これまでの主な成果
 
16. げっ歯類の皮質脊髄路:皮質脊髄路から上肢筋運動ニューロンに至る経路の解析(Alstermark et al. J. Neurophysiol. 2004)。

皮質脊髄路は随意運動、特に手などの遠位筋の運動制御に関わる最も重要な脊髄下行路であるとされています。霊長類においては運動ニューロンに直接興奮作用を与えます。ネコにおいては直接結合が存在しないことから2シナプス性の興奮伝達経路が最短のものとなりますが、それらはC3-C4髄節に存在する脊髄固有ニューロンないしは運動ニューロンと同じC6-Th1髄節に存在する脊髄介在ニューロンを介するとされてきました。
それに対してラット、マウスなどのげっ歯類においては、皮質脊髄路は後索を通過し、主に脊髄後角に終止します。ラットにおいて1970年代に運動ニューロンへの直接結合が存在するという論文が出されたこともありましたが、詳細はよくわかっていませんでした。近年マウスやラットなどのげっ歯類を用いた脳研究が大変盛んになっている現状を考えるにつけ、これらげっ歯類において皮質脊髄路がどのようにして運動ニューロンを興奮させるかを知ることは大変重要であると考え、麻酔・非動化したラットにおいて皮質脊髄路を延髄錐体において電気刺激し、手を支配するdeep radial nerveの運動ニューロンから細胞内記録を行い、その作用を解析しました。
その結果、全ての運動ニューロンにおいて単シナプス性のEPSPは観察されず、多くの運動ニューロンにおいて比較的短潜時の2シナプス性EPSPと、より遅い時間経過のEPSPが記録されることが明らかになりました。そして脊髄の後索や側索などの切断を行なう実験を組み合わせて、これらのシナプス電位を伝達する経路を解析したところ、驚くことに
1.速い2シナプス性の興奮性電位は主に脳幹の網様体脊髄路を介して誘発される。
2.遅いシナプス電位(主に3シナプス性以上)は脊髄の神経回路を介して誘発される。
3.ネコやサルで観察されたC3-C4髄節に存在する脊髄固有ニューロン系を介する2シナプス性伝達は存在しない。
これらの結果は今後げっ歯類における運動制御を考える上で最も基本的かつ重要な知見を与えるものと考えられます。

 


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