これまでの主な成果
 
11. 上丘局所神経回路(11)ラット上丘の層間の興奮性信号伝播機構(Saito & Isa, J. Neurophysiol., 2005)。
Saito Y, Isa T (2005) Organization of interlaminar interactions in the rat superior colliculus. Journal of Neurophysiology,

ラットの上丘スライス標本において中間層ニューロンや視神経層のwide field vertical cell (WFV cell)及び一部の浅層においてホールセル記録を行い、細胞外液にbicucullineを加え、Mg濃度を0.1 mMに低下させると近接する細胞間で自発性同期的脱分極とバースト発火が生成される。我々はこの現象を上丘中間層ニューロンにおいて行動開始前に観察されるバースト発火と共通のメカニズムを有していると考えて、その生成機構と伝播機構を解析してきた(Saito and Isa, 2003, 2004)。
今回の研究では、最初に上丘中間層の小片を作成し、その中で2個のニューロンから同時記録を行うと、確かに自発性同期的脱分極は記録されたがその頻度はきわめて少なかった。それに対して、浅層を含むほぼ同じ大きさの切片を作成してその中の中間層から同時記録を行うとより頻繁に自発性同期的脱分極は記録された。従って同期的脱分極を生成するために必要な構成要素は中間層に内在しているが、トリガーする信号はより浅層に由来するものと考えられた。
次にこの自発性同期的脱分極が上丘の異なる層の間をどのように伝播するかを、異なる層に属する2個のニューロンから同時記録を行うことで解析した。すると
  1. 浅層と中間層ニューロンで同時記録を行うと、興味深いことに中間層ニューロンの方が先に脱分極していた。
  2. 次に視神経層のWFV cellと中間層ニューロンで同時記録すると、WFV cellの方が先に脱分極を開始していた。
  3. さらに浅層ニューロンとWFV cellで同時記録を行うと、WFV cellの方が先に脱分極を開始していた。
以上の結果から自発性同期的脱分極はWFV cell ― 中間層ニューロン ― 浅層ニューロンの順に伝播することが明らかになった。この結果からWFV cellがバースト発火の開始に関して低い閾値を有しており、同期的脱分極の起点になっていること、また上丘においてはより深い層から浅い層への興奮性信号伝播機構も存在していることが明らかになった。
 


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