これまでの主な成果
 
9. 上丘局所神経回路(7)サルの上丘へのニコチン注入によるexpress saccadeの誘発(Aizawa et l. J. Neurophysiol. 1999)。
Aizawa H, Kobayashi Y, Yamamoto M, Isa T (1999) Injection of nicotine into the superior colliculus facilitates occurrence of express saccades in monkeys. Journal of Neurophysiology 82: 1642-1646.

上丘中間層には中脳の脚橋被蓋核などからコリン作動性線維が入力し、ニコチン受容体の活性化は中間層の出力細胞に脱分極を引き起こす。スライス標本での実験では、ニコチンの投与によって引き起こされる脱分極によって浅層の電気刺激によって中間層ニューロンがバースト発火応答する閾値が低下すること、すなわち浅層から中間層への信号伝達が促進され得ることが観察されている。
本研究では視覚誘導性サッケード課題を訓練したサルにおいて上丘中間層にニコチンを微量注入し、サッケードに対する影響を調べた。
その結果、ニコチン注入によって注入部位によって制御されるベクトルのサッケードの反応時間が注入前の約160msから100ms前後にステップ上に短縮した。すなわち超短潜時のexpress saccadeが誘発されるようになった。反対側へのサッケードには影響は無く、またサッケードの速度にも顕著な影響は見られなかった。
またニコチンの濃度や注入量を増加させてもそれ以上の反応時間の短縮はみられなかったことから、信号は既に通り得る最短の経路を通過しているものと考えられた。
このように、上丘局所回路の薬理学的操作によってexpress saccadeが誘発されたこととラットのスライス標本での観察から考えるに、今回観察されたexpress saccadeは上丘においてニコチンの投与で中間層のニューロンが活性化し、浅層の視覚応答が直接中間・深層を活性化し、サッケードを誘発するようになったことが強く示唆される。
これらの結果はexpress saccadeの生成機構についての興味深い知見である。
図1
 


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