これまでの主な成果
 
14. 霊長類の皮質脊髄路(1)脊髄固有ニューロンを介する2シナプス性信号伝達経路の存在(Alstermark et al. J. Neurophysiol. 1999; Isa et al. J. Neurophysiol., in press)
Alstermark B, Isa T, Ohki Y, Saito Y. (1999) Disynaptic pyramidal excitation in forelimb motoneurons mediated via C3-C4 propriospinal neurons in the macaca fuscata. Journal of Neurophysiology, 82: 3580-3585.
Isa T, Ohki Y, Seki K, Alstermark B, Properties of propriospinal neurones in the C3-C4 segments mediating disynaptic pyramidal excitation to forelimb motoneurones in the macaque monkey. Journal of Neurophysiology, in press.

皮質脊髄路は、大脳皮質の運動関連領野に起源し、脊髄まで下降して感覚入力や運動出力を制御する重要な伝導路である。皮質脊髄路の脊髄神経回路に対する作用はスウェーデンのLundbergらによってネコにおいて詳細に調べられてきた。ネコにおいては皮質脊髄路は上肢筋の運動ニューロンには直接結合せず、最短の経路は2シナプス性である。この中継ニューロンには運動ニューロンと同じ髄節(C6-Th1)に存在するsegmental interneuronの他に、より吻側のC3-C4髄節に存在するpropriospinal neuron(脊髄固有ニューロン;C3-C4 PNs)が存在する。特に後者については多くの研究がなされており、皮質脊髄路のほかに赤核脊髄路や視蓋脊髄路、網様体脊髄路などの下行路が収束し、上肢の到達運動(reaching)を制御することが知られている(Alstermark et al. 1981)。それに対して、皮質脊髄路が運動ニューロンに直接結合する霊長類においてC3-C4PNを介する信号伝達がどのようになっているのかは長年の問題であった。近年、英国のRoger LemonらはマカクザルにおいてC3-C4 PNの存在を調べる実験を精力的に行なったが、結局、上肢筋運動ニューロンで細胞内記録を行い、反対側の延髄錐体を電気刺激しても単シナプス性のEPSPと2シナプス性のIPSPが記録されるのみで、C3-C4PNによって伝達されると考えられる2シナプス性のEPSPは数%の細胞で記録されるのみで、少なくともマカクザルにおいてはC3-C4PNは重要な役割を果たしていないのではないと結論付けた。
それに対して我々は、ネコにおいて記録されるようなC3-C4PNを介する2シナプス性EPSPがサルにおいて記録されないのは、サルにおいてはC3-C4PNに対するfeedforward inhibitionが強いために、錐体刺激に対してC3-C4PNが発火できないからではないか、と考え、サルにおいてストリキニンを静脈内注射してグリシン作動性の抑制を解除する実験を行なった。我々はマカクザルにおいて19個の上肢筋運動ニューロンから細胞内記録を行い、反対側の延髄錐体を電気刺激を行なったところ、16個のニューロンでシナプス電位が記録されたが、これまで報告されているようにいずれも単シナプス性のEPSPおよび2シナプス性IPSPしか誘発されなかったが、ストリキニンの静脈注射によって41個中39個のニューロンでIPSPが消失し、2シナプス性のEPSPが出現した。そしてこのEPSPはC5レベルで皮質脊髄路を切断しても残ったが、C2レベルで切断すると消失したので、その間のC3-C4髄節に存在する脊髄固有ニューロンによって中継されるものと考えられる。このように我々はサルにおいてもC3-C4PNが大脳皮質からの2シナプス性の興奮を上肢筋運動ニューロンに伝達していることを示すことができた。(以上、Alstermark et al. (1999))
さらに我々はサルのC3-C4PNから直接記録を試みた。そして、C3-C4髄節のVI-VII層外側部においてC6/C7髄節の運動神経核ないしはそのすぐ外側の側索腹側部より逆行性応答するニューロンを記録し、反対側延髄錐体の電気刺激効果を調べた。多くのニューロンは応答しなかった、または応答してもまれにしか発火しなかったが、ストリキニンの静脈注射によって明らかに単シナプス性の潜時での発火確立が上昇した。また細胞内記録によって単シナプス性のEPSPに引き続いて2シナプス性のIPSPが記録された。以上の結果からサルにもネコと同様にC3-C4PNが存在するが、それらは皮質脊髄路から強いfeedforward inhibitionをも受けていることが明らかになった。(以上、Isa et al. (2005))
 


研究室TOPへ 生理研のホームページへ