これまでの主な成果
 
17. マウスの眼球運動高時間解像度on-line計測システムの開発(Sakatani & Isa, Neurosci Res 2004)。

Sakatani T, Isa T (2004) PC-based high-speed video-oculography for measuring rapid eye movements in mice. Neuroscience Research 49: 123-131

 視線移動時にみられる速い眼球運動(サッケード)は、脳によって高精度に制御される随意運動のひとつである。ヒトではサッケードの動的特性に注意や動機付けなどの精神状態が反映することが報告されている。この眼球運動を制御する神経システムの構造とその修飾機構を解明するにあたり、個体での遺伝子操作が可能なマウスをモデル動物として扱うことは極めて有用であろう。

 しかしながら、マウスを用いて高速な眼球運動を測定するには、技術的に多くのチャレンジを要する。

 一般的に、眼球運動を測定するには比較的高価なシステムが必要とされる。とりわけ高速なサッケードをビデオカメラで撮影する場合、通常のビデオカメラではフレームレートが遅く適さないため、特別なカメラが必要となる。また市販のシステムはヒトを中心とする霊長類を対象とするため、そのままではマウスに適用できない。小さなマウスの眼球をレンズで拡大し高速で撮影するとなると、光量が不足しその後の処理の困難なノイズの多い画像となってしまう。これ以外にも、覚醒状態でマウスの頭部を拘束できるような市販の装置は存在しない、実際の眼球運動は回転運動として求めなければならない、といった多くの困難な問題があった。

 本研究では、(1)市販の高速ビデオカメラと汎用パソコン、さらに独自に開発した動画像処理ソフトを用いて、オンラインでマウスの高速眼球運動を測定するシステムを開発し、マウスのサッケードを定量的に測定・解析することに世界で初めて成功した。(2)また、無麻酔のマウスを苦痛なく頭部固定する装置を設計・製造した。(3)さらに、マウス眼球の正確な解剖構造モデルに基づいて、回転角度を算出する方法を新しく考案した。

 これらの結果、サッケード運動システム研究のための実験動物として、分子遺伝学的研究手法が可能なマウスを利用する道が開かれた。将来的にこの成果は、運動制御にかぎらず、精神機能形成に関与する脳のしくみや精神疾患のメカニズムを、分子レベルから神経回路、行動レベルにわたって解明することにつながると期待される。

 


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