気刺激の効果を解析した。
その結果、
  1. 浅層、視神経層ニューロンは視神経から単シナプス性入力を受ける。そのシナプス伝達には非NMDA型とNMDA型グルタミン酸受容体が寄与している。
  2. 中間層ニューロンは記録された32個のうち24個のニューロンにおいて視神経からoligosynapticな入力を受ける。(2個においては単シナプス性のEPSPも観察された)。このEPSPは大きくないが細胞外液にbicucullineを加えてGABAA受容体を抑制するとEPSPは顕著に増強し、単発刺激によって数百ミリから数秒にわたる長時間の脱分極応答とバースト状の活動電位の連発発火が起きる。
ということが明らかになった。
以上の結果から上丘浅層から中間層への興奮性シナプス伝達経路は存在するが、通常その伝達は弱いが、GABA作動性の抑制性シナプス伝達が抑制されると顕著に増強されるという一種の「ゲート機構」が存在することが示唆された。
この結果から、例えばexpress saccadeのような超短潜時のサッケード運動が遂行されるような場合に、上丘浅層から中間層への直接の信号伝達経路がサッケード運動の開始に寄与するという可能性が考えられる。
図
 


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